【完結】隣国のモフモフ騎士団長様、番ではない私でよろしいのですか?

こころ ゆい

文字の大きさ
33 / 36
最終章『番ではない私でよろしいのですか?』

3.《テリウェル・モーリャント》

「その木は、ユービィスト王国の森で自生するものだ」

「......なるほどな。いつ頃気づいた?」

「君が番の記憶を封じられたと知ってから、随分あとさ。

トリス・リーフェント公爵から、生命力溢れる木について、進言があった。

現在、娘のジャスミン嬢が試しに庭で育てていること。
うまくいけば、砂漠化した地域に植林し、緑化を進められるかもしれないこと。

驚いたよ。初めて知ったからね。

私は今まで砂漠化について様々な者と意見交換してきたが、誰一人としてそんな木を知る者はいなかった。

調べてみれば、貴国に自生する木だと判明したが、モーリャント王国ではその木の種子や苗を輸入している記録はなかった。

では、どうやって公爵はその木の種子を手に入れたのか。なぜそんな木があることを知っているのか、と疑問に思ってしまうのは自然なことだろう。

だって、公爵と少し話せばわかる。彼はそこまで植物に詳しいわけではない。

つまり、に、植物にとても精通した者がいて、

、木の種子か苗を入手してきたと考えるのが妥当だろう。

それも、国の有名な学者達、重鎮達を結集しても得られなかったほどの知識を持つ人物が。

公爵はなぜか屋敷で一番草木に詳しいであろう『庭師』ではなく、『』育てていると言った。

そこまで考えた時ーー

公爵のが目に入った。
同時に、私の中で仮説が浮かんだ。

その時はまだ、まさかと半信半疑だったが.....

