薬漬けレーサーの異世界学園生活〜無能被験体として捨てられたが、神族に拾われたことで、ダークヒーローとしてナンバーワン走者に君臨します〜

仁徳

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第三章

第十四話 テイオー賞の後に

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『それでは、ウォータースクリーンにご注目ください。果たして勝ったのはどっちだ! 歴史上、7人目の3冠王の誕生か。それとも人族初の1冠達成か! どちらにしても歴史的瞬間です』

 実況担当のアルティメットが盛り上げる中、俺は固唾を呑んで、池から飛び出た水壁を見つめる。

 すると水の壁から映像が浮かび上がり、ゴールの瞬間が拡大される。

 結果を見た瞬間、俺は大きく目を見開く。

『シャカール走者の鼻が、フェイン走者の鼻よりも前に出ている! ハナの差! ハナの差でシャカール走者の優勝だ! この瞬間、魔競走の歴史に新たに名を残したのはシャカール走者! フェイン走者は惜しくも敗れた。やはりジンクスの壁は厚かった。僅かに及ばず敗退だ!』

 アルティメットが結果を告げた後、俺は小さくガッズポーズを作る。

 しかし観客たちの間では動揺しているようで、どよめく声が聞こえる。

 それもそうだろう。今まで魔競走の歴史において、人類がG Iを取ったことなどないのだから。

 それに俺の人気は最下位。ルーナや俺を応援してくれているタマモたち以外、俺が優勝するとは思ってもいなかったはずだ。

 大穴の俺が勝ったことで、フェインに賭けたと思われる人が肩を落とす。

 そして負けた観客たちは、俺を恨めしそうに睨み付けるような視線を送ってくる。

 しかしその中でも、俺と同じ人族の反応は違っていた。同じ人種が歴史を塗り替えたことに喜び、抱き合って喜びを分かち合っている者の姿も見られる。

 ほとんどが俺を非難する人が多いが、それでも俺の活躍を認めてくれる人がいると言うだけで、今の俺は満足だ。

「こんな結果、認められるかあああああああああぁぁぁぁぁぁぁ!」

 様々な感情を行き交い、若干カオスな空気が漂っている中、それを吹き飛ばすようにフェインが吠える。

 中途半端に獣化が解けているようで、今の彼は獣でも人でもなく、その中間の獣人のような姿になっていた。

「ハナの差だったんだ! たまたま運が悪かっただけだ! 後もう少しダッシュが早ければ、俺は勝てていた! こんな結果、俺は認めない! こんなつまらない結果で、俺の3冠を邪魔されてたまるか!」

 フェインが現実を認められず、感情的に声を荒げる。

 彼の気持ちも分からなくはない。走者にとって、3冠達成は全員が夢を見ており、それに向けて努力をしている。

 しかも、それがほんの僅かの結果であれば、悔やんでも悔やみきれないだろう。

 だけど、それも全て含めての3冠なのだ。

 才能と努力と豪運。この3つが揃ってこその3冠なのだ。3冠王になるために、1番重要なのは、最後の豪運だ。

 最高の運に恵まれていなければ、3冠達成なんてものはできない。

 たまたま俺の運がフェインの運を上回ってしまった結果だ。

 でも、このまま見苦しい姿を晒せば、スカーレット家のイメージは大きくダウンする。さっさと現実を受け止め、前を向いてもらわなければならない。

「負け犬の遠吠えは見苦しいぞ、フェイン。あ、今は獣人ぽい姿だから、見た目通りの負け犬だったな。これは失礼した」

「シャカール、貴様!」

 フェインが目を細めて、黄色い瞳で俺のことを睨み付けてくる。

「ハナの差だろうが、負けは負けだ。この世界において、優勝以外は敗者だ。それが入賞しようとな。お前は俺よりも弱かったから負けたんだ。どうしてお前が負けたのか教えようか? お前の根性が足りないからだ。最後の最後で抜き去る根性がないから、差しきれない」

