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第五章

第十一話 チェリーブロッサム賞①

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 ~シャワーライト視点~





「ハァ、ハァ、ハァ、ハァ」

 明日行われるチェリーブロッサム賞に向けて、わたしは学園の敷地内を走っていた。

 明日はついに憧れのウイニングライブさんと走ることができる。

 初めて彼女を目撃したのは、この学園に入って半年経ったときのこと。足が早いと言うだけで、この学園に入学するわたしは、得に目標とするものはなかった。

 普通に学園生活を送り、適当なレースに参加して、最低限の暮らしをしていた時に、彼女はわたしの前に現れたの。

 当時はまだ逃げ切りシスターズは有名ではなく、学園の敷地内で路上ライブをしていた彼女たちは、一生懸命に歌って踊って道行く人々を楽しませていたわ。

 彼女の歌声を聞いたその時、わたしの心はざわめいた。

 歌詞のひとつひとつが心に突き刺さり、自分を見つめ直すきっかけをくれたわ。

 その後、わたしはウイニングライブさんのファンになった。彼女の出場するレースをチェックして応援に駆けつけ、例えゲリラライブでも情報をいち早く入手して、応援に駆け付けては元気をもらっていた。

 そんな彼女とついに明日、チェリーブロッサム賞と言うトリプルクイーン路線のG Iレースで競い合うことができる。

 ウイニングライブさんは『ティアラ』と『シュウカ』を優勝して2冠を達成し、トリプルクイーンに王手をかけている。

 普通に考えれば、わたしは勝てないだろう。でも、それでも良い。憧れの人と一緒に走れるのだもの。それだけで、わたしにとっては幸運なこと。

 できれば彼女に勝って、優勝を誉めてもらえたら最高なのだろうけれど、それは欲を出しすぎよね。

「ハァ、ハァ、ハァ、ハァ」

 学園の外周を1週し終え、徐々に速度を落として歩きに変える。そして膝に手を突き、呼吸を整えた。

 調整はこの辺にしておいた方が良いかもしれない。無理して明日に響くことになれば本末転倒になってしまう。

 学生寮へと戻り、食事と入浴を済ませると、わたしは明日に備えて直ぐに眠りに付いた。けれど中々寝付けず、寝難い夜を過ごした。





 翌日、チェリーブロッサム賞が開催される馬車に乗るために、学園の門へと向かって行く。

 門の前にはウイニングライブさんや他の人たちもいた。中には男性の姿もあったけれど、彼はきっと観戦者ね。

 それにしても、女の子だけのレースを見るなんて変態なの?

 少しずつ距離を縮めていると、男性の容姿がはっきりと見えた。

 黒髪の短髪の男の子だ。頭には耳も角も生えていないし、お尻にも尻尾がない。肌も肌色であることを考えると人族ね。そう言えば、この学園に人族の転入者が来たって聞いたことがある。

「あ、シャワーライトちゃん来た! 遅いよ! みんな待っていたのだから!」

 ウイニングライブさんがわたしに手招きをして呼びかける。

 彼女がわたしの名を呼んでくれるなんて、なんて幸運なの! もしかして今回のことで運を使い果たしたかもしれないわ。

 わたしは足早に駆け寄り、ウイニングライブさんのところに向かう。

「遅くなって済みません。ウイニングライブさんと走れると思うと嬉しくって、中々眠れませんでした。あはは」

「遠足前日に楽しみで寝不足になるタイプだな。それで今回のレースで良い結果を出せるのか?」

 ウイニングライブさんと幸せなひと時を過ごしていると、突然人族の男の人が声をかけて来る。

 あれ? わたし、この人とどこかで会ったかな? 気安く話しかけられると言うことは、少なくとも彼に取っては顔見知りの関係であるはず。

 どうにかして思い出そうとするも、全然記憶にない。もしかしてウイニングライブさんの近くにいたのかな?

 わたしってウイニングライブさんを前にすると、彼女しか見えないことがあるから。

「シャカール君、そんなことを言わないでよ。彼女は私と走れることを楽しみにしてくれていたのよ」

 どうしようかと悩んでいると、ウイニングライブさんが助け舟を出してくれた。

 この人、シャカール君って言うのか。一応覚えておこう。

「本当にごめんなさいね。シャカール君って口は悪いけど、根は優しいから。今のもあなたを気遣って言っていることだからね」

 続けてケモノ族の女の子が声をかけてきた。耳と尻尾からしてキツネのケモノ族だと言うことが分かる。彼女も出場するのかしら?

「あなたもチェリーブロッサム賞に出場するのですか?」

「あはは、あたしもシャカール君と一緒で観戦なの。ケガをして出場できないから、今回は来年のために下見ってところね」

「そうなのですか。では、別のレースで顔を合わせる時があれば、その時はよろしくお願いします」

 軽く頭を下げ、キツネのケモノ族の女の子に会釈をする。

「皆さ~ん! そろそろ出発の時間ですよ。早く馬車に乗るようにと、引率の先生が呼んでいます」

 軽く挨拶を済ませていると、ウサギのケモノ族の女の子が馬車に乗るように言ってきた。

 小走りで駆け寄って来る彼女は豊満な胸を持っており、駆け寄って来る度に上下する。

 そんな彼女を見て、次に自身の胸を見る。

 大丈夫、全然羨ましくなんかないのだから。寧ろ、あんなに大きければ、レース中に走るのに邪魔になるわ。

「そうか。なら早いところ馬車に乗らせてもらおうかな……いてて」

「何を言っているの? シャカール君? ちゃんとルールを守らないと」

「そうですよ。シャカール君。シャカール君は良い子になれる素質を持っていますので、ルールはちゃんと守りましょう。ルールを守ってくれたら、ママが良い子良い子、してあげますからね」

「分かったらから離せ! そしてクリープはどさくさに紛れて俺の頭を撫でようとするな!」

 馬車に乗り込もうとした人族の男の子を、キツネのケモノ族の女の子と、ウサギのケモノ族の女の子が止める。

 彼女もあの人の知り合いか。

 彼らのやり取りを見ながら、わたしは馬車の中に入る。

 続いて観客たちが入って来るのだが、人数に誤りがあったのか、少々手狭になっていた。

 この馬車には男性は彼しかいない。つまりハーレム的な環境になっている。

 どうして彼もチェリーブロッサム賞の観戦に行くのかしら? 男である以上、キツネのケモノ族の女の子のように、来年の下見と言う訳でもなさそうだし。

 思考を巡らせていると、あることに閃く。

 もしかして、手狭な馬車に乗り込み、事故を装って女の子の体に触って匂いを楽しむ変態なの? もしそうなら、早く摘み出さないと。

「今回のレースを開催する町にたどり着くまでに、モンスターが出なければ良いのだけどね」

「大丈夫よ。もし、本当に現れたら、モンスターを倒した実績のあるシャカール君が、あたしたちを守ってくれるから」

「たく、本当に面倒な仕事を引き受けてしまったぜ。まぁ、ルーナから特別に賭け事をする許可をもらったからには、どっちにしろ向かわないといけないが」

 どうやら彼は、モンスターが現れた時のための用心棒代わりらしい。変な想像をしてごめんなさい。

 それにしても、本当にモンスターと出会さなければ良いのだけど。
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