ジャスミン嬢は、王妃教育を受けていた。
過去、彼女の授業を担当した王城の家庭教師達は皆、口を揃えて褒め称えていたよ。

彼女のとても優秀なと、人柄を。

ジャスミン嬢は常に本を持ち歩いていて、
植物に関するものだったという情報まで入手した所で

私の中の仮説は、より色濃く主張し始めた。

甥のコーネルから婚約破棄を受けた、
の瞳の、適齢期の娘ーー。

そして、

リーフェント公爵に世間話程度に聞き出した。
からジャスミン嬢は木を育てているのかーー。

それは、フェンリルが番の記憶を失った頃と丁度重なった。

....まぁ、さすがに嫁入り前の娘だからな。

公爵とて、娘がーー
数日家を空けていたとは言いたくないだろう。

あくまで表面だけ尋ね、あとは私が勝手に予想した」

「.....お前らしいな」

 種子は持ち帰ってから庭に植え、育ち具合や水加減などをノートをとり観察していた。

 数ヶ月経ち、ある程度育った所で父に、陛下に進言してみてほしい旨を相談した。

 まさか、それが私の正体へと繋がっていくとは。

 そういえば、父に進言を依頼した日からほどなくして、フェンリル様との婚姻話が持ち上がった。

「おかしいと思っていたんだ」

 フェンリル様の声に、テリウェル陛下が頷く。

「やっぱり引っかかっていたか。いくら『番』の存在を重要視する獣人達でも、王命ならば拒否できる者は少ないからな」

「ああ。例え、噂が広まっていようと相手を決めることはできただろう。

もちろん、あまり好きなやり方ではない。
獣人達の間では、実際、政略結婚はほとんどないしな。

獣人同士が王命で無理に結婚すれば、関係は最悪のまま生活を共にすることになる。

『番』同士であってもだ。なるべく王命なんてものは使わず、先に番の心を手に入れたい。『ミーナ』と出会った時のように。

今回は、シルヴァの王位継承のため、やむなく兄上に王命婚を申し出たがーー。

打診を受ける相手のことを考えると心の中は複雑だった。

しかし、

だからこそ隣国なのかと思って納得はしていた。

獣人でなく、人間との婚姻となれば、番関連の複雑な問題は避けられる。

それがーー
まさかお前のはかりごとだったとはな」

「まぁな」



 実はーー

 ヴォルフ陛下よりテリウェル陛下が相談を受け、リーフェント公爵家へ婚姻の打診があったのではなかった。

 番の見当をつけたテリウェル陛下が密かにヴォルフ陛下へ、二人の婚姻の提案を申し出たのだ。

 丁度、王位継承の激化で、フェンリル様本人が政略結婚を願い出た時期だったから、ヴォルフ陛下はその提案を受けた。

 テリウェル陛下の行動には、何かしら意味が隠されていることを、長年共に過ごした経験から知っていたから。

 そしてーー

 テリウェル陛下からの提案であることは、フェンリル様にも私にも、伏せられていた。テリウェル陛下の厳命で。





「確信はなかったんでな。....まぁ、お前なら自分でチャンスを掴むだろうとからな」

 テリウェル陛下が、ニッと笑みを深める。
 フェンリル様は、瞼を重くして呆れた声を出す。

「.......お前、本当に性格悪いぞ」

「ははは、褒めてくれて嬉しいよ」

「褒めてない」

「....結局、いつまで経ってもフェンリルから報告は届かないし、先にヴォルフ兄から真偽を確かめる手紙が届いて、ヤキモキしたぞ」

「なら、さっさと教えろよ」

「君たちが先に仕掛けてきたんだろう」

「はぁ。はいはい。俺らが悪かった」

 フェンリル様は諦めたようにため息を漏らした。

「お前からの提案であることは秘密にしろと、兄上を脅したのか」

「ひと聞きが悪いな。ちょっとばかし、昔の出来事を話題に出しただけさ。私が、モーリャント王国の新国王に即位した時のことをね」

じゃなくて、だろう。それを脅しっていうんだよ」

「ふん。元はと言えば君たち兄弟が私を嵌めたのが悪い」

 テリウェル陛下は、子供みたいに唇を突き出した。
 この二人が何の話をしているのかさっぱりだったが、話は続いていく。

「あれは嵌めたんじゃない」

「どうだかね」

「お前は、先に言ったら逃げるだろう。モーリャント王国のために仕方なく、事後報告にしただけだ」

「それを嵌めたと言うんだ」

「何とでも言え」

 二人睨み合っている。
 フェンリル様の腕の中で私は、二人の顔を交互に見遣った。

◇◆

 テリウェルは、元々王位に興味がなかった。

 才能故に、兄・オズウェルは勝手に弟を目の敵にして、留学へ追いやった。

 だが、テリウェルにとってむしろ好都合だった。

 これ幸いとばかりに好きなことを学び、自由に知識を深めていた。

 そんな中、シルヴァの留学中に起きた一件で、二国間で戦が勃発した。

 テリウェルは、全く話を聞かされていなかった。
