【日曜更新】ライク・アン・エクリプス【完結】

幻奏堂

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2051年4月26日(水) 後奏

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パァン!

 正体を現した店員に、半ば反射的に発砲する美久。銃弾は店員のみぞおちあたりを捉えたが、易々とかわされる。

VAMP店員「なんで君が撃つの笑? 死ぬべきなのは君の方でしょ」

パァン! パァン!

 後ずさりながら撃ち続ける美久だったが、この至近距離だというのに当たらない。
 店員は超人的な身のこなしで弾を避けながら、じりじりと美久に近付いてくる。

VAMP店員「大丈夫だよ、すぐには殺さないから。教えてほしいんだ。あいつの最期⋯⋯ねえ、どんな顔してた?」

 場所が悪いと、美久はひとまず店外へ出ようと踵を返す。しかし店の前には——咲鬼を筆頭に、大勢のVAMPが集結していた。

咲鬼「運ねェな~~たまたま逃げ込んだ先にVAMP笑!」

 咲鬼に同調して、VAMPらがわざとらしく笑い声を響かせる。咲鬼は満足そうに目を細めた。
 美久が振り返ると、店員はぼうっと立ち尽くしていた。戦意は感じられない。

咲鬼「さっきまでは鬼運だったのになァ? ま~尽きちまったもんは仕方ねェよな。大人しく死んどけ?」

 そう言って腕を交差させたかと思うと、二振りの刀を同時に抜刀する咲鬼。赤い残像が歪な翼のように広がる。

パァン!

 美久は怯むことなく、咲鬼の頭部を狙って発砲した。しかし1歩も動くことなくかわす咲鬼。首から上がまるでCG映像のようにブレて見えた。
 咲鬼が避けたことで弾が命中したVAMPが、灰を散らしながらその場に倒れ込む。微かなどよめきが起こった。

咲鬼「つーかお前ほんと何? LYCANでもないくせに1人で乗り込んできて、助けもこねーし、まじでトチ狂った泥棒じゃん笑。どんだけVAMPに恨みがあるわけェ?」

美久「⋯⋯VAMPは恨まれて当然。そっちこそ大人しく死んどけよ」

咲鬼「ヒャハハハ!!! 聞いたかおい笑!!」

 どっと笑いが起こる。腹を抱えて笑い転げる者、手を叩いて煽る者、嬉々として囃し立てる者。総じてどこか白々しい。

咲鬼「やっぱ獣くせーわ、お前。口の聞き方ってもんを忘れちまったみてェーだなァ?」

美久「VAMP相手にそんなの要らない」

咲鬼「あーあーあーデジャヴだわこれ! LYCANお得意の、負け犬の遠吠え笑!!」

美久「負け鬼の遠吠え? 自覚あるんだ笑」

 再び起こりかけた笑いが、美久の口撃に引いていく。「調子のってんじゃねーぞ!」と、ヤジが飛ぶ。

咲鬼「ハッ笑、クソガキ代表みてェなツラしやがって。わりーけどこう見えて300年生きてんだわ俺。これ以上付き合ってやれねェから」

美久「ほとんど喋ってたのお前じゃん」

咲鬼「⋯⋯無知なガキに教えてやるよ? その銃、あと7発しか撃てねェから。あのクソ犬には世話になってるからなァ、わかんだよ笑」

 「まじかよ」「スゲー!」と、感嘆の声が上がる。得意げな咲鬼。
 美久は弾倉と銃弾のサイズ感、これまでに何回撃ったかの記憶を辿り、確かにそれくらいだと思い至る。もちろん綜舞の言いつけ通り、弾倉は満タンだった。予備はない。

咲鬼「これから大人しく死ぬのはどっちか、ガキでもわかるよなァ?」

 咲鬼が大きな目を輝かせ、刀を持った両手を広げて近付いてくる。
 動きが制限される店内なら勝機はあると踏み、引き返そうとした美久に——店員が立ちはだかる。

VAMP店員「君は僕が殺す⋯⋯」

 そう虚ろに呟いて、胸ポケットから銃を取り出す店員。何を思ったか美久は全力で体当たりをし、店員もろとも倒れ込む。そしてすぐさま立ち上がり、商品棚の陰へと姿を消した。
 店員は微動だにしない、死んでいる。銃剣で腹部を斬られたようだ。出血は少ない。

咲鬼「やるねェ! おい誰でもいい、殺れ!!」

 灰と化す仲間を損壊しながら歩く咲鬼。咲鬼の号令を受け、他のVAMPも大挙して押し寄せる。
 手にしている武器は多種多様だ。腕に自信があるのか、素手の者も多い。

パァン!

