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八
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並んで立つ二人を睨むように、アスベルトが見つめると、モーガンは、鼻で小さなため息をついてから、カップを傾けた。
「例えば、アスが贈り物をして、リリアンナからお返しが来たら、どう思う?」
「凄く嬉しいに決まってるじゃん」
「そしたら、贈り物をしても、返ってこなかったら?」
「次のを考える」
「なるほどね。ちょっとも残念じゃない?」
「残念に思うくらいなら、次を考える」
「それは、次を考えるようにして、落ち込まないようにしてるんだよね?」
「まぁ、そう、だね」
「ってことは、少なくても、返ってこないのに、残念だと思うってことでしょ?」
アスベルトが、コクンと、小さく頷くと、モーガンは、ニコッと微笑んだ。
「そしたら、相手も同じじゃないかな?せっかく、一緒になったのに、気持ちを込めて贈ったのに、気持ちが返ってこなくなったら、余計に、悲しいと思うよ?」
「だけど、一緒に暮らしてたら、そこまで」
「しなくてもいいけど、気持ちは返さないと。ね?」
「…リリって、何が好きなんだろ」
「リリアンナは、花が好きだよ。あと、紅茶とかお菓子とか、それと、うさぎとか、猫とかも好きだと思う」
「ネコかぁ」
「でも、アルベル公は、猫と犬が苦手なんだよね」
「うっそぉ~ん」
三人の笑い声が響くと、アスベルトは、腕組みした。
「とりあえず、最初は、お菓子とか紅茶にしといたほうがいいかな。それなら、アルベル公も見逃してくれるだろうから」
「え~。アクセサリーとかドレスとかのほうが」
「あのアルベル公だよ?リリアンナが、素直に喜べる?」
「それは」
「リリアンナが喜べないのを贈っても、お返しは、期待できないかな」
モーガンが、ショコラを口に入れて、フニャと笑うと、アスベルトは、プクッと頬を膨らませて、タルトを口いっぱいに入れた。
「僕も、紅茶にしようかな」
「なんで?」
「アスと選べるから」
モーガンが、ニコッと微笑むと、アスベルトは、困ったような、嬉しいような、複雑そうに、瞳を細めて、優しく微笑んだ。
「サイフィスなら、色んな種類あるから、何かいいのあるだろうし」
「んじゃ、明日、行ってみる?」
「いいね。そしたら、母上が、よく使ってるところに行ってみようか」
「そうだね。よし、行ってみよう」
モーガンが、カップに口を付けると、アスベルトも、カップに口を傾けて、同時に、ふぅ~と息を吐き出した。
「さて。そろそろ戻るか」
「なんで?」
「夕食まで遅れたら、怪しまれるだろ?」
「あ~なるほどね。もっと食べたかったなぁ」
〈ウィーン〉
鏡の前に立ち、二人だけで手を翳すと、モーガンが、先に通り抜け、執事に視線を向け、クイッと、一瞬、テーブルに顎を向けてから、アスベルトも通り抜けた。
「それに、着替えないと」
「そっか。このままなら、凄く楽なんだけどな」
「それ、訓練着だからね?そういえば、サイフィスには、訓練着とかないの?」
「練習着みたいなのはあるけど、こんなに動きやすくないんだよね」
「僕より、坊っちゃんじゃん」
「そんなことないよ?使ってると、動きやすくなるらしいから」
「ガンのは、なんで動きにくいの?」
「あんまり動いてないから」
「なるほどな」
サイフィスに戻り、着替えを済ませてから、モーガンは、扉に手を掛けた。
「それじゃ、また明日ね?」
「あ、ガン、ちょっと待って」
〈ウィーン〉
モーガンが首を傾げると、通面鏡から執事が抜け出てきた。
「モーガン様。こちらを、どうぞ」
クッキーやショコラが紙に包まれ、いっぱいに詰め込まれた巾着を見つめて、モーガンは、キラキラと瞳を輝かせた。
「お部屋に、お戻りになりましたら、お一人でお召し上がり下さい」
「…ありがとうございます」
巾着を受け取り、嬉しそうに微笑みながら、大事そうに抱えて、モーガンは、アスベルトと執事に、ニコッと笑った。
「また明日」
「はい。お待ちしてます」
「またな」
扉が閉まるまで、手を振ったモーガンは、巾着を誰にも見られないように、城内を走り抜けた。
〈ガチャバタン〉
モーガンは、息を切らせながらも、自室のパーテーション裏に向かった。
〈ガチャ、ガサガサ…パタン〉
クローゼットを開け、着替えを済ませ、巾着を隠して、ダイニングに向かった。
〈ガチャ、パタン〉
廊下を早足で歩き、扉の前に立つと、控えていた執事が、静かに頭を下げてから押し開けた。
〈キィー…パタン〉
「…母上は」
「本日は、あまり、体調が優れないとの事で、お休みになられました」
広いダイニングテーブルを前に、一人で、ポツンと立ち、モーガンは、静かな室内を見つめ、奥歯と拳に力を入れた。
「どうぞ。お座り下さい」
静かに引かれた椅子に座り、出された料理を口に運ぶが、モーガンは、あまり食べずに口を拭いた。
「…ご馳走様」
〈キィー、パタン〉
静かに立ち上がり、ダイニングから出て行く背中を見つめ、執事は、寂しそうに瞳を細めて、静かに頭を下げた。
〈ガチャ、パタン〉
モーガンは、振り返らずに、真っ直ぐ自室に戻ると、服を脱ぎ捨てた。
〈ガチャ…チャポン〉
湯気の上がる湯船に入り、天井を見つめて、大きなため息をついてから、大きく息を吸い込み、湯船の中に沈んだ。
「…っぱ!はぁーーー」
顔を両手で覆い、顔を洗うように、湯を切ってから、自分の手をジーッと見つめ、水面を撫でた。
