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第二章
第八話 アリサ、デレる?
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~ユウリ視点~
カレンを攫った張本人のサクが、光の粒子となって消えて行く。
この光景はゲームと同じだ。やっぱり、この世界で行われている聖神戦争の管理者に負けだと判断されると、死亡とは関係なく消されてしまう。
拳を強く握り、歯を食い縛る。
絶対にカレンを死なせない。俺の願いは彼女を生き残らせることだ。
サクが最後に言った言葉を思い出す。
彼が言っていたコワイは、サクの幼馴染であるコワイ・トドメキのことだろう。彼女もチート能力を持っている。
プレイヤー側として使った場合、一気にゲームの難易度が下がってしまうほどのパワーブレイカーキャラだ。しかし敵として現れた場合は苦戦必須のキャラとなる。
当然ゲームオーバーになる確率が高い。一応アップデートで弱体化してゲームバランスが保たれた。しかしこの世界でのコワイが、アップデート前の強さだった場合、今の俺では最悪のケースに陥った場合は、まず負けてしまうかもしれない。
あの女とは、今は極力避けたほうが良いだろうな。
そしてあの方と言うのは、この聖神戦争のラスボスであるゼウスで間違いないだろうが、やつは物語の中盤までは何もしてこないはず。
色々と気になることはあるが、とにかく今はカレンを救出する方が先だ。
カレン救出に意欲を燃やすと、サクが倒れていた場所に何かが落ちていることに気付く。
「あれってまさか」
近付いて屈み、落ちている物を拾う。
それは何処かの施錠を開けるための鍵だった。
「これが、カーマの言っていた鍵。これでカレンが囚われている建物の中に入ることができる」
踵を返し、呆然と立ち尽くしている金髪ツインアップの女の子に顔を向ける。
「アリサ、大丈夫か?」
「え、ええ。大丈夫よ。どこもケガしたりしてはいないわ」
「良かった」
彼女が無事であることが分かり、安堵する。
「どうしてあなたが私の安否を気にするのよ」
「だって、アリサはカレンの友達……いや親友だろう? カレンにとって特別なお前がケガなんかしたと分かったら、カレンが悲しむからな。お前を守れて本当に良かった」
俺の言葉に、アリサはたじろいた表情を浮かべる。
「あなたって、誰にでもそんな歯の浮くような言葉を平然と言うの?」
「あれ? 俺って何か変なことを言ったか? 本当にアリサが無事で良かったと思ったから言っただけなんだけど?」
「あーはい、はい。そう言うことね。分かったわ。無自覚で言っているのね。あなた、周りから天然ジゴロって呼ばれない?」
「はぁ? 誰が天然ジゴロだよ! 俺はそんな性格ではないぞ。ただ単にカレンのことが好きだから口に出しているだけだ。それに俺の友達はゲームのチャット上で繋がった人しかない。あいつらにも言われたことがない以上、俺が天然ではないからな」
「いや、ゲームのチャットって、全然声が届かないじゃない。それに天然だと気付いていない時点で天然よ」
「だから天然じゃ! ッツ!」
つい感情的になって声を上げる。すると腕に痛みを感じ、思わず顔を歪めてしまった。
いくらスキルを使って肉体の限界をカバーしたところで、元の肉体が弱ければ多少のダメージを受けてしまうか。
今後はこれを参考にして、考えなしで肉体強化系のスキルを使うのは控えたほうが良いかもしれないな。感情的にならないように、常に冷静でいられるようにするか、反動が起きても痛みを感じないように肉体改造をするか。
正直両方とも厳しいが、カレンのためなら頑張れそうな気がする。
「何? ケガしたの? てっきり無双しているように見えたのだけど?」
「これくらいなんともない。この世界に来てまだ初日だから、スキルの加減がわかっていないんだ」
「そうなんだ。アタシはてっきり、みんな一昨日に召喚されているものだと思っていたわ。でも、初日で神の駒を倒すなんて凄いわね。正直見直したわ【自然治癒】」
アリサがスキルを発動した瞬間、俺の痛めた腕が光ったかと思うと瞬時に痛みが引いていく。
「い、言っておくけど、これはあくまでも助けてもらったお礼だからね。まだあなたを完全に認めた訳ではないのだから」
「ありがとうな」
