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第十章

第十八話 KINNGU賞⑤

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 所長の妨害により、カレンニサキホコルの人格が表に出て来てしまった。

 ナナミと最後まで勝負をすることができなかったことは残念だが、今はこのレースで優勝することを考えなければならない。

「このギミックの攻略の鍵は見えた。奴らがあの攻撃をして来た時がチャンス」

 ギミックモンスターの攻撃に注視しつつ、周囲を伺う。

 今はギミックモンスターの攻撃で突破できる状況ではない。そのせいで、他の走者が追いついてきた。

 だが、今はその状況が逆にチャンスでもある。

『1、2番手だったナナミ走者とシャカール走者が第2のギミックに苦戦する中、次々と他の走者が追いつき、第2のギミックに挑戦しております』

『まだ誰も今回のギミックを突破できていません。1番にクリアするのはどの走者なのか、見ものですね。おそらく、あの攻撃を受けたシャカール走者とそれを目の前にしたナナミ走者が、そろそろ気付く頃合いかと思います』

 次々と後続が追い付く中、ギミックモンスターが弓を構え、矢を放って来る。

 直撃しそうな矢と、影に当たりそうな矢のみを躱し、奴らの攻撃を避けていく。

 敵の攻撃を避けながらギミックエリア内を見渡す。すると、影縫いの矢を受けて身動きが取れない走者が数人居た。

 あいつらにとってはアンラッキーだが、俺にとっては超ラッキーだ。

 直ぐに動けなくなっている走者に近付き、影に突き刺さっている矢を抜いて矢を回収する。

「な、なんだ? 急に体が動くようになって、喋ることもできるようになった?」

 俺の時のように、困惑している様子を見せる走者。

「お前はギミックモンスターの放った影縫いの矢の効力で、身動きを封じられていたんだ」

 攻略のヒントを教え、俺は直ぐに他の走者の元に駆け寄って矢を回収していく。

 ある程度の矢は回収することができたな。さて、それじゃ反撃といかせてもらおうか。

 矢を一本持つと、ギミックモンスターに向けて投擲した。

 俺の放った矢は狙い通りに飛び、ギミックモンスターの影に突き刺さる。その瞬間、影縫いの矢の効果が発揮され、一体だけ動きを封じることに成功した。よし、今だ!

 ギミックモンスターに突撃を開始すると、奴らは俺に向けて集中攻撃をしてきた。

『狙い通りじゃ、お主は良くやってくれた。計算通りに動いてくれてありがとう』

 俺が集中攻撃を受ける中、カレンニサキホコルはその隙を付いて走る。そして身動きの取れない鎧兵を飛び越え、第2のギミックを突破した。

 俺がこのギミックを突破することを見越して、その隙を突いたのか。やるな。

 彼女に関心しつつ、風の魔法を発動して矢を吹き飛ばし、俺も動きを封じられたギミックモンスターを飛び越えて第2のギミックを突破する。

『ここでナナミ走者とシャカール走者が第2のギミックを突破だ! 先頭はナナミ走者のままですが、その差は僅か2メートル、いつでも差し返せれる距離です』

 まんまとカレンニサキホコルの策に嵌ったが、それでも誤差の範囲だ。まだ最後のギミックが残っている以上、何が起きるか分からない。

 カレンニサキホコルを追いかける展開のまま、コース内を走る。

 すると、最後のギミックエリアに到達した。

 ギミックエリア内に足を踏み入れた瞬間、馬に騎乗した鎧兵が現れ、俺たちを追いかけて来る。

『馬ではないか。まずい、まずい、まずい』

 騎馬兵のギミックモンスターが接近すると、カレンニサキホコルの表情が変わる。

『競走馬の血が騒ぐ! テンションが上がってしまうではないか!』

 騎馬兵の馬を見て、カレンニサキホコルの声音が上擦る。

 いや、お前は魂の存在だろう? 肉体はナナミなのだから、競走馬の血なんてものがないじゃないか。

 そんなことを思っていると、馬に乗った兵が横から剣でカレンニサキホコルを攻撃する。だが敵の攻撃を彼女は避け更に速度を上げてしまう。

『牝馬の底力を見せてやる!』

 まるでギミックモンスターには負けない。そう捉えられるような発言をして、カレンニサキホコルは更に加速してギミックモンスターを追い抜いた。

 お前はいったい、誰と競っているんだよ。

 置いてけぼりにされているような気がするが、考え方を変えればチャンスでもある。

 どうやら、このギミックは先頭を走る走者を狙うようになっているようだ。騎馬兵がカレンニサキホコルを集中的に妨害してくれれば、彼女はスタミナを消費し、俺は温存できる状態で最後の直線に入ることができる。

 今度は俺が彼女を利用する番だ。

「スピードスター!」

 加速力を上げる魔法を発動し、速度を上げる。そしてカレンニサキホコルの後に付けた。

 彼女からそう離されていない場所で位置取りをすれば、カレンニサキホコルを壁にして風の抵抗を最小限に抑えることができる。

 俺が後に付けたのにも関わらず、カレンニサキホコルは何も言って来ない。どうやら、ギミックモンスターとの競争に夢中で俺の存在に気付いていないようだ。

 前方を走るカレンニサキホコルに向けて、ギミックモンスターは攻撃を続ける。だが、彼女は難なく躱していた。

 攻撃範囲が俺にまで届く時もあったので、そこは俺もしっかりと回避していく。

 そんなことを繰り返していると、あっと言う間に最後のギミックも突破した。

『やったー! 逃げ切り勝ちじゃ! 牝馬の底力を見たか!』

「いや、まだレースは終わっていないぞ。最後のギミックは終わったが」

『最後のギミック?』

 カレンニサキホコルが小首を傾げ、しばらくすると現実を思い出したかのように表情を青ざめさせる。

『しまった! つい馬との勝負に夢中になってギミックであったことを忘れてしまった! 全力を出してしまった。もう、あまり走る元気が残されておらぬ。お主、ゴール前まで妾を背負ってくれぬか?』

「なんでそうなる! 自業自得だろう」

 カレンニサキホコルの言葉に若干力が抜けてしまった。
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