推しが必ず死ぬゲームのモブに転生した俺は、彼女を救うためにシナリオブレークします〜俺の推し活は彼女を生かすための活動です〜

仁徳

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第一章

第一話 推しが必ず死ぬゲーム内に転生しました

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「くそう! このルートでもカレンが死んでしまうのかよ!」

 俺、久礼悠吏くれいゆうりは、パソコンの画面に映る光景を見て嘆いていた。

 キャラクターが救えないことが分かっていながらも、コントローラーのボタンを押してストーリーを進める。

『くそう! このままではこいつは勝てない!』

『クハハハハ!神である俺が下等生物である人間如きに負ける訳がなかろう。お前たちは最初から俺様に負ける運命だったのだ』

『まだよ! まだ可能性は残されている!』

 女の子のこのセリフが出た瞬間、俺の中の感情が爆発しそうになる。

 どうして彼女が死なないといけない。推しが必ず死ぬゲームが、どんなに世間では神ゲーと言われても、俺にとってはクソゲーでしかない。

 推しを守れなかった悔しさに歯を食い縛りながら、再びコントローラーのボタンを押す。

『私がクロノスから授かったユニークスキル【自己犠牲型死に戻り】を使えば、過去に戻ることができる。みんなは過去に戻って、ゼウスを倒す方法を探して』

 画面の下に女の子のセリフが表示され、両の目から涙が流れた。何度見ても、このシーンは悲しすぎる。

「どうしてお前が犠牲にならないといけない! そしてお前たちもあっさりしすぎだろう! 大切な仲間が死ぬって言うのに! どうして淡々としていられる! 開発側クソだろう! このシナリオライターはクソ過ぎる!」

 推しが死ぬシーンを見せられる度に、悲しみと怒りの感情がぐちゃぐちゃとなり、声を上げずにはいられなかった。

『あとは……頼んだからね。ゼウスを倒す方法は必ずある。私はそう信じているから』

 一雫の涙を目尻から流しながら、自らの胸に剣を突き刺す女の子。

「カレエエエエエエエエエェェェェェェェェェェン!」

 そのシーンを何度も見せられる度に、毎回のように推しの名を叫ぶ。

 カレン・クボウ。それが大人気ゲーム聖神戦争に登場する物語の重要キャラの名であり、俺の推しだ。

 彼女は時の神、クロノスからユニークスキル【自己犠牲型死に戻り】を授けられた女の子だ。ゲーム内の支配者である全知全能の神、ゼウスを倒すキーを手に入れるために、仕様上ゲーム中盤で必ず死んでしまう可愛そうな子だ。

 どうして彼女が死なないといけない。カレンは何も悪いことをしていないじゃないか。

 例え敵であったとしても、傷付いた相手をほっておけないような心優しい女の子なんだぞ!

 今回、大規模アップデートが入り、新たな分岐が追加された。もしかしたら彼女を救うルートがあるかもしれない。そう思い、メンテナンス終了後にゲームを起動して進化した世界に入り浸った。

 だが、何度も様々なルートを試してみても、カレンを救うルートが未だに見つかってない。

 イベントが終わり、次のシーンに映る。だが、タイトルに戻るのカーソルを合わせ、物語を続けるのではなく、最初からやり直すことにした。

「このキャラもダメだ。くそう。他にまだ使っていなかったキャラっていたか」

 頭を掻きむしりながら、プレイするキャラの選択画面を眺める。

 この聖神戦争は、選んだキャラが主人公となり、物語を進めていく変わったゲームだ。それぞれに夢や目標があり、各キャラに感情移入ができる所が高い評価を集めている。

 もちろんカレンを選択することも可能だが、彼女を主人公にした場合、物語中盤で死ぬと言うバッドエンドしか用意されていない。

 各キャラを見ていると、端っこの方にオリジナルキャラ作成というコマンドがあり、それにカーソルを合わせてボタンを押してみると、キャラメイク画面になった。

「今回のアップデートでこんなのが追加されたのか。試しに作ってみるかな」

 どうせやるなら、俺自身をモデルにしつつ、少し格好良いキャラを作りたい。

 時間をかけてオリジナルキャラを作成すると、名前入力が表示される。

「名前はゲームに登場するキャラたちに合わせてユウリ・クレイにするか」

 名前を記入すると、次にキャラの地位を選択する画面になる。

「へー、平民から貴族や王族なんてものも選択できるのか。平民の生活は現実世界で嫌と言うほど味わっているけど、王族もなんだか面倒臭そうだな。ここは貴族であるけど、男爵くらいにしておくか」

 男爵家の息子を選択し、続いてユニークスキル名を入力する画面に切り替わる。

「これに関しては自分で入力するのか。普通事前に設定されてあるスキルから選択するものだろう?」

 なんか変じゃないか?

 そう思いながらも、キーボードに手を乗せる。

「どうせなら、カレンを手助けするスキルがいいな。例えば【推し愛】なんてどうだ?」

 ユニークスキル名を入力すると、続いて効果を記入する欄が現れる。

 め、面倒くせー! なんだよ! そんなことまでいちいち記入しなければいけないのかよ!

 まぁ、大型アップデートをしたばかりだから仕方がないか。これからアンケートなんかで改善していくだろう。

 まぁ、一応どんなユニークスキルなのかは考えている。

【カレン・クボウへの愛を力に変え、その愛で他のユニークスキルを手に入れる。手に入れるスキルは聖神戦争に登場する全てのスキルである】

「うーん、我ながらユニークなスキルを作ってしまったな。これ、ネット小説の世界では無双確定チートスキルじゃないか。まぁ、こんなことを記入したところで、直ぐに反映はされないだろう」

 これはどうせ、運営側がスキル開発する際に参考にするだけだろう。どっちにしろ、採用はされないはずだ。こんなスキルがあれば、ゲームバランスを壊すことになる。

 スキル内容の記入を終え、ゲームをスタートさせる。すると俺の分身がゲーム内に登場し、ベッドの上で横になっていた。

「さて、一旦トイレに行くとするか」

 イスから立ち上がってトイレに行こうとした瞬間、一気に目の前が真っ暗になった。

 そう言えば俺、二週間も寝ずにゲームをし続けていたな。

 人間の不眠の限界は、二週間前後で、それを超えると死に至るって、何かの本で読んだことがあるな。

 俺、死ぬのか? どうせ死ぬのなら、カレンを救うルートを見つけてから死にたかった。





「ぼっちゃま、大丈夫ですか!」
 
 あれ? 俺生きている?

 頭がボーッとする中、隣で女性の声が聞こえ、顔を向ける。するとそこにはメイド服に身を包んだ女性がいた。

「ぼっちゃま、うなされていましたが大丈夫ですか」

 上体を起こすとメイドさんが心配そうに俺のことを見てくる。

 あれ? どうして俺の家に、こんなに綺麗なメイドさんがいるんだ? いや、ここは俺の家ではないな。よく見ると豪華な家具もあるし、着ている服も違う。

「ぼっちゃま、顔色が優れませんよ」

 そう言い、メイドは俺の前に手鏡を持ってくる。

 な、なんだよこの顔は!

 鏡に映る容姿は、俺だけど俺じゃなかった。ベースとしては一緒でも、顔のパーツが違い、少し格好良くなっている。

 この顔には見覚えがある。俺が聖神戦争のゲームでキャラメイクした素顔だ。

 一度深呼吸をして瞼を閉じる。

 なるほど、どうやら俺は夢を見ているようだ。気を失う前に聖神戦争をしていたから、こんな夢を見ているんだな。

 横に立っているメイドさんを見て、視線を彼女の胸に向ける。

 それにしてもこのメイドさん、おっぱい大きいな。何カップあるんだ?

 彼女の胸に興味を持つと、ある邪な考えが浮かんだ。

 そうだ。これは夢なんだ。だったら彼女の胸を触っても、俺は痴漢にはならない。

 メイドの胸を揉む決心をした俺は、彼女の胸に手を置く。そして鷲掴みして思いっきり揉みしだいた。

 あれ? 夢なのに感触がある?

「ぼっちゃま! 何をやっているのですか!」

「グヘェ!」

 いきなり頬を思いっきり叩かれ、左頬にジンジンとした痛みが走る。

 だが、俺は痛みよりも困惑の方が強かった。

 あれ? どうして夢のはずなのに、こんなに痛む?

「ぼっちゃま、寝惚けていたとは言え、いきなり女性の胸を触るのはいけませんよ。元気であることが分かったので、私はこれにて失礼します。早く着替えて朝食を食べに来てください」

 メイドが語気を強めながら捲し立てると、部屋の扉を開けて出て行く。

 そんな彼女を見届ける中、指を顎に置いて思考を巡らせる。

 ちょっと待てよ。痛みを感じるってことは、これは夢ではなく現実だってことか?

 ネット小説では、ゲーム内転生って言うのが存在する。もしかして俺は、物語の主人公たちのように転生したってことなのか!

 とにかくものは試しだ。ステータス画面が出るか試してみよう。

 頭の中でイメージを膨らませると、脳内に俺のステータスらしきものが思い浮かんでくる。

 ユニークスキル【推し愛】

 効果【カレン・クボウへの愛を力に変え、その愛で他のユニークスキルを手に入れる。手に入れるスキルは聖神戦争に登場する全てのスキルである】

 ま、まじかよ! ユニークスキルとその説明だけだけど、俺の作ったユニークスキルが使えることになっている! 

 もしかしたら、これは神様が俺にくれたプレゼントなのかもしれない。ゲームの中に転生して、カレンを救ってくれと言っているに決まっている。

「神様! ありがとう! 俺、必ずカレンを救ってみせる! この世界での俺の推し活は、彼女を生かすための活動だ!」

 ガシャン!

 両手を天井に向けて声を上げると、何かが落ちた音が聞こえた。

 今の音は何だ?










最後まで読んでいただきありがとうございます。

面白かった! この物語は期待できる! 続きが早く読みたい!

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