「へ?」
俺がアリサに礼を言うと、彼女は間抜けな声を出す。
「ど、どうして礼を言うのよ。ケガを癒したのは、助けてもらったお礼でやってあげたことなんだから、感謝する必要はないでしょう」
「でも、自分に対して何かをしてもらった以上、礼を言うべきだ。傷を治してくれてありがとう。少しでも俺のことを認めてくれてありがとう。カレンのことを好きでいてくれてありがとう。それから――」
「ス、ストープ! なんでそんなに感謝の言葉を言えるのよ」
アリサが右手を前に突き出し、制止の声を上げる。
「まったく、アタシの方が調子を狂わせてしまうじゃない……とにかく早く、カレンのところに向かいましょう」
「そうだな【音波探知】」
スキルを使用してカレンの居場所を探る。すると、とある建物からカレンと思われる反応が返ってきた。
カレンと思う反応が返ってきた場所は分かった。でも、普通に走ったとしても時間が掛かってしまう。ここは【瞬間移動】を使って一気に移動した方が良いかもしれない。
転移スキルを発動するために、俺はアリサの手を握る。
「ちょと、なにしているのよ! 変態!」
金髪の髪をツインアップにしている女の子の手を握った瞬間、彼女は声を上げて俺に蹴りを放ってくる。
いきなりの理不尽な行動であったが、なんとなく予想ができていた。なので、手を握っていない方の手で、放たれた彼女の足を掴んで攻撃を回避する。
「離しなさい! 変態!」
アリサが罵声を浴びせながら睨みつけてくる。
それにしても、片手片足を掴まれた状態でバランスを崩さないなんて、本当に体幹が凄いな。これだけでも彼女が日頃から鍛えていることが分かる。
本当になんでゲームの開発者は彼女に【聖女】なんてユニークスキルにしたのだろうか? 攻撃系の方がかなり強いと思うのだけど。
そんなことを考えつつも、このままでは最悪、彼女のスカートが捲れてパンツが見えるかもしれない。
ただの布切れに興味がないし、パンツが見えたことで逆恨みされたら割に合わない。
アリサを拘束している手を離し、事情を話すことにする。
「待ってくれ、誤解だ。俺は今から転移系のスキルを使うから、そのために手を握ったんだ。対象者に触れていないと、他の人を転移に巻き込めないからな」
俺の説明に納得してくれたのか、アリサは二発目の蹴りを放とうとはしなかった。
「それならそうと言いなさいよ。てっきりアタシの魅力に取り憑かれて、理性が我慢できずに襲ってきたのかと思ったわ」
誰がアリサに魅了されるかよ。そう言いたかったが、それを言うとややこしいことになる。そう、直感が働いたのだ。だから心の声に留めておく。
「悪いが、俺が魅了されるのはカレンだけだ。他のやつがいくら言い寄って来ても、何も思わない」
カーマがバスタオル姿で膝枕していたときも、どちらかと言えば怒りの感情の方が強かった。だから俺はきっと、他のやつには魅了されないだろう。
「そうですか。それは良かったですね。ほら、早く転移しなさいよ。カレンのところに行くのでしょう」
なぜか若干不機嫌そうにアリサが言葉を言い放ち、俺の手を握ってきた。
まぁいい。とにかく今はカレンのところに向かうのが先だ。
「【瞬間移動】」
スキルを発動して座標をカレンの反応があった建物にする。すると瞬時に目の前の路地裏の光景が変わり、建物の前にいることに気付く。
「転移系のスキルってこんなに一瞬なのね。戦闘に活用すれば、簡単に敵の背後を取れるじゃない」
「そんなに簡単ではないさ。移動したい場所のイメージが強く想像しないと、失敗するからな。集中することが難しい戦闘中では、使わない方がいい。それよりも中に入るぞ」
サクの物と思われる鍵を鍵穴に挿して捻る。すると解錠できたようで、ガチャっと音が鳴った。ドアノブを握って開けると、扉は簡単に開く。
カーマの話では、地下にある牢屋だったよな。
周辺を見渡すと、地下に繋がる階段を発見した。
あそこから地下に行くことができる。
急いで階段前に移動して階段を降りると、視界には牢屋と二人の女の子が映った。
一人はクリーム色の髪を三つ編みとハーフアップの組み合わせにしている女の子、そしてもう一人は黒いロングの髪に赤い瞳のをしており、ボンテージ姿の女の子だった。
どうして彼女がここにいるんだよ。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
