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第三章
第九話 テイオー賞①
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ナイツ賞から数週間後、ついに俺とフェインが勝負をするテイオー賞が開催される日となった。
いつものように集合場所に向かうと、俺が無限回路賞に出場した時と同じメンバーが集まっていた。
タマモがいるのは当然だ。クラスメイトと兄の勝負を見守りに来ているからな。でも、どうしてアルティメットとサラブレットが居るんだ? もしかして。
「もしかして、アルティメットとサラブレットがいるのって」
「お! 良く分かってくれましたね」
「そう、今回も私たちは実況と解説を担当するわ。前回のナイツ賞も、もしかして出場するのかと思って、私たちから立候補したのだけど、ヤマが外れてしまったわね」
「いや、サラブレットよ。ナイツ賞とテイオー賞は、切っても切り離せないほどのジンクスがあるから、敢えて参加しなかったと私は思う」
「ジンクス?」
アルティメットの言うジンクスが気になってしまい、思わず口から言葉が漏れてしまう。
「そうか。そう言えば、そんなジンクスもあったね。まぁ、ワタシの時はジンクスを撃ち破ったが。まぁ、丁度良い機会だ。この際だから話しておくと、ナイツ賞で優勝した走者は、本番のテイオー賞では優勝しないと言うジンクスがあるのだよ。因みにここ10年は、誰もこのジンクスを打ち破った走者はいない。みんな、ジンクスに呑まれ、敗退していった」
ジンクスの話題が出ると、ルーナが変わりに説明をしてくれた。
まさか、そんなジンクスがあるとは知らなかったな。
「でも、兄さんはそのジンクスを打ち破ってくるかもしれないです。ナイツ賞の時の兄さんの走りは、以前あたしが見た時とは全然違いました」
「確かに、観客席で見た時の彼の走りは、昔とは比べ物にならないほどの脚力だった。油断できないだろう。でも、ワタシはシャカールが勝つに賭ける。10000ギルを使ってシャカールの単勝に賭けるつもりだ」
俺の勝利を信じてくれているのは嬉しいが、そこで本当の賭け事の話しをされると、嬉しさも半減されるものだ。
「私たちもシャカール走者を応援しているよ。まぁ、実況中は公平に扱わなければならないが、心の中で応援しているから」
「頑張ってください。テイオー賞を勝ち取って、1冠を手にしてください」
ルーナに続いてアルティメットとサラブレットが俺に期待する言葉を投げかける。
チラリとタマモの方を見ると、彼女は俺の視線に気付いたようで、プイッと顔を逸らす。
「まぁ、一応あたしもシャカール君が勝つと思っているから。出なければナイツ賞を見に行こうって誘わないもん」
どうやらタマモも、俺の勝ちを信じてくれているみたいだ。100パーセントとは言えないが、フェインに勝つ自信はある。
「そうだ。これを君に渡しておこうと思っていたんだ。更衣室でこれに着替えてくれ」
ルーナが白衣のポケットに手を突っ込むと、中から黒色の洋服らしき物を取り出す。
そう言えば、彼女のあの白衣にあるポケットは、アイテムボックスになっていたな。
「ワタシから君へのプレゼントだ。初めてのG Iレースだからね。勝負服を贈呈させてもらう」
受け取った服を広げてみると、上下共に黒色の生地で作られていた。
「全身黒づくめだな」
「君へのイメージを最大限に引き出した結果だ。私的に君のイメージカラーはブラック。だからそのイメージに合わせたんだ」
「なるほど、確かにシャカールはブラック……ダークヒーローですものね」
ルーナのイメージに共感できるものがあったのか、タマモは納得したようだ。途中で声が小さくなっていたので、最後は何て言ったのか聞き取ることができなかった。
「俺ってそんなに真っ黒なイメージなのか?」