フワっと、映像が浮かび、ニコッと笑ったモーガンが、手を翳すと、ユラユラと、湯が揺れて、人の形を作った。
〈ポチャ、ポチャ〉
じゃれ合うように、動くのを見つめ、モーガンは、優しく微笑んでいたが、静かに瞳を閉じた。
〈チャポン〉
人の形をした湯を潰すように、手を湯船の中に沈めると、細く開いた瞳が、悲しそうに揺れた。
〈…バシャ、ピチャ、ピチャ、ピチャ〉
湯船から出ると、置かれていたタオルで、全身を拭き、寝間着に着替えて、誰も居ないのを確認してから、パーテーション裏のクローゼットを開けた。
〈ガチャ、パッタン〉
嬉しそうに、小さく微笑み、モーガンは、巾着を持って、出窓の方に向かった。
月が高く上り、誰も訪れる事もない程、夜も深まり、何も見えない外を見つめながら、モーガンは、巾着の中から、ショコラを取り出し、口に放り込んだ。
ショコラを噛み、ボーッと、窓を見つめるモーガンの頬をツーっと涙が流れ落ちた。
クッキーを噛り、ポリポリと咀嚼音が響く中、モーガンは、苦しそうに顔を歪めて、ポロポロと涙を流した。
「…会いたい…アス…会いたいよ…キアナ…」
巾着を持ったまま、膝を抱えて、モーガンは、必死に、声を殺して泣きながら、二人を思い浮かべた。
しばらく、そのまま泣き、ズズっと鼻を啜ると、乱暴に涙を拭いてから、モーガンは、次々に、巾着の中からクッキーやショコラを口に運んだ。
中身を空っぽにして、巾着を服と一緒に置いて、ベットに寝転ぶと、静かに瞳を閉じた。
〈…コンコンコン、ガチャ〉
「王子殿下。お時間でございます」
静かに瞳を開け、モーガンは、背伸びをしてから、若い執事が、カーテンを開けて、朝日が入る窓を見つめた。
「母上は」
「公務に向かわれました」
〈パシャ、パシャ〉
モーガンは、若い執事に顔も向けず、パーテーション裏で、顔を洗い、乱暴に拭いた。
〈ガチャ…パタン〉
クローゼットを開け、着替えながら、小さな小箱から、宝石を適当に取り出し、ポケットに押し込んだ。
「今日、アスベルト殿下と出掛けてくる」
「かしこまりました。朝食は、いかが致しますか?」
「要らない。すぐに離宮に行く」
「かしこまりました」
若い執事が、頭を下げたのをジーッと見つめてから、モーガンは、小さくため息をついた。
「それじゃ行ってくる」
「行ってらっしゃいませ」
無表情のまま、早足で離宮に向かい、アスベルトの使っている部屋の前に立った。
〈コンコンコン〉
〈ガチャ〉
「おはようございます。モーガン様」
すぐに扉が開き、ニコニコと笑って、頭を下げた執事に、モーガンは、安心したように、優しく瞳を細めた。
「おはようございます。あの、今日、アスと朝食を一緒できたらと思って」
「はい。坊っちゃんも、モーガン様が、お越し下さるのをお待ちしておりました。どうぞ、こちらへ」
モーガンが部屋に入ると、アスベルトが、眠そうに、大きな欠伸をしながら、椅子に座り、背伸びをした。
「おはよう。アス、また徹夜?」
「おはよ。昨日は、少し早めに寝れたよ」
「皇太子の仕事って、そんなに大変なの?ありがとうございます」
執事が引いた椅子に座りながら、寝てしまいそうなアスベルトを見て、モーガンが苦笑いを浮かべた。
「坊っちゃんは、今、お嬢様に急かされてますから、早めに、書類の処理をしてらっしゃるのです」
「そうなんですね。アスは、大変だね」
「もう、ほんと、キアは、僕を過労死させたいのかってくらいだよ」
「そんなことないと思うけど。あ、巾着、洗ってからお返ししますね」
「かしこまりました。お待ちしております。どうぞ」
執事が、ニコニコと笑いながら、アスベルトとモーガンの前に、料理を並べた。
「どうぞ、お召し上がり下さい」
「ありがとうございます。頂きます」
湯気の上がるスープを掬い、口に含むと、モーガンは、頬を赤くしながら、嬉しそうに、瞳を細めて、小さく微笑んだ。
「…ガン、大丈夫?」
ホカホカのパンを手に取り、千切りながら、モーガンが、首を傾げると、アスベルトは、眉尻を下げた。
「目元が赤いよ?何かあった?」
モグモグと、口を動かしながら、目元に触れて、モーガンは、何度も頷くと、ゴクンと、パンを飲み込んだ。
「これね。昨日、母上の体調が優れなかったらしくて、一人で食事をしたんだけど、寂しくなっちゃって。部屋に戻って、貰ったお菓子を食べてたら、泣けてきちゃったんだ」
泣いてしまいそうな程、弱々しく、ニコッと微笑んだモーガンを見つめて、アスベルトは、グッと唇に力を入れた。
「今まで、一人で過ごすのなんて、当たり前だったんだけど、昨日は、昼間が楽しすぎたのかな。凄く、寂しく感じちゃったんだよね。ダメなのにね。王子が、寂しくて、泣くなんて」
「そんな事はございません。誰だって、寂しさや苦しさ、悲しさを感じたのでしたら、泣いてしまうものです。国王だから、王子だから、泣いてはいけないなど、決してございません」
湯気の上がるカップを置く執事を見上げ、モーガンが、悲しそうに目尻を下げた。
「ガン、そうゆうときは、次の日を考えるんだよ」
モーガンが首を傾げると、アスベルトは、ニコッと微笑んだ。
「昨日みたいに、寂しくなったり、悲しくなったら、明日は、どうしようかなって。昨日なら、今日、僕を連れて、茶葉を見に行くついでに、他のお店にも行こうかな。とか、終わったら、町を案内しようとか。そしたら、次の日が楽しみになって、寂しくなくなるし、悲しい気持ちも消えるでしょ?」
「…そうだね。でも、そしたら、毎日、アスに会いに来ちゃうかもね」
「おや。宜しいのですか?モーガン様にも、ご予定がございますでしょう。それを坊っちゃんと過ごしても」
