エイミーとマンホール下のハロウィン界

Haru

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第11章

【森の番人】

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エイミー達は急いでいた。
ジャックは慌ただしそうにエイミー達の先頭を飛ぶ。
そして後ろを振り返ること無く怪訝そうにエイミーに言った。

「エイミー、君の好奇心旺盛な性格には参った。
本当に厄介だ。
興味が湧くものを見つけただけですぐに寄り道し出すんだからな。
どうしようも無いよ。
もう2度目の鐘がなってしまった。
急ぐぞ。まずはこの薄気味悪い森を抜けるんだ」

「ええ…ごめんなさい。
どうしてもアレクの話を聞いて行きたかったの」

まさかもう2度目の鐘が鳴ってしまうとは想定していなかったエイミーは、少し焦りながらジャック達に謝った。
この世界は厄介なものだ。
人間界のように朝陽が昇らないのだから、1日1日の区切りが分からない。

ふと、エイミーの脳裏にロンの顔が浮かんだ。
時計の修理には5日間ほどかかるとロンは言っていた。
あと、3度…3度目の鐘が鳴る前にロンの元へ戻ると約束した。
エイミーは森を進みながら少しばかり考えた。
時計が元に戻ったら、私は人間界に帰れる。
そして、この世界にいた時の私の記憶は全てリセットされる。
ジャックもロンもそう言っていた。
でも、どうなるのだろう?
2度とこの場所には戻れないのだろうか。
いや、私の帰るべき場所は人間界なんだ。
ここで峠の魔女に会って話を聞いて、少しでも早くお婆ちゃんの元に、たった1つの私の家に帰らなければ。
しかし、ここの可笑しな住人達とはもう顔を合わすことなど無いのだろうと考えると、エイミーは彼らの背中を見つめながら少し哀しくなった。

エイミーが悶々としていると、ふとフレディが不安げに口を開いた。

「ねえ、皆。
さっきアレクが言っていたのはどういう意味なんだろうね。
エイミーがまたこの世界に迷い込んだのは、なにかまた重大なことが起こるのかもって…。
僕、なんだか怖い…不安だよ」

ドクロがフレディを安心させるように優しく慰める。

「まあ、決まったことじゃないんだ。
ただのアレクの思い過ごしかもしれないだろう?
先のことばかり考えていても不安が募るだけだ。
今はまず、峠へ向かおう。
考えるなら、峠の魔女に会ってから考えればいい」

ジャックも前を飛びながらフレディを振り返り言った。

「そうだぞフレディ、オレ達には時間が無いんだ。
なんせ5度目の鐘が鳴れば、エイミーとはお別れなんだ。
せっかく再び出会えたんだから、今を楽しんでおけよ」

それにしても、まるで迷路のように厄介な森だ。
この森を住みかにしているドクロがいなければ、きっと道に迷ってしまっただろう。

その時だった。
突然イヴがなにかを察したように警戒した鳴き声を上げた。
なにやらイヴは、上の方を見上げている。

ガサ…ガサガサッ

気味の悪い音が響いた。
あたりは緊迫した空気に包まれた。
エイミーはドクロのランプを借りてイヴの見上げる方向に掲げた。

ざわ…ざわ…

草木が気味の悪い音を立てて揺れている。
木の上に、なにかがいる…?

エイミーはゆっくりと木の上に向かって問いかけた。

「誰なの…?誰かいるの?」

返事は無い。
ドクロがようやく危険を察したようにエイミー達にひそひそ声で説明し出した。

「この森には番人がいる。
きっと、この音はそいつだ。
そいつは中々話が通じ難い。危険だ。
しばらく息を潜めていてほしい。
私達の居場所がバレさえしなければ、きっと諦めてどこかへ立ち去るだろう」

ビビり屋フレディはガタガタと震えながら姿を消した。
エイミーはすぐにランプの灯りを消した。
そしてその場に音を立て無いようにしゃがみ込んだ。
その時だった。
ジャックの翼が木の枝に引っかかってしまったのだ。

ガサッ、と音が鳴ってしまった。

その途端、
バサササササササッ!!

大きな音が聞こえると共に、上の方からなにかが大量に落ちてきた。

「!?」

カランッ

エイミーは思わずランプを落とした。
その衝動でランプのスイッチが点灯してしまった。

エイミー達はその場に倒れこんだ。
手足が動かせない。
大量の糸のようなものがエイミー達の手足を締め付けていた。

エイミーはおもむろに目を開いた。
落としたランプは手が届きそうで届かない場所に転がっている。
しかし、点灯したランプの灯りが丁度木の上の方を照らしていた。
そのおかげでその正体が分かった。

