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第二章

第十二話 サクラの実家に向かいます

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「ジェーン男爵、最後の交渉をしよう」

「交渉だと?」

「ああ、俺の手持ちに250万ギルある。それでこの屋敷にいる奴隷を買い直す」

「たった250万ぽっちで、あの奴隷共全員を売れと言っているのか! ふざけるな!」

 交渉として言った金額に満足できないようで、ジエーン男爵は拒否する。

 確かに牢屋にいた女性の奴隷たちの人数を考えれば、釣り合いが取れない。今言った分の金は、ヘイオー王子の依頼達成の金額を、マヤノと半分にした分の金額だ。あと250万ギルあるが、彼女の金に手をつける訳にはいかない。

 こんな手を使いたくはないが、脅しをかけるしかないな。

「実は、書斎でお前の日記を見つけたんだ。これにはお前が大臣と協力して、奴隷を使ってとある計画を考えていることが記されている。これをこの国の王に手渡したら、いくらお前でも爵位を剥奪されることになるぞ」

「何を惚けたことを言っている! 奴隷商のお前なんかが、王様に相手にされるものか」

「なるほど、王族とはこの前知り合ったものね。マヤノたちなら顔パスで入れるから、その証拠を見せてこんなやつの爵位を剥奪してもらえれば、奴隷も解放してもらえる。一石二鳥だね!」

「何!」

 マヤノが王族と知り合ったことを告げると、ジエーン男爵は驚き、顔を強ばらせる。

 彼女の言葉が耳に入った途端、俺は良い手だと思った。

 ヘイオー王子ではなく、敢えて王族と言うことで、俺たちが亡くなった王様と知り合い関係であると思い込ませることができる。

 王様が亡くなっていることは、まだ裏社会の人間にしか知られていない。彼は大臣との繋がりがあるが、王様が亡くなっていることを口に出さないところを見る限り、その情報は伝わってはいないようだな。

「ジェーン男爵がそこまで拒絶するなら仕方がない。俺としては何の問題もなく、互いに不利益を生じないように交渉していたつもりなのだけど、こうなってしまった以上は仕方がない。このことは王族の耳に入れておくよ。マヤノ、サクラ、これ以上長居してもジェーン男爵に迷惑だから、お暇させていただこう」

「ま、待ってくれ」

 マヤノたちに声をかけ、踵を返してこの部屋から出て行こうとすると、ジェーン男爵が慌てて引き留めてくる。

「わ、分かった。250万ギルで手を打つ。だから、王様にこのことを言わないでくれ。爵位を剥奪されては、生きていけない」

 交渉に応じる。そのようにジェーン男爵が口走ったのを聞いた瞬間、俺はニヤリと口角を上げる。

「本当に交渉に応じるのだな?」

「ああ、男に二言はない」

「言質取ったからな」

 背を向けていた体を反転させ、ジェーン男爵に向き合う。

「だが、250万ギルと言っていたのはさっきまでだ。拒否した時点で、さっきまでの話しはなくなった。新たな条件として、お前が購入した奴隷たちを無償で解放しろ」

「む、無償だと! ふざけるな!」

 金品の受け渡しをすることなく、奴隷たちを受け渡せと交渉を持ちかけた。すると当然ながら、ジエーン男爵は声を荒げる。

「お前、男に二言はないと言って、交渉に応じる意思を示したよな。なら、こちらの要求を呑むべきだ。まぁ、無理強いはしない。その時は王族にこの本を渡して、男爵の爵位を剥奪してもらうだけだ」

「ぐぬぬ、わ、分かった。奴隷たちは無償で手放してやる。だから、その本だけは王様に見せないでくれ」

「ああ、交渉成立だ。マヤノ、頼めるか?」

「うん。ミニチュアファイヤー」

 マヤノが魔法を発動すると、俺が持っていた本が燃える。

「ミニチュアウォーター」

 本が半分ほど燃えたところで、マヤノは本に水の魔法をかける。

「ほら、お前の目の前で本を使い物にできなくした。これで安心できるだろう」

「ああ、牢屋の鍵は机の引き出しの中にある。勝手に連れて行くが良いさ」

「まぁ、まぁ、ジェーン男爵ちゃん、元気をだしなよ。別の人生を送れるように、マヤノがおまじないをかけてあげる。エレクタイルディスファクション」

 マヤノがおまじないと言いつつ、魔法名のようなものを呟く。

 一体、彼にどんな魔法をかけたのだろうか?

