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第五章

第十二話 チェリーブロッサム賞②

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 ~シャワーライト視点~





 チェリーブロッサム賞に参加するわたしは、どうにか開催場所のレース会場のある町に辿り着くことができた。

 どうにかモンスターと出会すことなく無事に着くことができ、安堵する。

「うーん! よかった! どうにかモンスターとエンカウントせずに済んで! レース前にケガでもしたら大変だからね」

 わたしの前に座っているウイニングライブさんが、腕を上げて背筋を伸ばす。

 馬車が停車してドアが開かれると、出場走者であるわたしたちが先に降りた。そして走者専用の出入り口へと向かい、会場入りをする。

 手続きは引率の先生がしてくれるので、わたしは直ぐに女子更衣室へと向かう。

 女子更衣室の前に辿り着き、扉を開く。中は既に到着している他の走者たちが勝負服へと着替えており、互いに話しながら賑わいをみせている。

 さすが乙女の花園のトリプルクイーン路線のレース。クラウン路線とは違い、出場者全員が女子であるため、更衣室の雰囲気が普段と違っている。

「この更衣室の賑わい、やっぱりトリプルクイーン路線のレースでしか味わえないわね」

 後方から声が聞こえ、反射的に横にずれる。わたしの背後には茶髪の髪をツーサイドアップにしている美少女が立っていた。

「ウイニングライブさん。思っていたよりも遅かったですね」

「あ、うん。タマモちゃんたちと少し話していたからね。あ、そうだ! 聞いてよ! 私ね、シャカール君に私の走りで魅了しちゃったらごめんねって言ったら『そんなことはない。だから安心して1位を取ってくれ。お前には単勝で賭けるつもりだ』って言うんだよ! 酷いよね!」

 少し興奮気味なのか、ウイニングライブさんの語気が普段よりも強いような気がする。わたしの憧れのウイニングライブさんに、あんな顔をさせるなんて。シャカール君、絶対に許さないわ。

「ねぇ、あれウイニングライブさんじゃない?」

「あ、本当だ! 私ファンなのよね。後で声をかけてみようかな」

「しかも、彼女ってトリプルクイーンをかけた最後の3冠目のレースでしょう。プレッシャーも相当なものじゃないの?」

「人気もきっと1番よね。私は今回何番目になるのかな?」

「もし、彼女を破って3冠を阻止したらどうなるのかしら?」

「そんな人居るの? 今回の優勝は無理でも、入賞を目指すしかないわね。あーあ、せっかくトリプルクイーンを取ろうと思っていたのに、運が悪いわ。こうなるのなら来年に先延ばしにすれば良かった」

