エイミーとマンホール下のハロウィン界

Haru

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第17章

【悪魔キルの活躍】

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部屋のドアが開いた。

エイミーはその時、初めてイナベラの姿を目にした。

イナベラはアナベラによく似ていた。

シワだらけの頰につり気味の目に鷲鼻、魔女の帽子を被り、太い木の枝のような杖を持っていた。
恐らく、それが魔法を使うための杖であろう。

「目的はキルを取り戻すこと、そして魔物の再生を阻止することよ」

エイミーは真剣な瞳でジャック達に言った。

イナベラの様子を伺っていると、イナベラはキルをひっ掴みなにやら大きな扉の前で立ち止まった。
キルはジタバタとイナベラの手の中で暴れている。

「さあ、捕まえてやったぞ。
部屋の中まで追い詰めりゃおまえに逃げ場もあるまい。
相変わらずすばしっこい奴だ。
またイタズラを仕掛けられると面倒だから、おまえはこの中から一生出て来るな」

イナベラはキルに言い放ち、ポケットからじゃらじゃらと沢山の鍵を取り出すと、その中の一つの鍵を扉の鍵穴に差し込み、扉を開け、中に入っていった。
扉の中は見えない。
しばらくすると、イナベラは扉の中から姿を現した。
キルの姿は無い。

「全く、人騒がせな奴だ」

イナベラはぶつくさと文句を言いながら、鍵をそのままにして扉の前から立ち去っていった。

様子を伺っていたエイミー達は、そろりと物陰から出た。

ドクロが少し慌て気味に口を開く。

「キルがいなかったぞ…!
きっと檻の中に閉じ込められてしまったんだ!」 

極度の怖がりのフレディは混乱して言った。

「どうしよう!僕帰りたい!」

イヴは少し不安げにエイミー達を見上げてニャァ、と鳴いた。

ジャックは落ち着いた様子で言った。

「イナベラはどうやらオレ達に気が付いていない。
その証拠に、扉に鍵がかかりっぱなしになっている。
今ならキルを助けに行けるだろう」

エイミーはジャックに頷くと、真剣な表情で口を開いた。

「きっと大勢で行くと危ないわ……。
ジャック達はここにいて。
私がキルを助けに行ってくるから」

ドクロは強くそれを反対した。

「それこそ危険だ!
中になにがあるのか分からないんだ。
全員一緒に行こう」

ジャックもドクロに賛同し、エイミーに言った。

「そうだぞエイミー、冷静に考えろ。
君がもし犠牲になどなれば、元も子も無い。」

エイミーは少し考えると、ジャック達に言った。

「ごめんなさい。
もしものことを考えていなかったわ……。
アナベラを悲しませるわけにはいかないものね。
全員一緒にキルを助けに行きましょう」

………


エイミー達が辺りを確認しながら薄暗い部屋の中に入ると、その部屋には真ん中にタイルでできた通路があり、その両脇には頑丈そうな黒い鉄の檻が続いていた。

エイミーは部屋に入った瞬間、目を見張った。

「なんてことなの!」

檻の中には、他のハロウィン界の住人達がたくさん閉じ込められていたのだ。
恐らく、イナベラの計画をどこかで知り、阻止しにこの城に侵入した者達であろう。

ハロウィン界の者達は檻の中からエイミー、そしてジャック達に言った。

「何故こんなところに人間界の者がいるんだ?」

ジャックが答える。

「君達がイナベラの計画を阻止しに来たのであれば、アナベラという魔女のことは知っているだろう?
この娘は事情があってアナベラと深い関係にある。
オレ達もイナベラの計画を阻止するためにこの城に侵入したんだ」

ジャックが事情を話し終えるとエイミーは続けて言った。

「あなた達も必ず助け出すわ。
でもごめんなさい。
その前に教えて欲しいことがあって…。
ついさっきイナベラに閉じ込められてしまった、キルという私達の仲間を探しているの。
キルは小さな悪魔よ。
どこの檻の中にいるのかしら?」

ハロウィン界の者達は答えた。

「俺達のことは、ことが終わってから助け出してくれればいい。
そいつなら、奥の方の檻に閉じ込められているはずだ。
入り口付近の檻にいる俺達にはそれしか分からない」

「ありがとう。
少しの情報でも助かるわ」

エイミーは礼を言うとジャック達を振り返った。
ジャックはいつも通りの様子だ。
対していつも陽気なドクロは、檻に閉じ込められているハロウィン界の者達を静かに見渡していた。
イヴは相変わらず不安げな様子で、エイミー達を見上げてニャァ、と鳴き声を上げた。
フレディはエイミーの後ろに隠れてガタガタと震えながら言った。