彼女たちに尋ねてみると、全員が首を縦に振る。
まぁ、腹黒いってイメージなのかもしれないな。そこに関しては俺も自覚しているから、文句は言えない。なら、この漆黒に似合うような走りをしなければな。
「そろそろ時間だ。前回、シャカールが遭遇したモンスターと同じ種類のやつが出現するかもしれない。護衛も兼ねて、ワタシも同行しよう」
念のためにルーナも付き添いをすると言い、俺たちは馬車に乗り込む。
俺たちを乗せた馬車は、時間ピッタリに出発した。
今回は運が良かったのか、モンスターの襲撃に遭うことなく、目的地に辿り着くとこができた。
この場所に来るのも数週間ぶりだな。
馬車から降り、前回と同様に俺たちは走者専用入り口から会場入りをする。
「それじゃ、あたしは観客席で見ているから。負けたらクラスの恥を晒すことになるから頑張ってね。シャカール君」
タマモが猫被りモードで俺を応援してくれるが、あの言葉の裏には、無様な敗北をしたら絶対に許さないと言っているように聞こえてしまう。
「それだけは安心しろ。仮に俺が負けたとしても、入賞を逃すことはない」
恥を晒すような走りだけはしないことを伝えると、踵を返して男子走者の控え室に向かう。
目的地に辿り着くと、扉を開けて中に入る。すると、緊迫感のある空気が俺を襲った。
この感じ、前回の無限回路賞の時とは違うな。
今回の参加者は、ナイツ賞に出た出場者もいる。もちろん、この場にフェインの姿もいたが、彼は孤立状態だった。
彼から放たれる何とも言えないオーラに、みんなビビっているのだろう。
だけど俺からしたら、そんなことはどうでも良い。早く勝負服に着替えて軽くアップをしておくか。
椅子に座っているフェインの横を通り過ぎて、空いているロッカーを探そうとする。
「おい、この俺に挨拶もなしかシャカール?」
空いている場所を探すと、フェインの方から声をかけてきた。しかも喧嘩腰にだ。
「一々挨拶をしなくてもいいだろう? お前との挨拶は数週間前に済ませているじゃないか」
「それでも、挨拶をするのは基本だろうが。これだから教育のなっていない平民は困る」
「それは悪かったな。今回のレースで俺に負けるフェインさん」
若干イラッときたので、小馬鹿にするような口調で挨拶を返した。すると彼は目を細めて黄色い瞳で俺を睨み付けてくる。
「聞いたぜ。ナイツ賞で優勝したやつは、テイオー賞では優勝できないジンクスがあるんだってな。つまり、お前は俺に負けることが確定しているって訳だ。今から土下座の練習でもしておいた方がいいんじゃないのか?」
「何がジンクスだ! あんなものなんかに俺の3冠を邪魔されてたまるか! それにルーナ・タキオンも、このジンクスを打ち破っている」
「確かにルーナはジンクスを打ち破っている。だけど、お前はルーナではない。ルーナに負けたお前が、ジンクスを打ち破れると言うのか?」
「くっ!」
少しだけきつい言葉を言うと、フェインは苦虫を噛み潰したような顔をする。
「お前、ルーナから聞いたのか?」
「いや、単なる予想だ」
そう、俺はこれまで得た情報を使い、予想で語ったにすぎない。ルーナはフェインとレースで勝負をしたと言っていた。そしてルーナは無敗の3冠王だ。それらを組み合わせれば、フェインは彼女との勝負に負けていることになる。
そしてフェインがルーナと鉢合わせしたとき、親の仇を見るような目をしていた。つまり、心に傷を負うような敗北をしたのだ。
「俺は絶対に勝つ! 貴様を完膚なきまでに叩き潰す!」
人差し指を俺に向け、彼は宣戦布告を行う。
俺って良く他種族から宣戦布告を受けるよな。
「そうかよ。それは楽しみだ。早くレースの時間が来ないかなっと」
両手を後頭部に持っていき、独り言を呟くような言い方で言葉を放ち、空いている場所を探す。そして見つけると、勝負服に着替え始める。
