エイミーとマンホール下のハロウィン界

Haru

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第18章

【エイミー、再び】

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エイミーは腰の剣を抜いた。
そして、イナベラの方に向かって構える。
剣など全く持ち慣れていないはずだ。
しかし、鈍く光るその剣はどことなく懐かしく、不思議なことに使い方、戦い方が次から次へと頭に入ってきた。

閉じ込められたハロウィン界の者達は、檻の中から息を呑んで緊迫したその様子を見ていた。

イナベラも腰から鋭い剣を抜いた。
古びたエイミーの剣とは違い、見るからに真新しい、使い勝手のよさそうなものだ。
それと同時に、イナベラは魔女の杖を取り出してジャック達に言った。

「さすがにこのあたしも、剣と魔法を両方使って戦えるほど器用じゃないし、そんな真似はしない。
あたしにもプライドがあるからね。
でも、おまえ達5人とあたし1人じゃ、完全におまえ達が有利だろう?
だからこの剣で小娘と戦う前に、魔法でおまえ達を動け無い身体にしてやろう」

エイミーはそれを聞くと慌ててイナベラに言った。

「お願い、ジャック達に手は出さないで!
私が、1人で戦うと約束するわ」

ジャックがエイミーの前に出ようとして言った。

「おいエイミー!気は確かか!
君1人じゃ絶対に勝ち目は……」

「ジャック達は下がってて!!!」

ジャックの言葉を遮るように、エイミーは叫んだ。
ジャック達を振り返ることはもう無かった。

「威勢のいい小娘じゃないか。
でも信用出来ないな。
どうせ負けそうになったら、後ろの仲間達に助けを求めるに違い無い。
だからそいつらはあたしがガマガエルにでもしてやろう」

イナベラは不敵な笑みを浮かべながらエイミーに言い放つと、杖をジャック達に向けた。
そしてイナベラが呪文を唱え出した瞬間だった。
エイミーは剣を振り下ろした。

キーン……!!

金属と金属が擦れ合う嫌な音が城に響いた。

イナベラは素早くエイミーの剣をかわし、エイミーを目掛けて剣を振り下ろした。

エイミーは慌てて防御体制に入る。

どうやらイナベラは本気だ。
本気でエイミー達の命を狙っている。
イナベラの容赦無い攻撃に、手慣れ無いエイミーは内心戸惑いながら戦いに挑んだ。

防御しているばかりでは…このままでは絶対にやられてしまう。
エイミーはイナベラの攻撃をかわしながら考えた。
イナベラにはほぼ隙がなく、戦いに手慣れている様だった。
想像以上の強さだ。

ザンッ!

イナベラの剣がエイミーの肩に当たった。
エイミーはその衝撃で剣を手放してしまった。
剣は高い音を立ててエイミーの手から落ちる。
エイミーはその場に倒れ込んだ。
斬られた肩から血がポタポタと流れ出す。
ジャック、ドクロ、フレディ、イヴがエイミーを呼ぶことは無かった。
皆、黙って戦いを見守っている。

イナベラは倒れ込んだエイミーの上に乗り、剣を構えた。

「もうお終いか?小娘。
そんな程度の奴だなんて、心底ガッカリだ。
こんなに弱いんじゃあたしの時間の無駄に過ぎなかったよ。
おまえはここで終わりだ。
さあ、死ぬ覚悟はいいか?」

エイミーは震える唇を噛み締めながら、イナベラの目を睨みつけた。
落としてしまった剣には手が届きそうも無い。
イナベラはそんなエイミーを見下ろして、余裕の表情を浮かべている。

ー死にたく無い。
まだ私にはやらなければならないことがたくさんある。
アナベラにはジャック達と必ず生きて戻ると約束したんだ。
それに、お婆ちゃんのいる家に、無事に帰らなければいけない。
アナベラのことも、お婆ちゃんのことも、そして共に冒険したジャック達のことも、裏切るわけにはいかない。
哀しませるわけにはいかない。
私はここで負けるわけにはいかないんだ。

でも……。
もう勝ち目は無い。
ここで私は死ぬのだろうか。
ジャック達との想い出が頭をよぎる。

エイミーが死を覚悟しようとしていると、今まで黙っていたキルが檻の中からエイミーに向かって叫んだ。

「おい!エイミー!
いつもの元気はどこに行った!
思い出せ!思い出すんだ!
10年前の戦いを!
想い出がリセットされても、記憶の深いどこかにはきっと、初めてこの世界に迷い込んだ時の出来事が残っているはずだ……!
こんなところで死ぬなんて、俺は許さ無いからな!」

後ろの方からジャック達の視線が刺さる。
振り返らなくても、ジャック達が真剣な眼差しで自分を見つめていることが分かった。

「最後に言い残したことは無いか?」

イナベラは勝利を確信したようにエイミーに冷たく吐き捨てると、エイミーの胸に剣を力強く振り下ろした。

その時だった。

「!?」

イナベラが剣を持ったまま、エイミーの横に倒れ込んだ。
エイミーが少しの隙をついてイナベラの横っ腹に思いっきり蹴りを食らわせたのだ。
エイミーは肩を押さえながら立ち上がると、落とした剣を拾い上げた。
皆、再び息を呑む。

「この小娘が……!!」

エイミーが振り返った瞬間、イナベラが剣を振りかざす。

キンッ……!!

