薬漬けレーサーの異世界学園生活〜無能被験体として捨てられたが、神族に拾われたことで、ダークヒーローとしてナンバーワン走者に君臨します〜

仁徳

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第三章

第十一話 テイオー賞③

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先頭ハナを走るフェインが放った魔法で、芝が氷のリングへと変わる中、シャカールだけが転倒をせずに突き進む。牛蒡抜ごぼうぬきで一気に2位に上がった!』

『最初から殿を走っていたのは、このためだったのでしょう。さすがシャカール走者と言ったところです』

 どうにかシューズにブレードを取り付けて、氷の上を滑って走ることができたな。

 上手く転倒している走者を躱すことができたし、このままフェインとの開いた差を一気に縮める。

 氷のリングと化したコースを走っていると、フェインの背中が小さく視界に入る。そろそろ最初のギミックに到達するからか、彼は魔法を使用していなかった。途中から再び芝の上を走ることになっている。

 氷と芝の境目に到達したところで、シューズの下に魔法で装着したブレードを消し、芝の上に足を踏み締める。

 さっきまで滑るように走っていたからか、妙に違和感を覚えてしまう。だけど、直ぐに馴染むだろう。

『それでは順位を振り返りましょう。現在先頭ハナを走るのはフェイン。8メートル差、シャカール。ここまでが先頭集団です。ここから先は僅かな差ではありますが、中段をヒッキー、ブリーザ、アストン。その少し後をガーベラ、アックス、サザナミ、ジュエルサファイア、サンシャイン……おっとここで再びパワームテキが転倒だ。それに巻き込まれる形でカラボーアとパヒューが転倒する。彼らを避けるようにして躱していくのがアイリス、シンキングオパール、サイレントキル。殿のカルディアが方針を変えたようで、炎の魔法で氷を溶かす!』

『先頭から殿まで、およそ20メートル以上の開きが出ましたね。後続が間に合うのか、気になる開きとなっています。上手く自分の魔法を使って、他の走者の妨害を突破できなければ、優勝は絶望的となるでしょう』

 フェインとカルディアの差が20メートルか。これなら、俺の予想を超えるような状況にならない限りは、追いつかれる心配をしないですみそうだな。

『ここでフェイン走者が500メートルを走り、最初のギミックである凍てついた魔の波動エリアに入った!』

『凍てついた魔の波動エリアは、地面からランダムで魔力を奪う波動が発生します。この波動を受けてしまうと、練り上げた魔力を失います。なので、最初から魔力を練り上げる必要がありますので、タイミングをずらされてしまいます。それと発動中のバフ、デバフ効果も掻き消されるので、注意が必要です』

『さぁ、運が試されるこのエリアをどのように突破するのか!』

 フェインが最初のギミックに到達したか。解説があったように、あのエリアは波動を受けてしまうと、練り上げた魔法を強制的に霧散されてしまう。一般的には、魔法の使用は控えるのがセオリーだ。

 だけど、フェインとの開いた差を縮めるには、ここで俊足魔法を使って距離を縮めるしかない。

 ここであいつに追いつけるかどうかで、俺の優勝が決まって来る。

「スピードスター!」

 俊足の魔法を発動し、数秒の間だけ速度を上げる。

『ここで賭けに出たのか、シャカール走者が加速する!』

『彼はもう少しで凍てついた魔の波動エリアに差し掛かります。運が悪ければ、瞬時にその効果を失うことになってしまいますね』

 解説のサラブレットが言う通り、運が悪ければエリア内に最初の1歩を踏み出したその瞬間に、加速を失うことになるだろう。だけど俺には、このエリアを回避する必勝法があることを知っている。

 ルーナと勝負をしたあの日、彼女は魔法から魔力を感じ取ることができれば、躱すことが出来ると言った。

 この妨害エリアから放たれる波動も、魔法の一種であることには変わらない。芝から魔力を感じ取ることができれば、その部分から放たれることを事前に知ることが出来る。

 神経を集中させ、芝からの魔力を感じ取ると、一部分に魔力の塊があるのを感じ取ることができた。

 次はあそこから波動が放たれるのか。

 放出される場所さえ分かれば、後は回避するのは簡単だった。時には横にずれ、時には加速して躱し、賭けに出て間に合わない時にはバックステップで下がりつつも、波動を避ける。

『シャカール走者! まるで凍てついた魔の波動が放たれる場所が分かっているかのような不思議な走りをする!』

『あれが他の走者を惑わすためのフェイクなのか、本当に避けているのかはわかりませんが、少なくとも他の走者に精神的ダメージを与えるのは確実でしょう。動揺を誘い、走るペースを乱すことも可能かと』

 なるほど、俺はただ避けているだけなのだが、相手にはフェイクだと思われている可能性もあるのか。だけど本当に避けることで、ガチで避けているのかと思わせることが出来るとは思ってもいなかったな。

 意外なデバフ効果に驚いていると、フェインが加速したようで彼の背中が遠退く。

『ここでシャカール走者の作戦に掛かってしまったのか、フェイン走者が速度を上げた!』

『ペースが乱されたことで、スタミナを消費しなければ良いのですが』

 思わぬ副産物のお陰でフェインの心を乱すことができたみたいだな。

 距離を開けられてしまったが、疲れてくれればこっちのものだ。

 俺は波動攻撃を避けつつ前進し、やっと最初のギミックを抜ける。

 フェインの魔力量が現在どうなっているのか分からないが、俺は波動攻撃を一度も受けていない。そのお陰で再び魔力を練り上げ、魔力回路全体に行き渡らせることができている。

「今、その背中に追いついてやる。スピードスター!」
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