初恋の先へ

咲 カヲル

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ここは、オーリエンス大陸。
多くの人々が、魔力や聖力を持ち、魔法使いや賢者がいるような世界。
そんな世界でも、力のない人々も存在していた。
力のない人々は、剣を持ち、魔法使いに対抗するように、己の武力を高め、騎士としての地位を確立した。
その中央部にあるサイフィス王国には、それなりに大きな国であり、剣術に長けた多くの騎士もいた為、互いが互いを差別するように蔑み、卑下しては、小さな争いが絶えなかった。
その火種は、徐々に徐々に、貴族の間にも広がり、大きな内戦が起き、国の存続が危ぶまれたこともあったが、当時の国王が、腕のたつ騎士、優秀な魔法使い、完全中立な魔剣士の三人を選び、それぞれに公爵の爵位を与えた。
三つの公爵家が、王家に仕えることで、サイフィス国は、均衡を保つことができ、今では、ウィルセン帝国の次に、大きな国となった。
その三大公爵家の一つであるアルベル公爵家の一人娘リリアンナ。

(あ~もう…こんな時に思い出すなんて…最低だわ)

黒髪に黒目が美しいリリアンナは、次期王妃として相応しく、国母となれば、国は繁栄するであろうと、神託を下され、生まれる前から王家に嫁ぐことが義務付けられた。
しかし、神託が知られれば、派閥争いや陰謀によって、リリアンナ自身だけでなく、身籠る夫人の身も、危機に晒される可能性があることから、神殿や使用人達には、緘口令が出され、国王と公爵達によって、その事実は、徹底的に隠された。
だが、リリアンナが生まれ、すぐに実母であるアンナ・アルベル夫人は亡くなってしまった。
健康であった夫人の突然の死は、不自然な部分も多く、更に、とても優しかった夫人を慕う使用人も多かった為、当時の公爵家では、様々な憶測が飛び交った。
アルベル公爵も、夫人を深く愛していた為、出来ることならば、真相を暴きたかったが、隠された事実を公にすることも出来ず、病死として処理した。
アルベル公爵は、夫人が残したリリアンナを守る為、激務をこなしながらも、愛情を注いだが、一人では、全てを賄えなかった。
その為、リリアンナが三つになる頃、公爵家で侍女をしていた者を後妻として迎えた。
そして、アルベル公爵が、神託の事実告げると、公爵夫人となった侍女は、その喜びと栄誉に溺れ、リリアンナを甘やかした。
そんな夫人に育てられ、リリアンナは、とても我儘になってしまった。
欲しい物を手に入れる為なら手段を選ばず、気に入らなければ罵倒を浴びせ、怒り狂うと、発狂して解雇を言い渡した。

(今までの私は、本当にどうしょうもなく、愚かだったわ。いくら子供だからと言っても、やり過ぎよ)

そんなリリアンナが十歳になり、王子との婚約が決まったある日。
前世の記憶が蘇り、リリアンナは、何度生まれ変わろうとも、幾億の星を超えようとも、互いに強く惹かれ合う人がいることを思い出した。

(これでは、今回も、彼と一緒になるのは難しいわね)

生まれ変わる度、何度も出会い、身分や種族の違いで、哀しくも空しく別れを告げた記憶に、ため息が出てしまった。

(もう何度目かしら)

リリアンナは、王子との婚約を受け入れたことを後悔した。

〈コンコン〉

「どうぞ」

〈ガチャ〉

「おはようございます。リリアンナ様。本日は日和も良く、とても日差しが暖かく…」

なんやかんやと言いながら、軽快にカーテンを開ける背中に視線を向け、小さなため息を零して、リリアンナは、ゆっくりと起き上がった。

「本日は、どのお召し物に致しましょうか?」

リリアンナが、開かれたクローゼットの前に立ち、ジーッとドレスを見つめると、侍女は、ニコニコと笑っているが、ゴクンと生唾を飲み込んだ。

(ホント、今までの私はバカね。こんなのばっかり着ていたなんて。恥ずかしいわ)

派手な色のドレスを見上げて、リリアンナがため息をつくと、侍女の肩が、ビクンと大きく揺れ、ブルブルと震え始めた。

(ため息一つで、ここまで怯えるなんて…私ったら、ホント嫌な女ね)

リリアンナが、クローゼットの端っこにあった薄緑色のドレスを指差すと、侍女は、目を白黒させて驚いた顔をした。

「ああの…リリアンナ様。本当に、こちらで宜しいのでしょうか?」

リリアンナが頷くと、侍女は、口元に手を当てて立ち尽くした。
普段は、選ばないような色合いのドレスに、驚き過ぎて、動けなくなった侍女を見つめてから、リリアンナは、黙ってドレッサーの前に座った。

「…どうしたの?」

リリアンナが声を掛けると、弾かれたように、ビクッと肩を揺らしてから、侍女は、慌てて深々と頭を下げた。

「も申し訳ございません!!どうかお許し下さい!!」

リリアンナは、パチパチと何度も瞬きをして、驚いた顔で、頭を下げたまま、ブルブルと震える侍女を見つめた。

(声を掛けただけでも、こんなに怯えさせてしまうのね。もう喋らない方がいいかしら)

無言のまま、ゆっくり前を向いて、鏡の中を見つめると、真っ黒な髪と大きく輝く瞳を見つめた。

(…これじゃ、彼と愛し合う資格なんてないわ。今回も、彼を想うだけで終わりかしら)

「…し失礼します。御髪を整えさせて頂いても、宜しいでしょうか?」

リリアンナが、コクンと頷くと、侍女は、手を震わせながらも、ゆっくりと髪を梳かし始めた。

(今回の彼は、どこで何をしてるのかしらね。痛っ)

花を模った髪飾りが耳にぶつかり、リリアンナが、顔を歪めながら、手で触れると、鏡に写る侍女の顔が、血の気が引いたように真っ青になった。

「も申し訳ございません!!」

(あ~…なんか疲れちゃった)

リリアンナが、小さく首を振って、微笑みながら、鏡を見つめると、侍女は、真っ青な顔で、震えながらも、身支度を進めた。

(…やっぱり淡い色を選んでも派手ね。今度、暗めのを買ってもらおうかしら)

身なりを整え、リリアンナが、ダイニングに向かうと、父親であるアルベル公爵と母親の公爵夫人が、優雅にティーカップを傾けていた。

「おはよう。リリアンナ」

焦茶色の髪を揺らして、焦茶色の瞳を細めて、愛おしそうに、シューベルス・アルベル公爵が、優しく微笑んだ。

「おはようございます。お父様」

橙色の髪には、派手な髪飾りを着け、胸元が大きく開いた赤いドレスを着た後妻のマリナ・アルベル夫人は、橙色の瞳を隠すように、ニコッと笑った。

「おはよう。リリアンナ。今日は~…随分と可愛らしいドレスにしたのね」

元は、侍女だった夫人も、後妻になり、リリアンナの神託を知ると、身なりが派手になり、感情の起伏も激しくなって、アルベル公爵以上に、リリアンナを溺愛する夫人の反感を買わぬよう、使用人達は、常に気を使っていた。

「おはようございます。お義母様」

リリアンナが席に座ると、素早く朝食が並べられ、多くのメイドや召使いが、その背に並んだ。

(見張られてるみたい。今までの私は、よく、こんな生活をしていたものね)

「リリアンナ。今日のお茶会は、王城の花園で行われるのだから、もう少し、華やかなドレスに着替えてから行くのよ?」

ニコッと笑う夫人を見つめ、コクっと小さく頷き、リリアンナは、無言のまま朝食を口に運んだ。

「今日の天気なら、この前買ったピンクパールの髪飾りに、同じ色味のドレスがいいわね。あと、髪は巻き髪にして~」

夫人が、身なりについて、あれやこれと言い始めたが、リリアンナは、黙って料理を口に運んだ。

「…ごちそうさまでした。お父様。お義母様。お先に失礼します」

優雅にお辞儀をして、さっさと部屋に戻ると、侍女が、夫人の言っていた髪飾りやドレスを準備し始めた。

(…彼女には悪いけど、そんな派手な格好じゃ恥ずかしすぎて、外に出られないわ)

わざとため息をつき、侍女が手を止めると、リリアンナは、そのまま部屋を出た。

「リリアンナ様!!お召し替えを…」

振り向いたリリアンナは、無言のまま首を振り、足早に玄関ホールを抜けて、馬車に乗り込んだ。

〈ガタガタガタ〉

馬車に揺られながら、流れ去る景色を見つめ、リリアンナは、また小さなため息をついた。

(もう悪目立ちするような格好はしたくないわ。どうにかして、ドレスやアクセサリーを変えないと。とりあえず、今あるのを売って、買い替える方がいいかしら。でも、お義母様に知られると、色々うるさそうなのよね。いっそのこと、お父様に頼んでみようかしら)

王城が見え始め、他の貴族の馬車も見えた。

(…あら?あの馬車…ウィルセン帝国のだわ。着替えなくてよかった)

城門を通り抜け、馬車を降りて、会場である庭園に向かう中、リリアンナは、停まっている馬車を見て、安心したように、ふぅ~と息を吐き出した。

(ここは、いつ来ても綺麗なのよね)

バラのアーチを通り抜けると、好きに庭園を観て回れるように、立食式で、軽食が乗ったテーブルが置かれ、多くの貴族達が談笑をしながら、グラスを傾けていた。
本来ならば、アルベル公爵か夫人が、一緒に参加するのだが、二人とも用事があった。

(一人なら、不参加でも良かったはずなのに)

しかし、体面を気にする夫人が、勝手に参加する旨の手紙を出してしまった為、アルベル公爵が、用事を済ませてから参加する事となり、リリアンナは、先に会場入りしていた。

(お義母様が参加するって言ったんだから、お義母様が来れば良いのに…ヒペロプ夫人からの招待だからって、お父様と私に押し付けるなんて。体面を気にするより、常識を学んで欲しいわ。でも、もうやるしかないわね。よし)

庭園を進んで、よく知る二人を見付けると、リリアンナは、足早に近付いた。

「ルーデン国王陛下」

金髪の髪を揺らし、ルーデン・サイフィス王が、リリアンナを見下ろし、青い瞳を優しく細めた。

「セーレヌ王妃殿下」

栗色の長い髪にサファイアの髪飾りを着け、セレーヌ・サイフィス王妃が、栗色の瞳を細めて、優しく微笑んだ。

「本日は、お招き頂き、誠にありがとうございます。遅れて参ります、父親、シューベルス・アルベルに代わり、リリアンナ・アルベルが、ご挨拶申し上げます」

「こちらこそ、来てくれてありがとう。リリアンナ」

「今日は、楽しんでね」

「はい。ありがとうございます。モーガン王子殿下にも、ご挨拶させて頂きたいのですが、どちらに、いらっしゃいますでしょうか?」

「モーガンなら、ローデンやデュラベルと一緒に、西の花園に向かったわよ」

「ありがとうございます。私も、向いたいと思いますので、これにて、失礼させて頂きます」

「えぇ」

「リリアンナ。今日は、来てくれてありがとう。存分に楽しんでくれ」

「ありがとうございます。それでは、失礼致します」

二人から離れ、西の花園に向かう中、多くの大人が、リリアンナに声を掛けた。

「お久しぶりです。リリアンナ嬢」

「ご無沙汰しております。ユリシア卿」

「ごきげんよう。リリアンナ様」

「ごきげんよう。スターシス様」

リリアンナは、全ての人に挨拶を返しながらも、足早に西の花園に向かったが、モーガンの姿はなかった。

(やっぱり、あそこに行ったのね)

リリアンナは、西の花園の少し先で、低木の間から林に入ろうとした。

「あら。リリアンナ様」

低木の前で振り返ると、クルクルと、明るい茶髪を縦巻きにして、真っ赤なドレスを着たマリューシア・ターサナ候爵令嬢と、その取り巻きの御令嬢達が、ニヤニヤと、嫌な笑みを浮かべていた。
マリューシア侯爵令嬢は、事あるごとに、リリアンナに絡んでは、取り巻き達と一緒に、小馬鹿にするように嘲笑っていた。

「そちらに、何かございまして?」

「何もございませんわ」

「あら。マリューシア様。あちらの低木、何か付いてらっしゃるようですわ」

リリアンナが、通り抜けようと近付いた低木をよく見ると、小さな薄緑色の毛虫がぶら下がっていた。

「あら~。可愛らしいイモムシですこと。まるで、リリアンナ様みたいですわ」

「マリューシア様。リリアンナ様と同じだなんて、虫がかわいそうですわ」

扇子で口元を隠しながらも、大口を開けて、ケタケタと笑う姿を見つめ、リリアンナは、小さくため息をついた。

(…馬鹿馬鹿しい)

軽くお辞儀をすると、リリアンナは、ゲラゲラと笑う御令嬢達を置いて、低木をかき分けて通り抜け、林の中に入った。

(今までの私も、あんな感じだったのよね。威張っては怒鳴って、メイドや侍女を解雇して…ホント、私って愚かだわ)

リリアンナは、ため息を何度もつきながら、西の花園の先に向かって、林の中を進んだ。

(…あら。どうやら、迷ってしまったようだわ)

普段なら五分も歩けば、よく三人が遊んでいる大きな木に辿り着くはずが、この時のリリアンナは、十分以上歩いても辿り着けずにいた。

(一旦戻ろうかしら。でも、今戻ったら、また、あの娘達に絡まれそうね。どうしましょう…あら。こんなところもあったのね)

少し拓けた先に、小さな湖が広がり、周囲には、名も無い花が咲いていた。

(…綺麗…)

キラキラと、水面が光り輝く湖。
その周りでは、色とりどりの花が、そっと吹き抜ける風で揺れた。
深呼吸するように、淡く甘い香りを胸いっぱいに吸い込み、リリアンナは、真っ白な雲が流れる空を見上げた。

〈チチチ…チチ…チチチ〉

枝の上で、歌うように囀る小鳥を見つめて、リリアンナは、小さな微笑みを浮かべた。

「…上手ね。私も、一緒に歌ってもいいかしら?」

〈チチチ〉

まるで、返事をしたような小鳥の囀りに、リリアンナは、嬉しそうに、ニコッと笑って、歌い始めた。
喜びで跳ねるように、リリアンナの透き通る歌声が、林の中に響くと、遠目に見ていた小鳥も、楽しそうに歌いながら飛び回った。
小鳥と戯れるように、髪を揺らしながら、楽しそうに、自由に歌っていると、リリアンナの前に、中型犬程の狼が、白銀の毛を揺らして現れた。
リリアンナは、驚いた顔で、そのハイグレーの瞳を見つめていたが、花を揺らして、風が吹き抜けると、嬉しそうでありながら、恥ずかしそうな笑みを浮かべて、膝を着けながら腕を広げて、狼に手を伸ばした。
それを待っていたように、狼も、リリアンナの腕の中に収まると、その頬に頬擦りをした。
サーッと風が流れ、花の香りが、二人を包むと、リリアンナは、体を離して、狼の頭や頬を撫でながら、今度は、甘く切ない声で歌い始めた。

「…リリアンナ?」

風に美しい金髪を揺らされながら、モーガン・サイフィス王子が、栗色の瞳を輝かせて、遠くを見つめた。

「そうみたいだね」

群青色の髪を揺らして、ローデン・エルテル公爵子息が、モーガンと同じ方を見つめて、群青色の瞳を細めた。

「またかよ」

真っ赤な髪を乱暴に掻きむしりながら、デュラベル・タラス公爵子息が、真っ赤な瞳をギラギラと輝かせ、心底、嫌そうな顔をした。

「父上に見付かったら、また怒られるじゃねぇかよ」

「当たり前だろ」

「僕たちが、悪いことしてるんだから、仕方ないよ」

リリアンナの歌声が聞こえると、デュラベルは、うんざりしたように舌打ちをした。

「それより、彼女、迷子になってるんじゃない?」

「そうかもね。迎えに行こうか」

「あんなヤツほっとけよ」

曖昧に微笑むモーガンの隣で、ローデンが、大きなため息をついた。

「デュラベル」

「だってよ~」

「いくら我儘でも、公女は、モーガンの婚約者なんだから」

「んとに、面倒くせぇなぁ」

〈ザクザクザクザク〉

足音を気にしながら、慎重に進むモーガンとローデンの隣で、デュラベルは、逆に音を発てて乱暴に歩いた。

「お前さ、静かに歩けないの?」

「なんでだよ」

「彼女に気付かれるだろ」

「別にいいだろ」

「楽しそうに歌ってるみたいだから、邪魔しちゃ悪いよ」

「あんな我儘で性悪女に、気ぃ使うことねぇって」

「でも」

「モーガンは、婚約者だからって優しすぎんだよ」

「デュラベル」

「あーもう!わ~ったよ。んとに、お前ら、女だからって甘過ぎなんだよ」

また曖昧に微笑んだモーガンの隣で、ローデンが睨むと、デュラベルは、まだ音はするが、慎重に歩くと、歌声に紛れて聴こえづらくはなった。
少しずつ歌声がハッキリと聞こえ始め、視界が拓けると、三人は、湖の向こう側で、白銀の狼と、寄り添うようにして座るリリアンナを見つめて動きを止めた。
恐ろしいはずの光景だが、頭を寄せ、安心したように、微笑みながら歌うリリアンナの姿は、とても大人びて見えた。

「…リリ…アンナ…リリアンナ!!」

モーガンが走り出すと、ローデンは、腰元から杖を引き抜き、デュラベルは、腰に差した剣の鞘を掴んで走り出した。

「リリアンナ!!」

「おい!!離れろ!!」

「こちらへ!!早く!!」

焦るような声の三人とは裏腹に、リリアンナは、ゆっくりと視線を向けて、悲しそうに瞳を細めた。

「リリアンナ!!」

三人から視線を反らして、狼と見つめ合うと、リリアンナの額に、狼の鼻が触れた。

「…またね」

名残惜しそうに頬擦りをすると、一足先に狼が立ち上がり、スタスタと、林の中に向かい、静かに、その場を去って行った。
その後ろ姿を寂しそうに見つめてから、リリアンナは、ゆっくり立ち上がって、ドレスの裾を払った。

「リリアンナ!!大丈夫!?怪我はない??」

ゆっくり振り返ると、リリアンナは、ニコッと微笑んで、コクンと小さく頷いた。

「リリ…アンナ?」

ニコニコと笑ってはいるが、今までと違う雰囲気のリリアンナに、三人は、戸惑うように視線を合わせた。
ドレスの裾を広げながら頭を下げると、クルッと背中を向けて、リリアンナは、三人を置いて歩き始め、スタスタと会場に向かった。

「…何したんだ?アイツ」

「さぁ?」

「…リリアンナ?待って!リリアンナ!」

「あ!おい!モーガン!!」

リリアンナを追って走り始めたモーガンを追い、デュラベルとローデンも走り始めた。

「待ってよ!リリアンナ!」

その手を掴んで、モーガンが引き止めると、リリアンナは、ニコニコと笑ったまま、視線を向けて、コテンと首を傾げた。

「何か」

「リリアンナ!!」

慌てたアルベル公爵が現れると、その後ろから現れた公爵達の姿に、デュラベルとローデンの頬が引き攣った。
ローデンと同じ、群青色の長髪を結って、キース・エルテル公爵が、群青色の瞳を強調するような眼鏡を押し上げた。

「ローデン。何故、こんな林の中に入ったんだ」

「それは…申し訳ございません。父上」

エルテル公爵が、大きなため息をつくと、隣で血のような赤髪を揺らし、赤い瞳が強調される程、目尻を釣り上げ、ティーダ・タラス公爵が怒鳴った。

「デュラベル!!お前は!!何度言えば分かるんだ!!」

「俺じゃねぇよ!!モーガンが!!」

「王子のせいにするんじゃねぇ!!」

「タラス公。エルテル公。僕が、二人を誘ったんだ」

モーガンが、リリアンナの手を離し、二人を庇うように割って入り、困ったように微笑むと、公爵達は、グッと言葉を飲み込んだ。

「だから、そんなに怒らないでやってほしい」

「しかし王子」

「アルベル公。リリアンナを巻き込んでしまって申し訳ない」

「いえ。リリアンナ。大丈夫か?」

ニコニコと笑ったまま、コクンと頷くと、リリアンナは、視線を合わせるように屈んだアルベル公爵の胸に額を着けた。

「…リリアンナ?どうしたんだ?」

驚きながら、アルベル公爵は、そっと肩に触れたが、リリアンナは、額を着けたまま、無言で、首を振るだけだった。

「…疲れたなら帰ろうか」

コクンと頷くだけで、顔を上げないリリアンナの背中を見つめて、モーガンは、グッと唇に力を入れた。

「ごめんね。リリアンナ。また遊びに来てね」

モーガンは、なるべく明るく、優しく微笑んだが、リリアンナは、振り返って、ニコッと微笑んで、頭を下げただけで、声を発さない。

「…行こうか。それでは、私達は、これにて、失礼します」

アルベル公爵に抱えられて、庭園を去って行くリリアンナを見つめて、モーガンは、寂しそうに瞳を細めた。

「…なんか言えってんだよ…」

「デュラベル!!」

アルベル公爵の肩に額を着けて、顔を見せないリリアンナを見つめて、デュラベルが、ボソっと呟くと、タラス公爵が、再び怒鳴り、大きなため息をついた。

「んとに。一体誰に似たんだか」

「ティーダの幼い頃にそっくりだな」

国王が現れると、慌てて、タラス公爵とエルテル公爵は、頭を下げようとした。

「堅苦しいのはよせ。ここでは、いつも通りで良い」

リリアンナを抱えるアルベル公爵の背中を見つめ、国王は、目尻を下げ、鼻で、小さなため息をついた。

「モーガン」

「はい。父上」

「ローデン。デュラベル」

「はい。陛下」

「確かに、リリアンナは、モーガンの婚約者で、将来、この国の王妃となる。だが、今のリリアンナは、お前たちよりも五つも若く、十歳になったばかりだ。それに、まだ、デビュタントもしていない。そんな娘をあのように悲しませてどうする」

