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2051年4月26日(水) 後奏
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パァン!
正体を現した店員に、半ば反射的に発砲する美久。銃弾は店員のみぞおちあたりを捉えたが、易々とかわされる。
VAMP店員「なんで君が撃つの笑? 死ぬべきなのは君の方でしょ」
パァン! パァン!
後ずさりながら撃ち続ける美久だったが、この至近距離だというのに当たらない。
店員は超人的な身のこなしで弾を避けながら、じりじりと美久に近付いてくる。
VAMP店員「大丈夫だよ、すぐには殺さないから。教えてほしいんだ。あいつの最期⋯⋯ねえ、どんな顔してた?」
場所が悪いと、美久はひとまず店外へ出ようと踵を返す。しかし店の前には——咲鬼を筆頭に、大勢のVAMPが集結していた。
咲鬼「運ねェな~~たまたま逃げ込んだ先にVAMP笑!」
咲鬼に同調して、VAMPらがわざとらしく笑い声を響かせる。咲鬼は満足そうに目を細めた。
美久が振り返ると、店員はぼうっと立ち尽くしていた。戦意は感じられない。
咲鬼「さっきまでは鬼運だったのになァ? ま~尽きちまったもんは仕方ねェよな。大人しく死んどけ?」
そう言って腕を交差させたかと思うと、二振りの刀を同時に抜刀する咲鬼。赤い残像が歪な翼のように広がる。
パァン!
美久は怯むことなく、咲鬼の頭部を狙って発砲した。しかし1歩も動くことなくかわす咲鬼。首から上がまるでCG映像のようにブレて見えた。
咲鬼が避けたことで弾が命中したVAMPが、灰を散らしながらその場に倒れ込む。微かなどよめきが起こった。
咲鬼「つーかお前ほんと何? LYCANでもないくせに1人で乗り込んできて、助けもこねーし、まじでトチ狂った泥棒じゃん笑。どんだけVAMPに恨みがあるわけェ?」
美久「⋯⋯VAMPは恨まれて当然。そっちこそ大人しく死んどけよ」
咲鬼「ヒャハハハ!!! 聞いたかおい笑!!」
どっと笑いが起こる。腹を抱えて笑い転げる者、手を叩いて煽る者、嬉々として囃し立てる者。総じてどこか白々しい。
咲鬼「やっぱ獣くせーわ、お前。口の聞き方ってもんを忘れちまったみてェーだなァ?」
美久「VAMP相手にそんなの要らない」
咲鬼「あーあーあーデジャヴだわこれ! LYCANお得意の、負け犬の遠吠え笑!!」
美久「負け鬼の遠吠え? 自覚あるんだ笑」
再び起こりかけた笑いが、美久の口撃に引いていく。「調子のってんじゃねーぞ!」と、ヤジが飛ぶ。
咲鬼「ハッ笑、クソガキ代表みてェなツラしやがって。わりーけどこう見えて300年生きてんだわ俺。これ以上付き合ってやれねェから」
美久「ほとんど喋ってたのお前じゃん」
咲鬼「⋯⋯無知なガキに教えてやるよ? その銃、あと7発しか撃てねェから。あのクソ犬には世話になってるからなァ、わかんだよ笑」
「まじかよ」「スゲー!」と、感嘆の声が上がる。得意げな咲鬼。
美久は弾倉と銃弾のサイズ感、これまでに何回撃ったかの記憶を辿り、確かにそれくらいだと思い至る。もちろん綜舞の言いつけ通り、弾倉は満タンだった。予備はない。
咲鬼「これから大人しく死ぬのはどっちか、ガキでもわかるよなァ?」
咲鬼が大きな目を輝かせ、刀を持った両手を広げて近付いてくる。
動きが制限される店内なら勝機はあると踏み、引き返そうとした美久に——店員が立ちはだかる。
VAMP店員「君は僕が殺す⋯⋯」
そう虚ろに呟いて、胸ポケットから銃を取り出す店員。何を思ったか美久は全力で体当たりをし、店員もろとも倒れ込む。そしてすぐさま立ち上がり、商品棚の陰へと姿を消した。
店員は微動だにしない、死んでいる。銃剣で腹部を斬られたようだ。出血は少ない。
咲鬼「やるねェ! おい誰でもいい、殺れ!!」
灰と化す仲間を損壊しながら歩く咲鬼。咲鬼の号令を受け、他のVAMPも大挙して押し寄せる。
手にしている武器は多種多様だ。腕に自信があるのか、素手の者も多い。
パァン!
近づいてきたVAMPを撃つなり、その場から飛び出す美久。
そして後続のVAMPが怯んだ一瞬の隙に銃剣を巧みに振るい、計3人を灰にする。
咲鬼「オイオイ犬どころか猿じゃねェか笑! あと6発ゥ!!」
美久は屈んだ状態で移動し、2列先の商品棚の隙間から覗く咲鬼の足へと、狙いを定めた。
パァン!
弾は狙い通りに飛んだが、幻覚だったかのように忽然と足が消えたかと思うと、狂気に満ちた咲鬼の顔面が現れる。
咲鬼「残念あと5発ゥ!!!」
パァン!
