薬漬けレーサーの異世界学園生活〜無能被験体として捨てられたが、神族に拾われたことで、ダークヒーローとしてナンバーワン走者に君臨します〜

仁徳

文字の大きさ
115 / 269
第八章

第十話 サインガチャの効果は凄まじい

しおりを挟む
 ソウシャーイーツを始めて数日が経った。俺の予想以上にサインガチャの効果は絶大であり、注文が殺到することになった。

「料理ができたぞ! さぁ、早く届けてくれ」

アイコピー了解!」

 カウンターの上に置かれた料理をアイテムボックスの中に入れ、それを宅配用のリュックの中に入れる。

 そして認識阻害の効果をもつ帽子を被って店を出ると、全速力で料理を頼んだ人のところに届けに向かう。

「ここだな」

 住所を確認して間違いがないことを再度認識すると、呼び鈴を鳴らして来客が来たことを知らせる。

「はーい! どなたですか?」

「ソウシャーイーツの者です。ご注文の料理を持って来ました」

 注文の品を届けに来たことを告げる。すると直ぐに扉が開き、家主だと思われる人物が顔を出した。

「お! もう来たのか。安い! 早い! 美味い! の売り文句は絶大だな。それじゃこれが代金だ」

 料理の代金を貰う。そして金額を確認すると、料理の代金よりも多かった。どうやら金額を勘違いしているようだな。

「すまない。受け取った金額が料理の金額よりも多いのだが?」

「ああ、それはお前さんへのチップだ。何回も運んで貰って悪かったな」

「そうか。それなら、遠慮なく受け取っておく」

 俺への謝礼だと言うことがわかり、料理の金額とは別の金を俺のポケットマネーにした。そして料理と一緒に封筒に入ったサインを客に手渡す。

「待っていました! さてと、今度こそ念願のウイニングライブちゃんのサイン……って、またピックじゃないか! これで3回連続だぞ! もう5枚もあるって! 保存用と観賞用で2枚の被りは許すが、3枚も何に使えって言うんだ! トレードをしようにも、周辺の知人は既に持って要らないとか言うし、もう糞した後の尻拭きに使うしかないって!」

 どうやらまたしても被ってしまったらしく、客はその場で崩れ落ち、愚痴とも言える嘆きの声を上げた。

「やばい。既に爆死しているのに、これ以上サイン入りの料理を注文したら、今月の生活がやばい。でも、どうしてもウイニングライブちゃんのサインが欲しい。なぁ、本当にあの配布率は合っているのだよな? ウイニングライブちゃんのサインは実在しているのだよな?」

 立ち上がると、注文客は涙目になりながら訊ねて来る。

「ああ、ちゃんとウイニングライブのサインはある。俺もこの目で見た。だから、諦めずにまたチャレンジしてくれ。諦めないやつが最後に勝つのはレースでも同じだ。あ、そうだ。ここだけの話だが、実はシークレットと言うのもあってだな。ウイニングライブよりもすごい人物のサインが1枚だけある」

「何だって! それは本当か!」

「ああ、本当だ。だから諦めずにまた注文をしてくれ。次はきっとウイニングライブのサインが当たる。俺はそんな予感がするな。それにシークレットさえ当てれば、爆死なんてどうでもよくなると思えるほど、勝ち組だと思えるぞ」

「マジか! なら、また注文するからな! 早くこの料理を食べて次こそ当ててやる! 生活費がなんだ! それよりもウイニングライブちゃんのサインとシークレットのサインが大事だ! シークレットさえ当てれば、実質俺の勝ちだ!」

 どうにか客のモチベーションを上げることができ、俺は安堵する。

 これでまたこの客は料理を頼んでくれるだろう。流石にピップのサインが3連続だと言うのは驚かされた。俺だったらもうクソだと思い、注文をやめている。

 だが、客離れは経営に影響する。だからシークレットの存在をチラつかせ、再び客に注文をさせるように促した。

 本当にルーナには感謝だな。まさかだと思うが、こうなることを先読みして俺にサインを渡してくれたのだろうか?