至極当たり前のことだが、国王が言葉にすると重みがあり、文句を言ってたデュラベルでさえ、大人しくしていた。

「申し訳ございません」

「何があったかは聞かぬが、これ以上、リリアンナが、悲しむことはするでないぞ」

「はい」

「…何もしてねぇっての…」

「デュラベル!!」

タラス公爵の声が響くと、国王は、ゲラゲラと大声で笑った。

「しかし、こうしてデュラベルを見ていると、幼い頃のティーダを思い出すな」

「ですね」

「ちょ!おい!キース」

「確か、ティーダも、あの木で遊ぶのが好きだったな」

「えぇ。それこそ、ルーデン王を使ってましたね」

「あれは、ルーデン王が」

「はて?人のせいにするなと言ったのは、どこの誰だったかな」

「ティーダです」

「おい~」

大声で笑う三人を見つめて、モーガン達が視線を合わせると、エルテル公爵は、ローデンの頭に手を乗せた。

「私達は年が近いのだよ。その為、ルーデン王が、王子だった時からの仲でね。今のローデン達と同じように、よく遊んでいたんだ」

「そうなんですね」

「昔は、シューベルスも一緒だったんだがな」

「今は、娘のことで忙しいのでしょ」

「私も、そう思います」

「そうだな。どれ、そろそろ戻ろうか。王妃達が心配し始める頃だ」

モーガン達を連れて、国王達が会場に戻ると、鬼のような形相で、赤茶色の長い髪を揺らしながら、赤茶色の瞳が線に見える程、目尻を釣り上げ、ナタリア・タラス公爵夫人が、大声を出した。

「デュラベル!!」

「まぁまぁ。ナタリア。そんなに怒ったら、眉間にシワが寄ってしまうわよ」

ニッコリと笑ってはいるが、王妃からも怒りを感じ、モーガンは、恐ろしさに凍りついたように動きを止めた。

「そうですよ。男の子なんですから、少しくらいヤンチャでも大丈夫ですわ」

薄緑色の長い前髪の隙間から、薄緑色の瞳が見えない程、ニコニコと笑うフレール・エルテル公爵夫人に、三人は、安心したように、ふぅ~と、小さく息を吐き出した。

「でも、女の子を泣かせてはいけないわよ?ローデン」

「…はい。母上」

「デュラベルと王子も。良いですか?女の子は、硝子細工のように繊細なのです。どんなに強く見えても、優しくしてあげないといけません」

「はい」

「それに、リリアンナ様は、まだ十歳なのに、一人でも、ちゃ~んと挨拶回りまで出来る、凄く偉い子なのですから」

夫人は、ニコニコと、優しく微笑みながらも、三人に、クドクドと説教を始めた。

「…やはり、怒ってるエルテル夫人が、一番怖いな」

「何か言ったかしら?タラス公爵様」

ニコニコと笑う夫人に視線を向けられ、タラス公爵は、慌てて首を振った。

「いえ。何も」

「そう?今、怒ってる私が、一番怖いって聞こえたと思ったのだけど。ねぇ、アナタ?」

「そんなことないよ。ティーダは、フレールの可愛らしさが分かってないだけさ」

「もう~。アナタったら」

ペケペケとハートを飛ばしている二人を見て、周りから、クスクスと笑い声が聞こえ始めた。

「…だから外ではやめてって言ってるのに…」

真っ赤な顔を隠すように、下を向き、ボソボソと呟くローデンの背中をデュラベルとモーガンが、優しく擦っていると、国王が、大きな咳払いをした。

「しかし。デュラベルではないが、今日のリリアンナは、少し違和感があったな」

普段のリリアンナなら、三人が何かすると、王達に告げ口して、嗜めるように言い放つが、この時のリリアンナは、アルベル公爵に抱えられて、大人しく帰ってしまった。

「そういえば、そうですわね」

「何かあったのかしら?」

「…デュラベル。まさか、リリアンナ様に、酷いこと言ったんじゃないわよね?」

夫人に、キッと横目で睨まれると、デュラベルは、勢い良く首を振った。

「本当でしょうね?」

「まぁまぁ。一人で会場入りしていらしたし、もしかしたら、本当に疲れてしまっただけかもしれませんわ」

「アルベル夫人も、もう少し、お考え下さればいいのですが」

「ホントですわね」

「失礼します」

夫人達からため息が溢れた時、白銀の髪を揺らして、モーガンと同じくらいの男の子が、ハイグレーの瞳を細めて頭を下げた。

「ルーデン国王陛下。セーレヌ王妃殿下。モーガン王子殿下。私、ウィルセン帝国のアスベルト・ダルトン・ウィルセンと申します。皇帝チチに代わり、ご挨拶申し上げます。本日は、お招き頂き、ありがとうございます」

