上 下
10 / 45
第一章

第十話 お前、なぜ裏切った

しおりを挟む
 ~第二騎士団長視点~

 くそう。なんてことだ。まさか敵があんな高度な防御魔法を使えるとはな。

 茂みの中に隠れながら、今後の戦略を考える。

 視認することができない防御魔法が使われている以上は、防御魔法が発動している限り、いくら攻撃を仕掛けても防がれてしまう。

 隣にいる男の力も未知、そしてターゲットとなるあの男の隣にいるあいつは、俺と同格の力を持っている。

 あの2人組さえ居なければ、俺があいつの動きを封じている間に、部下たちがあの子の首を刎ねることができていた。

 だが、俺たちの想像を超えるほどの力を持つ者が、護衛任務に当たっていることが分かった以上は、別の方法を考えなければ。

 考えろ。いくら強力な防御魔法でも、何かしらの綻びは必ずあるはずだ。

「全員、あいつらを取り囲め! 全方位から一斉に剣の力を解き放って攻撃だ!」

 部下たちに命じると、彼らは直ぐに動いて4人を包囲した。そして剣に魔力を送ったようで、炎や氷、雷や風と言った様々な魔法が放たれる。

「全方位から攻撃をすれば、全てを防ぐことはできないと思ったのかな? でも残念! マヤノの魔法は全方位に対応しているんだよ」

「何!」

 女の言う通り、全方位から放たれた魔法は、直撃することなく見えない壁のようなものに阻まれた。

 つまりあの防御魔法は、ドーム状に展開されていることになる。

 ならば、地下からの攻撃は防ぐことができないはずだ。

「大地の力を持つ剣を持っている者よ! 地中から攻撃だ!」

 地属性の力を持つ剣を受け取った部下に命じると、彼は剣の刀身を地面に突き刺す。

 さて、これで俺の予想が正しければ、地中からの攻撃には対応できないはずだ。

 警戒を緩めることなく対峙し続ける。しかしいくら待っても、敵が吹き飛ぶような展開にはならなかった。

 何だと! まさか!

 目を大きく見開き、女を見る。彼女は口の端を引き上げ、ニヤリと笑った。

「確かに半球を見れば、ドーム状のバリアだと思ってしまうよね。でもこの魔法は、本来の形は球体なの。地面に埋まっているだけで、ちゃんと地中からの攻撃も守れるんだよ」

 女の説明を聞き、歯を食い縛る。

 まさか地中からの攻撃も完璧だとは。だが、まだ俺たちにも可能性は残されている。

 あの女が防御魔法を展開している限りは、移動はできないはず。俺たちを追い返そうとするならば、攻撃に転じるために一度防御魔法を解除しなければならない。その隙に距離を詰めて攻撃だ。チャンスは一瞬しかないかもしれない。

 だけど俺が受け取ったこの剣には、身体能力を向上させる効果がある。きっと防御魔法を消した瞬間に、一気に間合いを詰めてあの子の首を取ることができるはずだ。

 神経を研ぎ澄まし、チャンスを見逃さないようにする。

「あれ? もう攻撃してこないの? なら、今度はこっちから攻めようかな? ね、フリードちゃん」

「ああ、そうだな。スレーブコントラクト!」

 女が隣にいる男に声をかける。その瞬間、彼は魔法名らしきものを呟いた。

 今から敵が攻撃をしてくる。チャンスを掴み取れ! 俺!

「ぎゃああああああぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 ワンチャンスに賭け、神経を研ぎ澄ませている最中、部下たちの悲鳴が聞こえた。

 フッと我に返って辺りを見ると、部下たちがイノシシのモンスターであるブルボーアに襲われ、吹き飛ばされていた。

「くそう! タイミングが悪い。こんな大事な局面でモンスターが現れるなんて」

 だが、これはあいつらにも言えることだ。いくら防御魔法を発動しているからと言っても、安心することはできないはずだ。

 ブルボーアの突進攻撃は、鬼気迫る勢いで走ってくる。熟練の冒険者でも、一瞬怖気付いてしまうほどだ。

 この混乱に乗じれば、あの女の防御魔法が解けた瞬間に距離を詰め、刃を当てることができるかもしれない。

 部下たちが次々と吹き飛ばされる中、時々俺も狙われるがやつの突進を躱していく。

 だが、しばらくすると戦場に異変が起きていることに気付く。

 おかしい。どうしてブルボーアは俺ばかりを狙う?

 何度もモンスターの攻撃を躱し続けている中、ブルボーアが標的を変える様子がない。

 狙われているのは俺や部下ばかり、あいつらには一度も攻撃を仕掛けようとはしない。

「まさか、モンスターをテイムしたのか!」

 モンスターテイマーか、上位の職業であるモンスターマスター。それがもう1人の護衛の正体だったのか。

 確かにそれなら、俺たちばかりが狙われるのも納得がいく。防御魔法外から攻撃をすれば、いちいち防御魔法を消す必要はない。一本取られてしまった。

 敵に感心する中、ブルボーアの攻撃を避けていく。

 部下たちは全員吹き飛ばされて虫の息だ。当たりどころが悪かったやつは即死しているだろう。

 俺も攻撃を避け続けたことで大幅に体力が削られている。このモンスターを倒さない限り、冷静に戦略を考える時間を設けることができない。

「グハッ!」

 剣に魔力を送り、身体能力を強化してモンスターを倒そうとしたその刹那、腹部に痛みを感じた。

 ブルボーアの牙が突き刺さり、傷口から血が噴き出している。

 ブルボーアの速度が上がっていただと! まさか、さっきまで本気ではなかったと言うのか。

 腹部に風穴が空いた状態で吹き飛ばされて地面に倒れる。

 回復系のアイテムは全て部下に預けていた。使うには体を引き摺っても、あいつらに近付けなければ。

 出血多量で死ぬ前に、回復アイテムを持っている部下に匍匐前進で近付く。

「あーあ、せっかくこの俺が魔法剣を譲渡したのにも関わらず、全滅とは情けないな」

 意識が朦朧とする中、ゼッペルの声が耳に入る。そして掠れつつある視界の中で、彼の姿が見えた。

「頼む……回復アイテムをくれ」

 こいつなら、上級ポーションのひとつやふたつは持っているはずだ。使用してもらえば、俺はまた戦うことができる。

「悪いな。お前たちは使い捨ての駒だ。任務に失敗した以上、チャンスなんてないよ。せめて俺の手で引導を渡してやる」

 ゼッペルの言葉に驚愕している最中、目に映る光景が一気に変化した。俺の視界にはゼッペルはおらず、代わりに首のない俺の体が見えた。

 そうか。俺はゼッペルに首を刎ねられたのか。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

僕のずっと大事な人

BL / 連載中 24h.ポイント:1,394pt お気に入り:34

夏の終わりに、きみを見失って

BL / 連載中 24h.ポイント:456pt お気に入り:3

セヴンス・ヘヴン

BL / 連載中 24h.ポイント:760pt お気に入り:6

沈むカタルシス

BL / 連載中 24h.ポイント:120pt お気に入り:31

【BL】できそこないΩは先祖返りαに愛されたい

BL / 完結 24h.ポイント:798pt お気に入り:559

処理中です...