 まぁ、単なる偶然かもしれないが、あの女が考えていることを理解するのは難しい。

 料理を運び、代金を受け取ったので、俺はそのままマーヤの実家に戻る。

「お、帰って来たか。次の料理が出来ているから、運んで来てくれ」

「あなた! シャカール君を働かせすぎです」

「そうだよ! シャカールちゃんは今帰ってきたばかりだから、今度はマーヤが行く! シャカールちゃん。宅配リュックと帽子を貸して」

 次の運搬はマーヤがやると申し出てくれたので、帽子とリュックを脱ぎ、彼女に渡す。するとマーヤはリュックからアイテムボックスを取り出すと、その中に出来立ての料理を入れ、リュックに収納した後、それを背負う。そして先ほどまで俺が被っていた帽子を被った。

「ああ、帽子とリュックからシャカールちゃんの匂いがする! 全身シャカールちゃんに包まれている気がして、元気が湧き出て来るよ! それじゃ、注文してくれた人に届けて来るね! 行ってきます!」

 俺の匂いの付いた帽子とリュックで本当に元気が出たのかは怪しいが、マーヤは高い声音で言葉を連ねると、店を出て行く。

「それにしても、どんなカラクリなんだ? 料理を運んでいるのは走者なんだから、注文し料理を届けたついでに、サインを貰えば良いのに? 今のところ誰もサインを強請らないのだろう?」

「ああ、それはマーヤが被った帽子にある。あの帽子には認識を阻害する魔法がかけられているんだ。あの帽子を見た人物は、脳の中にある海馬に、一時的に血流障害を起こしたように錯覚させられる。これによって、ダメージを受けた脳は、記憶を上手い具合に引っ張り出すことができなくなって、弁別能力、つまりほんの僅かな違いを見分けることができなくなる」

「血流障害って大丈夫なのかよ?」

「あくまでも障害が起きたように脳が錯覚しているだけだから、時間経過と共に元に戻る。それに対象となるのは、帽子を被った人の正体を知らない人だ。正体を知っている俺たちには適応されないから安心しろ」

「さすがシャカール君ね。配達している人が普通の一般人だと思い込めば、再びサインを求めて料理を注文してもらえる。本当に頼りになるわ。うちの旦那とは大違いね」

「グハッ! 事実だが、それ以上は言わないでくれ! 俺の心が抉れる! どうせ俺は料理を作るのが精一杯で、経営の方はからっきしのダメ亭主だ」

 嫁の口から事実を告げられ、バンシーは凹んだようだ。その場でしゃがみ、いじけたように愚痴を溢す。

 すると、空いている窓から1羽のリピートバードが入って来た。

「ほら、注文が来ましたよ。早く立ち上がって料理を作る準備をしてください。料理を作ることしか脳のないボンクラなのに、それすら出来ないのでしたら、存在価値がなくなりますよ。これ以上幻滅するような態度を見せれば離婚届に――」

「うおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉ! 離婚なんてさせてたまるか! こうなったら馬車馬のように働いてやる!」

 嫁の一言により、ヴァンシーはやる気を出したようだ。声を上げ、料理を作る準備に取り掛かる。

 それにしても、旦那のやる気を引き出すためとは言え、普通にエグいことを言うな。

「さぁ、邪魔者はいなくなったし、ゆっくりと注文を聞きましょう。シャカール君」

 ヴァンシーが厨房の奥に向かったタイミンングで、マルゼンが俺の腕に自身の腕を絡め、リピートバードの言葉を聞くように促す。

 どうしてそこまでしてスキンシップをしようとして来るのかは不明だが、彼女の言う通りだ。まずは注文の確認をするのが先だ。

「待たせて悪かったな。メッセージを聞こう」

『はあーい! シャカール! ソウシャーイーツの方はどうだい? 順調かな? お前のご主人様のルーナだよ!』

 注文して来たのは、俺の通う学園の学園長だった。それにしても、口調がいつもと違うな。もしかして――。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

