11 / 36
第二章『初めまして、狼獣人さま』
1.
*****
この世には、知力を磨く『人間』、魔力を操る『魔法使い』、そして武力に富んだ『獣人』が存在する。
モーリャント王国から船で三日走った所にある隣国。
そこは、それぞれの種の特徴を身体に残した獣人達が住まう獣人国・ユービィスト王国だ。
王妃教育の際、この国に関して深く学んだ。隣国であり、目覚ましい発展を遂げるユービィスト王国とは今後、国交が盛んになるであろうと。
「ここが、ユービィスト王国.....」
この国の港から二時間ほど乗り合い馬車に揺られて、目的地の王都までやってきた。
地面に降り立ち、見据える先にはユービィスト王城。
モーリャント王国の美麗さを意識した白亜の城とは一味違った造りだ。
赤と茶の壁で、形はまるで要塞。武力に優れた獣人国に相応しい堅牢な雰囲気が漂っていた。
「それにしても、すごいわ。聞き及んでいたけれど、やはりこちらの国の皆様は耳や尻尾があるのね」
当たり前だが、行き交う人々は皆、獣人だった。
もちろん港から馬車で30分ほどの距離まではちらほら人間も居たし、モーリャント王国の港でも時折獣人達が出入りしている。
二国間では貿易も行われているため、船乗りや港への出入りが頻繁にある人間なら、ごくごく見慣れているのかもしれない。
だからこそ『魔法薬』を飲んで他者からは狼獣人に見えているこの姿で船に乗っても怪しまれなかった。
でもーー。
私にとっては、学びはしても実際に会うのは初めてだ。
幻視魔法は他者へ効力を発揮するらしく、鏡に映る姿を自分で見てもいつもと変わらない人間の自分が映っているだけだった。
獣人たちの姿は本にあった通り、獣の特徴を身体に有していた。
頭の上でピクピク動く丸や三角、縦長や途中からパタンと折れた形の耳たち。
お尻に注目するのはマナー違反だが、視線が釘付けになるふわふわやもこもこの尻尾。猫科の種族は長くしなやかな形だ。
しかも、男性でも女性でも190センチ以上はある。160センチほどの自分とは違って非常に背が高く均整のとれた身体。まさに武術向きだった。
女性は簡素なワンピースに耳のイヤリング。男性はラフなシャツにスラックスの様な出で立ちで、自国と似ている。これが貴族や王族となればまた変わってくるのだろう。
思わずほうっと惚けてしまうほど、麗しい姿だ。
「.....っ、いけない。早くしなくちゃ」
大きな荷物を傍に置いて道に立ち尽くす様子に、興味津々な視線を向けられて、やっと我に返る。
ぐるりと周りを見てみると馬車のステーション前に『王都観光案内所』と書かれた看板が立っているのが目に入った。
「確かあそこで聞けばいいのよね」
私は茶色く大きなドアに手をかけた。
◇
数十分後ーー。
『王都観光案内所』を出て、宿に向かおうとしていた時。
「.....ふっ、ぅ。ぐす」
「......あら?」
何処かから泣き声が聞こえた。
声のする方へ足を進めると少し離れた道の路地の入り口で、顔を俯け膝を抱えて蹲る小さな影を見つけた。
吹き抜ける風に、淡い金色の髪がサラサラ靡いている。
三角耳はぺたりと伏せられ、ふわふわで毛艶のいい尻尾が心細さに耐えるように身体に巻きついている。犬科の獣人の子供のようだが.....迷子だろうか。
「どうしたの?」
そばまで歩み寄ると、なるべく怖がらせないようそっと問いかけた。
「......え?」
ピクリと体全体が揺れ、顔が上向く。鼻をズビリと鳴らして、金色の瞳をたたえた目は赤く泣き腫らしていた。一人の恐怖と不安に耐えていたのだろう。
見たところ男の子だ。
所々汚れてはいるが、上等な生地であつらえた服を着ていて、貴族の子供とあたりをつける。
「迷子かな?お姉さん怪しい者じゃないわ。あなたが心配で。良ければ、お話し聞かせてくれないかしら?」
「.....うっうっ。はは、うえ~」
「ああ....っ」
母親の姿が過ったのか、一瞬止まっていた男の子の涙が再びぶわっと溢れ出した。
◇
この世には、知力を磨く『人間』、魔力を操る『魔法使い』、そして武力に富んだ『獣人』が存在する。
モーリャント王国から船で三日走った所にある隣国。