「僕の予定って、そんなにないんです。母上が、お茶会をするときに、たまに出席させられたり、勉強したり、たまに、父上に呼ばれることもあるけど、大体は、決定事項を伝えられるだけで、特に意味はないんです」
二人が、悲しそうに目尻を下げると、モーガンは、困ったように、瞳を細めた。
「逆に、アスの時間を僕に使わせていいのかな?大変なのに」
「いいよいいよ。ガンが、来たいときにおいでよ。それに、書類の処理だけだから、僕も、あんまりやることないし」
「そしたら、また、ウィルセンに連れてってね?」
「もちろん」
ニコッと笑ったアスベルトを見つめて、モーガンは、安心したように、優しく微笑むと、カップを傾け、ふぅ~と息を吐き、パンを口に運んだ。
「そういえば、今日行くところって、扱ってるの茶葉だけ?」
「そうだね。色んな種類の紅茶とか、花茶、あと、緑のお茶もあるんだよ?」
「緑?どんな味するの?」
「爽やかな感じ。紅茶とかよりも、口の中が、さっぱりするんだ」
「脂が濃いお肉に、良く合いそうでございますね」
「そうかも。お菓子よりも、食事のときに飲むほうが、合ってるかもしれないですね」
「今度、食事のときに、試してみるか」
「それは名案でございます」
楽しそうに笑いながら、食事をする二人を見つめ、執事が、優しく微笑み、和やかな雰囲気で、朝食を終わらせた。
「そろそろ行こうか」
「そうだね」
「ロム、馬車の」
〈コンコンコン〉
ノックの音が響き、モーガンは、ビクッと肩を揺らした。
〈ガチャ〉
執事が扉を開けると、朝の若い執事が、無表情で胸に手を当て、頭を下げた。
「失礼致します。私、サイフィス王家に仕えております、グランセルと申します」
頭を上げた若い執事は、無表情で、執事を見つめた。
「王子殿下は、いらっしゃいますでしょうか」
機械的な執事を見つめ、アスベルトが、眉間にシワを寄せると、モーガンが扉に近付いた。
「どうかした?」
「王子殿下、ローデン様とデュラベル様が、いらっしゃいました」
二人の名前に、モーガンは、グッと唇に力を入れた。
「…断って。今日は、アスベルト殿下と出掛けるから」
「かしこまりました」
若い執事が去って行くのを見送り、モーガンは、視線を落とし、自分の足元を見つめた。
「モーガン様、お戻りになりましたら、是非、お茶をお召し上がり下さい」
モーガンが顔を上げると、執事は、ニコッと微笑んだ。
「お嬢様が、今朝から、張り切って、お菓子をお作りしておりましたので、後ほど、頂いて参ります」
「…ありがとうございます」
モーガンが、頬を赤くしながら、嬉しそうに、ニコッと笑うと、アスベルトは、フッと鼻で、小さく笑って、カップを傾けて、一気に飲み干した。
「それじゃ、今度こそ行こうか。ロム、馬車の準備を頼む」
「かしこまりました。では、坊っちゃんは、こちらに、お召し替えを」
「分かってるって」
「あれ?今日は一人で着替えるの?」
「毎日じゃないからな!あんな恥ずかしいの!」
「本日は、お時間に、余裕もございますので、ご自身でやって頂こうかと」
「そうなんですね。面白いのに」
「なーーんにも!面白くないからな!」
〈ガチャ〉
ケタケタと笑うモーガンと、頬を真っ赤にしながらも、楽しそうなアスベルトを残して、執事が、部屋を出ると、若い執事が戻って来るのが見えた。
〈パタン〉
「何か、御用でしょうか」
「王子殿下に、お伝えしたい事がございます」
「今、皇太子殿下が、お召し替えをしておりますがゆえ、私めが承ります」
「しかし」
「承ります」
「…ローデン様とデュラベル様が、馬車にて、お待ちしております」
「はて?お断りしたのではございませんか?」
「皇太子殿下とお出掛けになると、お伝えしたところ、お二人が、そのように仰っております」
「さようでございますか。かしこまりました。では、後ほど、お伝えさせて頂きます」
〈…ガチャ〉
互いに頭を下げ、去って行く若い執事の背中を睨むように、執事が、見つめていると、後ろの扉が開いた。
「どうした?」
驚いた顔で、首を傾げたモーガンを見つめ、執事は、悲しそうに目尻を下げた。
「モーガン様、先程のお二人が、馬車でお待ちのようです」
「…え」
「なんでだよ。断っただろ」
「あのグランセルという執事が、坊っちゃんとお出掛けになる事をお伝えすると、そのように、仰ったと、今しがた、伝えに参られました」
モーガンが、唇を噛むように力を入れ、拳を握って、視線を下げると、アスベルトは、顎を撫でながら、執事を見上げた。
「アイツって、ガンの執事だと思う?」
「いえ。彼は、王家に仕えてると言ってましたので、モーガン様ではなく、王家、国王に忠誠を誓ってるかと思われます」
「なるほどね。つまり、アイツは、ガンは王子だけど、王家じゃないって思ってるってことだよね?」
「定かではございませんが、その可能性はございます」
「なら、別に、ガンは、アイツの言うことを聞かなくてもいいよね?」
アスベルトが、ニヤッと笑うと、執事も、ニコッと笑い、モーガンは、二人を見つめて、首を傾げた。
「ガン、あの二人を置いて行くなら、どこがいいと思う?」
「…そのままでいいと思う。裏の庭園を抜けると、裏門があるんだ。その先に、馬車を停めておけるような、ちょっと広い道もあるし、ちょっと遠回りだけど、城下町に行くなら、そっちからでも行けるから」
「では、そちらに、馬車を用意致します」
「僕らも行こうか」
「そうだね。庭園なら、こっちに行けば、二人には、見付からないよ」