フェインは気付いているのだろうか? レースはコースに立つ前から既に始まっている。俺の話術に掛かってしまっている中で、冷静にレースを進めることができるのだろうか。
いつものように集合場所に向かうと、俺が無限回路賞に出場した時と同じメンバーが集まっていた。
タマモがいるのは当然だ。クラスメイトと兄の勝負を見守りに来ているからな。でも、どうしてアルティメットとサラブレットが居るんだ? もしかして。
「もしかして、アルティメットとサラブレットがいるのって」
「お! 良く分かってくれましたね」
「そう、今回も私たちは実況と解説を担当するわ。前回のナイツ賞も、もしかして出場するのかと思って、私たちから立候補したのだけど、ヤマが外れてしまったわね」
「いや、サラブレットよ。ナイツ賞とテイオー賞は、切っても切り離せないほどのジンクスがあるから、敢えて参加しなかったと私は思う」
「ジンクス?」
アルティメットの言うジンクスが気になってしまい、思わず口から言葉が漏れてしまう。
「そうか。そう言えば、そんなジンクスもあったね。まぁ、ワタシの時はジンクスを撃ち破ったが。まぁ、丁度良い機会だ。この際だから話しておくと、ナイツ賞で優勝した走者は、本番のテイオー賞では優勝しないと言うジンクスがあるのだよ。因みにここ10年は、誰もこのジンクスを打ち破った走者はいない。みんな、ジンクスに呑まれ、敗退していった」
ジンクスの話題が出ると、ルーナが変わりに説明をしてくれた。
まさか、そんなジンクスがあるとは知らなかったな。
「でも、兄さんはそのジンクスを打ち破ってくるかもしれないです。ナイツ賞の時の兄さんの走りは、以前あたしが見た時とは全然違いました」
「確かに、観客席で見た時の彼の走りは、昔とは比べ物にならないほどの脚力だった。油断できないだろう。でも、ワタシはシャカールが勝つに賭ける。10000ギルを使ってシャカールの単勝に賭けるつもりだ」
俺の勝利を信じてくれているのは嬉しいが、そこで本当の賭け事の話しをされると、嬉しさも半減されるものだ。
「私たちもシャカール走者を応援しているよ。まぁ、実況中は公平に扱わなければならないが、心の中で応援しているから」
「頑張ってください。テイオー賞を勝ち取って、1冠を手にしてください」
ルーナに続いてアルティメットとサラブレットが俺に期待する言葉を投げかける。
チラリとタマモの方を見ると、彼女は俺の視線に気付いたようで、プイッと顔を逸らす。
「まぁ、一応あたしもシャカール君が勝つと思っているから。出なければナイツ賞を見に行こうって誘わないもん」
どうやらタマモも、俺の勝ちを信じてくれているみたいだ。100パーセントとは言えないが、フェインに勝つ自信はある。
「そうだ。これを君に渡しておこうと思っていたんだ。更衣室でこれに着替えてくれ」
ルーナが白衣のポケットに手を突っ込むと、中から黒色の洋服らしき物を取り出す。
そう言えば、彼女のあの白衣にあるポケットは、アイテムボックスになっていたな。
「ワタシから君へのプレゼントだ。初めてのG Iレースだからね。勝負服を贈呈させてもらう」
受け取った服を広げてみると、上下共に黒色の生地で作られていた。
「全身黒づくめだな」
「君へのイメージを最大限に引き出した結果だ。私的に君のイメージカラーはブラック。だからそのイメージに合わせたんだ」
「なるほど、確かにシャカールはブラック……ダークヒーローですものね」
ルーナのイメージに共感できるものがあったのか、タマモは納得したようだ。途中で声が小さくなっていたので、最後は何て言ったのか聞き取ることができなかった。
「俺ってそんなに真っ黒なイメージなのか?」
彼女たちに尋ねてみると、全員が首を縦に振る。
まぁ、腹黒いってイメージなのかもしれないな。そこに関しては俺も自覚しているから、文句は言えない。なら、この漆黒に似合うような走りをしなければな。