…それの正体は巨大なタランチュラだった。
オレンジとブラックの縞模様のような気味の悪い体の色をしている。
タランチュラはエイミー達を見下ろして笑った。

「ケケケケ、馬鹿め。
そう簡単に俺様が獲物を逃すと思うなよ。
貴様らはもう俺様の食料だ。
諦めろ」

エイミーはそれを聞くと、タランチュラを見上げてキッと睨んだ。

「なんですって?
この糸を解いてちょうだい!
私達を食べるって言うの?」

タランチュラは片目を歪めながら言った。

「…うるさい小娘だな。
人間界の奴か?
久しぶりの食料達なんだ。
ここで解いてやるほど俺様は馬鹿じゃない」

ドクロも起き上がろうと抵抗しながら穏便な口調でタランチュラに言った。

「私達は森を荒そうとしているわけでは無い。
君にも気害は与え無い。
峠へと向かう最中なんだ。
頼むから糸を解いてくれ」

ジャックとイヴは無言でタランチュラを見上げていた。

タランチュラはドクロを鼻で笑った。

「やーだね。
森が荒されるだ荒らされないだそんなことはどうでもいい。
ただ俺様は今腹が減ってんだ」

タランチュラはそう言い放つと、カサカサと木の上から降りた。
そしてエイミー達を見回して、舌舐めずりをした。

「さてさて、どいつから頂こうか」

エイミーはどうにか抵抗しようと手足をバタつかせた。
しかし、糸は粘着テープのように身体に張り付いて離れない。

エイミーはタランチュラに叫んだ。

「見逃して…お願いよ!
私はここで終わるわけにはいかないの!」

タランチュラはエイミーにぐんと近づいて不敵な笑みを浮かべた。

「終わる?
なんだか知らねえが、おまえはここで終わるんだよ。
さあ、1番耳触りなおまえから頂くとするか」

エイミーはぎゅっと目を瞑った。
ドクロが慌てて叫んだ。

「エイミー…!」

その時だった。

ガツン!!!!

鈍く、大きな音が森の中に響いた。
驚いたコウモリ達がバサバサと飛び立つのが分かった。

エイミーがゆっくりと目を開けると、タランチュラがその場にドサリと崩れ落ちた。
その後ろには、大きな岩を持ったフレディが立っていた。

「フレディ…!」

エイミーが目を見開いていると、フレディはエイミーに駆け寄った。

「僕だけ姿が消せるから、罠に引っかからなかったんだ。
タランチュラは僕にだけ気づいていなかった。
今、糸を解くから、じっとしていて」

フレディは大きな枝を使ってエイミー達に絡まっている糸を解き始めた。
フレディは震えていた。
どうやらタランチュラは気絶しているようだ。

エイミーは安心した表情になってフレディに礼を言った。

「助けてくれてありがとう…。
フレディって案外力持ちなのね」

全員の糸を解き終えると、フレディはエイミーに抱きつき呟いた。

「エイミー達は、僕が守る…」

ドクロは起き上がり、手を払いながら言った。

「さあ、森の出口はあとほんの少しだ。
エイミー、フレディ、ジャック、イヴ…行こう」

ジャックはすっかり不機嫌になって言った。

「全く、ろくな目に遭わない…。
タランチュラの意識が戻る前に、こんな森、さっさと出るぞ」

ドクロはランプを拾い上げると、先頭を歩き出した。
そして少し歩いてすぐにエイミー達を振り返り手招きした。

「ほら、見えてきた。あれが出口だ」

森から出ると、エイミー達は解放された気分になり深く大きなため息を吐いた。
森の出口からは、しばらく平らな小道が続いているようだった。
エイミー達はその道を進んだ。
なんだか久しぶりに空を見るようだ。
エイミーは天を仰いだ。
星達が疎らにキラキラと散らばっている。

小道を歩いて数分くらい経っただろうか。
大きな墓地があった。

「なんだか嫌な予感がするわ…」

エイミーはボソリと呟いた。
1つ1つの墓に、十字架が立っている。
ぽつりぽつりと紫色の火の玉が飛んでいた。
エイミー達が墓地の奥に進むと、後ろから嫌な音が聞こえた。

ギイイイィ……

エイミーの嫌な予感はやはり的中した。
エイミー達は恐る恐る後ろを振り向いた。
ドクロがランプの灯りを墓地の方向に向けると、暗闇の中から沢山のゾンビの手がこちらに向かって伸ばされていた。
エイミー達を追って来ているのだ。

イヴはまた警戒して暗闇に向かって高い鳴き声を上げた。
フレディはエイミー達に慌てて言った。

「早く逃げよう!
触れられると感染して、僕達もゾンビになってしまう!」

エイミー達はすぐさま墓地の出口へと走り出した。

そして目を疑った。

その先は思わぬことに崖になっていた。
見渡したが、やはり崖で行き止まりになっているようだ。
エイミー達は追い詰められた。

「どうするんだよ…これ…」

ジャックが呟いた。

真っ暗な空には、満月がエイミー達を試すかのようにギラギラと見下ろしていた。

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