薬漬けレーサーの異世界学園生活〜無能被験体として捨てられたが、神族に拾われたことで、ダークヒーローとしてナンバーワン走者に君臨します〜

仁徳

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第三章

第十三話 テイオー賞⑤決着

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 テイオー賞も終盤に差し掛かった頃、最後のギミックの効果を受けている俺の横で、フェインがスキルを発動した。

 全身が巨大化した体からは、無数の体毛が生え、口は裂けて鋭利な牙が生えた。そして前足となって手を地面につけ、裂けた口で遠吠えを奏でる。

「ワオオオオオオオオオオォォォォォォォォォン」

 やつは重力の影響を受けつつも、勢いの衰えを感じさせない走りでゴールに向けて駆け抜ける。

『ここでフェイン走者が、ホースイエス記念のレース以来使用しなかった獣化のスキルを発動しました。筋力、速力とも桁外れのスピードです』

『使用頻度の少なかった獣化をここで使うと言うことは、それだけ彼が追い詰められていると言う証拠なのでしょう』

『さて、ここで一気に距離を開かれたと思われるシャカール走者ですが……あれ? シャカール走者の姿が見えませんね。彼はどこにいるのでしょうか?』

『私にも姿を視認することができません。もしかして透明化の魔法……そんな訳がありませんね。そもそも、そんな魔法は御伽噺おとぎばなしにしか出てきませんので』

 どうやらアルティメットとサラブレットは、俺の姿を見失っているようだな。それもそうだろう。だって俺は、フェインの後方にはいない。いや、そもそも走ってすらいないのだから。

「いやー、これは楽ちんだな。勝手にフェインが走ってくれるから、スタミナを回復することが出来る」

『いたー! シャカール走者、フェンリルとなったフェイン走者の背中に騎乗している!』

『いったい、いつの間に背中に乗っていたのでしょうか? 全然気付かなかったです』

「貴様! いつの間に俺の背中に乗った!」

 走りながら、フェインが首を曲げて俺の方を見てくる」

「お前が獣化を発動したその後だ。お前が四つん這いになった瞬間に、跳躍して背中に乗らせてもらったよ。それにしても、もう少し速度を上げてくれないかな? あ、もしかして鞭がいる? なら、魔法で召喚しようか?」

「ふざけるな! この俺、時期スカーレット家の当主であるフェインを、馬のように扱いやがって! 振り落としてくれる!」

 俺が背中に騎乗したことが許せなかったようだ。彼は体に付いた水を振り払う犬のような動きをする。

 足場に振動が起き、振り落とされそうになる。しかしここで落とされる訳にはいかない。

 必死に毛にしがみつき、振り落とされないようにする。

「おい、おい、騎手ジョッキーを振り落とそうとするやつがいるかよ。大人しく走らないか。お前、優勝したくないのか?」

「だから俺を馬扱いするな! 貴様を振り落とし、そのままゴールをしてやる!」

 俺の挑発に乗ったフェインの動きは激しくなった。一度重力増加エリアから抜け出すと、先ほどよりも素早い動きで俺を振り落とそうとする。

『ここでフェイン走者が騎乗しているシャカール走者を振り落とそうとするが、シャカール走者は必死にしがみついて離れない! その間に後続が次々と距離を縮めて来る!』

『これは意外な展開となりました。完全に予想外です。ワンチャン、彼らが戯れあっている間に、抜かれると言う展開もあり得るでしょう』

 フェインのやつが言うことを聞かないせいで、後続との距離が縮まってしまったか。

「おい、今の実況と解説の言葉を聞いただろう? 俺たちで争っている場合ではないって。このままお前が進んでいれば、お前が1着でゴールすることが出来るじゃないか」

「誰が貴様の口車に乗るか! どうせギリギリのところで俺から飛び出し、ゴールする気だろうが!」

 彼の言葉を聞いた瞬間、舌打ちをする。

 チッ、簡単には俺の思う通りにはなってくれないか。まだ魔法禁止エリアにも到達していないから、もう少しスタミナを回復させてから走りたかったのだけどなぁ。

 そんなことを考えていると、フェインの動きが更に激しくなる。

 左右にステップを踏み、反動で俺を振り落とそうとしてくる。だが、それくらいならまだ耐えることはできる。

 一瞬ではあったものの、後方を見ることができた。視界の奥には3番手を走るカルディアの姿が見えた。

 くそう。もう追い付いてきやがったか。

『フェインとシャカールが殆ど先に進んでいない間に、後続が一気に距離を詰めて来る! その差は15メートルと言ったところか!』

『現在もフェイン走者はシャカール走者を振り払おうと、激しく動いています。あの間をすり抜けることは困難でしょう。ですが、あれをすり抜けてこその真の走者とも言えます』

