薬漬けレーサーの異世界学園生活〜無能被験体として捨てられたが、神族に拾われたことで、ダークヒーローとしてナンバーワン走者に君臨します〜

仁徳

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第三章

第十二話 テイオー賞④

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 最初のギミックを抜けた後、俺は俊足の魔法であるスピードスターを発動して、先頭を走るフェインに接近する。

『さぁ、最初のギミック、凍てついた魔の波動をものともしなかったシャカールが今、先頭ハナを走るフェインに追い付いた! その差はほぼなく、いつでも躱して前に出られる距離となっている!』

 実況担当のアルティメットの声が聞こえたのか、フェインは後を向く。

「貴様! いつの間に追い付いてきやがった!」

「つい先ほどだぜ。いやーそれにしても、スリップストリーム走行って楽で良いな! 風の影響を受けないから、スタミナを温存することが出来るうえに、走りやすいぜ」

「くそう! 俺を風避けの壁扱いしやがって! なら、これならどうだ!」

 フェインが右斜め前に跳躍をして位置を変えたことにより、一気に気圧に変化が起きた。

 俺に向かって風が吹き、少しだけ走り辛くなる。

『ここでフェインがステップを踏み、走っている位置を変更! シャカール走者、風の影響を受けて少し苦しそうだ!』

『現在走っている場所からでは、向かい風になっています。風の抵抗を受けながらの走りでは、上手く走ることは難しいですね』

 フェインが道を譲ってくれた。このまま速度を上げれば、前に出ることが出来る。でもその代わりに消費するスタミナは多いだろうな。なら、先の展開を考えると、俺がするべき行動はこれしかない。

 走っている足に力を入れ、右斜め前に跳躍。そして再びフェインの背後に位置取る。

『ここでシャカール走者が再びフェイン走者の背後を走る。意地でもフェインを風避けにするつもりだ!』

『風の影響による抵抗は、走者の敵でもありますからね。可能な限り風の抵抗を受けないように工夫するのも、走者の才能の一つです』

「貴様、またしても俺を風避けにしやがって! なら、これならどうだ!」

 余程風避けの道具にされるのが嫌だったのだろう。フェインは左右にステップを踏み、俺と直線上にならないようにしてくる。

 そっちがその気なら、こっちにも考えがあるぜ。何がなんでもお前を風避けに使わせてもらう。

『フェイン走者、見事なテイオーステップを見せる! しかし彼の動きに合わせてシャカール走者も同じステップを踏み、逃げ切ることができない! 何という執念!』

『本人や第三者からしたら嫌なレースです。ですが、これも作戦の一つ。有効な手であるのは間違いないです。同じことを真似され、フェイン走者は苛立っているのか、走りに乱れが現れ始めました』

「おのれ! ちょこまかとしつこいやつだ! 貴様、女性から嫌われるタイプだぞ!」

「悪いな、俺は最初から嫌われやすい性格なので、そんな分かりきったことは今更言われても何とも思わないな」

『フェイン走者とシャカール走者が一騎討ちをしていますが、後方も面白いことになっています』

『後方は後方で大波乱となっていますね』

『順位を振り返っていきます。現在フェインが一番手、続いてシャカール。10メートル離れて殿だったカルディアが三番手に来ています』

『氷を溶かす作戦が吉と出たみたいですね』

『四番手はヒッキー、その後ろをブリーザ、ここでアストンが並んできた。1メートル離れまして内をガーベラが走っていましたが、後方を走るアックスの火球が直撃! ここで追い越される! 倒れたガーベラをサザナミとジュエルサファイアが追い抜き、ここでガーベラが立ち上がった。ここまでが中段と言ったところでしょうか』

『先頭とはまだまだ開きがあります。この後のギミックで追いつけられるのか、ある意味楽しみな展開ですね』

『中段から5メートル離れまして、サンシャイン。その左をパワームテキが走ります。13位のカラボーアですが、ここでサイレントキルとアイリスに追い抜かれる。そして最下位を脱出しようとシンキングオパールが追いかける展開となっています』

『後段は後段でドラマティックな展開となっていますね』

 大分後ろを走る奴らとは差が開いたようだな。ここまで差が出れば、追い付かれることはほぼないと思ってもいい。だけど油断はできない。何でもありなのがこの魔競走レースだ。最後の最後まで油断はできない。

『1位争いをしているフェインとシャカールですが、おや? おかしいな? 私の目が疲れているのでしょうか? 僅かにシャカール走者が跳躍した後に、フェイン走者が遅れて跳躍しているように見えます』

『アルティメットの気のせいではないでしょう。私にも、そのように見えます。これは信じられないことですが、ほんの僅かにシャカール走者が、フェイン走者の動きを読み、先に動いていることになります』

「何だと! この俺の動きが読まれているだと!」

 前方を走るフェインが驚きの声を上げる。

 そうだ。俺はお前の動きを前もって予想している。お前の行動パターンは、前回のナイツ賞である程度覚えた。ある程度完璧にトレースができた以上は、もうフェインの一手、二手先を行動に移すことが出来る。

「それじゃあ、風が収まったところで前に行かせてもらおうかな。風避けの壁役ご苦労様!」

 フェインの横を抜き去り、先頭に躍り出る。しかしその直後、俺は次のギミックエリアに足を踏み入れ、一気に体が重くなるのを感じ取る。

『フェイン走者を追い抜いたシャカール走者ですが、ここで第2のギミック。グラヴィテープラスゾーンに突入だ!』

『このエリア内では、重力が2倍となります。体重が倍となったことで、走りに影響が出るコースとなっています。一気にスタミナを奪われるこのギミック。果たしてシャカール走者は、どのようにして突破するのか。見物です』

 体全体が重い。まるで鉄の鉄球を足首に取り付けられているみたいだ。だが、このエリアの影響は、後方のフェインが足を踏み入れた時に同じ条件となる。

 体重が軽い方が有利なエリアだが、それは同じ種族同士で走った場合だ。他種族が同じ条件であっても、種族の差がここで出てしまう。

『シャカール走者が重力の影響を受けえて速度が落ちる中、フェイン走者が追い付く!』

『やはり、ここで種族の差が出てしまうみたいですね』

「俺は人間と言う下等生物に負ける訳にはいかない! 遊びはおしまいだ! ここで本気を出し、貴様を大差で負かせる!」

 俺の横に並び立ち、今まではお遊びだったことをフェインが告げる。その刹那、彼の体に変化が起きた。

 体から体毛がびっしりと生え、体が膨らむ。目は鋭くなり、口は裂けて歯の一部が牙へと変化した。

「ワオオオオオオオオオオォォォォォォォォォン」

 フェインが体長5メートルはあるのではないかと思うほどの、巨大な獣へと変化した。

『ここでフェイン走者、ホースイエス記念以来のレースでは使用しなかった獣化を発動! 伝説の生物、フェンリルとなった彼が爆走する!』
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