執事が馬車の準備に向かい、アスベルトとモーガンは、裏の庭園に向かって、二手に分かれた。
「…迷路みたい」
離宮の裏には、二人の背丈と同じくらいの低木で、入り組んだ道が作られていた。
「メント宮殿は、元々、三代前の国王が、大事にしてた女性の為に作ったとされてるんだ」
「側室?」
「ちょっと違う。当時の国王の寵愛を受けて、大事にされてたエミリーナは、側室になることを拒んだ。でも、国王は、彼女の為に、このメント宮殿を作ったんだ」
「それっていいの?」
「あまりよくない。でも、当時の国王は、それを受け入れたんだ。それで、エミリーナを守る為に、メント宮殿を建てて、裏の庭園は、入り組んだ造りにして、たくさんの抜け道を用意したらしいんだ」
「呆れる話だね」
「そうだね。でも、その抜け道のおかげで、エミリーナは、ここから抜け出すことができて、海を越えた遠い異国に逃亡したんだよ」
「勇気あると言えばいいのか、ただ無謀なのか」
「エミリーナには、船乗りの夫がいたんだよ」
「ちょっと待て。そのエミリーナって、平民?」
「そう。偶然、国王が身分を隠して、城下町に視察に行ったとき、酒場で働いてたエミリーナの美しさを気に入って、連れ帰ったんだよ」
「うっわ。だいぶ、ひどい国王だね」
「エミリーナは、愛する旦那から引き離されて、王城で半年も過ごしたんだってさ」
「うわ~。二人が、かわいそすぎる」
「毎日泣いてばかりのエミリーナに、国王は、沢山の宝石やドレスを贈ったけど、何一つ喜ばなかったらしい」
「それはそうだろ」
「そこで、国王が思い付いた贈り物が、このメント宮殿だったんだよ」
「なるほどな。悲しくて、泣いてるのをイジメられて、泣いてるとでも思ったのか」
「それでね?面白いのが、このメント宮殿を贈ったときに、エミリーナから、お返しが届いたんだって」
「どんな?」
「血の着いた短剣」
「…は?」
「エミリーナは、国王が憎かったんじゃないかな。楽しかった生活も、愛する人との時間も、自分から、何もかもを奪った国王が、憎くて、憎くて、たまらなかった。そんなときに、国王との間に子供ができてしまったんだ。彼女は、絶望してしまったんだろうね。でも、平民のエミリーナを気に掛ける人なんて、王城には、いなかったんだ。だから、誰も、子供ができたのを知らなかった。絶望と悲しみで、毎日泣いてたら、メント宮殿に移り住むことになって、彼女は、そこで決心したんじゃないかな。そして、誰にも知られないように、宮殿を抜け出し、血の着いた短剣を国王に贈った」
「こっわ。狂気じゃん」
「それに、エミリーナの旦那は、船乗りだから、港に行けば、知り合いの一人や二人いたと思う。エミリーナが、逃げ出したのも、メント離宮に移ったのさえ、誰も知らなかったし、いつ、子供が生まれたのかも、分からないんだ」
「…そこで匿ってもらいながら、子供産んで殺したってこと?」
「まぁ、その血が、子供の血だったのかは、分からないけどね。もしかしたら、エミリーナ自身の血だったのかもしれないし、他の誰かかもしれない」
「怖い怖い怖い。なんだよ、その、ドロッドロの悲劇。聞いててしんどいよ」
「そのおかげで、誰にも知られないで、城下町に行けるんだけどね」
「そこは感謝だけどさぁ。おぞましい」
「サイフィスの王家って、結構、こうゆう話あるよ?お祖母様のときからは、側室制度が廃止されてなくなったけど、それまでは、普通にいたらしいし、それに合わせて、離宮や別邸も作られてるから、王室が所有してる建物は、凄い数があるんだって」
「今でも管理してんの?」
「今は、ほとんど管理されてないね。使うときだけ、綺麗にして使う感じ」
「もったいない」
「そうだね。取り壊せば、もっと広い庭園や施設も作れるんだろうけどね」
「国王は、やらないの?」
「父上は、前王、お祖父様の影響を強く受けてるから。後継者も、一人でいいって考えだし」
「なるほどな。つまりは、国王と王妃は、仲良く見えるけど、そんなんでもないんだ?」
「関係性で言えば、二人は、良好なほうだよ。アスの父君や母君のように、愛し合ってる訳じゃないし、サイフィスは、古い考えの国だから、それで充分なんだよ」
「ガンは偉いな。そんな他人の集まりの中で、ちゃんと、二人を親だと思ってるんだから」
「まぁ、親だとは思ってるけど、家族とは思ってないのかも。そもそも、僕は、アスに出会うまで、家族って言葉だけで、それが何なのか知らなかったよ」
アスベルトは、寂しそうに瞳を細めて、蔦が絡む、古ぼけた木戸に手を掛けた。
「僕、アスの父君と母君のように、ずっと、手を繋いだり、抱き合ったりして、仲良くしていたいな。王家だからとか、貴族だからって、身分なんか関係なく、ただ一緒に隣で笑い合って。愛する人と並んで、一緒に、生きたい」
〈…ギギィー〉
モーガンが、取手を回しながら、ゆっくり押すと、軋みながら、木戸が開き、二人の目の前に壁が現れた。
「行き止まり!?」
「そう見えるけど、実は、こっちに道があるんだ」
アスベルトを引き寄せ、モーガンが、木戸を閉めると、人が、一人通れる程の道が現れた。
「結構、面倒でしょ?」
「かなり」
薄暗い通路を少し進むと、石段が現れ、そこを登ると、地上に辿り着いた。
「いつの間に、地下に入ってたの?」
「正確には半地下ね?庭園のほうが、少しずつ坂になってて、あの戸自体が見えないようになってるんだよ。さっき通った道も、造りが複雑で、外からは、ただの水路に見えるようになってるんだ。こっちだよ」
下り坂になってる石畳を下ると、突き当りに、ウィルセンの馬車が停まっていた。
「お待たせしました」