「いえいえ。こちらこそ」

「アスベルト皇太子殿下に、参加して頂けて、光栄ですわ」

ニコッと笑う二人に、頭を下げてから、アスベルトは、モーガンに視線を向けた。

「年齢も近いようですので、仲良くして頂けると、嬉しいのですが」

「私こそ、仲良くして下さい。アスベルト皇太子様」

「どうぞ、気楽にお呼びください」

「分かりました。アスベルト殿下。私も、気楽にお呼び頂ければ幸いです」

「分かりました。モーガン殿下」

モーガンと握手を交わし、アスベルトは、ローデンとデュラベルにも握手を求めた。

「どうぞ、宜しくお願いします」

「こちらこそ、宜しくお願い致します。ローデン・エルテルと申します」

「デュラベル・タラスです。宜しくお願いします」

アスベルトが、二人とも握手を交わしていると、国王が首を傾げた。

「すぐ国に戻られるのですか?」

「いえ。父からも、世界を見て来いと言われましたので、しばらくは、滞在させて頂こうかと思うのですが」

「でしたら、そのまま、メント宮殿をお使い下さい」

「ありがとうございます」

ニコニコと微笑む二人に、頭を下げてから、アスベルトは、ニコッと笑った。

「ところで、先程お帰りになられたレディは、モーガン殿下の“ご友人”ですか?」

婚約に関しては、リリアンナが、デビュタントを終えてから、婚約式を行うことで、公式的な発表となる予定の為、モーガンは、曖昧に微笑んだ。

「とても可愛らしい方ですね」

「…どこが…」

「デュラベル!」

「とても素直で、お優しく、責任感もあって、人を貶めるのではなく、正すことができるような、真っ直ぐなレディ」

夫人が、デュラベルを叱り付けようとしたが、アスベルトは、それを遮ると、ニコッと笑った。

「肩書きだけをこだわり、自分の利だけを考えてる御令嬢、御令息方は、足元にも及ばない程、素敵なレディ」

リリアンナを小馬鹿にして笑っていた令嬢達の顔が、真っ青になり、デュラベルも、唇に力を入れて、息を呑んだ。

「私は、そうお見受けしましたが、間違っていますでしょうか?」

大人でさえ、息を呑む程、アスベルトは、威圧感のあるの笑顔を浮かべた。

「どうでしょう?モーガン殿下。私は、間違っていますか?」

まだ見た目の幼さはあるが、次期皇帝の威厳を感じさせるアスベルトに、モーガンは、頬を引き攣らせながらも、ニコッと、ぎこちなく笑った。

「いえ。アスベルト殿下のおっしゃる通りです。リリア」

笑っていたはずのアスベルトが、無表情となると、見えない刃が、喉に突き付けられたような危機感に、モーガンは、ヒュッと息を呑んだ。
ほんの一瞬の表情の変化も、見逃せば命取りになりかねないアスベルトを見て、その場にいる大人達も息を呑んだ。

「あアルベル公女は、とても素直で、愛らしい御令嬢です」

背中に冷や汗を流しながらも、必死に笑顔を保つモーガンを見つめてから、アスベルトは、パッと、明るい笑顔を見せた。

「モーガン殿下も同じようで、安心しました」

ニコニコと、明るい笑顔を見せるアスベルトを見て、安心したように、モーガンの肩から力が抜けると、遠くの方から、安堵のため息が漏れた。

「出来ることなら、あのレディとも、お近付きになりたかったのですが」

アスベルトは、何の感情も読み取れないハイグレーの瞳で、冷や汗を浮かべながら、頬を引き攣らせるターサナ候爵を見つめた。

「とても、残念です」

アスベルトを中心にして、足元から巻き上がる風が、キラキラと、輝きを放ちながら、周囲に広がると、ターサナ候爵の持つグラスが、パキンと、甲高い音をさせて凍った。

「あアスベルト殿下。今度、二人と一緒に、アルベル公女も、お茶にお誘いしようかと思っていたのですが、殿下も如何ですか?」

パーっと風が散るように消えるのと、アスベルトは、モーガンに視線を向けて、キラキラと瞳を輝かせた。

「ホントですか?」

アスベルトが、一瞬にして、目の前に現れると、モーガンは、ヒュッと息を呑んだ。

「是非、宜しくお願いします」

一瞬にして近付き、子供らしく、頬を赤らめながら、明るい声で、モーガンに顔を寄せたアスベルトを見て、デュラベルやローデンは、ホッと、胸を撫で下ろしたが、エルテル公爵とタラス公爵は、それぞれの夫人を引き寄せた。

