10 / 11
① ※一部残酷な表現を含みます
しおりを挟む
~松野あけみside①~
私は、あけみ。松野あけみ。
長女として生まれたけれど、両親の望む性別ではなかった。
古い考えの両親のもとで、「女なんて役に立たない」と必要最低限の世話以外、何もしてもらえずに一人で過ごした。
私が6歳のとき、弟が生まれた。
待望の男の子。両親は手放しで喜んだ。
「やっと生まれた。この子は宝ね」
「あぁ、私たちの宝だ」
そう大切に、大切にされる弟を見て、自分の価値なんてどこにもないのだと自分を呪った。
弟が羨ましい。弟になりたい。
....弟が死ねば。子供が私だけになれば。仕方なくでも、私のことを見てくれる?
あけみは、壁に固定されている棚のネジを緩めた。
両親が別の部屋で弟を可愛がっている隙に。
簡単だよ。....私のことなんて誰も見ていないから。
緩んだネジに誰も気付かない。
緩めたあけみしか知らない。
古くなってガタが来ている棚。
壁に固定しておかないと倒れてしまう棚のネジ。
少し力を加えれば、今にも倒れそうで...あけみはにやっと笑う。少女らしからぬ顔で。
「悠太(ゆうた)が寝たわ。.....そこ、どいてちょうだい。大切な悠太がお昼寝する布団よ。触らないで」
「.......」
冷たく凍りつきそうな声音にも、あけみは無表情。こんなの慣れっこだ。
あけみはスッとその場を離れる。
数メートルだけ。
「さ....可愛い悠太。ねんねしましょうね」
寝息を立てる愛する息子を、宝物を扱う手つきでそっと布団に下ろした母。
向けられたことのない優しげな笑みを、弟に向ける『私だけの』お母さん。
ぐっすり寝入っていることを確認して、母が体を離す。
あけみは、弟に初めて話しかけた。心の中で。
.....さようなら。
ガタン!!!....ぐしゃっ。
「.....きゃぁぁあーーー!!ゆ、ゆうたぁあ!!ゆうたぁーーー!!!あなた!あなたぁ!早く、早く来てぇーーー!!」
「.....は、ははっ」
棚に押しつぶされた弟をみて、不気味に笑う6歳の少女。
あけみが......初めて人を殺した瞬間。
*****
弟が死んで、両親は亡き骸みたいに何もしなくなった。
あけみのごはんでさえ、作ることがなくなり。
最低限していた世話を放棄した。
あけみは、児童養護施設に一時入所。
数年して、また家族のもとに戻ったが、両親は以前にもましてあけみに興味をもたなかった。
あけみの手には、いつも灰色のハンカチ。
どこかのバザーで見つけた、価値がないほどの安価のハンカチ。
でも、学校に持っていくために、母が名前を書いてくれたハンカチ。
もう、あけみに視線さえ向けない母が....この名前を書いた瞬間だけは、あけみの存在を認めた。
そんなハンカチ。
ボロボロになっても、これだけは私のもの。
私だけの母の....唯一の記憶。
*****
「なぁ....松野ってさ、気味悪くね?俺....苦手なんだよ。怖いっていうか」
「あー....なんか、影があるよな」
みんな遠巻きに見てる。
両親にも愛されない、無価値な私を。
このまま誰にも愛されずに。
誰にも悼まれずに。
私が死んでも誰も気付かないのね、きっと。
「....あれ?ハンカチ、落ちたよ?」
「......」
「松野...あけみ、さんだっけ?....はは、どうしたの?固まって。...はい、これ。松野さんのだよね。....それさ.....大切に使ってるんだね」
「.......」
山本圭吾。
名前を呼んでくれた。私の、名前。
大切なハンカチ。
わかってくれた....気づいてくれた。
母が名前を書いてくれたハンカチ。
『あなたが拾ってくれた』......宝物のハンカチ。
好き。すごく好き。あなたが大好き。
『私だけの』山本くんーーー。
※次話、「松野あけみside②」で完結予定です。あと少し、どうぞお付き合い頂けますと幸いです。
私は、あけみ。松野あけみ。
長女として生まれたけれど、両親の望む性別ではなかった。
古い考えの両親のもとで、「女なんて役に立たない」と必要最低限の世話以外、何もしてもらえずに一人で過ごした。
私が6歳のとき、弟が生まれた。
待望の男の子。両親は手放しで喜んだ。
「やっと生まれた。この子は宝ね」
「あぁ、私たちの宝だ」
そう大切に、大切にされる弟を見て、自分の価値なんてどこにもないのだと自分を呪った。
弟が羨ましい。弟になりたい。
....弟が死ねば。子供が私だけになれば。仕方なくでも、私のことを見てくれる?