その顔めがけて速射する美久だったが、動揺からか射線がぶれ、弾は床にめり込んだ。
咲鬼「ヒャハハハハハ4発!!!」
美久「っ?!」
咲鬼に気を取られている間にVAMPに回り込まれていたらしい。美久は羽交い締めにされ、半ば引きずるようにして立たされた。
「みんなお前のせいで喉乾いてんだよね。責任取れよ笑」
もう1人のVAMPが美久の首に掴みかかり、舌なめずりをして牙を剥き出しにした。シルバーのハンドガンを手にしている。
美久「ごめん、責任感ないんだ」
美久はそう言うなり勢いよく上体を屈め、背負い投げするような形で、目の前のVAMPに背後のVAMPをぶつけた。
「うぉっ」
そして倒れ込んだ2人のVAMPに容赦なく斬りかかり、灰にする。
咲鬼「まじかよゴリラじゃん笑!!」
パァン!
パァン!
VAMPの1人が最後の力を振り絞って発砲し、反射的に撃ち返す美久。既に絶命しており、無駄撃ちになる。
遅れて左足首に熱を感じる美久。靴下に血が滲んでいる。
咲鬼「ゴリ負傷ゥ~~あと3発ゥ~~」
パァン!
美久が天井のシャンデリア型照明を撃ち抜き、店内が暗くなった。いくつか間接照明がある為、物の輪郭はわかる程度だ。
痛む左足をかばいながら移動し、2階への階段を上がる美久。
咲鬼「ハイハイ隠れ鬼ねェ笑? おいお前ら一旦待機、俺が殺る」
咲鬼は迷わず階段に向かってくる。見えているのか、血の匂いに反応しているのか。
忍ぶ意味がないと悟った美久は階段を駆け上り、咲鬼との距離を広げた。
2階は古着売り場のようだ。鮮血が飛び散ったようなデザインのTシャツ、刺々しいベルト、タランチュラの揺れるピアス。
元々間接照明しかなく、客への配慮は感じられない暗さだ。お香と柔軟剤や古着の匂いが混ざり合った、耐えがたい悪臭が立ち込めている。
美久は最奥の商品棚の裏に潜んだ。右手の突き当たりにカーテンの開いた試着室、右斜め後ろにバックルーム、背後に横長の大きな窓。
弾は残り2発、限界だ。どうにか隙をついて脱出しなければならない。しかし出入り口にはまだ大勢のVAMPがいる。
咲鬼「鬼はァ俺ェ~~福はァてめェの血ィ!!」
咲鬼が階段を上りきり、支離滅裂に吠える。そして刀で床を擦りながら歩き始めた。耳障りな音が緊迫感を煽る。
おそらく司令塔である咲鬼さえ殺れればVAMPは行動不能になると、美久は逃げずに戦うことを決める。銃を持つ手に力が入った。
咲鬼「どこかなどこかなァ~⋯⋯ここかなァ?! いないなァ~」
棚ひとつを挟んだ向こう、もうすぐそこまで咲鬼が迫っている。
咲鬼「どこかなどこかなァ~~」
息を殺し、狙いを定める美久——。
咲鬼「ッここだなァ!?!?」
パァン!
美久のいる通路に現れた咲鬼を撃ったが、またしても避けられる。試着室の鏡が、蜘蛛の巣状にひび割れた。
咲鬼「学ばないねェ!! あ、学べねェのか!! ゴリラだから笑笑!!!」
嬉々としてそう叫び、飛びかかってくる咲鬼。まだ、1発ある。
?!
美久に馬乗りになった咲鬼の胸部に銃を突きつけ、引き金を引いた美久だったが、弾が出ない。
咲鬼「ヒャハハハハハ!!! 残念あと6発でしたァ!! 敵の言うこと信じるとか大丈夫そ笑??」
咲鬼はそう言うなり、刀の柄で美久の銃を弾き飛ばす。乾いた音を立てながら転がっていく銃。
咲鬼「ゴリラァ阿保ォ~~鬼がァ勝ちィ!!!」
左手に『覇』の鍔の打刀、右手に桜の舞う大太刀、同時に美久へと振り下ろされる——。
咲鬼「うぉア?!?!」
何か黒いものがぶつかりそうになり、咲鬼が美久から離れる。
咲鬼「晚上!! 何してんだてめェ、殺す気か!!!」
晚上が大鎌を手に立っている。どうやら咲鬼に斬りかかったらしい。
晚上「そいつは俺の獲物だ、俺が殺す」
感情の読めない目で美久を見下ろす晚上。不思議と悪意は感じられない。幾重にも重なった生粋の闇が、その奥で渦巻いている。
咲鬼「めんどくせェこと言ってんじゃねーよ!! つゥかだとしても俺まで殺る必要ねェだろ!!」
晚上「お前も死にたいんだろ? 俺にはわかる」
咲鬼「っ相変わらずきめェなァ!!! だいたいなんでここがわかった? 好き放題やってるくせによォ!!」
晚上「永月から聞いた」
咲鬼「はァ?! ガキ1人に大げさすぎんだr⋯⋯ってゴリどこ行った?!」
美久を探して辺りを見回す咲鬼——窓が開いていた。銃もなくなっている。
晚上「そっから逃げた」
咲鬼「いや言えよ!!!」
晚上「言わねえよ。お前、譲る気ないだろ。あとで俺が殺しておくから、黙って待ってろ」
咲鬼「ってめェいい加減にしろよ!!!」
刀を捨て、晚上に掴みかかる咲鬼。しかし晚上は動じることなく、不敵な笑みを浮かべた。