「その言葉は……俺がタマモに言ったセリフ」

 言葉を連ねて説明をすると、彼は大きく目を見開く。

 どうやら気付いたようだな。多少違ってはいるが、今俺が言ったセリフは、来賓室でフェインがタマモに言った言葉だ。

「さぁ、約束だぞ。タマモに負けた俺に負けたんだ。彼女に土下座で謝ってもらおう。あ、そうそう。俺に大差で勝てなければ、俺にも土下座をする約束だったよな。ほら、まずは俺に土下座で謝れ。そして弱い自分を恥じろ。

 悪役を演じ、ゆっくりとフェインに近付く。

 周囲にはまだ他の走者たちの姿もいるが、状況を理解していないようだ。その場で立ち尽くし、何が起きているのか分からず、困惑しているようだ。

「ほら、さっさと土下座をしろ!」

 その場で跳躍をすると、足を上げてフェインの頭に振り落とす。そしてその瞬間に肉体強化と重力を増やす魔法を使い、強制的に頭を下げさせる。

 これで周囲の奴らは、俺が無理やり頭を下げさせたと思い、俺にヘイトが集まるはずだ。

 周囲の走者たちの視線が、俺に集まるのを感じる。

 これでフェインは3冠の夢を失って変貌するキチガイから、勝者に蹂躙される可哀想なやつへと印象が変わっているはず。

「フェインのやつ可哀想。3冠に向けて一生懸命に走っていただけなのに」

「いくら発狂を止めるためとは言え、あれはやりすぎだよな。正直ドン引きだぜ」

「これだから人間は下等生物なんだよな。先のことを考えないで行動する。せっかく人類初のG I達成者で見直していたところなのに、正直がっかりだぜ。シャカールがそんな人間だとは思わなかった」

 周辺の走者が口々に俺の評価を下げるようなことを言っている。これでよし、今のところは俺の狙い通りだ。

 これで俺は周辺から人類初のG I達成者から、非道な人間へと成り下がる。これで俺が変に目立つことを免れるはずだ。

 人類初のG I達成で記者たちに追い回されるよりか、悪役として最初だけ名が知られる方がマシだ。

 面倒事はできるだけ避けたいからな。多くの記者たちに囲まれるよりかは、知らないところで密かに話題になる方がマシだ。

 そんなことを考えていると、俺に対して見下すような視線ではないものを感じた。

 驚き、困惑、不思議、そのような感情が入り混じっているような不思議な感覚の視線だった。

 その視線は周囲にいる走者たちからのものではない。

 視線の送り主を探していると、観客席にいるとある人物と目が合う。

 白髪の長い髪は、先の方で髪留めにより纏められ、まつ毛が長く、肌も陶器のように色白の女性だ。長い耳と丸い尻尾は、ウサギのケモノ族の証、彼女は青い瞳で俺のことを見つめていた。

 クリープ?

 俺に視線を送っていたのは、タマモの知り合いだった。一度だけ食堂であったことのある、あのクリープで間違いない。

 遠くで良く分からなかったが、彼女は目を細め、口角を上げているように見えた。そして指で何か合図のようなものを送っているようにも見える。

 しばらくしていると、俺と目が合っていることに気付いたのか、彼女は俺に背を向け、遠ざかったようで、視界から消えていく。

 今のはなんだったんだ?

 疑問に思っていると、俺の足に踏まれているフェインに異変が起きた。

「うおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉ! 認めぬ! こんな結果認めない! お前を倒し、俺が優勝者となる! お前さえ消えれば、俺が繰り上がって優勝だ!」

 いきなり勢い良く立ち上がり、意味不明なことを口走る。

 吹き飛ばされてしまった俺は、芝の上で受け身を取り、立ち上がる。

 すると、フェインの背後に黒いモヤのようなオーラが見えた。

 あのモヤは何だ? いったい何が起きた?
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