あけみは、壁に固定されている棚のネジを緩めた。
両親が別の部屋で弟を可愛がっている隙に。
簡単だよ。....私のことなんて誰も見ていないから。
緩んだネジに誰も気付かない。
緩めたあけみしか知らない。
古くなってガタが来ている棚。
壁に固定しておかないと倒れてしまう棚のネジ。
少し力を加えれば、今にも倒れそうで...あけみはにやっと笑う。少女らしからぬ顔で。
「悠太(ゆうた)が寝たわ。.....そこ、どいてちょうだい。大切な悠太がお昼寝する布団よ。触らないで」
「.......」
冷たく凍りつきそうな声音にも、あけみは無表情。こんなの慣れっこだ。
あけみはスッとその場を離れる。
数メートルだけ。
「さ....可愛い悠太。ねんねしましょうね」
寝息を立てる愛する息子を、宝物を扱う手つきでそっと布団に下ろした母。
向けられたことのない優しげな笑みを、弟に向ける『私だけの』お母さん。
ぐっすり寝入っていることを確認して、母が体を離す。
あけみは、弟に初めて話しかけた。心の中で。
.....さようなら。
ガタン!!!....ぐしゃっ。
「.....きゃぁぁあーーー!!ゆ、ゆうたぁあ!!ゆうたぁーーー!!!あなた!あなたぁ!早く、早く来てぇーーー!!」
「.....は、ははっ」
棚に押しつぶされた弟をみて、不気味に笑う6歳の少女。
あけみが......初めて人を殺した瞬間。
*****
弟が死んで、両親は亡き骸みたいに何もしなくなった。
あけみのごはんでさえ、作ることがなくなり。
最低限していた世話を放棄した。
あけみは、児童養護施設に一時入所。
数年して、また家族のもとに戻ったが、両親は以前にもましてあけみに興味をもたなかった。
あけみの手には、いつも灰色のハンカチ。
どこかのバザーで見つけた、価値がないほどの安価のハンカチ。
でも、学校に持っていくために、母が名前を書いてくれたハンカチ。
もう、あけみに視線さえ向けない母が....この名前を書いた瞬間だけは、あけみの存在を認めた。
そんなハンカチ。
ボロボロになっても、これだけは私のもの。
私だけの母の....唯一の記憶。
*****
「なぁ....松野ってさ、気味悪くね?俺....苦手なんだよ。怖いっていうか」
「あー....なんか、影があるよな」
みんな遠巻きに見てる。
両親にも愛されない、無価値な私を。
このまま誰にも愛されずに。
誰にも悼まれずに。
私が死んでも誰も気付かないのね、きっと。
「....あれ?ハンカチ、落ちたよ?」
「......」
「松野...あけみ、さんだっけ?....はは、どうしたの?固まって。...はい、これ。松野さんのだよね。....それさ.....大切に使ってるんだね」
「.......」
山本圭吾。
名前を呼んでくれた。私の、名前。
大切なハンカチ。
わかってくれた....気づいてくれた。
母が名前を書いてくれたハンカチ。
『あなたが拾ってくれた』......宝物のハンカチ。
好き。すごく好き。あなたが大好き。
『私だけの』山本くんーーー。
※次話、「松野あけみside②」で完結予定です。あと少し、どうぞお付き合い頂けますと幸いです。
21
あなたにおすすめの小説
同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。
ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。
真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。
引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。
偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。
ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。
優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。
大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
遺産は一円も渡さない 〜強欲な夫と義実家に捨てられた私、真の相続人と手を組み全てを奪い返す~ (全10話)
スカッと文庫
恋愛
「お前の価値なんて、その遺産くらいしかないんだよ」
唯一の肉親だった祖父を亡くした夜、夫の健一と義母から放たれたのは、あまりにも無慈悲な言葉だった。
四十九日も待たず、祖父が遺した1億2000万円の遺産をアテに贅沢三昧を目論む夫。だが、彼には隠し通している「裏切り」があった――。
絶望の淵に立たされた由美の前に現れたのは、亡き祖父が差し向けた若き凄腕弁護士・蓮。
「おじい様は、すべてお見通しでしたよ」
明かされる衝撃の遺言内容。そして、強欲な夫たちを地獄へ叩き落とすための「相続条件」とは?