 わたしが思わず声を上げたことで、他の走者たちにもウイニングライブさんの存在が認知されてしまった。

 彼女たちは口々に言うが、そのほとんどが彼女の3冠関連のものばかりだった。

「あはは、やっぱり予想はしていたけれど、3冠を賭けたレースになると、今までの更衣室の雰囲気とは違うね。私たちも空いている場所を探して、勝負服に着替えましょう」

 苦笑いを浮かべながら、ウイニングライブさんが空いているロッカーを探す。

 彼女と一緒に探していると、ちょうど2人分の空いているロッカーを見つけ、わたしたちはそこで着替えることにする。

 服を脱ぎ、一度下着姿になると勝負服に着替える。

 わたしの勝負服は、名前の通り、シャワーのように降り注ぐような光をイメージしたデザインとなっている。生地は黄色で作られ、ある意味目立つ。

 チラリと隣にいるウイニングライブさんの方を見る。彼女も勝負服に着替え終わっていた。

 白いドレスのような作りをしている勝負服だ。スカートにはヒラヒラが付いている。異世界のアイドル衣装と呼ばれるものらしい。

 彼女はライブの時もこの衣装を着ているために、今のわたしは珍しい服とは思わなくなっていた。

「それじゃ、私は先にコース内に行ってくるね。ファンのみんなを待たせる訳にはいかないから」

 わたしの方を見て、軽くウインクをすると彼女は更衣室から出て行く。その瞬間、わたしの鼻から熱いものが込み上げてきた。

 そして鼻腔から赤い液体が飛び出す。

「きゃあああああぁぁぁぁぁぁぁぁ! この子鼻血出している! 誰か救急箱を持って来て!」

 悲鳴を上げる走者の声が耳に入り、わたしは鼻を押さえる。

 危ない、危ない。ウイニングライブさんにウインクをされて興奮してしまった。レースに出走する前に、鼻血による出血多量で貧血を起こして倒れる訳にはいかないわ。

 幸いにも床は血で汚れても、勝負服には血痕は付いていない。これならレース関係者たちに心配を賭けることにはならないわよね。

 手で押さえて鼻血が止まったことを確認すると、わたしはコースへと向かって行く。

 芝の上に足を踏み締め、コース入りをすると観客席から様々な言葉が投げ掛けられた。

 多くの観客はウイニングライブさんの3冠を期待している言葉であるが、中にはわたしを応援してくれている人も少数ながらいた。

『ファ~ン、ファ~ン、ファファ~ン、ファン、ファ、ファ~ン! ファン、ファン、ファン、ファ~ン! ファ~ン、ファ~ン、ファファ~ン、ファン、ファ、ファ~ン! ファン、ファン、ファン、ファ~ン!』

 芝の状況を足で確認をしていると、始まりのファンファーレが流れ始める。レースが始まる時間が迫っている。

 えーと、わたしは外枠16番だったわね。始まった瞬間にスタートダッシュを成功させないと、先頭集団に入るのは難しくなる。

『さぁ、乙女の花園であるトリプルクイーン路線のチェリーブロッサム賞の開始時間が迫りました。実況は魔走学園3年のアルティメット』

『解説は同じく魔走学園の3年であるサラブレットが担当させてもらいます』

 実況と解説の挨拶が始まり、一層と観客たちの声援に熱が入りだす。

『今回のチェリーブロッサム賞の注目株はもちろん、1番人気のウイニングライブですね。サラブレット』

『彼女は【ティアラ】そして【シュウカ】を優勝した2冠の持ち主であり、このレースで優勝してトリプルクイーンの称号の手にする期待がされております。倍率オッズの方も1.3倍となっていることから、多くの人が期待しているのが数字で分かりますね』

 やっぱりウイニングライブさんはすごいな。多くの人が注目をしている。

 もし、わたしがこのレースに勝って、1冠を手にしたらどうなるのかな? って、そんな訳ないよね。わたしは彼女の背中を追っているけれど、追い越すなんて考えたことがないもの。

『続いて8番人気はシャワーライト。彼女は5戦中2勝とまずまずの戦績です。G IIIを1勝、G IIを1勝しているので、着実に力を付けております』

『実は、私が期待している走者でもあります。あくまでも予想ですが、入賞入りをするかと|倍率《オッズ1の方も10.1倍……おっと、ここで人気順が変わりました。8番人気だったシャワーライトが3番人気となり、倍率オッズの方は1.8倍となっています』

『サラブレットが推したことで、観客たちの心が揺れ動いたようですね。これは思わぬ展開が起きる波瀾万丈なレースとなりそうです』

 8番人気から一気に3番人気まで上り詰め、わたしは心臓の鼓動が早鐘を打つ。

 そんな! まさかわたしがここまで人気が出るなんて……やばい。意識したらまた鼻血が出そう。

 鼻血が出そうになるのをグッと堪え、わたしはゲート内へと入って行く。

『今年度初のトリプルクイーンを賭けた最初のレース。フルゲート18人の乙女たちが、女王の座を手にするために走ります。1600メートルのマイル戦、果たして優勝してチェリーブロッサムの栄冠を手にするのはどの子か!』

 アルティメットさんが盛り上げる中、次々と他の走者たちがゲート入りをすると、最後の走者がゲート入りをしたと思われるタイミングでゲートが開かれた。
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