 近づいてきたVAMPを撃つなり、その場から飛び出す美久。
 そして後続のVAMPが怯んだ一瞬の隙に銃剣を巧みに振るい、計3人を灰にする。

咲鬼「オイオイ犬どころか猿じゃねェか笑! あと6発ゥ!!」

 美久は屈んだ状態で移動し、2列先の商品棚の隙間から覗く咲鬼の足へと、狙いを定めた。

パァン!

 弾は狙い通りに飛んだが、幻覚だったかのように忽然と足が消えたかと思うと、狂気に満ちた咲鬼の顔面が現れる。

咲鬼「残念あと5発ゥ!!!」

パァン!

 その顔めがけて速射する美久だったが、動揺からか射線がぶれ、弾は床にめり込んだ。

咲鬼「ヒャハハハハハ4発!!!」

美久「っ?!」

 咲鬼に気を取られている間にVAMPに回り込まれていたらしい。美久は羽交い締めにされ、半ば引きずるようにして立たされた。

「みんなお前のせいで喉乾いてんだよね。責任取れよ笑」

 もう1人のVAMPが美久の首に掴みかかり、舌なめずりをして牙を剥き出しにした。シルバーのハンドガンを手にしている。

美久「ごめん、責任感ないんだ」

 美久はそう言うなり勢いよく上体を屈め、背負い投げするような形で、目の前のVAMPに背後のVAMPをぶつけた。

「うぉっ」

 そして倒れ込んだ2人のVAMPに容赦なく斬りかかり、灰にする。

咲鬼「まじかよゴリラじゃん笑!!」

パァン!

パァン!

 VAMPの1人が最後の力を振り絞って発砲し、反射的に撃ち返す美久。既に絶命しており、無駄撃ちになる。
 遅れて左足首に熱を感じる美久。靴下に血が滲んでいる。

咲鬼「ゴリ負傷ゥ~~あと3発ゥ~~」

パァン!

 美久が天井のシャンデリア型照明を撃ち抜き、店内が暗くなった。いくつか間接照明がある為、物の輪郭はわかる程度だ。
 痛む左足をかばいながら移動し、2階への階段を上がる美久。

咲鬼「ハイハイ隠れ鬼ねェ笑? おいお前ら一旦待機、俺が殺る」

 咲鬼は迷わず階段に向かってくる。見えているのか、血の匂いに反応しているのか。
 忍ぶ意味がないと悟った美久は階段を駆け上り、咲鬼との距離を広げた。

 2階は古着売り場のようだ。鮮血が飛び散ったようなデザインのTシャツ、刺々しいベルト、タランチュラの揺れるピアス。
 元々間接照明しかなく、客への配慮は感じられない暗さだ。お香と柔軟剤や古着の匂いが混ざり合った、耐えがたい悪臭が立ち込めている。

 美久は最奥の商品棚の裏に潜んだ。右手の突き当たりにカーテンの開いた試着室、右斜め後ろにバックルーム、背後に横長の大きな窓。
 弾は残り2発、限界だ。どうにか隙をついて脱出しなければならない。しかし出入り口にはまだ大勢のVAMPがいる。

咲鬼「鬼はァ俺ェ~~福はァてめェの血ィ!!」

 咲鬼が階段を上りきり、支離滅裂に吠える。そして刀で床を擦りながら歩き始めた。耳障りな音が緊迫感を煽る。
 おそらく司令塔である咲鬼さえ殺れればVAMPは行動不能になると、美久は逃げずに戦うことを決める。銃を持つ手に力が入った。

咲鬼「どこかなどこかなァ~⋯⋯ここかなァ?! いないなァ~」

 棚ひとつを挟んだ向こう、もうすぐそこまで咲鬼が迫っている。

咲鬼「どこかなどこかなァ~~」

 息を殺し、狙いを定める美久——。

咲鬼「ッここだなァ!?!?」

パァン!

 美久のいる通路に現れた咲鬼を撃ったが、またしても避けられる。試着室の鏡が、蜘蛛の巣状にひび割れた。

咲鬼「学ばないねェ!! あ、学べねェのか!! ゴリラだから笑笑!!!」

 嬉々としてそう叫び、飛びかかってくる咲鬼。まだ、1発ある。

?!

