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第十章

第十六話 KINNGU賞③

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 状況を判断できない間抜けな走者が鎧兵を倒したことにより、数が減って操っていた者の負担が軽減された。それにより、ギミックモンスターは動きがより早くなり、これまでとは違う行動パターンもするようになった。

 ギミックである鎧兵の攻撃を躱しつつ、突破口を考える。

 一番楽な方法は、他の走者がやったように鎧兵を倒して数を減らし、その隙を突いて全速力で走ってギミックを抜ける方法だ。

 敵が強化される代わりに、自分だけは切り抜けられることはできる。だが、そんなことをやってしまっては、間抜けな走者たちと同類となってしまう。

 そうなってくると、突破口となる方法は2つ。

 1つは鎧兵を倒すことなく行動不能にさせる方法、そしてもう1つは、こいつらを操っている人物を見つけ、倒すと言う方法だ。

 前者は技術が要求される代わりに確実に突破できる。後者はそこまで技術は要求されないが、これだけ多くの人たちの中で、ギミックを担当している人物を見つけ出さなければならない。

 術者を見つけ出すのは、砂漠の中で特定の砂粒を探すようなものだ。そうなってくると、鎧兵を倒すことなく無力化させた方が良い。

 さて、どうやってこいつらを無力化させるか。

「くそう! 来るんじゃない! こいつを食らえ! ファイヤーボール!」

「こいつら、時間と共にどんどん強くなっているぞ! 早く突破しないと! アイスランス!」

 思考を巡らせる中、他の走者たちは自分の身を守るために、次々と鎧兵を攻撃していくだが、数を減らす度に、鎧兵の動きは機敏になってくる。

「お前たち! 鎧兵を倒すな! こいつらは、数が減れば減る程強くなる仕組みだ! これ以上ギミックモンスターを強くさせるな!」

「なんだって!」

「そうは言っても、抵抗しないとやられるだけだぞ」

 俺の言葉に、他の走者は驚きの声をあげる。だが、自分の行いが自身を苦しめる結果となり、抵抗せずにはいられない状況だ。

 身を守るための攻撃をせざるを得ない。だが、鎧兵を倒す度に、ギミックモンスターは強化される。

「ぎゃああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 走者の1人が鎧兵の攻撃を受け吹き飛ばされる。だが、彼はその後起き上がることはなかった。

「おい、大丈夫か!」

 倒れた走者に声をかけるだが、反応はなかった。

 白目をむいているが、呼吸はしている。気を失っているだけのようだ。

『ここでカナエール走者は気絶により競走中止となりました。彼に関する走券はただの紙切れです』

 とうとう最初のギミックであるにも関わらず、競争中止してしまう走者が現れてしまったか。これがG IのKINNGU賞、これまでのレースとは一味違うか。

 今の俺はなんとか鎧兵の攻撃を避けることができている。だが、俺の方は問題なくとも、他の走者が鎧兵を倒せば、避けることすら難しくなってくるだろう。

 時間との勝負だ、早くこいつらを倒すことなく行動不能にする方法を見つけ出さなければ。

 必死になって思考を巡らせる。

 コールドシーフがいないのに、まるで彼女の妨害を思い出させてしまうな。うん? コールドシーフ?

 彼女のことを思い出していると、夏合宿で初めて彼女と会ったときの記憶が蘇ってきた。

 そうだ! あの魔法なら、こいつらを倒すことなく行動に制限をかけることができる。

 突破口が見えた瞬間、目の前にいる鎧兵が、剣を振り下ろして攻撃してきた。

「させるか! リストレイント!」

 魔法を発動すると、縄が出現する。現れた縄は、獲物を締め殺そうとする蛇のように鎧兵に巻きつき、身動きを奪った。

「よし、上手くいった」

 この拘束魔法は、レース中は走者に対して使用を禁止されている。もし、走者に向けて使えば失格となる。だが、対象がギミックモンスターであった場合は、使用しても失格となることはない。

 コールドシーフを捕まえるために使用したときは、亀甲縛りとなってしまったが、今回は普通にぐるぐる巻きにしただけのようだ。

 もし、ここで鎧兵が亀甲縛りで高速されたら、観客たちから変態的な趣味を持っていると誤解されていたかもしれない。

 ともあれ、これで突破することができる。

 俺は走行を邪魔する鎧兵のみを拘束し、このギミックエリアから脱出した。

 全ての鎧兵を捕らえてしまったら、他の走者は楽をしてしまうからな。ちゃんと邪魔用にある程度は残しておかないと。

 でも、俺がクリアしたんだ。先ほどの行動をヒントに、他の走者たちも突破してくるだろう。

『ナナミ走者に続き、ここでシャカール走者が最初のギミックを突破だ!』

 先頭を走っているナナミの姿が見えた。思っていたのよりも、そこまで距離が引き離されていなかったようだな。

 さて、邪魔をされる者もいないし、とある疑問を解消させるために開いた距離を縮めさせてもらうとするか。

「スピードスター!」

 加速する魔法を発動し、足の筋肉の収縮速度を早める。これにより瞬発力を得た足は速度を上げ、ナナミとの距離を縮めることができた。

『シャカール走者の物凄い追い上げ! ナナミ走者との差をおよそ5メートルにまで縮めた!』

「悪いな、ナナミ。攻撃させてもらう。ファイヤーボール!」

 ナナミに向けて火球を放つ。だが、彼女は抵抗することもなくそのまま走り続けた。

 俺の放った火球は地面に当たり、ナナミにダメージを与えることはない。

 やっぱり、俺がわざと外したことに気付いているか。なら、今度はどうする?

「ファイヤーボール!」

 もう一度ナナミに向けて火球を放った。今度は確実に直撃するルートだ。

 俺が火球を放った瞬間、ナナミは振り返ることなく左側へとずれた。そして彼女の横を火球が通り過ぎ、標的を外した火球は霧散して消える。

『ここでナナミ走者のお得意の回避だ! シャカール走者の攻撃を、振り返ることなく交わしていく! まるで、攻撃が分かっていたかのようだ!』

 やっぱり、俺が攻撃したのと同時だ。あの水晶玉で見た映像と同じことが起きている。

 人馬一体となっている彼女ならではの回避力か。

 おそらく、表に出ているナナミが全力で走り、敵の攻撃はカレンニサキホコルが見て判断し、ナナミに報告しているのだろう。

 そうでなければ、攻撃をした瞬間に回避に映ることはほぼ無理に等しい。

 彼女の脅威的な回避力の実態が分かったところで、ナナミに攻撃魔法を当ててダメージを与えることは難しい。なら、ダメージによる体力の消耗は期待できないな。

『先頭はナナミ走者のまま、まもなく第2のギミックへと差し掛かろうとしています』

 もうすぐ第2のギミックか。今度はどんなものが出てくるのやら。
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