晚上「やる? 勝てんの? 俺に」
咲鬼「⋯⋯ッ!!」
咲鬼は晚上を突き離すと、刀を拾って鞘に収めた。晚上はやれやれとばかりに衣服の乱れを直す。
すると階下から様子を見にVAMPが現れた。晚上を見るなり表情が強張る。
咲鬼「ガキは逃げた、全員追え!! 見つけ次第殺せ!!!」
「はい!!!」
晚上「殺すな。殺したら殺す」
「えぇっ?!」
咲鬼「てめェなァ!!!!!」
追手を気にしながら夜道を駆ける美久。VAMPは通行人を蹴散らしながら執拗に追いかけてくる。
窓から降りる際、店前にいたVAMPに気付かれてしまった。数は少ないが、不利な状況には変わりない。
足の速さには自信のあった美久だったが、さすがにVAMPには及ばず、少しずつ距離を詰められていく。アドレナリンのせいか、左足の痛みは消えていた。
「いい加減諦めろって!!」
金属バットを振り上げ、美久に襲いかかるVAMP。美久はそれを避けた勢いで駐車場に入ってしまい、行き止まりに追い詰められた。人けはなく、車も数台しか停まっていない。
「はいお疲れぇ~~」
「いい墓場じゃん笑?」
ぞろぞろと横並びになるVAMP、総勢6人。武器は金属バットが2人、木刀が1人、素手が3人。
美久は銃剣を構え、臨戦態勢になる。さすがに疲労の色が濃く、焦りの表情が浮かんでいる。
「ねーてかまじで喉渇いたんだけどっ」
その中の1人、毛先がゆるくカールした、サンドブロンドの短髪のVAMPが口を尖らせる。
ライトブルーの瞳。白いオーバーサイズのスウェット、ダメージデザインのハーフデニム、厚底のハイカットスニーカー。
「こいつ殺したらすぐ吸わせてやるから」
短髪のVAMP「え~生き血がいい~武器奪って捕まえてよ」
「わかった、わかった。じゃ、とりまボコ殴りで笑!」
そう言うなり駆け出し、木刀を振り下ろすVAMP。美久はそれを剣で受け止めたかと思うと、力強く薙ぎ払い真っ二つにした。
次いで刃先がVAMPの頭部を捉えたが、すんでのところでかわされる。
「ヒューやっべえ切れ味!」
「ゴリスンギ!!」
今度は金属バットの2人が同時に美久に襲いかかる。美久は前転しながら剣を振るい、両者の下肢を斬り裂いた。
——パァン!
「っ!」
銃を落とし、右肩を押さえる美久。傍観していた短髪のVAMPが、拳銃を右手に薄ら笑いを浮かべている。
短髪のVAMP「今ちょっといけるかもとか思った? 残念でしたぁ~笑」
「おま、銃持ってたのかよ笑」
短髪のVAMP「能あるVAMPは銃を寝かすってね★」
「いや寝かしすぎな? 2人死んでっから笑」
弟分なのか、周囲に可愛がられている様子の短髪のVAMP。銃を片手に子供のようにはしゃいでいる。
美久は左手で銃剣を拾い上げ、ぎこちなく構えた。右腕はもう使い物にならない。視線はまっすぐにVAMPに注がれている。
短髪のVAMP「しつこいな~~大人しくしてなよ、どうせ死ぬんだから」
パァン!
VAMPの撃った弾が美久の左足を捉えた。が、美久はそれよりも速く動いて距離を詰めると、短髪のVAMPの銃を払い落とした。
短髪のVAMP「こいつ⋯⋯っ! とか言ってみたり笑?」
パァン! パァン!
後ろ手にしていた左手に、2丁目の銃を隠し持っていた短髪のVAMP。流れるような動きで発砲し、美久の両足を撃ち抜く。崩れるようにその場に倒れ込む美久。
短髪のVAMP「やったぁ! よーやくお食事タイム!! てかウチすごない??」
「備えあればゴリラ死すってね」
「てかこいつ今弾避けた?」
思い思いに喋りながら、美久のもとに集うVAMP。美久は仰向けになりながら左手の銃剣を握り直し、VAMPに向けて持ち上げる。
「っ⋯⋯!!」
しかしVAMPに腕を踏みつけられ、銃剣が手から離れた。耐え難い痛みに、呼吸が乱れる。
「まじしつけぇ。ゴリラってかゴキブリだな笑」
短髪のVAMP「ゴリブリじゃない笑? クソまずそうけど、いっただきまーす!!」
短髪のVAMPが美久の右手を持ち上げ、噛みつこうと大きく口を開けた——。
短髪のVAMP「は⋯⋯?」
何が起きたのか、短髪のVAMPの首が一瞬で吹っ飛ぶ。驚きの表情を浮かべた生首が、地面を弾みながら転がっていく。
次いでその身体を踏みつけて着地する人影——綜舞だ。
綜舞「悪い、遅れた」
そう言うなり手首を返し、両手に持った斧を持ち直す綜舞。2つの斧を繋ぐ太い鎖が、小気味良い音を立てる。
「おい、一旦退避⋯⋯」
綜舞「できんの?」
逃げ腰になったVAMPに綜舞が襲いかかる。目にも留まらぬ速さで斧を振り回し、3人のVAMPがほぼ同時に斬り刻まれる。
「クソがぁ!!」
パァン!