 美久に馬乗りになった咲鬼の胸部に銃を突きつけ、引き金を引いた美久だったが、弾が出ない。

咲鬼「ヒャハハハハハ!!! 残念あと6発でしたァ!! 敵の言うこと信じるとか大丈夫そ笑??」

 咲鬼はそう言うなり、刀の柄で美久の銃を弾き飛ばす。乾いた音を立てながら転がっていく銃。

咲鬼「ゴリラァ阿保ォ~~鬼がァ勝ちィ!!!」

 左手に『覇』の鍔の打刀、右手に桜の舞う大太刀、同時に美久へと振り下ろされる——。

咲鬼「うぉア?!?!」

 何か黒いものがぶつかりそうになり、咲鬼が美久から離れる。

咲鬼「晚上!! 何してんだてめェ、殺す気か!!!」

 晚上が大鎌を手に立っている。どうやら咲鬼に斬りかかったらしい。

晚上「そいつは俺の獲物だ、俺が殺す」

 感情の読めない目で美久を見下ろす晚上。不思議と悪意は感じられない。幾重にも重なった生粋の闇が、その奥で渦巻いている。

咲鬼「めんどくせェこと言ってんじゃねーよ!! つゥかだとしても俺まで殺る必要ねェだろ!!」

晚上「お前も死にたいんだろ? 俺にはわかる」

咲鬼「っ相変わらずきめェなァ!!! だいたいなんでここがわかった? 好き放題やってるくせによォ!!」

晚上「永月から聞いた」

咲鬼「はァ?! ガキ1人に大げさすぎんだr⋯⋯ってゴリどこ行った?!」

 美久を探して辺りを見回す咲鬼——窓が開いていた。銃もなくなっている。

晚上「そっから逃げた」

咲鬼「いや言えよ!!!」

晚上「言わねえよ。お前、譲る気ないだろ。あとで俺が殺しておくから、黙って待ってろ」

咲鬼「ってめェいい加減にしろよ!!!」

 刀を捨て、晚上に掴みかかる咲鬼。しかし晚上は動じることなく、不敵な笑みを浮かべた。

晚上「やる? 勝てんの? 俺に」

咲鬼「⋯⋯ッ!!」

 咲鬼は晚上を突き離すと、刀を拾って鞘に収めた。晚上はやれやれとばかりに衣服の乱れを直す。
 すると階下から様子を見にVAMPが現れた。晚上を見るなり表情が強張る。

咲鬼「ガキは逃げた、全員追え!! 見つけ次第殺せ!!!」

「はい!!!」

晚上「殺すな。殺したら殺す」

「えぇっ?!」

咲鬼「てめェなァ!!!!!」



 追手を気にしながら夜道を駆ける美久。VAMPは通行人を蹴散らしながら執拗に追いかけてくる。
 窓から降りる際、店前にいたVAMPに気付かれてしまった。数は少ないが、不利な状況には変わりない。

 足の速さには自信のあった美久だったが、さすがにVAMPには及ばず、少しずつ距離を詰められていく。アドレナリンのせいか、左足の痛みは消えていた。

「いい加減諦めろって!!」

 金属バットを振り上げ、美久に襲いかかるVAMP。美久はそれを避けた勢いで駐車場に入ってしまい、行き止まりに追い詰められた。人けはなく、車も数台しか停まっていない。

「はいお疲れぇ~~」

「いい墓場じゃん笑?」

 ぞろぞろと横並びになるVAMP、総勢6人。武器は金属バットが2人、木刀が1人、素手が3人。
 美久は銃剣を構え、臨戦態勢になる。さすがに疲労の色が濃く、焦りの表情が浮かんでいる。

「ねーてかまじで喉渇いたんだけどっ」

 その中の1人、毛先がゆるくカールした、サンドブロンドの短髪のVAMPが口を尖らせる。
 ライトブルーの瞳。白いオーバーサイズのスウェット、ダメージデザインのハーフデニム、厚底のハイカットスニーカー。

「こいつ殺したらすぐ吸わせてやるから」

短髪のVAMP「え~生き血がいい~武器奪って捕まえてよ」

「わかった、わかった。じゃ、とりまボコ殴りで笑!」

 そう言うなり駆け出し、木刀を振り下ろすVAMP。美久はそれを剣で受け止めたかと思うと、力強く薙ぎ払い真っ二つにした。
 次いで刃先がVAMPの頭部を捉えたが、すんでのところでかわされる。

「ヒューやっべえ切れ味!」

「ゴリスンギ!!」

 今度は金属バットの2人が同時に美久に襲いかかる。美久は前転しながら剣を振るい、両者の下肢を斬り裂いた。

——パァン!

