エイミーとマンホール下のハロウィン界

Haru

文字の大きさ
10 / 24
第10章

【アレクの涙】

しおりを挟む

…人間界の者よ。少し俺の話を聞いていかないか?

エイミーはアレクの言葉を聞き、少し考えてから頷いた。

「ええ、聞いていくわ」

「おいエイミー、さっき時間が無いとどれだけ…」

ジャックがそれを止めようとすると、ドクロが口を挟んだ。

「大丈夫。まだ時間はある。
それにアレクが人間界の者にこれだけ口を利くってことは、きっと大事な話なんだ。少しだけ聞いていこう」

フレディはさっきからアレクの姿を怖がり、震えながらエイミーの足にしがみついている。
イヴは静かにアレクの方を見ていた。

「話を聞かせてちょうだい」

エイミーはアレクに微笑んで言った。
アレクは相変わらず笑う事無く、ゆっくりと話し始めた。

「…俺は人間界に住んでいた間、人間界の者達にとても恐れられていた。
それもその筈だろう。
俺達の見てくれは人間界の者とは大きく異なる。
その中でも俺には、この鋭い大きな牙があるからな。
確かにその当時は、普通のドラキュラのように生き血を吸って生きていた。
ただ、悪意の無い者の血は頂かなかった。
俺は何度も狩に遭って死にかけた。
味方などいなかった。
きっと俺は、人間界の者の目には無差別に生き血を吸う殺人鬼のように映っていたんだろう」

アレクはそこまで話すと一つ、低く大きな溜め息を吐いた。
外ではまだ雨が降り続いている。
今にもまた落ちそうな雷の音があちらこちらから聞こえてくる。
エイミーは真剣な表情でアレクの言葉に耳を傾けていた。
ドクロも珍しく、落ち着いた表情でアレクの方を見ていた。
ジャックは早く済ませろと言いたげな表情で時々エイミーを横目に見ながら、一定の場所をはたはたと飛んでいる。
エイミーには一つ、疑問に思うことがあった。
アレクはそんな目に遭うことを想定していたのだろうか?
その筈は無いだろう。
何故、人間界に住もうと思ったのだろう?

エイミーの疑問を見透かすかのようにアレクが再び口を開いた。

「何故、俺が人間界に住んでいたのかって?
…俺の場合ただ単に、興味があったんだ。
人間界に。人間界の者に。
俺達は人間界の者とは違い、自由にこの世界から人間界へ出入りが可能だ。
当時はこのハロウィン界の掟にも少し疑問があった。
人間界の者達と分かり合えると少しの期待もあった。
…だが俺の考えが甘すぎた。
人間界に行ってみてその掟にも納得がいったよ。
俺が馬鹿だった…」

遠くの方で雷が落ちた。
さっきよりは弱い雷だった。
再びその雷の光で、少しだけアレクの姿が映し出された。
アレクは泣いていた。
一筋の涙が頬を伝っているのが見えた。
当時のことを鮮明に思い出しているのだろう。
ジャックとイヴとドクロは静かに窓の外を眺めていた。
単純なフレディは相変わらずエイミーの後ろに隠れながらも、貰い涙を流しているようだ。
エイミーは黙ってアレクを見つめていた。
かける言葉が見つからなかった。

アレクは続けた。

「逃げ回った末結局ハロウィン界に帰省したが、俺には家族すらいない。
しばらくこの森の館に閉じこもっていた。
孤独な日々が続いた。
そんな時森に迷ったらしい1人の来客が訪れた。
それがドクロだった。
ドクロも俺と同じように気味の悪い恐ろしい見てくれをしている故に、敵視されることや不快がられ嫌われることも多いそうだ。
だがドクロは悲観的にならずにいつも楽しそうに笑っていた。
出会った日も陽気に沢山話をしてくれた。
その日から俺とドクロは親友になったんだ」

ドクロはそれを聞くと、さっきまで真剣だったのが嘘のように、いつものように大きな口を開けてカカカカカッと笑った。

「アレク、私も君には感謝しているよ。
なんせ、君は私の唯一の親友なんだから」

それを聞くと、アレクは低い声で笑った。
暗闇の中でも、エイミーにはアレクの笑顔が想像出来た。

エイミーは笑いながらアレクに礼を言った。

「アレク、沢山話してくれてとても嬉しかったわ。ありがとう。
それと、笑顔の方がいいわよ」

アレクはエイミーに答えた。

「…君は、他の人間界の者とは少し違うようだな」

その口調は、さっきよりも少しだけ柔らかな口調に聞こえた。
それからアレクは真剣な声になってエイミーに言った。

「君がまたこの世界に迷い込んだということは、俺にはなにかまた重大なことが起こるような気がするんだ。
なんだか胸騒ぎがする。
なにが起こるかは分からない。
反対に、なにも起こらないのかもしれない。
だがこの嫌な予感がなにかを予知しているような気がするんだ…。
話が長くなってすまない。
先に進め。俺はここに残る」

エイミーはそれを聞くと、わけもわからず頷いた。

「話が読めないのだけれど…なんだか急いだ方がよさそうね。
さあ、ジャック、フレディ、イヴ、ドクロ、行きましょう」

「また近い間に遊びに行くよ」

ドクロはアレクに陽気に笑いながら手を振ると、隠し扉を右手で押した。
扉が開ききると、ジャックは待ちくたびれたとでも言いたげに扉の向こうに出て行った。
続いてフレディとイヴ、そしてドクロも扉の向こうに出た。

「エイミー」

エイミーが彼らの後ろに続いて扉から出ようとすると、アレクがエイミーを再び呼び止めた。
アレクがエイミーの名前を呼んだのは、これが初めてだった。

エイミーはアレクを振り返った。

アレクはエイミーに言った。

「…ありがとう。幸運を祈る」

エイミーは笑顔で頷いた。
そしてアレクに一礼すると、扉の向こうに出た。
そしてゆっくりと扉を閉めた。

ギイィ…バタン

扉が閉まると、アレクはまた1人きりになった。

ゴーーン……ゴーーン……

その時、2度目の鐘が鳴った。

激しい雨は、いつの間にか止んでいた。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

甲斐ノ副将、八幡原ニテ散……ラズ

朽縄咲良
歴史・時代
【第8回歴史時代小説大賞奨励賞受賞作品】  戦国の雄武田信玄の次弟にして、“稀代の副将”として、同時代の戦国武将たちはもちろん、後代の歴史家の間でも評価の高い武将、武田典厩信繁。  永禄四年、武田信玄と強敵上杉輝虎とが雌雄を決する“第四次川中島合戦”に於いて討ち死にするはずだった彼は、家臣の必死の奮闘により、その命を拾う。  信繁の生存によって、甲斐武田家と日本が辿るべき歴史の流れは徐々にずれてゆく――。  この作品は、武田信繁というひとりの武将の生存によって、史実とは異なっていく戦国時代を書いた、大河if戦記である。 *ノベルアッププラス・小説家になろうにも、同内容の作品を掲載しております(一部差異あり)。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

どうぞ、おかまいなく

こだま。
恋愛
婚約者が他の女性と付き合っていたのを目撃してしまった。 婚約者が好きだった主人公の話。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

処理中です...