「坊っちゃん、モーガン様、いつの間に」
「ここの小道の先から来たんだよ」
モーガンが振り返り、指差した先は、人通りがないような脇道で、アスベルトは、改めて、その道を見つめて、何度も頷いた。
「ここから真っ直ぐ行けば、城前に回れるようになってて、逆に、こっちに道沿いに行けば、城下町に出られるよ」
「かしこまりました。では、どうぞ」
〈ガチャ…パタン〉
二人が乗り込むと、馬車が走り始め、アスベルトは、流れる景色を見つめた。
「帰りも、あの道通るの?」
「あの道は出口専用で、入口は別にあるんだ」
「すんごい、面倒なところだね」
「まぁ、一応、王城だからね。アスの城はないの?」
「一応、あるにはあるけど、こんな面倒じゃないよ。行きも帰りも同じ道」
「普段から使ってるの?」
「たまに、城下町に遊びに行くときに」
「そうなんだ。アスは、行動力があるんだね」
「…ガンってさ、城から抜け出したことある?」
「そうだね。今回が初めてかも」
モーガンが、ほんのり頬を赤くしながら、ニコッと笑うと、アスベルトは、瞳を大きく開いて、パチパチと、何度も瞬きをした。
「遊びに行きたいとか思わないの?」
「思うけど、いつも、デュラベルやローデンが来てたから、庭園とか、敷地内で遊んでたんだ」
頬をポリポリと掻くモーガンを見て、アスベルトは、腕組みして、眉尻を下げた。
「ちなみに、今日、お金って持って来た?」
「実は、昔、お祖母様から貰った宝石があって、それを売ろうと思うんだ」
「いいの?そんな大事な物売って」
「お祖母様が、これは、お前が自由に使いなさいって言ってたんだ」
目尻を下げながら、瞳を細めて、小さく微笑んだモーガンを見て、アスベルトも、瞳を細めて、フッと鼻で小さくため息をついた。
「どんなの?」
モーガンは、ポケットから、宝石を取り出して、アスベルトに手渡した。
「…ガン、これ、全部売るの?」
「そのつもりだけど」
「これ全部売ったら、別邸一つくらいの金額になるよ?」
驚いて、瞳を大きく開いたモーガンに向けて、アスベルトが、宝石を一つ持ち上げて見せた。
「これ一つでも、充分に、買い物もできるし、演劇とかオペラとか、遊びに行っても、余裕あるよ?」
「なら、それだけでにするよ」
「そのほうがいいかもね。なんなら、ロムに渡して、僕のと一緒に管理してもらったら?強盗に狙われたくないでしょ?」
「大丈夫なの?ロムさんのほうが、危なく」
「ロムは、ウィルセンの執事だよ?町中を徘徊してるような強盗くらいなら、簡単に退けられるよ」
「でも」
「強盗に襲われて、奪われてたら、一人で、通面鏡なんて使えないからね?」
「…そっか。なら、お願いしようかな」
苦笑いしながら、手を出したモーガンに、宝石を返すと、アスベルトは、外に視線を向けた。
「とりあえず、城下に着いたみたいだよ?」
ニコッと笑いながら、アスベルトが、指差すと、モーガンも、外に視線を向け、外で、ニコニコと笑っている執事に、驚いて、瞳を大きく開いた。
「…いつの間に…」
〈ガチャ〉
「お疲れ様でございます。中央広場に、到着致しました」
「凄く早いですね?」
「ウィルセンの馬は速いからね。お店は?」
「あそこだよ」
モーガンが、湯気の上がるカップが描かれた看板を指差すと、アスベルトは、困ったように微笑んだ。
「その前に売るんでしょ?」
「そうだった。えっと、宝石店は…」
モーガンが、キョロキョロと、辺りを見渡して、宝石店を探し始めると、アスベルトは、執事と視線を合わせて、クスッと笑った。
「ロム、とりあえず、その辺で聞いてきてもらえるか?」
「かしこまりました」
「ガン、そんなことしてたら、危ないよ?」
アスベルトが隣に並ぶと、モーガンは、首を傾げた。
「ガン、身なりが整ってて、そんなにキョロキョロしてたら、どっか、他国の金持ちだって思われるだろ?」
「…そっか。そしたら、悪い人達に狙われちゃうね」
「そう。こうゆうときは、堂々としてなきゃ」
アスベルトが、グルッと周りを見渡して、執事が、屋台で買い物をしながら、話をしてるのを小さく指差した。
それをモーガンが見つめていると、執事が、両手に器を持って、戻って来た。
「お待たせ致しました。宝石店でしたら、大通りに二つ、少し離れたシャルンス通りに一つ、有名なお店があるそうです。どうぞ」
木で出来たグラスのようなカップを受け取り、モーガンは、中身を見つめた。
「これは?」
「葡萄水でございます。サイフィスの名産だそうです」
「そうなの?」
「聞いたことないけど」
「口上でございますよ。サイフィス名産の葡萄水は、とても甘く、爽やかで、美味しい。とおっしゃっておりましたので。まずは、喉を潤しましょう」
二人は、カップをゆっくり傾けると、ゴクゴクと、喉を鳴らしながら、一気に飲み干した。
「…はぁ~。ほんとに美味しい」
「本当だね。爽やかなんだけど、甘くて、鼻から抜ける香りも、葡萄を食べたときと同じだね」
「そうだね」
喜ぶ二人を見て、執事は、ニコニコと笑いながら、そっと手を差し出した。
「そちらは、私が、お預かり致します。さて、モーガン様、いかが致しますか?」
モーガンが首を傾げると、アスベルトは、クスッと笑った。
「どこで売るの?」
「んと、えっと…確か、王室の」
「それは、やめたほうがいいよ」
首を傾げたモーガンを見て、アスベルトは、執事と視線を合わせた。
「王室御用達の宝石商ですと、もし、モーガン様が訪れれば、国王や王妃のお耳に、その事が入ってしまう可能性がございます」
「…そっか。そしたら、僕のことが、二人に知られて、出掛けられなくなってしまいますね」
「下手したら、なんで、そんな物を持ってたのか探られるね」
「そうなれば、色々と、モーガン様が苦しくなってしまいます」
「そっか。どうしようかな」
悩むように、腕組みしたモーガンを見てから、アスベルトは、横目で、執事に視線を向けた。
「ロム、それぞれのお店についても、聞いてきたんでしょ?」
「はい」
「なら、ロムは、どこがいいと思う?」
「私でしたら、シャルンス通りのお店が宜しいかと」
「どうしてですか?」
「大通りにある一つは、王室御用達でございます。先程の理由もあり、そこは、すぐに除外させて頂きました。もう一つの方ですが、確かに、大きな宝石店ではございますが、そちらは、ターサナ侯爵家のお抱え宝石商との事で、モーガン様や坊っちゃんのお話から、小さな関わりさえ、避けた方が宜しいかと思い、シャルンス通りの宝石商を選ばさせて頂きました」
モーガンが、何度も頷くと、執事とアスベルトは、視線を合わせて、ニコッと笑った。
「更に、シャルンス通りの宝石商は、公爵家御用達との事でしたので、モーガン様も、安心して、ご利用頂けるかと」
「そっか。なら、シャルンス通りに行こう。ちょっと離れてるけど、いいよね?」
「もちろん。なんなら、茶葉とかも、別の所にしようか?」
「そうだね。そしたら、誰にも知られることもないもんね」
「なら、そうしよう。ロム」
「かしこまりました。では、シャルンス通りに向かいながら、観光しては、いかがでしょうか?」
「そうだね。よろしく」
二人は、並んで歩き、執事は少し後ろを歩いて、露店や店先の商品を眺めながら、シャルンス通りに向かった。
「…これ、可愛い。キアナ皇女に似合いそう」
「これなんか、リリアンナに似合いそうじゃない?」
「凄く良い匂いがするね」
「この果物、凄く美味しそう」
アスベルトと一緒にモーガンも、終始、キラキラと、瞳を輝かせながら、行く先々で、楽しそうに笑っているのを執事は、ニコニコと笑って、後ろからついて歩いた。
「モーガン様、坊っちゃん、シャルンス通りに到着しましたので、少し休憩されては、いかがでしょうか?」
「でも、僕、まだ」
「私が、個人で、立て替え致しますよ」
「でも」
「ここまで歩きっぱなしで、お疲れでしょう。どうぞ、少しお休み下さい」
ニコニコと笑う執事を見つめてから、モーガンは、アスベルトに視線を向けた。
「いいじゃん。もし、不安なら、ロムに預けてもいいし」
「大丈夫、かな?」
「大丈夫だよ。もし、不正を」
「違うよ!…不正を疑ってるんじゃないんだ。もし、これを渡して、ロムさんに迷惑が掛かったら」
「それも大丈夫。ロムは、皇室に仕える執事だから、何かあったとしても、ちゃんと対処できるから。な?」
「はい。外交先で外出する際、ドルト様や坊っちゃんの貴重品は、私めが、全て管理しておりますので、モーガン様が、ご心配されるような事は、誓ってございません」
胸に手を添えて、お辞儀をする執事を見つめて、モーガンは、瞳を大きく開いていたが、フッと、小さく微笑んだ。
「なら、お願いします」
「かしこまりました。では、まず、お店に入りましょう。席に着き、落ち着きましたら、お預かり致します」
ニコッと笑った執事を見て、モーガンとアスベルトも、ニコッと笑って頷くと、すぐ近くの喫茶店に入った。
〈カランカラン〉
「いらっしゃいませ」
お辞儀をした店員が、三人を見つめてから、ニコッと笑った。
「こちらへ、どうぞ」
見晴らしの良い席に通され、モーガンとアスベルトが席に着くと、執事が、店員に手のひらを見せた。
「アロンティーを二つ、お願いします」
「かしこまりました。少々、お待ち下さい」
店員が離れると、執事は、モーガンの脇に立った。
「では、お預かり致します」
「ありがとう。お願いします」
モーガンが、ポケットから取り出し、宝石を差し出すと、執事は、素早く受け取り、内ポケットに入れた。
「少しは楽になった?」
モーガンが首を傾げると、アスベルトは、トントンと、自分の頬に触れた。
「ずっと、引き攣ってた」
モーガンが、自分の頬を包むように触れると、アスベルトは、ふぅ~と、鼻で小さなため息をついた。
「無意識の内に、気が張ってたんだね。ごめんよ?僕が、余計なこと言ったから」
「そんなことないよ。逆に、言われなかったら、売るときに困ってたかもしれないし」
「なら、ロムに任せてみる?」
「大丈夫なの?」
「逆に、ロムのほうが怪しまれないで、換金できるよ。ちゃんと、皇室執事証明持ってるから」
「失礼します」
モーガンが首を傾げた時、店員が、カップとティーポットをトレーに乗せて戻って来た。
「アロンティーです。ごゆっくり、どうぞ」
店員がお辞儀をして、去って行くのを確認して、執事が、ティーポットの蓋を開け、香りを嗅いでから、二つのティーカップに注いだ。
アスベルトは、カップを手に取り、香りを嗅いでから、静かに傾けた。
「…大丈夫そうだね」
「はい。こちらのお店は、安心して、ご利用頂けます」
モーガンが、更に首を傾げると、アスベルトは、困ったように、目尻を下げた。
「いくら友好関係を望んでいても、そう思わない人もいるからね。特に、貴族は、帝国を嫌うんだよ」
モーガンが、悲しそうに、瞳を細めると、アスベルトは、カップを置いた。
「正直、さっきみたいな露店で売ってるほうが、僕らは、安心して口にできるけど、お店だと、どこに、何が潜んでるか分からないんだ。だから、他国のお店には、安易に入らない」
「狙われるから?」
「そう。でも、それは、ガンにも言えるんだよ?」
「今のモーガン様は、とても活発で、坊っちゃんと良好な関係を築いてらっしゃいます。それを良く思わない貴族は、本日のように、坊っちゃんといらっしゃる時、モーガン様に、何かあれば、ウィルセンを非難し、追い出そうとするでしょう」
「そうなれば、僕らよりも、ガンのほうが傷付いてしまう。そこに漬け込んで、自分達の思うようにしようとする」
「それだけならば良いのですが、もし、モーガン様のお命まで、奪おうと目論んでいたら、坊っちゃんと居る時に、一緒に抹消しようとするでしょう」
「ガンは、とても素直だ。それは、凄く良いことだよ?でも、人の醜さを知らないから、疑うことを知らない。欲にまみれた大人は、何をするか分からないんだ。王室に悲劇が多いのは、そうゆうのが、多く存在してるからなんだよ」
「…そっか」
「ですが、私は、坊っちゃんを慕い、ご友人であるモーガン様をお慕いしております。もちろん、フェルミナやトロント、カニュラ、モーガン様に関わったウィルセンの者は、サイフィスの王子ではなく、モーガン様ご自身をお慕いしております」
胸に手を当てて、ニコッと笑う執事を見上げ、モーガンは、優しく瞳を細めた。
「私が、一緒に居る間は、坊っちゃんも、モーガン様も、必ずお守り致します。ですから、どうか、どうぞ、ご安心下さい。少々、煩わしさを感じる事もございましょうが、ご了承下さいますよう、お願い申し上げます」
「ありがとうございます。お願いします」
モーガンが、ニコッと笑うと、執事も、ニコッと笑い、アスベルトは、安心したように、目尻を下げながら、瞳を細めて、小さく微笑んだ。
「例えば、アスが贈り物をして、リリアンナからお返しが来たら、どう思う?」
「凄く嬉しいに決まってるじゃん」
「そしたら、贈り物をしても、返ってこなかったら?」
「次のを考える」
「なるほどね。ちょっとも残念じゃない?」
「残念に思うくらいなら、次を考える」
「それは、次を考えるようにして、落ち込まないようにしてるんだよね?」
「まぁ、そう、だね」
「ってことは、少なくても、返ってこないのに、残念だと思うってことでしょ?」
アスベルトが、コクンと、小さく頷くと、モーガンは、ニコッと微笑んだ。
「そしたら、相手も同じじゃないかな?せっかく、一緒になったのに、気持ちを込めて贈ったのに、気持ちが返ってこなくなったら、余計に、悲しいと思うよ?」
「だけど、一緒に暮らしてたら、そこまで」
「しなくてもいいけど、気持ちは返さないと。ね?」
「…リリって、何が好きなんだろ」
「リリアンナは、花が好きだよ。あと、紅茶とかお菓子とか、それと、うさぎとか、猫とかも好きだと思う」
「ネコかぁ」
「でも、アルベル公は、猫と犬が苦手なんだよね」
「うっそぉ~ん」
三人の笑い声が響くと、アスベルトは、腕組みした。
「とりあえず、最初は、お菓子とか紅茶にしといたほうがいいかな。それなら、アルベル公も見逃してくれるだろうから」
「え~。アクセサリーとかドレスとかのほうが」
「あのアルベル公だよ?リリアンナが、素直に喜べる?」
「それは」
「リリアンナが喜べないのを贈っても、お返しは、期待できないかな」
モーガンが、ショコラを口に入れて、フニャと笑うと、アスベルトは、プクッと頬を膨らませて、タルトを口いっぱいに入れた。
「僕も、紅茶にしようかな」
「なんで?」
「アスと選べるから」
モーガンが、ニコッと微笑むと、アスベルトは、困ったような、嬉しいような、複雑そうに、瞳を細めて、優しく微笑んだ。
「サイフィスなら、色んな種類あるから、何かいいのあるだろうし」
「んじゃ、明日、行ってみる?」
「いいね。そしたら、母上が、よく使ってるところに行ってみようか」
「そうだね。よし、行ってみよう」
モーガンが、カップに口を付けると、アスベルトも、カップに口を傾けて、同時に、ふぅ~と息を吐き出した。
「さて。そろそろ戻るか」
「なんで?」
「夕食まで遅れたら、怪しまれるだろ?」
「あ~なるほどね。もっと食べたかったなぁ」
〈ウィーン〉
鏡の前に立ち、二人だけで手を翳すと、モーガンが、先に通り抜け、執事に視線を向け、クイッと、一瞬、テーブルに顎を向けてから、アスベルトも通り抜けた。
「それに、着替えないと」
「そっか。このままなら、凄く楽なんだけどな」
「それ、訓練着だからね?そういえば、サイフィスには、訓練着とかないの?」
「練習着みたいなのはあるけど、こんなに動きやすくないんだよね」
「僕より、坊っちゃんじゃん」
「そんなことないよ?使ってると、動きやすくなるらしいから」
「ガンのは、なんで動きにくいの?」
「あんまり動いてないから」
「なるほどな」
サイフィスに戻り、着替えを済ませてから、モーガンは、扉に手を掛けた。
「それじゃ、また明日ね?」
「あ、ガン、ちょっと待って」
〈ウィーン〉
モーガンが首を傾げると、通面鏡から執事が抜け出てきた。
「モーガン様。こちらを、どうぞ」
クッキーやショコラが紙に包まれ、いっぱいに詰め込まれた巾着を見つめて、モーガンは、キラキラと瞳を輝かせた。
「お部屋に、お戻りになりましたら、お一人でお召し上がり下さい」
「…ありがとうございます」
巾着を受け取り、嬉しそうに微笑みながら、大事そうに抱えて、モーガンは、アスベルトと執事に、ニコッと笑った。
「また明日」
「はい。お待ちしてます」
「またな」
扉が閉まるまで、手を振ったモーガンは、巾着を誰にも見られないように、城内を走り抜けた。
〈ガチャバタン〉
モーガンは、息を切らせながらも、自室のパーテーション裏に向かった。