 到底、新国王にまつりあげられるなんて、夢にも思っていなかった。

 それが、あっという間に声明が出され、知らぬうちにモーリャント王国の新国王になっていたのだ。

 その時点でやっと、ヴォルフやフェンリルから知らせを受けた。

 ここまで話が進んでいれば、もう拒否などできまいと諦め、王位に就いた。


「お前なら、どういう経緯で国王となっても....最後は国民のために奔走するとからな」

「はぁ。それだよ。....だから、私もんだ。確信がなかったから、というのも本当だがな」

「わかっている」

 信じていたと言われては、文句を言えなくなったテリウェルは、フェンリルにやり返した。

 君ならチャンスを掴むと信じていたから、と。

 友を思う心と、やり返す心とーー
 誠に友の力を信じる心。

 色々と複雑に絡み合った結果、なんと時間がかかったことかーー。

「くっ、くくく。本当、食えない奴」

「はははっ、君もな」

 笑い合って、どうやら和解したらしい二人に、ジャスミンはホッと胸を撫で下ろした。

「まぁ、時間は要したが、想いは通じたんだろう?」

「ああ」

「....改めて、結婚おめでとう。フェンリル」

 今度は満足気に笑って、祝福した。
 その言葉に、フェンリルはやっとテリウェルに向き直り、心から礼を言った。

「ああ。....世話になった」

 ジャスミンは抵抗しても下ろしてもらえず、抱きかかえられたまま「感謝申し上げます」と一緒に頭を下げた。



「ところで、夫人に頼みたいことがあるのだが」

 一段落した所で、テリウェル陛下が神妙な面持ちになった。

「.....直接話しかけるな」

「えっ」

 だが、フェンリル様はまた陛下に背を向け、私を隠してしまう。陛下の残念なものに向けるような声が、こだました。

「フェンリル....。嫉妬深い男は嫌われるぞ」

「っ.....嫌いに、なるか?」

 陛下の言葉に、フェンリル様がうかがうように尋ねてきた。

「え....えっと....嫌い、には....」

「...........」

 二人の視線を感じて狼狽える。
 フェンリル様は縋る目で私を見つめていた。

「.....ならない、ような?」

「っ、うむ」

 決断を迫られ、声を裏返しながら何とか答えると、フェンリル様はパッと耳を立て目を輝かせて、頬擦りしてきた。
 尻尾が、ボフン、ボフン、と横抱きにされている私の腰や足をリズミカルに打っていく。

「.....最初から甘やかしていると、後が大変だぞ、夫人。締めるところは、締めた方がいい」

 呆れ混じりに言われて、何となく意味を察する。私は有り難く助言を受け取って、真面目に頷いた。

 それから、私も陛下と直接お会いできたこのタイミングで、お話ししたいことがあったので、フェンリル様にお願いした。

「フェンリル様。私も陛下とお話ししたいことがございます」

「.....わかった」

 真剣に言い募ると、渋々だが頷いてくれる。

「夫人の話は....もしかして砂漠化についてだろうか?」

「そうなのです。陛下のお話しもでしょうか?」

「ああ。....先に聞いても?」

「はい、もちろんでございます」

 そうして、私は陛下にずっと考えていたことをゆっくりと説明し始めたーー。

*****

※この回の文末の会話の結果は、5.のシーンの途中で触れています。この次のお話では、場面切り替わっていていますが、続いてお読み頂けると、お話が繋がるかと思います。

感想 6

あなたにおすすめの小説

【完】麗しの桃は攫われる〜狼獣人の番は甘い溺愛に翻弄される〜

こころ ゆい
恋愛
※完結しました!皆様のおかげです!ありがとうございました! ※既に完結しておりますが、番外編②加筆しました!(2025/10/17)  狼獣人、リードネストの番(つがい)として隣国から攫われてきたモモネリア。  突然知らない場所に連れてこられた彼女は、ある事情で生きる気力も失っていた。  だが、リードネストの献身的な愛が、傷付いたモモネリアを包み込み、徐々に二人は心を通わせていく。  そんなとき、二人で訪れた旅先で小さなドワーフ、ローネルに出会う。  共に行くことになったローネルだが、何か秘密があるようで?  自分に向けられる、獣人の深い愛情に翻弄される番を描いた、とろ甘溺愛ラブストーリー。

契約結婚から始まる公爵家改造計画 ~魔力ゴミ令嬢は最強魔術師の胃袋をつかみました~

夢喰るか
恋愛
貧乏男爵令嬢エマは、破格の報酬に惹かれて「人食い公爵」と恐れられるヴォルガード公爵邸の乳母に応募する。そこで出会ったのは、魔力過多症で衰弱する三歳のレオと、冷酷な氷の魔術師ジークフリート。前世の保育士経験を持つエマは、自身の「浄化魔力」で作った料理でレオを救い、契約結婚を結ぶことに。エマの温かさに触れ、ジークフリートの凍りついた心は次第に溶けていく。