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カレンを攫った張本人のサクが、光の粒子となって消えて行く。
この光景はゲームと同じだ。やっぱり、この世界で行われている聖神戦争の管理者に負けだと判断されると、死亡とは関係なく消されてしまう。
拳を強く握り、歯を食い縛る。
絶対にカレンを死なせない。俺の願いは彼女を生き残らせることだ。
サクが最後に言った言葉を思い出す。
彼が言っていたコワイは、サクの幼馴染であるコワイ・トドメキのことだろう。彼女もチート能力を持っている。
プレイヤー側として使った場合、一気にゲームの難易度が下がってしまうほどのパワーブレイカーキャラだ。しかし敵として現れた場合は苦戦必須のキャラとなる。
当然ゲームオーバーになる確率が高い。一応アップデートで弱体化してゲームバランスが保たれた。しかしこの世界でのコワイが、アップデート前の強さだった場合、今の俺では最悪のケースに陥った場合は、まず負けてしまうかもしれない。
あの女とは、今は極力避けたほうが良いだろうな。
そしてあの方と言うのは、この聖神戦争のラスボスであるゼウスで間違いないだろうが、やつは物語の中盤までは何もしてこないはず。
色々と気になることはあるが、とにかく今はカレンを救出する方が先だ。
カレン救出に意欲を燃やすと、サクが倒れていた場所に何かが落ちていることに気付く。
「あれってまさか」
近付いて屈み、落ちている物を拾う。
それは何処かの施錠を開けるための鍵だった。
「これが、カーマの言っていた鍵。これでカレンが囚われている建物の中に入ることができる」
踵を返し、呆然と立ち尽くしている金髪ツインアップの女の子に顔を向ける。
「アリサ、大丈夫か?」
「え、ええ。大丈夫よ。どこもケガしたりしてはいないわ」
「良かった」
彼女が無事であることが分かり、安堵する。
「どうしてあなたが私の安否を気にするのよ」
「だって、アリサはカレンの友達……いや親友だろう? カレンにとって特別なお前がケガなんかしたと分かったら、カレンが悲しむからな。お前を守れて本当に良かった」
俺の言葉に、アリサはたじろいた表情を浮かべる。
「あなたって、誰にでもそんな歯の浮くような言葉を平然と言うの?」
「あれ? 俺って何か変なことを言ったか? 本当にアリサが無事で良かったと思ったから言っただけなんだけど?」
「あーはい、はい。そう言うことね。分かったわ。無自覚で言っているのね。あなた、周りから天然ジゴロって呼ばれない?」
「はぁ? 誰が天然ジゴロだよ! 俺はそんな性格ではないぞ。ただ単にカレンのことが好きだから口に出しているだけだ。それに俺の友達はゲームのチャット上で繋がった人しかない。あいつらにも言われたことがない以上、俺が天然ではないからな」
「いや、ゲームのチャットって、全然声が届かないじゃない。それに天然だと気付いていない時点で天然よ」
「だから天然じゃ! ッツ!」
つい感情的になって声を上げる。すると腕に痛みを感じ、思わず顔を歪めてしまった。
いくらスキルを使って肉体の限界をカバーしたところで、元の肉体が弱ければ多少のダメージを受けてしまうか。
今後はこれを参考にして、考えなしで肉体強化系のスキルを使うのは控えたほうが良いかもしれないな。感情的にならないように、常に冷静でいられるようにするか、反動が起きても痛みを感じないように肉体改造をするか。
正直両方とも厳しいが、カレンのためなら頑張れそうな気がする。
「何? ケガしたの? てっきり無双しているように見えたのだけど?」
「これくらいなんともない。この世界に来てまだ初日だから、スキルの加減がわかっていないんだ」
「そうなんだ。アタシはてっきり、みんな一昨日に召喚されているものだと思っていたわ。でも、初日で神の駒を倒すなんて凄いわね。正直見直したわ【自然治癒】」
アリサがスキルを発動した瞬間、俺の痛めた腕が光ったかと思うと瞬時に痛みが引いていく。
「い、言っておくけど、これはあくまでも助けてもらったお礼だからね。まだあなたを完全に認めた訳ではないのだから」
「ありがとうな」
「へ?」
俺がアリサに礼を言うと、彼女は間抜けな声を出す。
「ど、どうして礼を言うのよ。ケガを癒したのは、助けてもらったお礼でやってあげたことなんだから、感謝する必要はないでしょう」
「でも、自分に対して何かをしてもらった以上、礼を言うべきだ。傷を治してくれてありがとう。少しでも俺のことを認めてくれてありがとう。カレンのことを好きでいてくれてありがとう。それから――」
「ス、ストープ! なんでそんなに感謝の言葉を言えるのよ」
アリサが右手を前に突き出し、制止の声を上げる。
「まったく、アタシの方が調子を狂わせてしまうじゃない……とにかく早く、カレンのところに向かいましょう」
「そうだな【音波探知】」
スキルを使用してカレンの居場所を探る。すると、とある建物からカレンと思われる反応が返ってきた。
カレンと思う反応が返ってきた場所は分かった。でも、普通に走ったとしても時間が掛かってしまう。ここは【瞬間移動】を使って一気に移動した方が良いかもしれない。
転移スキルを発動するために、俺はアリサの手を握る。
「ちょと、なにしているのよ! 変態!」
金髪の髪をツインアップにしている女の子の手を握った瞬間、彼女は声を上げて俺に蹴りを放ってくる。
いきなりの理不尽な行動であったが、なんとなく予想ができていた。なので、手を握っていない方の手で、放たれた彼女の足を掴んで攻撃を回避する。
「離しなさい! 変態!」
アリサが罵声を浴びせながら睨みつけてくる。
それにしても、片手片足を掴まれた状態でバランスを崩さないなんて、本当に体幹が凄いな。これだけでも彼女が日頃から鍛えていることが分かる。
本当になんでゲームの開発者は彼女に【聖女】なんてユニークスキルにしたのだろうか? 攻撃系の方がかなり強いと思うのだけど。
そんなことを考えつつも、このままでは最悪、彼女のスカートが捲れてパンツが見えるかもしれない。
ただの布切れに興味がないし、パンツが見えたことで逆恨みされたら割に合わない。
アリサを拘束している手を離し、事情を話すことにする。
「待ってくれ、誤解だ。俺は今から転移系のスキルを使うから、そのために手を握ったんだ。対象者に触れていないと、他の人を転移に巻き込めないからな」
俺の説明に納得してくれたのか、アリサは二発目の蹴りを放とうとはしなかった。
「それならそうと言いなさいよ。てっきりアタシの魅力に取り憑かれて、理性が我慢できずに襲ってきたのかと思ったわ」
誰がアリサに魅了されるかよ。そう言いたかったが、それを言うとややこしいことになる。そう、直感が働いたのだ。だから心の声に留めておく。
「悪いが、俺が魅了されるのはカレンだけだ。他のやつがいくら言い寄って来ても、何も思わない」
カーマがバスタオル姿で膝枕していたときも、どちらかと言えば怒りの感情の方が強かった。だから俺はきっと、他のやつには魅了されないだろう。
「そうですか。それは良かったですね。ほら、早く転移しなさいよ。カレンのところに行くのでしょう」
なぜか若干不機嫌そうにアリサが言葉を言い放ち、俺の手を握ってきた。
まぁいい。とにかく今はカレンのところに向かうのが先だ。
「【瞬間移動】」
スキルを発動して座標をカレンの反応があった建物にする。すると瞬時に目の前の路地裏の光景が変わり、建物の前にいることに気付く。
「転移系のスキルってこんなに一瞬なのね。戦闘に活用すれば、簡単に敵の背後を取れるじゃない」
「そんなに簡単ではないさ。移動したい場所のイメージが強く想像しないと、失敗するからな。集中することが難しい戦闘中では、使わない方がいい。それよりも中に入るぞ」
サクの物と思われる鍵を鍵穴に挿して捻る。すると解錠できたようで、ガチャっと音が鳴った。ドアノブを握って開けると、扉は簡単に開く。
カーマの話では、地下にある牢屋だったよな。
周辺を見渡すと、地下に繋がる階段を発見した。
あそこから地下に行くことができる。
急いで階段前に移動して階段を降りると、視界には牢屋と二人の女の子が映った。
一人はクリーム色の髪を三つ編みとハーフアップの組み合わせにしている女の子、そしてもう一人は黒いロングの髪に赤い瞳のをしており、ボンテージ姿の女の子だった。
どうして彼女がここにいるんだよ。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
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