そこは、それぞれの種の特徴を身体に残した獣人達が住まう獣人国・ユービィスト王国だ。
王妃教育の際、この国に関して深く学んだ。隣国であり、目覚ましい発展を遂げるユービィスト王国とは今後、国交が盛んになるであろうと。
「ここが、ユービィスト王国.....」
この国の港から二時間ほど乗り合い馬車に揺られて、目的地の王都までやってきた。
地面に降り立ち、見据える先にはユービィスト王城。
モーリャント王国の美麗さを意識した白亜の城とは一味違った造りだ。
赤と茶の壁で、形はまるで要塞。武力に優れた獣人国に相応しい堅牢な雰囲気が漂っていた。
「それにしても、すごいわ。聞き及んでいたけれど、やはりこちらの国の皆様は耳や尻尾があるのね」
当たり前だが、行き交う人々は皆、獣人だった。
もちろん港から馬車で30分ほどの距離まではちらほら人間も居たし、モーリャント王国の港でも時折獣人達が出入りしている。
二国間では貿易も行われているため、船乗りや港への出入りが頻繁にある人間なら、ごくごく見慣れているのかもしれない。
だからこそ『魔法薬』を飲んで他者からは狼獣人に見えているこの姿で船に乗っても怪しまれなかった。
でもーー。
私にとっては、学びはしても実際に会うのは初めてだ。
幻視魔法は他者へ効力を発揮するらしく、鏡に映る姿を自分で見てもいつもと変わらない人間の自分が映っているだけだった。
獣人たちの姿は本にあった通り、獣の特徴を身体に有していた。
頭の上でピクピク動く丸や三角、縦長や途中からパタンと折れた形の耳たち。
お尻に注目するのはマナー違反だが、視線が釘付けになるふわふわやもこもこの尻尾。猫科の種族は長くしなやかな形だ。
しかも、男性でも女性でも190センチ以上はある。160センチほどの自分とは違って非常に背が高く均整のとれた身体。まさに武術向きだった。
女性は簡素なワンピースに耳のイヤリング。男性はラフなシャツにスラックスの様な出で立ちで、自国と似ている。これが貴族や王族となればまた変わってくるのだろう。
思わずほうっと惚けてしまうほど、麗しい姿だ。
「.....っ、いけない。早くしなくちゃ」
大きな荷物を傍に置いて道に立ち尽くす様子に、興味津々な視線を向けられて、やっと我に返る。
ぐるりと周りを見てみると馬車のステーション前に『王都観光案内所』と書かれた看板が立っているのが目に入った。
「確かあそこで聞けばいいのよね」
私は茶色く大きなドアに手をかけた。
◇
数十分後ーー。
『王都観光案内所』を出て、宿に向かおうとしていた時。
「.....ふっ、ぅ。ぐす」
「......あら?」
何処かから泣き声が聞こえた。
声のする方へ足を進めると少し離れた道の路地の入り口で、顔を俯け膝を抱えて蹲る小さな影を見つけた。
吹き抜ける風に、淡い金色の髪がサラサラ靡いている。
三角耳はぺたりと伏せられ、ふわふわで毛艶のいい尻尾が心細さに耐えるように身体に巻きついている。犬科の獣人の子供のようだが.....迷子だろうか。
「どうしたの?」
そばまで歩み寄ると、なるべく怖がらせないようそっと問いかけた。
「......え?」
ピクリと体全体が揺れ、顔が上向く。鼻をズビリと鳴らして、金色の瞳をたたえた目は赤く泣き腫らしていた。一人の恐怖と不安に耐えていたのだろう。
見たところ男の子だ。
所々汚れてはいるが、上等な生地であつらえた服を着ていて、貴族の子供とあたりをつける。
「迷子かな?お姉さん怪しい者じゃないわ。あなたが心配で。良ければ、お話し聞かせてくれないかしら?」
「.....うっうっ。はは、うえ~」
「ああ....っ」
母親の姿が過ったのか、一瞬止まっていた男の子の涙が再びぶわっと溢れ出した。
◇
あなたにおすすめの小説
余命僅かな大富豪を看取って、円満に未亡人になるはずでした
ぜんだ 夕里
恋愛
傾きかけた家を救うため、私が結んだのはあまりにも不謹慎な契約――余命いくばくもない大富豪の辺境伯様と結婚し、彼の最期を穏やかに看取ることで莫大な遺産を相続する、というものだった。
しかし、人の死を利用して富を得るなど不正義!
そう考えた私が立てたのは、前代未聞の計画。
「そうだ、遺産が残らないくらい贅沢の限りを尽くしてもらえば、すべて丸く収まるじゃない!」
[完]本好き元地味令嬢〜婚約破棄に浮かれていたら王太子妃になりました〜
桐生桜月姫
恋愛
シャーロット侯爵令嬢は地味で大人しいが、勉強・魔法がパーフェクトでいつも1番、それが婚約破棄されるまでの彼女の周りからの評価だった。
だが、婚約破棄されて現れた本来の彼女は輝かんばかりの銀髪にアメジストの瞳を持つ超絶美人な行動過激派だった⁉︎
本が大好きな彼女は婚約破棄後に国立図書館の司書になるがそこで待っていたのは幼馴染である王太子からの溺愛⁉︎
〜これはシャーロットの婚約破棄から始まる波瀾万丈の人生を綴った物語である〜
夕方6時に毎日予約更新です。
1話あたり超短いです。
毎日ちょこちょこ読みたい人向けです。
王宮の万能メイド、偏屈魔術師を餌付けする
葉山あおい
恋愛
王宮で働く勤続八年のメイド、エレナ・フォスター。仕事は完璧だが愛想がない彼女は、いつしか「鉄の女」と呼ばれ恐れられていた。
そんな彼女に下された辞令は、王宮の敷地内にありながら「魔窟」と呼ばれる『北の塔』の専属メイドになること。そこの主である宮廷魔術師団長・シルヴィス・クローデルは、稀代の天才ながら極度の人嫌い&生活能力ゼロの偏屈男だった!
ゴミ屋敷と化した塔をピカピカに掃除し、栄養失調寸前の彼に絶品の手料理を振る舞うエレナ。黄金色のオムレツ、とろける煮込みハンバーグ、特製カツサンド……。美味しいご飯で餌付けされた魔術師様は、次第にエレナへの独占欲を露わにし始めて――?
意地悪な聖女や侯爵夫人のいびりも、完璧なスキルで華麗に返り討ち。平民出身のメイドが、身分差を乗り越えて幸せな花嫁になるまでの、美味しくて甘いシンデレラストーリー。
恐怖侯爵の後妻になったら、「君を愛することはない」と言われまして。
長岡更紗
恋愛
落ちぶれ子爵令嬢の私、レディアが後妻として嫁いだのは──まさかの恐怖侯爵様!
しかも初夜にいきなり「君を愛することはない」なんて言われちゃいましたが?
だけど、あれ? 娘のシャロットは、なんだかすごく懐いてくれるんですけど!
義理の娘と仲良くなった私、侯爵様のこともちょっと気になりはじめて……
もしかして、愛されるチャンスあるかも? なんて思ってたのに。
「前妻は雲隠れした」って噂と、「死んだのよ」って娘の言葉。
しかも使用人たちは全員、口をつぐんでばかり。
ねえ、どうして? 前妻さんに何があったの?
そして、地下から聞こえてくる叫び声は、一体!?
恐怖侯爵の『本当の顔』を知った時。
私の心は、思ってもみなかった方向へ動き出す。
*他サイトにも公開しています
英雄の可愛い幼馴染は、彼の真っ黒な本性を知らない
百門一新
恋愛
男の子の恰好で走り回る元気な平民の少女、ティーゼには、見目麗しい完璧な幼馴染がいる。彼は幼少の頃、ティーゼが女の子だと知らず、怪我をしてしまった事で責任を感じている優しすぎる少し年上の幼馴染だ――と、ティーゼ自身はずっと思っていた。
幼馴染が半魔族の王を倒して、英雄として戻って来た。彼が旅に出て戻って来た目的も知らぬまま、ティーゼは心配症な幼馴染離れをしようと考えていたのだが、……ついでとばかりに引き受けた仕事の先で、彼女は、恋に悩む優しい魔王と、ちっとも優しくないその宰相に巻き込まれました。
※「小説家になろう」「ベリーズカフェ」「ノベマ!」「カクヨム」にも掲載しています。
【完結】家族に愛されなかった辺境伯の娘は、敵国の堅物公爵閣下に攫われ真実の愛を知る
水月音子
恋愛
辺境を守るティフマ城の城主の娘であるマリアーナは、戦の代償として隣国の敵将アルベルトにその身を差し出した。
婚約者である第四王子と、父親である城主が犯した国境侵犯という罪を、自分の命でもって償うためだ。
だが――
「マリアーナ嬢を我が国に迎え入れ、現国王の甥である私、アルベルト・ルーベンソンの妻とする」
そう宣言されてマリアーナは隣国へと攫われる。
しかし、ルーベンソン公爵邸にて差し出された婚約契約書にある一文に疑念を覚える。
『婚約期間中あるいは婚姻後、子をもうけた場合、性別を問わず健康な子であれば、婚約もしくは結婚の継続の自由を委ねる』
さらには家庭教師から“精霊姫”の話を聞き、アルベルトの側近であるフランからも詳細を聞き出すと、自分の置かれた状況を理解する。
かつて自国が攫った“精霊姫”の血を継ぐマリアーナ。
そのマリアーナが子供を産めば、自分はもうこの国にとって必要ない存在のだ、と。
そうであれば、早く子を産んで身を引こう――。
そんなマリアーナの思いに気づかないアルベルトは、「婚約中に子を産み、自国へ戻りたい。結婚して公爵様の経歴に傷をつける必要はない」との彼女の言葉に激昂する。
アルベルトはアルベルトで、マリアーナの知らないところで実はずっと昔から、彼女を妻にすると決めていた。
ふたりは互いの立場からすれ違いつつも、少しずつ心を通わせていく。
婚約破棄された夜、最強魔導師に「番」だと告げられました
阿里
恋愛
学院の祝宴で告げられた、無慈悲な婚約破棄。
魔力が弱い私には、価値がないという現実。
泣きながら逃げた先で、私は古代の遺跡に迷い込む。
そこで目覚めた彼は、私を見て言った。
「やっと見つけた。私の番よ」
彼の前でだけ、私の魔力は輝く。
奪われた尊厳、歪められた運命。
すべてを取り戻した先にあるのは……
姉の方を所望していたと言った婚約者に、突然連れ帰られて気づいたら溺愛されています
もちもちほっぺ
恋愛
侯爵家の地下室に住み、姉の食べかけで飢えをしのぎ、婚約者には初対面で「老婆のようだ、姉の方がよかった」と言われた令嬢リリアーナ。
ある日その婚約者に問答無用で公爵邸に連れ帰られた。
庭の恵みを口にするたびに肌が輝き、髪が艶めき、体に力が満ちていく。首に巻いたお守りの秘密、十数年続く国の不作の真実、虐げられ続けた令嬢の出生の謎。
全てが明かされる時、地下室令嬢の逆転劇が始まる。
なお婚約者は今日も庭でグルメリポートを最後まで聞いている。