「ねぇエイミー……
僕達、生きて帰れるかな?」

エイミーは屈んでフレディの頭を撫でながら微笑んで言った。

「分からないわ。
でも、全員必ず生きて帰れると願いましょう」

ドクロが呟いた。

「奥に進もう」

エイミー達は頷くと、通路の先へと歩き出した。
一歩踏み出すたび、コツ、コツン、と、靴の音が薄暗い部屋の天井に鳴り響く。
閉じ込められているハロウィン界の者達の視線が刺さる。
きっとすぐにでもここから出たい気持ちであるに違い無い。
奥に進んで行くと、甲高い声が聞こえた。

「ここだ、俺はここだ!」

「キル!どこにいるの?」

「1番奥の通路左側の檻だ!」

エイミー達は通路を1番奥まで進んだ。
そこで行き止まりになっている。
檻と檻の間の通路の壁には、鉄格子の大きな窓がついており、夜空に満月がギラギラと輝いているのが見える。
その光が薄暗い部屋の中の通路を少しだけ照らし出していた。
エイミーは目を凝らしてキルの言った方向を見た。
そこには、ピョンピョンと小さな悪魔が飛び跳ねていた。

「キル!無事だったのね!
すぐにでも出してあげたいのだけれど、檻の鍵が無いわ。
キル、檻の鍵がどこか分かる?
イナベラが持っていってしまったのかしら?
扉にかけっぱなしになっている鍵は、この城の各部屋の扉専用みたいで、檻の鍵じゃないみたいなの」

キルはなにやら慌てた様子で、エイミー達に向かって言った。

「今すぐにこの部屋から出るんだ!!
早く!!」

「なんだって?」

ジャックとドクロが顔をしかめる。

「耳を貸せ!!」

エイミーは屈んでキルに耳を傾けた。
キルはエイミーの耳に向かって、小声で、しかし確信したように力強く言った。

「これは、罠だ!」

身体中から血の気が引くのが分かった。
エイミーはすぐさまジャック達にそれを伝えようと後ろを振り返った。
その時だった。

……キィ……バタン!

入り口の扉が閉まる音が聞こえた。

チャリン……カチャカチャ…ガチャン!

続いて、扉の鍵を閉める音が響いた。

カツン、カツン、と、足音が近づく。

「……手遅れだ」

キルが呟いた。

足音が通路の奥へと近づくごとに、満月に照らされて通路に不気味な影が伸びる。

ふと、足音が目の前で止まった。

エイミーは鋭い目つきで前を向いた。

エイミー達の前にいたのは、やはりイナベラだった。

イナベラは甲高い笑い声を上げた。

「ヒヒヒヒ!
かかったな。
なんだか怪しいと思っていたんだ。
キル以外にも侵入者がいるだろうと踏んでいたよ。
このあたしが鍵をかけっぱなしにするわけが無いだろう。
で、おまえ達はなんの用だ?」

エイミーはジャック達の前に出て、イナベラに言った。

「アナベラから聞いたわ。
あなたが魔物の再生を企んでいると。
それを阻止しに来たの。
それと、ここに閉じ込められているハロウィン界の者達と、キルを檻から出してちょうだい」

イナベラはエイミーを鼻で笑い飛ばした。

「フンッ、そんな一方的な要件、あたしが飲むとでも思ったら大間違いだ。
アナベラにあたしがどんな人物なのか聞かなかったのかい?
頭が足り無いようだね。
あたしはこのハロウィン界、そして人間界の食料や土地を奪おうとしているんだ。
ま、もう遅いよ。
液体はもうすぐ出来上がる」

エイミーは深呼吸をして、もう一度イナベラに言った。

「10年ほど前のことを覚えていないの?
またたくさんの犠牲者が出るに違い無いわ。
それに、きっと、あなたも危険な目に遭うわ。
誰もいい思いなんてしないのよ。
お願いだから、頼みを聞いてほしいの」

「何度も言わせるんじゃないよ。
おまえの事情や言い分なんて知ったこっちゃ無い。
あたしゃおまえみたいなうるさい小娘が1番嫌いなんだ。
檻に入れられたくなかったら今すぐ出て行け。
それか……」

イナベラはなにやらポケットからたくさんの鍵をじゃらりと取り出して、エイミー達に見せつけた。

「これは、檻の鍵だ。
こっちはさっきまでかけっぱなしだった扉の鍵。
これが欲しけりゃあたしを倒して行くんだな。
そうすりゃ魔物の再生も阻止出来るかもしれないぞ。
ただし、命は無いと思え」

ジャックはイナベラを睨みつけていた。
ドクロはイナベラとエイミーの様子を静かに見つめていた。
イヴは毛を逆立て、フレディは震えながらも拳を握り締めた。

エイミーは彼らを振り返り言った。

「さあ…ジャック、フレディ、イヴ、ドクロ…戦うわよ」

ジャック達は目で返事をした。
エイミーは鋭い瞳のままイナベラを見た。

「……受けて立つわ」
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