最後の1人のVAMPが後ろに跳びながら銃を構えた瞬間——光る射線がVAMPのこめかみを貫いた。
綜舞「お、さんきゅ」
龙成「うん」
駐車場の出入り口に立ち、涼しい顔で拳銃を下ろす龙成。
VAMPは殲滅された。6つの灰の山が、夜風を受けて少しずつ崩れていく。
綜舞「大丈夫⋯⋯ではないか。1人でよく頑張ったな」
起き上がれずにいる美久のそばにしゃがみ込み、優しく頭に触れる綜舞。強い安心感と疲労感で、思わず目が潤む美久。
海央「美久!!」
息を切らしながら陸翔と共に駆けつける海央。美久の怪我を見て顔面蒼白になる。「まじかよ」と陸翔。
美久「あ、急所?は外れたっぽくて、そんなに痛くないから大丈夫。ほら、血もほぼ出てないし」
気丈に振る舞う美久。ぎこちない動きで上体を起こす美久を、綜舞が支える。慌てて海央も介助する。
陸翔「てかなんで美久がこんなことになってんの?」
不可解な状況に、顔を曇らせる陸翔。道中でVAMPと交戦したのか、手にした剣には血が付着している。
美久「えっと、渋谷のララサウンドで戦うって、龙成が電話してたの聞いちゃって。そしたら龙成が銃忘れちゃったから、届けに行ってみたら誰もいなくて、VAMPはいて⋯⋯、」
龙成「俺のせいでごめん」
龙成が消え入りそうな声で謝る。悲しげに伏せられた瞳。
美久「ううん、私が勝手にやったことだから。こっちこそ迷惑かけてごめんなさい」
綜舞「⋯⋯こっちの情報が漏れてたのか」
神妙な面持ちで口を開く綜舞。陸翔が無言で頷く。
海央「どういうこと?」
陸翔「美久が行ったのは駅前店の方だよな。渋谷にはララサウンドが2店舗あって、俺たちがいたのは道玄坂店。元々はこっちが会場のはずだった。それが、変更された」
美久「えっそうなんだ。だからみんないなかったんだ」
「そういえば、間違えて道玄坂の方に行った奴がいるとか、VAMPが言ってた。死んだじゃんって。みんながそっちにいるの知ってたっぽい」
陸翔「やっぱそうか。そのはぐれVAMPは綜舞が秒で殺したけど、そいつも間違えたとか口走ってたから、なんかおかしいとは思ってたけど」
龙成「⋯⋯この中に内通者がいるってこと?」
穏やかではない単語に、場に緊張が走る。状況からして、LYCANの襲撃をVAMPが予め把握していたことは間違いないだろう。
綜舞「この作戦は他のLYCANにすら知らせてないからな。あとは、伊勢さんくらいか」
美久「っでも私みたいに盗み聞きされてたって可能性もあるよね」
陸翔「ん~俺はそのへん気を付けてるけど」
綜舞「当然」
自然とみなの視線が海央に集中する。
海央「っいや俺だって気を付けてるからね?! というか龙成がそっち側なのはおかしいだろっ」
龙成「たしかに笑」
海央「とにかく今は帰ろう。美久を早く診てもらわないと」
海央はそう言うなり、美久を軽々と抱え上げた。お姫様抱っこされる形になり、動揺する美久。
美久「これで行くの?! 救急車みたいなのは⋯⋯」
陸翔「そんな気の利いたもんはない。いやあるっちゃあるけど、ほぼほぼ断られる」
龙成「むさ苦しい野獣集団だったからね笑、今までずっと」
陸翔「言いすぎだろ」
結局、重傷の少女を抱えた大男の後ろを、いかつい武器を携えたコスプレイヤーか何かの3人が続く形となった。通行人の視線が痛い。
陸翔「過去イチ見られてる」
綜舞「そのクソダサソードのせいだろ。なんでむき出しなんだよ」
剣を収納する為の大きなケースを腰から下げている陸翔。バッテリーを内蔵しており、UV光に必要な電力を賄えるようになっている。
かくいう綜舞の斧も、刃の部分を専用のカバーで覆い、ベルトに取り付けたカラビナからぶら下げているだけで、十分目立っている。
陸翔「うるせー⋯⋯今日斬り損ねたクズのせいで疼いてんだよ」
綜舞「妖刀かよ」
陸翔「てか見られてんのはお前の頭だから。なんで満月の日に10割増しなんだよ。普通は雨とかだろ」
たしかに今日は髪のボリュームがすごいなと、綜舞を盗み見て思う美久。
綜舞「容姿イジリは死刑だが大丈夫そ?」
陸翔「じゃあ俺のマスソちゃんイジリもやめれる?」
綜舞「やめれないからやめなくていいわ」
陸翔「おし戦争な」
険悪な雰囲気に戸惑う美久だったが、誰も止めないのを見て、いつものことなのかと胸を撫で下ろす。
龙成「⋯⋯!」
少し歩いたところで立ち止まる龙成。鋭い目つきで上空を見上げている。
海央「どした?」
龙成「ごめん先帰ってて」
龙成はそう言うなり、美久から返されたばかりの銃を手に走り出した。
美久「っそれもう弾ないよ!」
龙成「持ってるから大丈夫!」
言いながら新たな弾倉を取り出し、装填する龙成。
綜舞「おい勝手に動くな!! っ俺行ってくるわ」
海央「おう! 気を付けて!」
龙成の視線の先を見て、何かを察したらしい綜舞が後を追う。
美久が見上げると——近くのマンションの屋上に立つ、晚上と目が合った。
月光を受けて怪しく光る大鎌。ゆるやかにたなびく黒いマント。
高い襟で表情はほとんどわからない。ただ据わった双眸が、美久だけを捉え続けている。
陸翔「⋯⋯俺は龙成を止められない」
思い詰めたような表情でそう発する陸翔。一瞬陸翔を見やった美久が視線を戻した時には、晚上の姿は消えていた。
海央「頼むから止めてくれ。龙成も、自分も」
苦しげに陸翔を見つめる海央。普段は和やかなLYCANの面々が背負っている過去の重さを、美久は改めて窺い知る。
陸翔「そんな暇ねーんだよ。俺には」
無人の屋上を見つめる陸翔の目には、何か違うものが映っているようだった。
正体を現した店員に、半ば反射的に発砲する美久。銃弾は店員のみぞおちあたりを捉えたが、易々とかわされる。
VAMP店員「なんで君が撃つの笑? 死ぬべきなのは君の方でしょ」
パァン! パァン!