「っ!」

 銃を落とし、右肩を押さえる美久。傍観していた短髪のVAMPが、拳銃を右手に薄ら笑いを浮かべている。

短髪のVAMP「今ちょっといけるかもとか思った? 残念でしたぁ~笑」

「おま、銃持ってたのかよ笑」

短髪のVAMP「能あるVAMPは銃を寝かすってね★」

「いや寝かしすぎな? 2人死んでっから笑」

 弟分なのか、周囲に可愛がられている様子の短髪のVAMP。銃を片手に子供のようにはしゃいでいる。
 美久は左手で銃剣を拾い上げ、ぎこちなく構えた。右腕はもう使い物にならない。視線はまっすぐにVAMPに注がれている。

短髪のVAMP「しつこいな~~大人しくしてなよ、どうせ死ぬんだから」

パァン!

 VAMPの撃った弾が美久の左足を捉えた。が、美久はそれよりも速く動いて距離を詰めると、短髪のVAMPの銃を払い落とした。

短髪のVAMP「こいつ⋯⋯っ! とか言ってみたり笑?」

パァン! パァン!

 後ろ手にしていた左手に、2丁目の銃を隠し持っていた短髪のVAMP。流れるような動きで発砲し、美久の両足を撃ち抜く。崩れるようにその場に倒れ込む美久。

短髪のVAMP「やったぁ! よーやくお食事タイム!! てかウチすごない??」

「備えあればゴリラ死すってね」

「てかこいつ今弾避けた?」

 思い思いに喋りながら、美久のもとに集うVAMP。美久は仰向けになりながら左手の銃剣を握り直し、VAMPに向けて持ち上げる。

「っ⋯⋯!!」

 しかしVAMPに腕を踏みつけられ、銃剣が手から離れた。耐え難い痛みに、呼吸が乱れる。

「まじしつけぇ。ゴリラってかゴキブリだな笑」

短髪のVAMP「ゴリブリじゃない笑? クソまずそうけど、いっただきまーす!!」

 短髪のVAMPが美久の右手を持ち上げ、噛みつこうと大きく口を開けた——。

短髪のVAMP「は⋯⋯?」

 何が起きたのか、短髪のVAMPの首が一瞬で吹っ飛ぶ。驚きの表情を浮かべた生首が、地面を弾みながら転がっていく。
 次いでその身体を踏みつけて着地する人影——綜舞だ。

綜舞「悪い、遅れた」

 そう言うなり手首を返し、両手に持った斧を持ち直す綜舞。2つの斧を繋ぐ太い鎖が、小気味良い音を立てる。

「おい、一旦退避⋯⋯」

綜舞「できんの?」

 逃げ腰になったVAMPに綜舞が襲いかかる。目にも留まらぬ速さで斧を振り回し、3人のVAMPがほぼ同時に斬り刻まれる。

「クソがぁ!!」

パァン!

 最後の1人のVAMPが後ろに跳びながら銃を構えた瞬間——光る射線がVAMPのこめかみを貫いた。

綜舞「お、さんきゅ」

龙成「うん」

 駐車場の出入り口に立ち、涼しい顔で拳銃を下ろす龙成。
 VAMPは殲滅された。6つの灰の山が、夜風を受けて少しずつ崩れていく。

綜舞「大丈夫⋯⋯ではないか。1人でよく頑張ったな」

 起き上がれずにいる美久のそばにしゃがみ込み、優しく頭に触れる綜舞。強い安心感と疲労感で、思わず目が潤む美久。

海央「美久!!」

 息を切らしながら陸翔と共に駆けつける海央。美久の怪我を見て顔面蒼白になる。「まじかよ」と陸翔。

美久「あ、急所?は外れたっぽくて、そんなに痛くないから大丈夫。ほら、血もほぼ出てないし」

 気丈に振る舞う美久。ぎこちない動きで上体を起こす美久を、綜舞が支える。慌てて海央も介助する。

陸翔「てかなんで美久がこんなことになってんの?」

 不可解な状況に、顔を曇らせる陸翔。道中でVAMPと交戦したのか、手にした剣には血が付着している。

美久「えっと、渋谷のララサウンドで戦うって、龙成が電話してたの聞いちゃって。そしたら龙成が銃忘れちゃったから、届けに行ってみたら誰もいなくて、VAMPはいて⋯⋯、」