エイミーは振りかざされた剣を思いっきり弾いた。

イナベラの剣が宙に舞う。
剣はエイミーの頭上を通り過ぎて、奥にいるジャック達の方へと飛んでいった。

「ひゃっ!!危ない!!」

フレディの悲鳴が聞こえたが、エイミーは振り返らなかった。
ジャック達なら大丈夫だと確信があったからだ。
パシッ、と、剣の柄を掴み取る音が聞こえた。
剣をキャッチしたのはドクロだった。

エイミーは剣をかざしながらイナベラに迫った。

「……もうあなたに勝ち目は無いわ。
私の勝ちよ。
安心して。殺したりしないわ。
その鍵を全部、手渡してくれたらね」

イナベラはエイミーをキッと睨みつけて、ポケットから勢いよく杖を取り出すと言った。

「どこまでしつこい奴らなんだ。
あたしにはまだこの手がある。
あたしの計画を邪魔する奴には容赦無いよ。
おまえもまとめて今ここでガマガエルにしてやる……」

イナベラが杖をエイミー達に突き付けた、その時だった。

バキバキバキ!

後ろから耳をつんざく音が響き渡った。

エイミー達がすぐさま後ろを振り返ると、さっきまで鉄格子の窓だった壁にポッカリと大きな穴が空いていた。

イナベラも驚いた様子で呆然と立ち竦んでいる。

途端、両脇の檻の中から凄まじい歓声が上がった。

「檻の鍵が開いたぞ!」

「俺のところもだ!」

「何故だ?」

「分からない!
でもこれで外に出られるんだ!」

閉じ込められていたたくさんのハロウィン界の住人達は、我先にと言わんばかりに檻から流れ出て、壁に空いた大きな穴から次々と逃げ出していった。

気がつくとその場にいるのは、エイミー、ジャック、フレディ、ドクロ、イヴ、そして檻から解放されたキルだけになっていた。
イナベラの姿が無い。
エイミー達が混乱していると、下の方からなにやら鳴き声がした。

ゲコッ。

そこには、小さなガマガエルが1匹、こちらを見上げて鳴いていた。

「なんとか間に合った!
急に不安になったんだ。
やっぱりあたしもついて行くべきだった。
魔法を使え無いおまえ達だけで戦うなんてやっぱり無茶だったんだ。
ボロボロの身体でも駆け付けた甲斐があったよ」
 
後ろから聞き慣れた声がしたので、エイミー達は振り返った。

そこは、息を切らしたアナベラが立っていた。
大きなほうき、そして杖を持っている。
エイミー達はそれを見て全てを悟った。
そして、エイミーはアナベラに駆け寄り、抱きついた。
フレディもアナベラにしがみつき号泣している。
フレディのことだ。
今まで我慢していたのだろう。
アナベラは2人を抱きしめながら、ジャックとイヴとドクロ、そしてキルに微笑んだ。

「ここまで戦ってくれてありがとう。
あたしが頼んだばっかりに……」

エイミーはそれを聞くと首を振って、アナベラを強く抱きしめ返しながら言った。

「いいえ。
私がアナベラを助けたいと望んだことよ。
アナベラは苦手な魔法を使ってまで私達を救ってくれたのね」

アナベラは笑いながらエイミーの頬をつねった。

「ほれっ、泣くんじゃないよ」

「……嬉し涙よ」

「分かってる。
それよりも魔物の再生はどうなったんだい?」

ジャックが我に返ったように口を開く。

「きっと、液体はまだ未完成だと思うが……確かに一応確かめに行く必要がある。
イナベラはガマガエルと化したからもう害は無いだろう。
全員一緒に液体のある部屋を探すんだ。
破棄してしまおう」

エイミー達は城の中へ戻った。

通りすがりにガマガエルと化したイナベラの方を見ると、イナベラはまたゲコッと鳴いた。

エイミーはクスリと笑って呟いた。

「なんだかこう見ると憎めないわね」

ジャックは呆れかえった表情でエイミーを見た。

「何を言っている。
散々な目に遭ったんだぞ……。
やっぱり君はおかしい」

キルは甲高い声で笑った。

「キキキ!
アナベラだって、当分元の姿に戻してはやらないさ」

さっきまで真剣だったドクロも、またいつものようにカカカカカッと大口を開けて笑った。
イヴとフレディも嬉しそうな表情だ。

アナベラが嬉しそうに提案した。

「おまえ達だけでロンの元へ戻るのには、行きよりは短時間で着くのだろうけどやっぱり時間がかかるだろう?
全員、あたしのこの空飛ぶ大きなほうきに乗せて行くから安心しな」

相変わらず好奇心旺盛なエイミーは、アナベラの話を聞いて目を輝かせた。

「ありがとう、アナベラ!
とっても楽しみだわ!」

ドクロが陽気に言った。

「目的はあと1つ。
液体を破棄してロンの元へ戻るだけだ」

ジャックは少し怪訝そうに言った。

「本当はエイミーを、この仲間達、そしてアナベラに会わせてやることだけが目的だったんだが……とんだ寄り道をしたもんだ。
ほうきに乗って行ったところで、間に合うかどうかも分からない……」

ジャックが続けて口を開こうとした、その時だった。

ゴーーン……ゴーーン……

4度目の鐘が鳴った。

鐘の音を聞きながら、ジャックは珍しく慌てる事無く、言いかけていた言葉をゆっくりと低い声でエイミー達に伝えた。

「もうすぐ、別れの時だ。
さあゆこう。
悔いを残さない冒険にしたいんだ」

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