薬漬けレーサーの異世界学園生活〜無能被験体として捨てられたが、神族に拾われたことで、ダークヒーローとしてナンバーワン走者に君臨します〜

仁徳

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第九章

第三十三話 トラッポラ記念の後で

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 ~クリープ視点~

『ゴール! サザンクロスが蹴った反動でクリープが吹き飛ばされてそのまま1着でゴールだあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!』

 サザンクロスちゃんが蹴った反動で、ママは蹴り飛ばされてそのままゴール板を駆け抜けると言う形となってしまいました。

 こんなゴールの仕方は初めてです。

「しまったタイ! つい、反射的に蹴り飛ばしてしまったタイ! ごめんな、クリープ! ウチそんなつもりではなかったタイ!」

 ママを蹴ってしまったことを後悔しているのでしょうか? サザンクロスちゃんは頭を抱えて謝罪の言葉を述べます。

 ですが、良いのでしょうか? サザンクロスちゃんはまだゴールしていません。彼女が後悔している間にも、後方からオグニちゃんが走って来ています。

「白い俊雷、何をしているんだ! 気持ちは分からなくはないが、ゴールしないとレースは終わらないぞ」

 追い付いたオグニちゃんが、サザンクロスちゃんの手を掴んで一緒に走ります。

『ここでサザンクロスとオグニがゴール! 判定は写真判定となります』

 戸惑っているサザンクロスちゃんを無視して1人で走れば良いのに、ふふ、オグニちゃんは本当に優しいです。

 その後も他の走者たちが次々と走り、全員が走り終わったことで順位が確定しました。

 1着はママで、2着はなんと、サザンクロスちゃんとオグニちゃんの同着でした。

 レースが終わり、ママは優勝トロフィーを受け取ると、その後控室に戻ってサザンクロスちゃんたちと着替えました。

「ハァー、ウチはなんてアンポンタンバカなんバイだよ。シャカールを賭けての大事なレースだったのに」

 負けたことをまだ引き摺っているようで、サザンクロスちゃんは溜め息を吐きました。

「うん? 円弧の舞姫と白い俊雷は何か賭けていたのか?」

「ああ、実はな。ウチとクリープは、シャカールって言う人族の男を賭けて今回のレースに挑んでいたタイ

 サザンクロスちゃんがシャカール君のことを説明すると、オグニちゃんの顔色が次第に赤くなっていきます。

「まさか、円弧の舞姫が白い俊雷と男を賭けて勝負をしていたなんて! そんなの、恋愛物の物語でしか見たことがない。三角関係は良くない! その道を辿れば、必ずどちらかが不幸になる! 話し合うんだ! 私は君たちが男を取り合う姿は見たくない」

「このアンポンタンバカ! ナンバ何を勘違いをしとるとね! ウチたちは、恋愛感情でシャカールを取り合っていた訳ではナカタイないよ

 オグニちゃんの言葉に、サザンクロスちゃんが即座に否定します。ですが、肝心なところを省いて説明をしたら、誰にでも誤解を与えてしまいます。

 なので、サザンクロスちゃんに代わって、ママが正しい情報をオグニちゃんに開示しました。

「なるほど、そのシャカールとか言う男の編入を賭けての勝負だったのか。良かった。2人が昼ドラのようなドロドロとした恋愛をしているのだとしたら、友として正しい道へと引き戻さなければと考えていた」

「まぁ、シャカールとは一緒に寝たことがあるが、恋愛感情があるかと言われれば微妙なところタイ

「ママもシャカール君と寝たことがありますが、どちらかと言うと、ママはシャカール君のママになりたいです」

「男と寝ただと!」

 シャカール君と一緒のベッドで睡眠を取ったことを言うと、オグニちゃんは目を大きく見開いて、声を上げます。

「2人が既に経験済みだったとは……いや、そもそも、一緒に寝たのに恋愛感情がないなんて、いつの間にか2人が魔性の女……いや、ビッチになっていたとは思ってもいなかった。今後は交友関係を見直した方が良いか? 私までビッチになる恐れがある」

 オグニちゃんがブツブツと独り言を言います。小声でしたが、ウサギのケモノ族であるママにはしっかりと聞こえていました。

 確かに年頃の男女が一緒に寝たと言えば、性的な意味に捉えられるかもしれません。ですが、そっちの方と結び付けてしまうなんて、もしかしてオグニちゃんはムッツリスケベなのでしょうか?

 ですが、このまま勘違いをさせては、ママたちの関係に悪影響が出るでしょう。

「オグニちゃん、大変言い難いのですが、勘違いをしていますよ」

 ママは語弊があったことを伝えます。そして今度は子どもでも分かりやすいように言葉を選び、丁寧に説明しました。

「そ……そうか。そっちの……寝たね。うん、分かっていた。分かっていたさ。この場を和ませようと、敢えて勘違いをした振りをしただけ」

 顔を真っ赤にしながら、オグニちゃんは言い訳を言います。ですが、いくら言い訳をしようと、ママはオグニちゃんがムッツリだと言うことを知ってしまいました。

 微妙な空気となってしまいましたが、ママたちは着替え、そして会場の外に出ます。

「クリープさん! 良かったです! これでシャカールトレーナーが転入することを防げました」

 外に出るなり、アイリンちゃんが涙を流しながら抱き付いてきました。

「あらあら、そんなに喜んでもらえると頑張った甲斐がありました。でも、シャカール君が勝ったと言う報告を受けてはいませんよ。まだ安心するには早いです」

 アイリンちゃんの頭を優しく撫でながら彼女に囁きます。すると、アイリンちゃんは顔を上げてニコッと笑みを浮かべました。

「シャカールトレーナーなら大丈夫です。以前も言いましたが、シャカールトレーナーは今まで無敗です。きっと追放ざまぁ系の主人公のように、今回のレースでも勝てるでしょう。だから安心なのです」

 アイリンちゃんが抱きしめていた腕を離して後に下がると、今度は両手を上げて謎のダンスを始めます。

「やーた、やーた、やったった!」

 本当にアイリンちゃんはシャカール君の勝利を信じているのでしょうね。

 喜ぶ彼女の姿に、つい和んでしまっていると、一羽のリピートバードがタマちゃんの前に降り立ちます。

『お嬢様、ローレルです』

 どうやら、鳥の送り主はローレルさんからのようですね。

『お嬢様、良く聞いてください。ご主人様が負けました』

「え? シャカールトレーナーが……負けた? そんなバカな?」

「アイリンちゃん!」

 リピートバードの言葉を聞いたアイリンちゃんが気を失い、その場に倒れます。ママは彼女に駆け寄り、抱き上げるとリピートバードに顔を向けました。

 ですが、リピートバードはメッセージを言い終わってもどこにも飛びだとうとしません。

「ローレル、勿体ぶらないで早く続きを言いなさいよ。負けたけど、その後に何かあったのでしょう?」

 タマちゃんがリピートバードに語りかけます。ですが、リピートバードは相手が言った言葉を真似する生き物、対象が言った言葉をそのまま繰り返すので、間も再現してしまうのです。

『ご主人様は負けてしまいました。ですが、疑惑の判定があったので完全に負けたとは言えません。宜しければ、こちらに来てください』

 メッセージを全て言い終わったのか、リピートバードは飛び立ち、ローレルさんのところに戻っていきます。

「クリープ先輩、あたし、先にもうひとつの会場に向かっています」

「分かりました。ママもアイリンちゃんの目が覚め次第、そちらに向かいます」

 タマちゃんはママの言葉を聞くと、もうひとつの会場へと走って行きました。

 いったいエコンドル杯で何があったのでしょう。
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