僕はストーカー

魔性ピエロの贖罪

君の、いやらしい笑みが瞳に映る。
彼のナイフは私の腹部に突き刺さり、私の意識は遠のいていく―。
思えば、君と出会ったのは半年も前のことだった。はじめは緊張した。
「こんにちは」君は照れながら私に挨拶した。私は、「こんにちは!」と笑顔で返す。
「初めまして・・」「初めまして!私は・・」はにかんで答える私に、君の顔は緩む。
「これからも頑張ってください」彼には伝えなかったが、君は私のファンの第一号だった。
第一印象は、真面目な人―。誠実そうで、守ってあげたいなと思った。時折彼は過去の話になると目が暗くなって、無表情になる。だから私もあまり過去の話は振るわなかった。彼と私との1分間の会話、それは濃密な時間だった。出会ってから彼は毎週来てくれた。私だけのために。高いネックレス、チョコレート。気づけばいつもあなたのことばかり考えていたの。早く来週にならないかな、たっくんに会いたい―。ある日私は「彼女はいますか?」って聞いてしまったの。でも彼は困った顔一つせず、「いたらここにいないよ」―心臓の鼓動が激しくなり、顔は赤く染まる。うれしくて、うれしくて―。その言葉に救われて、本気の恋をしてしまったのだ―。
握手会のあと、時間が欲しいと言われ私は彼のもとへ向かった。彼はダイヤの指輪とともに。光り輝く言葉をくれた。「ずっと好きでした。一生幸せにします」・・「はい」彼にひかれ、思わず手を取る。その一夜、大人の階段を上って、君と私は―「恋人」になったんだ。

そう、突然来た。「清水アオイ、熱愛疑惑発覚‼」でかでかと新聞に踊っている見出し。横には彼の写真―たっくんの写真が載せられていた。マネージャーにはどうしてくれんの、と説教が続いた。一日中、マスコミの前では頭を下げていた。ごめんなさい、ごめんなさい―。思ってもいない言葉をただ並べ、頭を下げる。―悪いのはどっち?
許されない恋だって知ってた。でも、彼は本気だった。そんなの関係ない。モラルも常識も関係ない。お互い愛し合っているから―。彼と手を取り合い、唇と唇が触れる。続くはずもない恋はそこで途切れた―

「交際やめよう」だめだよね。でも、ごめんなさい。長い恋愛を軽い一言で締め切るなんて、私、卑怯だよね。どんなに恨んでも構わないから―。君と私はアイドルとファンという関係。それ以上でも未満でもない。

―なのに何で目から涙がこぼれおちるの?私は崩れ落ちる。「ごめんなさい・・」

それから俳優の人と結婚した。彼は私を好きだと言ってくれたから、私もOKをしてしまった。あの時みたいに、戻れたらいいな。なんて、夢の話。これからの人生は私とあなたとの人生たび。
だから、思いださないで。どうか、この罪が許されるならば思い出さなかったかもしれない。でも許されるはずがない。私の最期は、君のナイフで彩られた。心臓に突き刺さる、銀色のナイフ。私をとらえて離さぬ君への恋心。
ごめんなさい―。私の最期の願い、それは、「あの頃に戻りたい」―あの時指輪を海に投げ捨てようとしたのは、俳優との指輪。私は愛していない。彼のことを―。私は彼の愛を捨て、離婚を申し込もうとして、家に帰る途中だった。彼はいやらしい笑みを浮かべ、私に言った。
　　　　　　　　　　　　　　　　「これからはずっと一緒だね」