薬漬けレーサーの異世界学園生活〜無能被験体として捨てられたが、神族に拾われたことで、ダークヒーローとしてナンバーワン走者に君臨します〜

仁徳

文字の大きさ
246 / 269
第十三章

第十八話 足元に広がる空

しおりを挟む
 最初のギミックを一番にクリアし、俺は先頭を走ることに成功した。だが、和の国の芝適性がない俺は、いつもよりも走る速度が遅い。

 俺にとって、この芝自体がギミックのようなものだ。この芝、軽すぎるだろう。地面も普段の芝よりも硬く感じるし、感覚が掴めない。

 走りに苦戦をしつつも、可能な限り前に出て時間を稼ぐことを試みる。

『ここでルビー走者も突破だ! 多少苦戦したが、1番人気だけあって早めのクリアをすることができました』

 実況者の言葉が耳に入り、歯を食い縛る。

 ルビーのやつが最初のギミックをクリアしたか。でも、ある程度は引き離しているはず。もう少しは時間を稼げるはずだ。

 次のギミックエリアに向かって走っていると、それっぽいものが視界に入る。

 だが、俺は自身の目を疑った。

「足場がない!」

 どう言う魔法で作られたギミックなのか不明だが、足場がなく、床下にはなぜか空が広がっていた。

 地面の下が上空になっているって、意味が分からないじゃないか。

 可能性として考えられるとすれば、この先の空間は転移魔法の様なものになっており、入りこめば上空へと移動させられ、そのまま地面に叩き落とされると言うものが考えられる。

 確証はないが、試してみるか。

「ロックアモウ!」

 体内の魔力回路に魔力を流し込み、魔法を発動させて直径1センチの石を作り出すと、コースの底に広がる空に向けて放り投げた。

「いてっ」

 その後頭に何かが落下し、その反動で芝の上に落ちる。

 それに視線を向けると、先ほど投げた石が足元に転がっていた。

 やっぱり、この広がる空は、上空を映したものだ。踏み入れると上空へと転移させられ、落下させられてしまう仕様になっているようだ。これって、飛行能力がない者は詰んでいないか?

 まぁ良いさ。俺には空を飛ぶ魔法がある。こんなギミックなんて、さっさとクリアしてみせるさ。

「ウイング!」

 飛行魔法を発動させると、背中に羽が現れ、それを羽ばたかせると浮遊させた。

 これで一気にこのギミックをクリアだ。

 飛行魔法でギミックである転移空間のギミックの上を通る。

 これで俺は更に後方の走者たちと差を広げることができるはずだ。

 そう思っていると、俺の体は急に霧に覆われ始めた。

 いや、足場は上空と繋がっている。つまり、これは雲だ。

 そもそも、霧も雲海も雲も同じ現象であり、同一の存在だ。場所や見え方によって名前が違うだけ。

 地上にまで降りて来たものが霧で、山などに登った時に足元に広がるものを雲海、そして上空に発生するものが雲だ。

 いや、この際呼び名なんてものは重要ではない。今は雲? に覆われて視界が悪く先が見えない状態だ。気を付けなければ、自身の身に何かが迫っても気付くことができない。

 そう思った瞬間、いきなり頭部に痛みを覚え、気が付くと芝のコースに向かって落下していた。

 くそう。いったい何が起きた?

 芝の上に叩き付けられる前に羽を羽ばたかせて体勢を立て直し、芝の上に着地する。

 どうやらコースの始めの方に戻されたみたいだ。

 いったい俺の身に何が起きたんだ? その原因を究明しないと、同じことを繰り返してしまう。

「あら? こんなところで道草を食っていたのですか? 随分と余裕ですね。その余裕が仇となければ良いのですが?」

 後方から聞き覚えのある声が聞こえて振り返る。そこには馬の耳と尻尾を生やしたケモノ族の女の子が立っていた。

 ルビーに追い付かれてしまったか。引き離すチャンスを失ってしまったな。

「一度チャレンジして失敗した。今、何が原因でクリアできなかったのかを考えていたところだ」

「そうですか。それは良い心掛けですね。原因が分からずに闇雲に突っ込んでしまっては、同じことを繰り返すだけ。さすが三冠王だけあって、その辺のバカとは違うみたいですね」

 多少トゲのある言葉を言われるが、今は彼女の挑発に乗っている場合ではない。まずは何が原因で失敗したのかを考えなければ。

 思考を巡らせている間にも、最初のギミックをクリアした走者たちが近付いて来ているのが見えた。

『ギャオオオオオオォォォォォォォン!』

 足場に広がるギミックの空と、上空の二箇所から何かの叫び声が聞こえてきた。

 このギミックは上空を映した転移装置。つまり、この声の主は上空にいる。

 顔を上げた瞬間、緑色の蛇の様な姿をした生物が、上空に浮遊しているのが確認できた。

 続いて前を見直すと、目を大きく見開く。

 赤い瞳に無数の牙、そしてナマズのように長いヒゲが2本あり蛇の様な動体を持っているが、前脚と後脚があり、四足歩行も可能そうな巨大な生物が居たのだ。

 こいつが、俺を叩き落としたのか!

『ついに姿を現しました。第二のギミックの主の登場です。このギミックは、転生者の世界で伝わる日本昔話のオープニングで登場する龍がモデルとなっております』

 巨大な龍、こいつを倒さないと先に進めないって訳か?

 わんこそばとギミックの差が激しいじゃないか。いきなり難易度が上がり過ぎだろう。

 目の前に現れた巨大な龍の姿に、俺は絶句してしまう。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない

宍戸亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。 不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。 そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。 帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。 そして邂逅する謎の組織。 萌の物語が始まる。

チート魅了スキルで始まる、美少女たちとの異世界ハーレム生活

仙道
ファンタジー
 ごく普通の会社員だった佐々木健太は、異世界へ転移してして、あらゆる女性を無条件に魅了するチート能力を手にする。  彼はこの能力で、女騎士セシリア、ギルド受付嬢リリア、幼女ルナ、踊り子エリスといった魅力的な女性たちと出会い、絆を深めていく。

貞操逆転世界に転生したのに…男女比一対一って…

美鈴
ファンタジー
俺は隼 豊和(はやぶさ とよかず)。年齢は15歳。今年から高校生になるんだけど、何を隠そう俺には前世の記憶があるんだ。前世の記憶があるということは亡くなって生まれ変わったという事なんだろうけど、生まれ変わった世界はなんと貞操逆転世界だった。これはモテると喜んだのも束の間…その世界の男女比の差は全く無く、男性が優遇される世界ではなかった…寧ろ…。とにかく他にも色々とおかしい、そんな世界で俺にどうしろと!?また誰とも付き合えないのかっ!?そんなお話です…。 ※カクヨム様にも投稿しております。内容は異なります。 ※イラストはAI生成です

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

チート無しっ!?黒髪の少女の異世界冒険記

ノン・タロー
ファンタジー
 ごく普通の女子高生である「武久 佳奈」は、通学途中に突然異世界へと飛ばされてしまう。  これは何の特殊な能力もチートなスキルも持たない、ただごく普通の女子高生が、自力で会得した魔法やスキルを駆使し、元の世界へと帰る方法を探すべく見ず知らずの異世界で様々な人々や、様々な仲間たちとの出会いと別れを繰り返し、成長していく記録である……。 設定 この世界は人間、エルフ、妖怪、獣人、ドワーフ、魔物等が共存する世界となっています。 その為か男性だけでなく、女性も性に対する抵抗がわりと低くなっております。

処理中です...