「ローデン」

「デュラベル」

夫人達も、公爵達の背に庇われるように立ちながら、二人を呼び寄せ、そっと、自分の前に立たせた。

「モーガン」

王妃も、モーガンを呼び寄せ、国王も、公爵達と同じように、二人を庇うように立つと、アスベルトを見つめた。

「これは失礼しました。あまりにも嬉しかったもので、つい、近付き過ぎてしまいましたね」

ススっと後ろに下がって、頭を下げたアスベルトは、困ったように微笑んだ。

「…アスベルト皇太子」

「はい。国王陛下」

「この国に滞在中は、あまり、好き勝手にされませぬよう願いたい」

「申し訳ございません。何分、先月、デビュタントを終え、初めて、このような立派なお茶会に参加し、“友人”が出来たので、少々、興奮してしました。何卒、寛大な御心で、お許し願いませんでしょうか」

敬意を払うように、アスベルトは、深く頭を下げたが、堂々とした姿に、国王は、手が震えそうになるのを堪え、拳を作った。

「今回は、こちらにも否がある故、そちを咎めはせぬ。だが、また同じようなことがあれば、私は、国王として、正式に、皇帝に抗議する所存である」

「承知しました。モーガン王子殿下に、先程の非礼を謝罪し、国王陛下の慈悲に、深く感謝申し上げます」

頭を上げたアスベルトは、国王に向かって、ニコッと微笑んだ。

「しかしながら、私は、まだまだ未熟者であります。どうか、寛大な御心と温かい目で、見守り頂ければ幸いです」

「…承知した」

アスベルトが視線を向けると、モーガンは、ビクッと肩を揺らした。

「モーガン殿下。先程は、失礼しました」

「いえ。少し驚きましたが、大丈夫ですので」

「ありがとうございます」

ぎこちなくも、アスベルトに歩み寄り、モーガンが、再び握手を交わすと、今度こそ、誰もが安心したように、胸を撫で下ろした。

「アスベルト殿下。他の方も、ご紹介頂きたいのですが、お願いできますか?」

「分かりました。では、こちらに」

モーガンと並んで、アスベルトが、令嬢や令息達のいる方に向かうと、エルテル公爵とタラス公爵は、ローデンとデュラベルを引き寄せた。

「デュラベル。決して、機嫌を損ねるようなことだけはするなよ」

「ローデン。モーガン殿下を頼んだぞ」

規格外の魔力を見せられ、アスベルトを警戒するように、真剣な顔のまま、二人は、黙って頷いてから、モーガン達の所に向かった。

「…噂は聞いていたが、まさか、あんなに凄いとは」

元々、小国だったウィルセンは、数年前、王位継承戦で、現皇帝の祖に当たる公太子が、他の王子達を蹴散らして、その手に王位を勝ち取ると、一気に周辺国を吸収した。
そのほとんどは、国交によって、双方の合意の元、平和的に条約が交わされ、存続されたまま傘下に収める形だったが、欲深い王制国家は、ウィルセンに反発し、次々に戦争を仕掛けた。
だが、小国だったのが、嘘かのように、ウィルセンは、全ての戦いに勝利した。
魔法使いや騎士だけでなく、多くの賢者や聖者も在国し、公王自身も、魔剣士であり、その強さは桁違いだった為、半端な軍事力では太刀打ち出来なかったのだ。
ある時は、平和的対話での戦略を行い、時には、非道にも王族を殲滅するウィルセンが、帝国となることを宣言すると、サイフィス国を含めた多くの国が、平和協定や姉妹条約を求める程の強国となった。
公王の血筋である現皇帝も、小国ならば、一人でも侵略してしまえる程だと謳われているが、アスベルトは、それをも超える皇太子と称される程、規格外の魔力を持ち、剣術も長けていると、噂が他国にまで知れ渡っていた。

「下手すりゃ、キースよりも強いんじゃないか?」

エルテル公爵家は、代々、王家に仕える魔法使いの血族であり、その実力は、サイフィス国一だと謳われていた。

「それを言ったら、ティーダでさえ、太刀打ち出来ないだろう」

タラス公爵家も、代々、王家に仕える騎士の家系であり、実力で右に出る門家はないとまで、云われていた。

「お互い様だ」

モーガンの隣で、ニコニコと笑うアスベルトを見て、国王は、眉間にシワを寄せた。

「今まで以上に気を付けねば」

「ですね」

「ところで、ティーダ。お前のところに、もう一人、面倒を見てやってほしいのがいるのだが」

「ちょ!勘弁して下さいよ~。これ以上は無理です」

「そうか。まだ若いのだが、筋が良い女騎士なのだが」

「どのような子で?」

「あなた!!」

モーガン達の緊張も解け、他の貴族達とも談話しているアスベルトを見つめて、国王達も、グラスを傾けると、注意を払いながらも、冗談を交えて、夫人達と、その場の雰囲気を楽しんだ。
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