 少しだけ気になりつつも、机に向かって引き出しを開ける。

 彼が言った通り、机には牢屋の鍵だと思われるものが収納されてあった。

「早速地下の牢屋に向かうか」

「おい、縄を解いてから行け!」

 部屋を出て行こうとすると、ジェーン男爵が縄を解くように言ってくる。だが、俺は彼の要求を呑むつもりはない。

「悪いが、誰かが来たときにでも解いてもらってくれ。俺はまだあんたを信じきってはいない。解いた途端に反撃に出られたら、たまらないからな」

「そんな……」

 落ち込むジェーン男爵を無視して部屋を出て行く。2階に上がって奥の扉から地下に繋がる階段を降り、そして牢屋に辿り着く。

「ジェーン男爵とは、平和裡に話し合いをした。その結果、君たちを解放してくれるそうだ」

 自由になることを告げると、女の子たちは顔を見合わせる。最初は戸惑っている様子だったが、牢屋の扉を開けてあげると、顔を綻ばせて隣の人と喜び合う。

「ありがとうございます。あなたは私たちにとっての勇者様です」

「ありがとう。本当にありがとう」

 女性たちは口々に礼を言い、中には握手を求める人までいる。

 交渉の仕方は悪人だったけれど、結果的に多くの奴隷を解放することができたのだ。きっと神様も許してくれるはず。

 女の子たちを牢屋から解放し、屋敷から出た俺たちは、引き返してお城のある城下町に戻る。

 城下町を歩いていると、トウカイ騎士団長の姿を見かけたので声をかけた。事情を話すと、女性たちを城に仕えるメイドとして雇ってもらえるように、ヘイオー王子に交渉してもらえることになり、この騒動は幕を閉じた。

「さぁ、ジェーン男爵の件も片付いたことですし、カレンさんの情報を集めに、一度私のお城に向かいましょう」

 問題が解決して次は自分の番になったからか、サクラは元気に歩き出す。

「なぁ、マヤノがジェーン男爵に使ったおまじないって魔法だよな? いったいどんな魔法なんだ?」

 マヤノがジェーン男爵に対して使った魔法が気になり、彼女に訊ねる。

「あー、それを聞いちゃうんだ。マヤノは別に話しても良いけれど、聞かなければ良かったって後悔しない?」

 訊ねてみると、マヤノは後悔する覚悟はあるのかと問うてくる。

 そんな前置きをすると言うことは、とんでもない魔法を使ったってことだよな。

「大丈夫だ。聞かないで後悔するよりかは、聞いてから後悔した方が良い。だから話してくれ」

「分かった。それなら話すよ。えーと、魔法と言うよりも呪いの類いかな? あの魔法は一言で言うのなら、勃起不全の魔法だよ」

「え?」

 予想していなかった単語が耳に入り、思わず驚く。

「おち◯ちんに流れる細い血管を更に細くさせて、赤血球を通りにくくしたの。それにより、一時的に勃起をしたとしても、直ぐにふにゃふにゃになるようにしたんだ。これなら、ジェーン男爵ちゃんが女の子を弄ぶことができないじゃない」

 サラッと魔法の効果を話すマヤノだったが、俺は苦笑いを浮かべながら頬を引き攣る。

 本当に彼女の言った通り、聞かなければ良かったと後悔する。

 男にとって、子孫を残すと言うことは重要な役目だ。それを奪われると言うことは、かなりの屈辱を負うことになる。

 どうやらマヤノは、あれくらいではジェーン男爵を許せなかったみたいだな。

 俺も彼女を怒らせて、勃起不全の魔法をかけられないように気を付けなければ。
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