後ずさりながら撃ち続ける美久だったが、この至近距離だというのに当たらない。
店員は超人的な身のこなしで弾を避けながら、じりじりと美久に近付いてくる。
VAMP店員「大丈夫だよ、すぐには殺さないから。教えてほしいんだ。あいつの最期⋯⋯ねえ、どんな顔してた?」
場所が悪いと、美久はひとまず店外へ出ようと踵を返す。しかし店の前には——咲鬼を筆頭に、大勢のVAMPが集結していた。
咲鬼「運ねェな~~たまたま逃げ込んだ先にVAMP笑!」
咲鬼に同調して、VAMPらがわざとらしく笑い声を響かせる。咲鬼は満足そうに目を細めた。
美久が振り返ると、店員はぼうっと立ち尽くしていた。戦意は感じられない。
咲鬼「さっきまでは鬼運だったのになァ? ま~尽きちまったもんは仕方ねェよな。大人しく死んどけ?」
そう言って腕を交差させたかと思うと、二振りの刀を同時に抜刀する咲鬼。赤い残像が歪な翼のように広がる。
パァン!
美久は怯むことなく、咲鬼の頭部を狙って発砲した。しかし1歩も動くことなくかわす咲鬼。首から上がまるでCG映像のようにブレて見えた。
咲鬼が避けたことで弾が命中したVAMPが、灰を散らしながらその場に倒れ込む。微かなどよめきが起こった。
咲鬼「つーかお前ほんと何? LYCANでもないくせに1人で乗り込んできて、助けもこねーし、まじでトチ狂った泥棒じゃん笑。どんだけVAMPに恨みがあるわけェ?」
美久「⋯⋯VAMPは恨まれて当然。そっちこそ大人しく死んどけよ」
咲鬼「ヒャハハハ!!! 聞いたかおい笑!!」
どっと笑いが起こる。腹を抱えて笑い転げる者、手を叩いて煽る者、嬉々として囃し立てる者。総じてどこか白々しい。
咲鬼「やっぱ獣くせーわ、お前。口の聞き方ってもんを忘れちまったみてェーだなァ?」
美久「VAMP相手にそんなの要らない」
咲鬼「あーあーあーデジャヴだわこれ! LYCANお得意の、負け犬の遠吠え笑!!」
美久「負け鬼の遠吠え? 自覚あるんだ笑」
再び起こりかけた笑いが、美久の口撃に引いていく。「調子のってんじゃねーぞ!」と、ヤジが飛ぶ。
咲鬼「ハッ笑、クソガキ代表みてェなツラしやがって。わりーけどこう見えて300年生きてんだわ俺。これ以上付き合ってやれねェから」
美久「ほとんど喋ってたのお前じゃん」
咲鬼「⋯⋯無知なガキに教えてやるよ? その銃、あと7発しか撃てねェから。あのクソ犬には世話になってるからなァ、わかんだよ笑」
「まじかよ」「スゲー!」と、感嘆の声が上がる。得意げな咲鬼。
美久は弾倉と銃弾のサイズ感、これまでに何回撃ったかの記憶を辿り、確かにそれくらいだと思い至る。もちろん綜舞の言いつけ通り、弾倉は満タンだった。予備はない。
咲鬼「これから大人しく死ぬのはどっちか、ガキでもわかるよなァ?」
咲鬼が大きな目を輝かせ、刀を持った両手を広げて近付いてくる。
動きが制限される店内なら勝機はあると踏み、引き返そうとした美久に——店員が立ちはだかる。
VAMP店員「君は僕が殺す⋯⋯」
そう虚ろに呟いて、胸ポケットから銃を取り出す店員。何を思ったか美久は全力で体当たりをし、店員もろとも倒れ込む。そしてすぐさま立ち上がり、商品棚の陰へと姿を消した。
店員は微動だにしない、死んでいる。銃剣で腹部を斬られたようだ。出血は少ない。
咲鬼「やるねェ! おい誰でもいい、殺れ!!」
灰と化す仲間を損壊しながら歩く咲鬼。咲鬼の号令を受け、他のVAMPも大挙して押し寄せる。
手にしている武器は多種多様だ。腕に自信があるのか、素手の者も多い。
パァン!
近づいてきたVAMPを撃つなり、その場から飛び出す美久。
そして後続のVAMPが怯んだ一瞬の隙に銃剣を巧みに振るい、計3人を灰にする。
咲鬼「オイオイ犬どころか猿じゃねェか笑! あと6発ゥ!!」
美久は屈んだ状態で移動し、2列先の商品棚の隙間から覗く咲鬼の足へと、狙いを定めた。
パァン!
弾は狙い通りに飛んだが、幻覚だったかのように忽然と足が消えたかと思うと、狂気に満ちた咲鬼の顔面が現れる。
咲鬼「残念あと5発ゥ!!!」
パァン!
その顔めがけて速射する美久だったが、動揺からか射線がぶれ、弾は床にめり込んだ。
咲鬼「ヒャハハハハハ4発!!!」
美久「っ?!」
咲鬼に気を取られている間にVAMPに回り込まれていたらしい。美久は羽交い締めにされ、半ば引きずるようにして立たされた。
「みんなお前のせいで喉乾いてんだよね。責任取れよ笑」
もう1人のVAMPが美久の首に掴みかかり、舌なめずりをして牙を剥き出しにした。シルバーのハンドガンを手にしている。
美久「ごめん、責任感ないんだ」
美久はそう言うなり勢いよく上体を屈め、背負い投げするような形で、目の前のVAMPに背後のVAMPをぶつけた。
「うぉっ」
そして倒れ込んだ2人のVAMPに容赦なく斬りかかり、灰にする。
咲鬼「まじかよゴリラじゃん笑!!」
パァン!
パァン!
VAMPの1人が最後の力を振り絞って発砲し、反射的に撃ち返す美久。既に絶命しており、無駄撃ちになる。
遅れて左足首に熱を感じる美久。靴下に血が滲んでいる。
咲鬼「ゴリ負傷ゥ~~あと3発ゥ~~」
パァン!
美久が天井のシャンデリア型照明を撃ち抜き、店内が暗くなった。いくつか間接照明がある為、物の輪郭はわかる程度だ。
痛む左足をかばいながら移動し、2階への階段を上がる美久。
咲鬼「ハイハイ隠れ鬼ねェ笑? おいお前ら一旦待機、俺が殺る」
咲鬼は迷わず階段に向かってくる。見えているのか、血の匂いに反応しているのか。
忍ぶ意味がないと悟った美久は階段を駆け上り、咲鬼との距離を広げた。
2階は古着売り場のようだ。鮮血が飛び散ったようなデザインのTシャツ、刺々しいベルト、タランチュラの揺れるピアス。
元々間接照明しかなく、客への配慮は感じられない暗さだ。お香と柔軟剤や古着の匂いが混ざり合った、耐えがたい悪臭が立ち込めている。
美久は最奥の商品棚の裏に潜んだ。右手の突き当たりにカーテンの開いた試着室、右斜め後ろにバックルーム、背後に横長の大きな窓。
弾は残り2発、限界だ。どうにか隙をついて脱出しなければならない。しかし出入り口にはまだ大勢のVAMPがいる。
咲鬼「鬼はァ俺ェ~~福はァてめェの血ィ!!」
咲鬼が階段を上りきり、支離滅裂に吠える。そして刀で床を擦りながら歩き始めた。耳障りな音が緊迫感を煽る。
おそらく司令塔である咲鬼さえ殺れればVAMPは行動不能になると、美久は逃げずに戦うことを決める。銃を持つ手に力が入った。
咲鬼「どこかなどこかなァ~⋯⋯ここかなァ?! いないなァ~」
棚ひとつを挟んだ向こう、もうすぐそこまで咲鬼が迫っている。
咲鬼「どこかなどこかなァ~~」
息を殺し、狙いを定める美久——。
咲鬼「ッここだなァ!?!?」
パァン!
美久のいる通路に現れた咲鬼を撃ったが、またしても避けられる。試着室の鏡が、蜘蛛の巣状にひび割れた。
咲鬼「学ばないねェ!! あ、学べねェのか!! ゴリラだから笑笑!!!」
嬉々としてそう叫び、飛びかかってくる咲鬼。まだ、1発ある。
?!
美久に馬乗りになった咲鬼の胸部に銃を突きつけ、引き金を引いた美久だったが、弾が出ない。
咲鬼「ヒャハハハハハ!!! 残念あと6発でしたァ!! 敵の言うこと信じるとか大丈夫そ笑??」
咲鬼はそう言うなり、刀の柄で美久の銃を弾き飛ばす。乾いた音を立てながら転がっていく銃。
咲鬼「ゴリラァ阿保ォ~~鬼がァ勝ちィ!!!」
左手に『覇』の鍔の打刀、右手に桜の舞う大太刀、同時に美久へと振り下ろされる——。
咲鬼「うぉア?!?!」
何か黒いものがぶつかりそうになり、咲鬼が美久から離れる。
咲鬼「晚上!! 何してんだてめェ、殺す気か!!!」
晚上が大鎌を手に立っている。どうやら咲鬼に斬りかかったらしい。
晚上「そいつは俺の獲物だ、俺が殺す」
感情の読めない目で美久を見下ろす晚上。不思議と悪意は感じられない。幾重にも重なった生粋の闇が、その奥で渦巻いている。
咲鬼「めんどくせェこと言ってんじゃねーよ!! つゥかだとしても俺まで殺る必要ねェだろ!!」
晚上「お前も死にたいんだろ? 俺にはわかる」
咲鬼「っ相変わらずきめェなァ!!! だいたいなんでここがわかった? 好き放題やってるくせによォ!!」
晚上「永月から聞いた」
咲鬼「はァ?! ガキ1人に大げさすぎんだr⋯⋯ってゴリどこ行った?!」
美久を探して辺りを見回す咲鬼——窓が開いていた。銃もなくなっている。
晚上「そっから逃げた」
咲鬼「いや言えよ!!!」
晚上「言わねえよ。お前、譲る気ないだろ。あとで俺が殺しておくから、黙って待ってろ」
咲鬼「ってめェいい加減にしろよ!!!」
刀を捨て、晚上に掴みかかる咲鬼。しかし晚上は動じることなく、不敵な笑みを浮かべた。
晚上「やる? 勝てんの? 俺に」
咲鬼「⋯⋯ッ!!」
咲鬼は晚上を突き離すと、刀を拾って鞘に収めた。晚上はやれやれとばかりに衣服の乱れを直す。
すると階下から様子を見にVAMPが現れた。晚上を見るなり表情が強張る。
咲鬼「ガキは逃げた、全員追え!! 見つけ次第殺せ!!!」
「はい!!!」
晚上「殺すな。殺したら殺す」
「えぇっ?!」
咲鬼「てめェなァ!!!!!」
追手を気にしながら夜道を駆ける美久。VAMPは通行人を蹴散らしながら執拗に追いかけてくる。
窓から降りる際、店前にいたVAMPに気付かれてしまった。数は少ないが、不利な状況には変わりない。
足の速さには自信のあった美久だったが、さすがにVAMPには及ばず、少しずつ距離を詰められていく。アドレナリンのせいか、左足の痛みは消えていた。
「いい加減諦めろって!!」
金属バットを振り上げ、美久に襲いかかるVAMP。美久はそれを避けた勢いで駐車場に入ってしまい、行き止まりに追い詰められた。人けはなく、車も数台しか停まっていない。
「はいお疲れぇ~~」
「いい墓場じゃん笑?」
ぞろぞろと横並びになるVAMP、総勢6人。武器は金属バットが2人、木刀が1人、素手が3人。
美久は銃剣を構え、臨戦態勢になる。さすがに疲労の色が濃く、焦りの表情が浮かんでいる。
「ねーてかまじで喉渇いたんだけどっ」
その中の1人、毛先がゆるくカールした、サンドブロンドの短髪のVAMPが口を尖らせる。
ライトブルーの瞳。白いオーバーサイズのスウェット、ダメージデザインのハーフデニム、厚底のハイカットスニーカー。
「こいつ殺したらすぐ吸わせてやるから」
短髪のVAMP「え~生き血がいい~武器奪って捕まえてよ」
「わかった、わかった。じゃ、とりまボコ殴りで笑!」
そう言うなり駆け出し、木刀を振り下ろすVAMP。美久はそれを剣で受け止めたかと思うと、力強く薙ぎ払い真っ二つにした。
次いで刃先がVAMPの頭部を捉えたが、すんでのところでかわされる。
「ヒューやっべえ切れ味!」
「ゴリスンギ!!」
今度は金属バットの2人が同時に美久に襲いかかる。美久は前転しながら剣を振るい、両者の下肢を斬り裂いた。
——パァン!
「っ!」
銃を落とし、右肩を押さえる美久。傍観していた短髪のVAMPが、拳銃を右手に薄ら笑いを浮かべている。
短髪のVAMP「今ちょっといけるかもとか思った? 残念でしたぁ~笑」
「おま、銃持ってたのかよ笑」
短髪のVAMP「能あるVAMPは銃を寝かすってね★」
「いや寝かしすぎな? 2人死んでっから笑」
弟分なのか、周囲に可愛がられている様子の短髪のVAMP。銃を片手に子供のようにはしゃいでいる。
美久は左手で銃剣を拾い上げ、ぎこちなく構えた。右腕はもう使い物にならない。視線はまっすぐにVAMPに注がれている。
短髪のVAMP「しつこいな~~大人しくしてなよ、どうせ死ぬんだから」
パァン!
VAMPの撃った弾が美久の左足を捉えた。が、美久はそれよりも速く動いて距離を詰めると、短髪のVAMPの銃を払い落とした。
短髪のVAMP「こいつ⋯⋯っ! とか言ってみたり笑?」
パァン! パァン!
後ろ手にしていた左手に、2丁目の銃を隠し持っていた短髪のVAMP。流れるような動きで発砲し、美久の両足を撃ち抜く。崩れるようにその場に倒れ込む美久。
短髪のVAMP「やったぁ! よーやくお食事タイム!! てかウチすごない??」
「備えあればゴリラ死すってね」
「てかこいつ今弾避けた?」
思い思いに喋りながら、美久のもとに集うVAMP。美久は仰向けになりながら左手の銃剣を握り直し、VAMPに向けて持ち上げる。
「っ⋯⋯!!」
しかしVAMPに腕を踏みつけられ、銃剣が手から離れた。耐え難い痛みに、呼吸が乱れる。
「まじしつけぇ。ゴリラってかゴキブリだな笑」
短髪のVAMP「ゴリブリじゃない笑? クソまずそうけど、いっただきまーす!!」
短髪のVAMPが美久の右手を持ち上げ、噛みつこうと大きく口を開けた——。
短髪のVAMP「は⋯⋯?」
何が起きたのか、短髪のVAMPの首が一瞬で吹っ飛ぶ。驚きの表情を浮かべた生首が、地面を弾みながら転がっていく。
次いでその身体を踏みつけて着地する人影——綜舞だ。
綜舞「悪い、遅れた」
そう言うなり手首を返し、両手に持った斧を持ち直す綜舞。2つの斧を繋ぐ太い鎖が、小気味良い音を立てる。
「おい、一旦退避⋯⋯」
綜舞「できんの?」
逃げ腰になったVAMPに綜舞が襲いかかる。目にも留まらぬ速さで斧を振り回し、3人のVAMPがほぼ同時に斬り刻まれる。
「クソがぁ!!」
パァン!