虐げられてきた妻による、一発逆転の遺産争奪&復讐劇がいま幕を開ける!
【完】25年後、君と答え合わせ
こころ ゆい
ミステリー
※完結いたしました。初めてのコンテストで、完結まで辿り着けたこと。全ては読者の皆様のおかげです。本当に、本当に、ありがとうございました!
東山 花乃(ひがしやま かの)24歳。
花乃は、病気に侵され、小さい頃から目がほとんど見えていない。身体も一部麻痺している。
そんな彼女には異性の親友がいた。
手越 千春(てごし ちはる)29歳。
5歳の頃、院内で出会った男の子。成長して医師になり、今では花乃の担当医をしてくれている。
千春の祖父は、花乃の入院する大きな病院の医院長。千春は将来この病院を継ぐ跡取りだ。
花乃と出会った頃の千春は、妙に大人びた冷めた子供。人を信用しない性格。
交流を続けるなかで、花乃とは友人関係を築いていくが、まだどこか薄暗い部分を抱えたまま。
「ずっと友達ね」
無邪気に笑う花乃に、千春は言った。
「ずっと友達、なんてありえない」
「...じゃぁ、25年後、答え合わせをしましょう?」
「25年後?」
「そう。25年後、あなたと私がまだ友達か。答え合わせするの」
「いいけど...どうして25年後なの?」
「...それは秘密。25年後のお楽しみだよ」
そんな会話を出会った頃したことを、千春は覚えているだろうか。花乃は、過保護な千春や両親、友人たちに支えられながら、病気と向き合っていく。
しかしーー。
ある日、花乃は千春に関する不穏な噂を耳にする。
それをきっかけに、花乃は千春にまつわるある事実を知ることになっていくーー。
25年後、花乃と千春が出した答えとは?
🌱この物語はフィクションです。登場人物、建物、題材にされているもの、全て作者の考えた架空のものです。実際とは異なります。
🌱医療行為として、チグハグな部分があるかもしれません。ご了承頂けると幸いです。
君は恋人、でもまだ家族じゃない
山田森湖
恋愛
あらすじ
同棲して3年。
毎朝コーヒーを淹れて、彼の寝ぼけた声に微笑んで、
一緒に暮らす当たり前の幸せを噛みしめる——そのはずだった。
彼女は彼を愛している。
彼も自分を愛してくれていると信じている。
それでも、胸の奥には消えない不安がある。
「私たちは、このまま“恋人”で止まってしまうの?」
結婚の話になると、彼はいつも曖昧に笑ってごまかす。
最初は理由をつけていたのに、今では何も言わなくなった。
周囲の友人は次々と結婚し、家族を持ち始めている。
幸せそうな写真を見るたび、彼女の心には
“言えない言葉”だけが増えていく。
愛している。
でも、それだけでは前に進めない。
同棲という甘い日常の裏で、
少しずつ、確かにズレ始めているふたりの未来。
このまま時間に流されるだけの恋なのか、
それとも、家族へと歩き出せる恋なのか——。
彼の寝息を聞きながら、
彼女は初めて「涙が出そうな夜」を迎えていた。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
今日、愛する両親が死にました。
こころ ゆい
ホラー
17歳の谷口紅子(たにぐち べにこ)は、田舎町に住んでいた。
都会とは離れた町だが、過疎とは無縁。
緑豊かな環境、畑でとれる美味しい野菜、
一応整った医療環境と教育環境。
子育てにはそこそこいい環境のため、子供は比較的多かった。
優しい両親や周囲の大人たちは、いつも何かと世話を焼いてくれる。
年頃の紅子にとっては、少しばかりお節介だと感じることはあるものの、日々そこにある当たり前の幸せを感じていた。
だがーー。
18歳の誕生日を迎えた日、紅子の日常は突如として変化する。
それは、優しい両親から告げられた、『ある話』から始まった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる