Sランク昇進を記念して追放された俺は、追放サイドの令嬢を助けたことがきっかけで、彼女が押しかけ女房のようになって困る!

仁徳

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第四章

第五話 東側の魔物だけど、ザコがいくら集まってもザコでしかないな

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 俊足魔法の効果により、脚力の上がった俺は急ぎ東側に走る。

「いた! もうあんなに近くにいやがる」

 視界の先に魔物の大群が見えた。東側の魔物もゴブリンやオーガなどであり、北側とさほど魔物の種類が違うということはなさそうだ。

 敵を視認した瞬間、足に力を入れて急ブレーキをかける。

 どうにか敵が街の中に入る前に、ここに来ることができた。あとはこいつらを片付けるだけだな。

 そんなこと考えつつ、俺は事前に考えていた作戦を実行に移す。

「アイスクエストーズ」

 雲の気温を低くし、上空にある水分を氷晶へ変化させる。

「ファイヤーボール」

 続いてファイヤーボールを生み出すが、通常よりも酸素を多く取り込み、巨大な火球を生み出す。そしてそれをプチ太陽に見立て、天高く翳す。

「ダストデビル」

 プチ太陽となったファイヤーボールによる直射日光により、温められた地面から上昇気流が発生し、周囲から強風が吹きこむ。すると渦巻き状に回転が強まった塵旋風が発生した。

 塵旋風により、強い上昇気流が発生したことで、雲の中で氷晶が落下と上昇を繰り返す。

 これにより氷晶は雹や霰に成長すると、落下速度の違いにより衝突を繰り返し、こすれ合うことで静電気が発生した。

 上空の雲に静電気が発生したことにより、雷雲に変わる。

 連続で魔法を唱えると、この場の空気がガラリと変わった。

 空気が冷たく、今にも何かが起きそうな感じになる。

「これで最後だ! サンダーボルト」

 雲の中で溜まった静電気で落雷を発生させる。雷は瞬く間に魔物たちにヒットし、敵は次々と地面に倒れて行く。

「よし、雷雲のない状態で落雷を起こせるかは未知数だったけどうまくいった」

 ゴブリンたちは落雷が直撃したことで、絶命したようだ。動くものは見当たらない。

「とりあえずはこれで、東側の敵は全部倒したはず。オルテガはあれでもギルドマスターだから問題ないだろう。一度マリーと合流しよう」

 来た道を引き返し、北側へ移動を始める。

 戻ってくると、まだマリーたちは戦闘の最中だった。

「マリーそっちはどんな感じだ!」

「え! シロウ! もう戻って来ましたの?」

「ああ、だけど、三百体の魔物を倒すのに一分もかかってしまった。予定では三十秒で倒すつもりだったのに、倍の時間を費やしてしまった。ああ、本当に俺としたことが情けない」

「それだけの時間で三百体の魔物を倒せれば神業ですわよ! どれだけ自分を過小評価いたしますの!」

 マリーが俺を褒めてくれるが、俺からすればとても悔しかった。目標時間の内に達成できない俺なんか、まだまだ冒険者としては未熟だ。

「ああ、本当に悔しい」

 右手を額に置き、俺は嘆いてしまう。

「シロウでなければムカついてぶん殴るところですわね。とりあえず、あなたが来てくれればとても心強いですわ。一緒に戦いますわよ」

「そうだな。東側で上手くいかなかった借りは、ここで返すとしよう」

 ざっと見ると、敵の魔物は残り二百体といったところか。数分でここまで減らせられるとは正直驚かされた。

 本当に異世界の知識で生み出した魔法は規格外だな。通常ならいくつもの魔法を重ねがけしないといけないのに、デバフの魔法ひとつでほとんどの効果を発揮してしまう。

 とりあえずは、数で押し込まれている冒険者のサポートをするとするか。

「ウオーター」

 水の呪文を唱え、空気中の水分子を集めて水を作る。それを地面に設置することで泥濘ぬかるみができ、そこに足をおいた魔物は足を滑らせて転倒する。

「何だ? 急にゴブリンが倒れたぞ!」

「とにかく今が攻撃のチャンスだ! やれ!」

 無様に地面に倒れる魔物たちに、冒険者たちは刃を突き立て、次々と倒していく。

「シロウ感謝しますわ! 食らいなさい!」

 マリーも鞭で応戦し、敵を吹き飛ばす。

 どうやら俺が介入したことで、効率よく敵を倒すことができるようになったようだ。

 敵の魔物は、あっと言う間に数を減らしていく。

「うおおおおぉぉぉぉぉやったぞおおおおぉぉぉぉ!」

「俺たち低ランクの冒険者でも、あの数の魔物を倒すことができた!」

 この場の魔物を倒しつくし、冒険者たちは喜びの声を上げ、互いに抱き合っている者もいる。

「シロウ! やりましたわ!」

「うお!」

 勝利の余韻に浸っている冒険者たちを見ていると、マリーがどさくさに紛れて抱きついてきた。

 彼女の柔らかい胸の感触が服越しに伝わってくる。

「マリー、喜ぶのはまだ早い。オルテガがいる西側の様子を見に行かないと」

「そうですわね。それじゃあワタクシをお姫様抱っこしてくれません。二人が走るよりも、断然早いと思いますの」

「まぁ、確かにそっちのほうが早いかもしれないな」

 マリーを抱きかかえてお姫様抱っこをすると、一度彼女に視線を向ける。

「口を開けると舌を噛むかもしれないから、絶対に開くなよ」

 彼女に注意を促し、俺は全速力で走る。まだ俊敏の魔法の効果が持続しており、一分ほどで町の西側に辿り着く。

「マリー、着いたぞ」

「え! もう着いたですの! 早すぎません?」

「まぁ、俊敏の魔法の効果が残っているうちに全速力で走ったからな」

 マリーを下ろし、戦況を見渡す。

「左翼、押し込まれているぞ! もっと敵を引きつけ、隙が生じたときに攻撃しろ! 右翼はそのまま敵の攻撃を防げ!」

 さすがと言うべきか、オルテガは冒険者たちに的確な指示を送りつつも、自身も魔物を倒している。

「オルテガ、東と北の魔物は倒したぞ」

「何だと! もう倒したと言うのか。さすがシロウだ。恥を晒すことになってしまうが、手伝ってもらえないか? 俺たちが不甲斐無いせいで少し手こずっている」

「わかった。援護をしよう」

 俺は北側で使った戦法を行い、敵をスリップさせる。

 そして無様に転倒したゴブリンやオーガに、冒険者たちがトドメを差していく。

「よっしゃー! 俺たちで町を守れた!」

「俺たちもやればできるじゃないか!」

 西側の魔物を全滅させると、ここでも同様に冒険者たちは勝利の余韻に浸って互いに抱き合う。

「まさか、本当に千体の魔物から町を守れるとは思ってもいなかった。本当にたいしたやつだよお前は」

 オルテガがポンと俺の肩に手を置く。

「いや、まだ終わっていない。敵の総大将を倒していない」

『そうだ。まさか俺の部下たちが、ここまでコテンパンにされるとは思ってもいなかったが、まだ俺がいる。勝利の余韻に浸るのは時期尚早というもの』

 聞きなれない声が聞こえ、俺は声がしたほうに顔を向ける。視界の先には、あいつらを纏めていたと思われる魔物が、ゆっくりとこちらに向ってきていた。










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