最後の1人のVAMPが後ろに跳びながら銃を構えた瞬間——光る射線がVAMPのこめかみを貫いた。
綜舞「お、さんきゅ」
龙成「うん」
駐車場の出入り口に立ち、涼しい顔で拳銃を下ろす龙成。
VAMPは殲滅された。6つの灰の山が、夜風を受けて少しずつ崩れていく。
綜舞「大丈夫⋯⋯ではないか。1人でよく頑張ったな」
起き上がれずにいる美久のそばにしゃがみ込み、優しく頭に触れる綜舞。強い安心感と疲労感で、思わず目が潤む美久。
海央「美久!!」
息を切らしながら陸翔と共に駆けつける海央。美久の怪我を見て顔面蒼白になる。「まじかよ」と陸翔。
美久「あ、急所?は外れたっぽくて、そんなに痛くないから大丈夫。ほら、血もほぼ出てないし」
気丈に振る舞う美久。ぎこちない動きで上体を起こす美久を、綜舞が支える。慌てて海央も介助する。
陸翔「てかなんで美久がこんなことになってんの?」
不可解な状況に、顔を曇らせる陸翔。道中でVAMPと交戦したのか、手にした剣には血が付着している。
美久「えっと、渋谷のララサウンドで戦うって、龙成が電話してたの聞いちゃって。そしたら龙成が銃忘れちゃったから、届けに行ってみたら誰もいなくて、VAMPはいて⋯⋯、」
龙成「俺のせいでごめん」
龙成が消え入りそうな声で謝る。悲しげに伏せられた瞳。
美久「ううん、私が勝手にやったことだから。こっちこそ迷惑かけてごめんなさい」
綜舞「⋯⋯こっちの情報が漏れてたのか」
神妙な面持ちで口を開く綜舞。陸翔が無言で頷く。
海央「どういうこと?」
陸翔「美久が行ったのは駅前店の方だよな。渋谷にはララサウンドが2店舗あって、俺たちがいたのは道玄坂店。元々はこっちが会場のはずだった。それが、変更された」
美久「えっそうなんだ。だからみんないなかったんだ」
「そういえば、間違えて道玄坂の方に行った奴がいるとか、VAMPが言ってた。死んだじゃんって。みんながそっちにいるの知ってたっぽい」
陸翔「やっぱそうか。そのはぐれVAMPは綜舞が秒で殺したけど、そいつも間違えたとか口走ってたから、なんかおかしいとは思ってたけど」
龙成「⋯⋯この中に内通者がいるってこと?」
穏やかではない単語に、場に緊張が走る。状況からして、LYCANの襲撃をVAMPが予め把握していたことは間違いないだろう。
綜舞「この作戦は他のLYCANにすら知らせてないからな。あとは、伊勢さんくらいか」
美久「っでも私みたいに盗み聞きされてたって可能性もあるよね」
陸翔「ん~俺はそのへん気を付けてるけど」
綜舞「当然」
自然とみなの視線が海央に集中する。
海央「っいや俺だって気を付けてるからね?! というか龙成がそっち側なのはおかしいだろっ」
龙成「たしかに笑」
海央「とにかく今は帰ろう。美久を早く診てもらわないと」
海央はそう言うなり、美久を軽々と抱え上げた。お姫様抱っこされる形になり、動揺する美久。
美久「これで行くの?! 救急車みたいなのは⋯⋯」
陸翔「そんな気の利いたもんはない。いやあるっちゃあるけど、ほぼほぼ断られる」
龙成「むさ苦しい野獣集団だったからね笑、今までずっと」
陸翔「言いすぎだろ」
結局、重傷の少女を抱えた大男の後ろを、いかつい武器を携えたコスプレイヤーか何かの3人が続く形となった。通行人の視線が痛い。
陸翔「過去イチ見られてる」
綜舞「そのクソダサソードのせいだろ。なんでむき出しなんだよ」
剣を収納する為の大きなケースを腰から下げている陸翔。バッテリーを内蔵しており、UV光に必要な電力を賄えるようになっている。
かくいう綜舞の斧も、刃の部分を専用のカバーで覆い、ベルトに取り付けたカラビナからぶら下げているだけで、十分目立っている。
陸翔「うるせー⋯⋯今日斬り損ねたクズのせいで疼いてんだよ」
綜舞「妖刀かよ」
陸翔「てか見られてんのはお前の頭だから。なんで満月の日に10割増しなんだよ。普通は雨とかだろ」
たしかに今日は髪のボリュームがすごいなと、綜舞を盗み見て思う美久。
綜舞「容姿イジリは死刑だが大丈夫そ?」
陸翔「じゃあ俺のマスソちゃんイジリもやめれる?」
綜舞「やめれないからやめなくていいわ」
陸翔「おし戦争な」
険悪な雰囲気に戸惑う美久だったが、誰も止めないのを見て、いつものことなのかと胸を撫で下ろす。
龙成「⋯⋯!」
少し歩いたところで立ち止まる龙成。鋭い目つきで上空を見上げている。
海央「どした?」
龙成「ごめん先帰ってて」
龙成はそう言うなり、美久から返されたばかりの銃を手に走り出した。
美久「っそれもう弾ないよ!」
龙成「持ってるから大丈夫!」
言いながら新たな弾倉を取り出し、装填する龙成。
綜舞「おい勝手に動くな!! っ俺行ってくるわ」
海央「おう! 気を付けて!」
龙成の視線の先を見て、何かを察したらしい綜舞が後を追う。
美久が見上げると——近くのマンションの屋上に立つ、晚上と目が合った。
月光を受けて怪しく光る大鎌。ゆるやかにたなびく黒いマント。
高い襟で表情はほとんどわからない。ただ据わった双眸が、美久だけを捉え続けている。
陸翔「⋯⋯俺は龙成を止められない」
思い詰めたような表情でそう発する陸翔。一瞬陸翔を見やった美久が視線を戻した時には、晚上の姿は消えていた。
海央「頼むから止めてくれ。龙成も、自分も」
苦しげに陸翔を見つめる海央。普段は和やかなLYCANの面々が背負っている過去の重さを、美久は改めて窺い知る。
陸翔「そんな暇ねーんだよ。俺には」
無人の屋上を見つめる陸翔の目には、何か違うものが映っているようだった。
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