龙成「俺のせいでごめん」

 龙成が消え入りそうな声で謝る。悲しげに伏せられた瞳。

美久「ううん、私が勝手にやったことだから。こっちこそ迷惑かけてごめんなさい」

綜舞「⋯⋯こっちの情報が漏れてたのか」

 神妙な面持ちで口を開く綜舞。陸翔が無言で頷く。

海央「どういうこと?」

陸翔「美久が行ったのは駅前店の方だよな。渋谷にはララサウンドが2店舗あって、俺たちがいたのは道玄坂店。元々はこっちが会場のはずだった。それが、変更された」

美久「えっそうなんだ。だからみんないなかったんだ」
「そういえば、間違えて道玄坂の方に行った奴がいるとか、VAMPが言ってた。死んだじゃんって。みんながそっちにいるの知ってたっぽい」

陸翔「やっぱそうか。そのはぐれVAMPは綜舞が秒で殺したけど、そいつも間違えたとか口走ってたから、なんかおかしいとは思ってたけど」

龙成「⋯⋯この中に内通者がいるってこと?」

 穏やかではない単語に、場に緊張が走る。状況からして、LYCANの襲撃をVAMPが予め把握していたことは間違いないだろう。

綜舞「この作戦は他のLYCANにすら知らせてないからな。あとは、伊勢さんくらいか」

美久「っでも私みたいに盗み聞きされてたって可能性もあるよね」

陸翔「ん~俺はそのへん気を付けてるけど」

綜舞「当然」

 自然とみなの視線が海央に集中する。

海央「っいや俺だって気を付けてるからね?! というか龙成がそっち側なのはおかしいだろっ」

龙成「たしかに笑」

海央「とにかく今は帰ろう。美久を早く診てもらわないと」

 海央はそう言うなり、美久を軽々と抱え上げた。お姫様抱っこされる形になり、動揺する美久。

美久「これで行くの?! 救急車みたいなのは⋯⋯」

陸翔「そんな気の利いたもんはない。いやあるっちゃあるけど、ほぼほぼ断られる」

龙成「むさ苦しい野獣集団だったからね笑、今までずっと」

陸翔「言いすぎだろ」

 結局、重傷の少女を抱えた大男の後ろを、いかつい武器を携えたコスプレイヤーか何かの3人が続く形となった。通行人の視線が痛い。

陸翔「過去イチ見られてる」

綜舞「そのクソダサソードのせいだろ。なんでむき出しなんだよ」

 剣を収納する為の大きなケースを腰から下げている陸翔。バッテリーを内蔵しており、UV光に必要な電力を賄えるようになっている。
 かくいう綜舞の斧も、刃の部分を専用のカバーで覆い、ベルトに取り付けたカラビナからぶら下げているだけで、十分目立っている。

陸翔「うるせー⋯⋯今日斬り損ねたクズのせいで疼いてんだよ」

綜舞「妖刀かよ」

陸翔「てか見られてんのはお前の頭だから。なんで満月の日に10割増しなんだよ。普通は雨とかだろ」

 たしかに今日は髪のボリュームがすごいなと、綜舞を盗み見て思う美久。

綜舞「容姿イジリは死刑だが大丈夫そ?」

陸翔「じゃあ俺のマスソちゃんイジリもやめれる?」

綜舞「やめれないからやめなくていいわ」

陸翔「おし戦争な」

 険悪な雰囲気に戸惑う美久だったが、誰も止めないのを見て、いつものことなのかと胸を撫で下ろす。

龙成「⋯⋯!」

 少し歩いたところで立ち止まる龙成。鋭い目つきで上空を見上げている。

海央「どした?」

龙成「ごめん先帰ってて」

 龙成はそう言うなり、美久から返されたばかりの銃を手に走り出した。

美久「っそれもう弾ないよ!」

龙成「持ってるから大丈夫!」

 言いながら新たな弾倉を取り出し、装填する龙成。

綜舞「おい勝手に動くな!! っ俺行ってくるわ」

海央「おう! 気を付けて!」

 龙成の視線の先を見て、何かを察したらしい綜舞が後を追う。
 美久が見上げると——近くのマンションの屋上に立つ、晚上と目が合った。

 月光を受けて怪しく光る大鎌。ゆるやかにたなびく黒いマント。
 高い襟で表情はほとんどわからない。ただ据わった双眸が、美久だけを捉え続けている。

陸翔「⋯⋯俺は龙成を止められない」

 思い詰めたような表情でそう発する陸翔。一瞬陸翔を見やった美久が視線を戻した時には、晚上の姿は消えていた。

海央「頼むから止めてくれ。龙成も、自分も」

 苦しげに陸翔を見つめる海央。普段は和やかなLYCANの面々が背負っている過去の重さを、美久は改めて窺い知る。

陸翔「そんな暇ねーんだよ。俺には」

 無人の屋上を見つめる陸翔の目には、何か違うものが映っているようだった。
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