【13章まで完結】25人の花嫁候補から、獣人の愛され花嫁に選ばれました。

こころ ゆい

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孤独な狼✖︎砂時計=甘い夜?(四章の『その後』です)

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「....これ、本当なのかしら」

 今、百合子は小さな丸テーブルに置かれた砂時計と睨めっこしていた。

 光沢のある黒の砂が入った、25分を計れるもの。木枠の色は明るめのオークルで、ごく普通の...どこにでもありそうな砂時計だ。

「まさか....ねぇ」

 だが、百合子はそれを横から見たり上から見たり、斜めからみたり。とにかく色んな角度からじっくりと眺めている。

「...うん。やっぱり、騙されたのよね。...なんだか怪しいおばあさんだったし」

 ぶつぶつと顎に手を当て漏らすひとりごとは、シンと静かな室内にやたらと響いた。

「....でも」

 ーーもしかしたら....もしかしない.....かな?

 百合子はしばらくじっと思案してから....ゆっくりとその砂時計に手を伸ばした。



「百合子さん!ごめん!ほんっとうに、ごめん!」
「....どうしてもダメなんですか?」
「.....ああ。どうしても....難しそうなんだ」

 今朝。朝日がかろうじてのぼりはじめた、まだ早い時間帯。百合子と黎の部屋に、項垂れた声が響いた。

 二人は向かいあって、何やら黎がひらにひらに謝っていた。百合子は納得いかない様子で、眉を下げている。

「....俺も楽しみにしてたんだけど。....どうしても今日中に新しい原稿を仕上げてくれって言われてしまって。...いつもなら待ってもらえるんだけど、今回はダメらしくて」
「...........」

 今日は、百合子の行きたがっていた場所に泊まりがけで出かける予定を立てていた。

 レストランで食事したり、テーマパークで遊んだり。あとは、その場所にある美術館で百合子の好きな画家の展覧会が期間限定で開催されていて。それも楽しみにしていた。

 夜は、ずっと泊まってみたかったホテルを予約していたし。

 とにかく....百合子はこの日を楽しみに、毎日過ごしていたのだ。

 それに黎とのお出かけもワクワクしていた。
 いつもよりオシャレして、黎と手を繋いで。
 ラブラブで過ごす予定だったのに。

 もちろん、黎はいつも優しいし....百合子一筋で、ベッタリすぎるくらいなんだけど。

 でも、いつもと違う場所で、いつもと違う雰囲気で。
 たまにはそんな過ごし方もいいなって...思ってたのに。

 たった今。黎の仕事の都合で、予定はキャンセルになった。

「.....わかりました」
「....ごめん」
「....いいえ、お仕事なら仕方ないですし」
「..........」

 黎は、本当に申し訳なさそうにしていて、これ以上話を引き延ばすのは良くないだろう。
 いつも百合子を最優先に考える黎のことだから、きっと何とかならないかと、頑張って掛け合ってくれたに違いない。

 でも、黎は売れっ子だ。
 色々な出版社から、新作を書いてくれないかと打診されるくらいなのだから....そりゃ、こういうこともある。

 無理やり納得しようとしたが、どうも心は晴れない。

 そしてーー。

 百合子は少しだけ意地悪したくなった。
 いつもならそんな気持ちにならないのだが....
 自分は相当、お出かけを楽しみにしていたらしい。

「....予約をキャンセルするのもったいないですし。私...ひとりで行ってきます」
「......へ!?ひ、ひとりで!?」

 黎は、嫉妬深く、心配性。常に百合子のそばにいたがるベッタリ気質。

 結婚してから、さらに黎のことをよく理解していた百合子は、多分...こう言えば黎が心配してくることはわかっていた。

 だから、敢えて言ったのだ。
 ちょっと困らせてやろうと思って。

「....じゃあ。もう電車の時間になっちゃうので。行ってきます。黎さんはお仕事頑張って下さいね?」

 にこやかに笑って。荷物を持って玄関まで歩いた。
 黎は正座していた足で慌てて立ち上がって、追いかけてくる。

「あ....ま、まって!危ないよ!ひとりでなんて」
「....どうしてですか?」

 靴を履いてから、じっと黎を見て尋ねれば。
 黎は気まずげな顔をしながらモゴモゴしている。

「....だって....そんな、一人で旅行なんて....知らない場所だし。それに....」

 ーー男が寄ってくるかも。

「.....俺の百合子さんなのに....男が話しかけるだけでも、絶対嫌だ。.....話してほしくない」

 後半、想像したのか....黎の顔が険しくなって。
 若干怯んでしまったけれど。

 百合子は引くに引けなくて....そのまま背を向けてしまった。

「...大丈夫ですよ!あ、もう時間だ。じゃあ、黎さん、行ってきますね。お土産買ってきますから~」
「ああっ!ゆ、百合子さん!....そんなぁ.....」

 ガクッと力無く項垂れた黎が視界の端にうつったが、百合子は足を止めなかった。

 そうして、朝から一人旅を『楽しんでいた』というわけだがーー。



「....おじょうさん、おじょうさん」
「.....え?....わ、私?」

 コクリと、その人物は頷いた。

 百合子は黎とわかれ、綺麗な列車に乗って、優雅に目的地に到着。もとから予定していたものを、半ばやけくそになって、一人で全部網羅した。

 そしてホテルに向かっていたところで、知らない老婆に声をかけられたのだ。

 暗い路地の手前で、占い師みたいに小さなテーブルを置いて座っていた老婆はなんとも怪しげな雰囲気をまとっていた。

 顔を隠しているわけでもなく、こわい表情をしているわけでもなく。言うなれば普通の老人なのに....言葉では表現できない凄みがあった。

 無視すればいいものを、何故か素直に反応してしまった百合子は、呼ばれるまま....老婆の近くまで寄っていく。

 空は夕暮れ時。夜の気配が迫ってきていた。

「....おじょうさん。寂しそうだね」
「......え?」
「....一人だからってんじゃない。....誰か、会いたい人がいるのかい?」
「..........」

 ぎくりとした。今日一日楽しかった....はずだった。
 美味しいものを食べ、行きたかった場所を巡って。
 時間を気にせず好きなことをして。

 だがーー。

 やはり心は晴れないままで。
 ずっと頭の中には、黎がいたのだ。

(....やっぱり二人で来たかった)

 どうにもその思いが拭えず、諦めてホテルで休むことにしたのが、ついさっきなのだ。

 今朝、意地悪をしてしまった黎の顔がチラついて。
 老婆に問われた時に、思ってしまった。

 ーー今すぐに黎に会いたい。

「ふふふ、居るんだね」
「......えっと」

 どう答えたものか。そもそも、この怪しい人物と何故、自分は話し込んでいるのか。

 そんな思いで黙っていると、老婆がスッと何かを取り出し.....差し出してきた。

 それは、何の変哲もない砂時計。

「これ....おじょうさんにあげるよ」
「.....砂時計?」
「ああ。....でもただの砂時計じゃあ、ない」
「.........?」

 ニタァと笑みを浮かべて、老婆は言った。

「....魔法の砂時計さ。....中の砂が落ち始めて、最後の一粒が落ちるまでの25分間。会いたい人物が目の前に現れるって代物さ」
「....そんな、わけ」
「ふふふふ。嘘だと思うなら、試してみたらいい」
「..........」

 普通なら信じない。それに魔法だなんてありえない。
 わかっていたが、何となく。....ほんのちょっぴり。
 興味が湧いてしまって....結局、百合子は老婆から砂時計を受け取ってしまった。

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