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第十章

第十七話 KINNGU賞④

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 ナナミを追いかける形となったまま、第2のギミックに到達する。

 前方には第1ギミックと同様に鎧兵が待ち構えているが、手に持っている得物が違った。

 第一ギミックでは、殺傷能力の低い剣だったが、今度は弓を持っていた。

 俺たちがギミックエリアに入った瞬間、奴らは構え、弓に矢を装填させるとこちらに向けて放ってきた。

 だが、ナナミはカレンニサキホコルの指示があることで、容易に躱すことができている。

 七海が攻撃される中、雨のように降り注ぐ矢は、俺にも飛んできた。

「ストロングウインド!」

 魔法を発動して気圧に変化を起こし、強風を生み出す。強風を受けた矢は風の抵抗を受けて速度を落とし、俺に触れる前に地面に落ちる。

 ギミックモンスターの攻撃を防いだ後、地面に落ちている矢に視線を向ける。

 見た目は普通の矢だ。でも、ここで普通の矢を使うとは思えない。

 気になった俺は矢を拾う。その瞬間、肩に痛みが走った。と言ってもダメージは殆ど受けていない。例えるのなら、下手な蚊が血を吸おうと皮膚を突き刺した時に、神経を刺激してしまって痛みで気付く。あのような痛みに近いだろう。

 肩に目を向けると、ギミックモンスターが使用していた矢が突き刺さっていた。

 どうしてだ? あいつらの攻撃は全て強風で落下させ、無力化させた。それなのにどうして突き刺さっている?

 疑問に思っている中、体中から力が抜けていく感じがした。まさか、体力を吸い取られる?

 肩に突き刺さった矢を引き抜くと、疲労感が止まった。

 やっぱり、行動するための体力を奪う矢だったのか。

「ちょっと、カレンニサキホコルさん! ゼロナにいの様子が変だよ? やっぱり当てない方が良かったんじゃ? え、あ、うん。そうだけど、でも、確認のためにゼロナ兄を使うのはちょっと」

 ナナミの声が耳に入ってくる。どうやら、俺の肩に矢が突き刺さったのはカレンニサキホコルの指示で行動したナナミによるものだったらしい。

 おそらく、風の魔法で矢を躱した時に、どさくさに紛れて投擲したのだろう。

 攻撃を回避した時が一番油断してしまう時だ。多分、カレンニサキホコルはいち早くギミックの矢の効果に気付いた。そして俺を妨害するためにナナミに指示を出したのだろう。

 本当にコンビネーションが良いことで。

 だが、彼女たちに文句を言う権利は俺にはない。ナナミたちは自分たちが優勝するために行動しているのだ。

 そんなことを思っている中、再び鎧兵が矢を放つ。

 だが、今度はタイミングがズレてしまったのか、同時ではなく、まばらに放っている。

 こちらに向かって来る矢の中で、俺に直撃しそうなものはないだろう。

 俺は一旦その場で立ち止まり、敵の攻撃を避ける。

 回避に成功した。次の矢が放たれるまでに少しでも接近するか。

 そう思って、走り出そうとしたその瞬間、体が一ミリも動けなくなった。

「体が動かないだと?」

 一体何が起きている? もしかしてあの矢には麻痺の効果もあったのか? いや、体の痺れは感じない。例えるなら、眠っている間の金縛りに遭っている。それに近い感じだろう。

 意識ははっきりとしているのに、俺の指示通りに体が動かない。

 自分の身に何が起きているのか分かっていない中、ギミックモンスターが再び弓を構え、矢を放つ。

 動かない俺にターゲットを絞ったのか、一斉に数多くの矢が俺を突き刺そうと迫っていた。

 早く魔法で対処しなければ。そう思って魔法を発動しようと試みる。だが、無詠唱であっても、魔法名は口に出さないといけない。

 口すら動かせない石像のような状態では、100パーセント回避は不可能だ。

 俺はこんなところでリタイアとなってしまうのか? まぁ、良いや研究所での暮らしは嫌だが、ナナミが居れば乗り越えることができるだろう。

「ゼロナ兄!」

 敗北を確信したその瞬間、俺の前にナナミが飛び出して来た。

「ウインドカッター!」

 ナナミが魔法を発動し、風の刃で迫り来る矢を切り裂く。

 全ての矢が使い物にならなくなり、地面に落ちる。

 感謝の気持ちと困惑の思いが交わる中、彼女に礼を言いたいが、口を動かせない。

 申し訳ないと思っていると、ナナミは俺の背後に回った。すると、急に自分の意思で体が動かせるようになり、口を動かして声を出すこともできる。

 振り返って見ると、ナナミの手には矢が握られていた。

「影縫いの矢だね。ゼロナ兄は、この矢が自身の影に当たってしまったから、効果が発動して身動きが取れなかったみたい」

「ナナミ、どうして俺を助けたんだ? そのままにすれば、勝てたかもしれないんだぞ?」

「だって、カレンニサキホコルさんの指示とは言え、ゼロナ兄を傷付けたのは嫌だったし、ゼロナ兄にはこんなところで負けて欲しくなかったのだもん」

 レースを競う敵同士だと言うのに、ナナミは本当に優しいな。将来彼女も嫁に行く日がいずれ来るだろう。でも、相手は俺が認めたやつでなければ許さない。少なくとも、俺とレースで勝負して勝てる程の実力者でなければ、ナナミを任せることはできない。

「う……ああ、あああ!」

 ナナミの将来のことを考えていると、急に彼女が苦しみ出した。

「おい、ナナミ! 大丈夫か? 頭が痛いのか?」

 急に頭を抑えて瞼を閉じ、体調を崩す素振りを見せるナナミに、俺は戸惑う。すると、彼女は頭を押さえる動作を止め、閉じていた瞼を開ける。

『安心するが良い。ただ眠ってしまっただけじゃ』

「カレンニサキホコル」

『全く、あれだけ忠告しておったのに、あからさまに助けよって。これだからナナミはブラコンなのじゃよ。もっと、要領よくすれば妾が表に出ることはなかったと言うのに』

 ブツブツと独り言を漏らすカレンニサキホコルだが、彼女が表に現れた瞬間に、怒りに近い感情が湧き上がってきた。

「カレンニサキホコル、これは俺とナナミとの勝負だ! しゃしゃり出て来るな!」

『妾だって、本来であればお主たちの勝負に水を差すようなことはしたくなかった。じゃが、ナナミがお主を助けたことで、ある人物の怒りを買った。だからナナミが眠らされ、強制的に妾が表に出されてしまったのじゃ』

 カレンニサキホコルの説明を聞き、俺はとある人物が頭の中に浮かんだ。

 くそう。所長の仕業か。

 確かに敵である俺を助ける行為は、所長からしたらNGだろう。だから、血迷わないで勝てるように、カレンニサキホコルを表に出したと言う訳か。

 こんな形にナナミとの勝負を妨害され、俺は所長に対して怒りが募る。

 このレースに優勝した暁には、所長の顔面をぶん殴ってやる。

『第2のギミックでナナミ走者とシャカール走者が苦戦している中、第1ギミックを突破した走者が次々と第2ギミックエリアに到達します』

「くそう。追いつかれてしまったか」

『妾が表に出た以上、ナナミの時のようにはいかぬと思っておれ。では、健闘を祈る』

 カレンニサキホコルが俺から離れて行く。ナナミとの直接勝負を邪魔されてしまったが、とにかく今はこのギミックを突破するのが先だ。

 だが、俺は先ほどの攻撃をヒントに、この場を突破する策を思い付いた。

 ここから反撃とさせてもらおうか。
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