 カルディアの姿が迫って来た。こうなっては仕方がない。イチかバチかで、飛び降りて走るか。

「ぐあああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 次の作戦を考えていると、近付いたカルディアがフェインの尻尾に吹き飛ばされて地面に倒れる姿が見えた。

「誰であろうと、俺の3冠を邪魔するやつは許さない!」

 どうやら、頭に血が昇っていると見せかけて、それなりに冷静になってはいるみたいだな。

 もう一度後方を見ると、更に後方を走っていた後続の集団が、迫っているのが視界に入る。

 このままでは、追い抜かれる可能性が出てくる。

 いくらフェインが意地で後続たちを振り払ったとしても、全員を妨害するのは難しい。運が良い誰かが、間をすり抜けて先頭を走ることだって考えられる。

「こいつで終わりだ! 自滅することになるが、貴様を押し潰す!」

 フェインが跳躍した後、体を反転させた。こいつ。自分から背中をぶつけることで、俺を叩き潰そうと考えているのか。

 確かにこの位置から落下して、フェインの背中に押し潰されれば、重傷を負う可能性は高い。

 でも、だからと言って簡単に押し潰されるつもりはない。

 重力に引っ張られ、フェインの毛にしがみ付いたまま地面との距離が縮まる。

 恐怖はもちろんあった。でも、ここで俺は負ける訳にはいかない。タマモの努力を見ないで、結果だけで決めつけるようなやつは、俺が倒して土下座させてやる。

 地面にぶつかるギリギリのところで、俺は練り上げた魔力を使い、強風を発生させる。

 その瞬間に手を離した俺は、強風に吹き飛ばされた。フェインの落下地点ではない地面に激突しそうになったところで、タイミング良く受身を取り、そのまま起き上がる。

「ぎゃあああああああああぁぁぁぁぁぁぁ!」

「ぐるじいいいいいいいぃぃぃぃぃぃぃぃ!」

「誰か助けてくれ」

 叫び声が聞こえ、フェインが落下した方を見る。すると彼の背中に押し潰された走者が苦しんでいるのが見える。

 本来であれば助けるべきなのだろうが、今はレース中だ。あいつらに構っている場合ではない。

 他の走者たちを無視して、俺はゴールへと向けて駆け抜ける。

『シャカール走者を押し潰そうとしたフェイン走者ですが、その作戦は半分失敗した! シャカール走者の代わりに他の走者が押しつぶされ、その間にシャカール走者がコースを駆け抜ける!』

『さすがシャカール走者です。フェイン走者を利用して、他の走者を足止めするとは』

 もうすぐで、魔法禁止エリアだ。先ほど風の魔法を使ったせいで、再び魔力を練り上げる必要がある。でも、それでは間に合わない。なら、魔法禁止エリアに入ったところでユニークスキル、メディカルピックルを発動させる。

『シャカール走者、残り200メートル! 魔法禁止エリアに到達だ!』

『しかもシャカール走者は謎のチートスキルを持っています。このエリア内でも瞬足魔法を使った状態と同じ走りをすることが可能。フェイン走者との距離から考えて、もはや独走状態と言ったところですね』

 このまま行けば、俺は勝てる。そうすれば、フェインの土下座ショーを観客たちに見せ、ざまぁさせることが出来る。

 そう思った瞬間、後方から凄まじい殺気が迫っていることに気づく。

「絶対に俺の3冠を邪魔させない!」

『ここでフェイン走者、立ち上がったかと思えば瞬く間に怒涛の追い上げを見せる!』

『あっという間に開いた距離が縮まりますね。これは分からなくなって来ました』

 くそう。なんて速度だ。獣化の中でもフェンリルは最強クラスの変化だ。

 いつの間にか、やつは俺の横を並ぶ。

 ゴールはもう目の前、どっちが勝ってもおかしくない状況だ。

『俺は勝つ! そして3冠王の名を己のものにするんだ!』

『両者ゴールを駆け抜ける! 僅かにフェイン走者が体制的に有利のようにも見えましたが、ほぼ同着です! 結果は、ウォータービジョンによる映像判定となりました!』

 フェインが叫んだ途端に、ゴールをしたことを告げるアルティメットの声が聞こえる。体制的に俺が不利だった? 肉眼では誤認の可能性も十分にあるが、もしかしたら俺は負けてしまうかもしれない。

『それでは、順位が確定したところで皆様中央にある池にご注目ください』

 池に注目するように言うと、魔法で池の水が飛び出し、映像が浮かび上がる。

 果たして判定は?
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