「そろそろ時間だ。前回、シャカールが遭遇したモンスターと同じ種類のやつが出現するかもしれない。護衛も兼ねて、ワタシも同行しよう」
念のためにルーナも付き添いをすると言い、俺たちは馬車に乗り込む。
俺たちを乗せた馬車は、時間ピッタリに出発した。
今回は運が良かったのか、モンスターの襲撃に遭うことなく、目的地に辿り着くとこができた。
この場所に来るのも数週間ぶりだな。
馬車から降り、前回と同様に俺たちは走者専用入り口から会場入りをする。
「それじゃ、あたしは観客席で見ているから。負けたらクラスの恥を晒すことになるから頑張ってね。シャカール君」
タマモが猫被りモードで俺を応援してくれるが、あの言葉の裏には、無様な敗北をしたら絶対に許さないと言っているように聞こえてしまう。
「それだけは安心しろ。仮に俺が負けたとしても、入賞を逃すことはない」
恥を晒すような走りだけはしないことを伝えると、踵を返して男子走者の控え室に向かう。
目的地に辿り着くと、扉を開けて中に入る。すると、緊迫感のある空気が俺を襲った。
この感じ、前回の無限回路賞の時とは違うな。
今回の参加者は、ナイツ賞に出た出場者もいる。もちろん、この場にフェインの姿もいたが、彼は孤立状態だった。
彼から放たれる何とも言えないオーラに、みんなビビっているのだろう。
だけど俺からしたら、そんなことはどうでも良い。早く勝負服に着替えて軽くアップをしておくか。
椅子に座っているフェインの横を通り過ぎて、空いているロッカーを探そうとする。
「おい、この俺に挨拶もなしかシャカール?」
空いている場所を探すと、フェインの方から声をかけてきた。しかも喧嘩腰にだ。
「一々挨拶をしなくてもいいだろう? お前との挨拶は数週間前に済ませているじゃないか」
「それでも、挨拶をするのは基本だろうが。これだから教育のなっていない平民は困る」
「それは悪かったな。今回のレースで俺に負けるフェインさん」
若干イラッときたので、小馬鹿にするような口調で挨拶を返した。すると彼は目を細めて黄色い瞳で俺を睨み付けてくる。
「聞いたぜ。ナイツ賞で優勝したやつは、テイオー賞では優勝できないジンクスがあるんだってな。つまり、お前は俺に負けることが確定しているって訳だ。今から土下座の練習でもしておいた方がいいんじゃないのか?」
「何がジンクスだ! あんなものなんかに俺の3冠を邪魔されてたまるか! それにルーナ・タキオンも、このジンクスを打ち破っている」
「確かにルーナはジンクスを打ち破っている。だけど、お前はルーナではない。ルーナに負けたお前が、ジンクスを打ち破れると言うのか?」
「くっ!」
少しだけきつい言葉を言うと、フェインは苦虫を噛み潰したような顔をする。
「お前、ルーナから聞いたのか?」
「いや、単なる予想だ」
そう、俺はこれまで得た情報を使い、予想で語ったにすぎない。ルーナはフェインとレースで勝負をしたと言っていた。そしてルーナは無敗の3冠王だ。それらを組み合わせれば、フェインは彼女との勝負に負けていることになる。
そしてフェインがルーナと鉢合わせしたとき、親の仇を見るような目をしていた。つまり、心に傷を負うような敗北をしたのだ。
「俺は絶対に勝つ! 貴様を完膚なきまでに叩き潰す!」
人差し指を俺に向け、彼は宣戦布告を行う。
俺って良く他種族から宣戦布告を受けるよな。
「そうかよ。それは楽しみだ。早くレースの時間が来ないかなっと」
両手を後頭部に持っていき、独り言を呟くような言い方で言葉を放ち、空いている場所を探す。そして見つけると、勝負服に着替え始める。
フェインは気付いているのだろうか? レースはコースに立つ前から既に始まっている。俺の話術に掛かってしまっている中で、冷静にレースを進めることができるのだろうか。
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