貞操逆転世界に転生したのに…男女比一対一って…

美鈴
ファンタジー
俺は隼 豊和(はやぶさ とよかず)。年齢は15歳。今年から高校生になるんだけど、何を隠そう俺には前世の記憶があるんだ。前世の記憶があるということは亡くなって生まれ変わったという事なんだろうけど、生まれ変わった世界はなんと貞操逆転世界だった。これはモテると喜んだのも束の間…その世界の男女比の差は全く無く、男性が優遇される世界ではなかった…寧ろ…。とにかく他にも色々とおかしい、そんな世界で俺にどうしろと!?また誰とも付き合えないのかっ!?そんなお話です…。 ※カクヨム様にも投稿しております。内容は異なります。 ※イラストはAI生成です

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

ブラック国家を制裁する方法は、性癖全開のハーレムを作ることでした。

タカハシヨウ
ファンタジー
ヴァン・スナキアはたった一人で世界を圧倒できる強さを誇り、母国ウィルクトリアを守る使命を背負っていた。 しかし国民たちはヴァンの威を借りて他国から財産を搾取し、その金でろくに働かずに暮らしている害悪ばかり。さらにはその歪んだ体制を維持するためにヴァンの魔力を受け継ぐ後継を求め、ヴァンに一夫多妻制まで用意する始末。 ヴァンは国を叩き直すため、あえてヴァンとは子どもを作れない異種族とばかり八人と結婚した。もし後継が生まれなければウィルクトリアは世界中から報復を受けて滅亡するだろう。生き残りたければ心を入れ替えてまともな国になるしかない。 激しく抵抗する国民を圧倒的な力でギャフンと言わせながら、ヴァンは愛する妻たちと甘々イチャイチャ暮らしていく。

チート魅了スキルで始まる、美少女たちとの異世界ハーレム生活

仙道
ファンタジー
 ごく普通の会社員だった佐々木健太は、異世界へ転移してして、あらゆる女性を無条件に魅了するチート能力を手にする。  彼はこの能力で、女騎士セシリア、ギルド受付嬢リリア、幼女ルナ、踊り子エリスといった魅力的な女性たちと出会い、絆を深めていく。

僕の異世界攻略〜神の修行でブラッシュアップ〜

リョウ
ファンタジー
 僕は十年程闘病の末、あの世に。  そこで出会った神様に手違いで寿命が縮められたという説明をされ、地球で幸せな転生をする事になった…が何故か異世界転生してしまう。なんでだ?  幸い優しい両親と、兄と姉に囲まれ事なきを得たのだが、兄達が優秀で僕はいずれ家を出てかなきゃいけないみたい。そんな空気を読んだ僕は将来の為努力をしはじめるのだが……。   ※画像はAI作成しました。 ※現在毎日2話投稿。11時と19時にしております。

男女比1:15の貞操逆転世界で高校生活(婚活)

大寒波
恋愛
日本で生活していた前世の記憶を持つ主人公、七瀬達也が日本によく似た貞操逆転世界に転生し、高校生活を楽しみながら婚活を頑張るお話。 この世界の法律では、男性は二十歳までに5人と結婚をしなければならない。(高校卒業時点は3人) そんな法律があるなら、もういっそのこと高校在学中に5人と結婚しよう!となるのが今作の主人公である達也だ! この世界の経済は基本的に女性のみで回っており、男性に求められることといえば子種、遺伝子だ。 前世の影響かはわからないが、日本屈指のHENTAIである達也は運よく遺伝子も最高ランクになった。 顔もイケメン!遺伝子も優秀!貴重な男!…と、驕らずに自分と関わった女性には少しでも幸せな気持ちを分かち合えるように努力しようと決意する。 どうせなら、WIN-WINの関係でありたいよね! そうして、別居婚が主流なこの世界では珍しいみんなと同居することを、いや。ハーレムを目標に個性豊かなヒロイン達と織り成す学園ラブコメディがいま始まる! 主人公の通う学校では、少し貞操逆転の要素薄いかもです。男女比に寄っています。 外はその限りではありません。 カクヨムでも投稿しております。

処理中です...