「地味で無能」と捨てられた令嬢は、冷酷な【年上イケオジ公爵】に嫁ぎました〜今更私の価値に気づいた元王太子が後悔で顔面蒼白になっても今更遅い

腐ったバナナ
恋愛
伯爵令嬢クラウディアは、婚約者のアルバート王太子と妹リリアンに「地味で無能」と断罪され、公衆の面前で婚約破棄される。 お飾りの厄介払いとして押し付けられた嫁ぎ先は、「氷壁公爵」と恐れられる年上の冷酷な辺境伯アレクシス・グレイヴナー公爵だった。 当初は冷徹だった公爵は、クラウディアの才能と、過去の傷を癒やす温もりに触れ、その愛を「二度と失わない」と固く誓う。 彼の愛は、包容力と同時に、狂気的な独占欲を伴った「大人の愛」へと昇華していく。

婚約破棄された夜、最強魔導師に「番」だと告げられました

阿里
恋愛
学院の祝宴で告げられた、無慈悲な婚約破棄。 魔力が弱い私には、価値がないという現実。 泣きながら逃げた先で、私は古代の遺跡に迷い込む。 そこで目覚めた彼は、私を見て言った。 「やっと見つけた。私の番よ」 彼の前でだけ、私の魔力は輝く。 奪われた尊厳、歪められた運命。 すべてを取り戻した先にあるのは……

【完結】「不吉な黒」と捨てられた令嬢、漆黒の竜を「痛いの飛んでいけー!」で完治させてしまう

ムラサメ
恋愛
​漆黒の髪と瞳。ただそれだけの理由で「不吉なゴミ」と虐げられてきた公爵令嬢ミア。 死の森に捨てられた彼女が出会ったのは、呪いに侵され、最期を待つ最強の黒竜と、その相棒である隣国の竜騎士ゼノだった。 しかし、ミアが無邪気に放った「おまじない」は、伝説の浄化魔法となって世界を塗り替える。 向こう見ずな天才騎士に拾われたミアは、隣国で「女神」として崇められ、徹底的に甘やかされることに。 一方、浄化の源を失った王国は、みるみるうちに泥沼へと沈んでいき……?

本の虫令嬢ですが「君が番だ! 間違いない」と、竜騎士様が迫ってきます

氷雨そら
恋愛
 本の虫として社交界に出ることもなく、婚約者もいないミリア。 「君が番だ! 間違いない」 (番とは……!)  今日も読書にいそしむミリアの前に現れたのは、王都にたった一人の竜騎士様。  本好き令嬢が、強引な竜騎士様に振り回される竜人の番ラブコメ。 小説家になろう様にも投稿しています。

狂おしいほど愛しています、なのでよそへと嫁ぐことに致します

ちより
恋愛
 侯爵令嬢のカレンは分別のあるレディだ。頭の中では初恋のエル様のことでいっぱいになりながらも、一切そんな素振りは見せない徹底ぶりだ。  愛するエル様、神々しくも真面目で思いやりあふれるエル様、その残り香だけで胸いっぱいですわ。  頭の中は常にエル様一筋のカレンだが、家同士が決めた結婚で、公爵家に嫁ぐことになる。愛のない形だけの結婚と思っているのは自分だけで、実は誰よりも公爵様から愛されていることに気づかない。  公爵様からの溺愛に、不器用な恋心が反応したら大変で……両思いに慣れません。

義妹に婚約者を譲りました。貧乏伯爵に嫁いだら、溺愛と唐揚げが止まりません

夢窓(ゆめまど)
恋愛
「お姉さまの婚約者が、欲しくなっちゃって」 そう言って、義妹は私から婚約者を奪っていった。 代わりに与えられたのは、“貧乏で無口な鉄面皮伯爵”。 世間は笑った。けれど、私は知っている。 ――この人こそが、誰よりも強く、優しく、私を守る人、 ざまぁ逆転から始まる、最強の令嬢ごはん婚! 鉄面皮伯爵様の溺愛は、もう止まらない……!