〈ガチャ、ガサガサ…パタン〉
クローゼットを開け、着替えを済ませ、巾着を隠して、ダイニングに向かった。
〈ガチャ、パタン〉
廊下を早足で歩き、扉の前に立つと、控えていた執事が、静かに頭を下げてから押し開けた。
〈キィー…パタン〉
「…母上は」
「本日は、あまり、体調が優れないとの事で、お休みになられました」
広いダイニングテーブルを前に、一人で、ポツンと立ち、モーガンは、静かな室内を見つめ、奥歯と拳に力を入れた。
「どうぞ。お座り下さい」
静かに引かれた椅子に座り、出された料理を口に運ぶが、モーガンは、あまり食べずに口を拭いた。
「…ご馳走様」
〈キィー、パタン〉
静かに立ち上がり、ダイニングから出て行く背中を見つめ、執事は、寂しそうに瞳を細めて、静かに頭を下げた。
〈ガチャ、パタン〉
モーガンは、振り返らずに、真っ直ぐ自室に戻ると、服を脱ぎ捨てた。
〈ガチャ…チャポン〉
湯気の上がる湯船に入り、天井を見つめて、大きなため息をついてから、大きく息を吸い込み、湯船の中に沈んだ。
「…っぱ!はぁーーー」
顔を両手で覆い、顔を洗うように、湯を切ってから、自分の手をジーッと見つめ、水面を撫でた。
フワっと、映像が浮かび、ニコッと笑ったモーガンが、手を翳すと、ユラユラと、湯が揺れて、人の形を作った。
〈ポチャ、ポチャ〉
じゃれ合うように、動くのを見つめ、モーガンは、優しく微笑んでいたが、静かに瞳を閉じた。
〈チャポン〉
人の形をした湯を潰すように、手を湯船の中に沈めると、細く開いた瞳が、悲しそうに揺れた。
〈…バシャ、ピチャ、ピチャ、ピチャ〉
湯船から出ると、置かれていたタオルで、全身を拭き、寝間着に着替えて、誰も居ないのを確認してから、パーテーション裏のクローゼットを開けた。
〈ガチャ、パッタン〉
嬉しそうに、小さく微笑み、モーガンは、巾着を持って、出窓の方に向かった。
月が高く上り、誰も訪れる事もない程、夜も深まり、何も見えない外を見つめながら、モーガンは、巾着の中から、ショコラを取り出し、口に放り込んだ。
ショコラを噛み、ボーッと、窓を見つめるモーガンの頬をツーっと涙が流れ落ちた。
クッキーを噛り、ポリポリと咀嚼音が響く中、モーガンは、苦しそうに顔を歪めて、ポロポロと涙を流した。
「…会いたい…アス…会いたいよ…キアナ…」
巾着を持ったまま、膝を抱えて、モーガンは、必死に、声を殺して泣きながら、二人を思い浮かべた。
しばらく、そのまま泣き、ズズっと鼻を啜ると、乱暴に涙を拭いてから、モーガンは、次々に、巾着の中からクッキーやショコラを口に運んだ。
中身を空っぽにして、巾着を服と一緒に置いて、ベットに寝転ぶと、静かに瞳を閉じた。
〈…コンコンコン、ガチャ〉
「王子殿下。お時間でございます」
静かに瞳を開け、モーガンは、背伸びをしてから、若い執事が、カーテンを開けて、朝日が入る窓を見つめた。
「母上は」
「公務に向かわれました」
〈パシャ、パシャ〉
モーガンは、若い執事に顔も向けず、パーテーション裏で、顔を洗い、乱暴に拭いた。
〈ガチャ…パタン〉
クローゼットを開け、着替えながら、小さな小箱から、宝石を適当に取り出し、ポケットに押し込んだ。
「今日、アスベルト殿下と出掛けてくる」
「かしこまりました。朝食は、いかが致しますか?」
「要らない。すぐに離宮に行く」
「かしこまりました」
若い執事が、頭を下げたのをジーッと見つめてから、モーガンは、小さくため息をついた。
「それじゃ行ってくる」
「行ってらっしゃいませ」
無表情のまま、早足で離宮に向かい、アスベルトの使っている部屋の前に立った。
〈コンコンコン〉
〈ガチャ〉
「おはようございます。モーガン様」
すぐに扉が開き、ニコニコと笑って、頭を下げた執事に、モーガンは、安心したように、優しく瞳を細めた。
「おはようございます。あの、今日、アスと朝食を一緒できたらと思って」
「はい。坊っちゃんも、モーガン様が、お越し下さるのをお待ちしておりました。どうぞ、こちらへ」
モーガンが部屋に入ると、アスベルトが、眠そうに、大きな欠伸をしながら、椅子に座り、背伸びをした。
「おはよう。アス、また徹夜?」
「おはよ。昨日は、少し早めに寝れたよ」
「皇太子の仕事って、そんなに大変なの?ありがとうございます」
執事が引いた椅子に座りながら、寝てしまいそうなアスベルトを見て、モーガンが苦笑いを浮かべた。
「坊っちゃんは、今、お嬢様に急かされてますから、早めに、書類の処理をしてらっしゃるのです」
「そうなんですね。アスは、大変だね」
「もう、ほんと、キアは、僕を過労死させたいのかってくらいだよ」
「そんなことないと思うけど。あ、巾着、洗ってからお返ししますね」
「かしこまりました。お待ちしております。どうぞ」
執事が、ニコニコと笑いながら、アスベルトとモーガンの前に、料理を並べた。
「どうぞ、お召し上がり下さい」
「ありがとうございます。頂きます」
湯気の上がるスープを掬い、口に含むと、モーガンは、頬を赤くしながら、嬉しそうに、瞳を細めて、小さく微笑んだ。
「…ガン、大丈夫?」
ホカホカのパンを手に取り、千切りながら、モーガンが、首を傾げると、アスベルトは、眉尻を下げた。
「目元が赤いよ?何かあった?」
モグモグと、口を動かしながら、目元に触れて、モーガンは、何度も頷くと、ゴクンと、パンを飲み込んだ。
「これね。昨日、母上の体調が優れなかったらしくて、一人で食事をしたんだけど、寂しくなっちゃって。部屋に戻って、貰ったお菓子を食べてたら、泣けてきちゃったんだ」
泣いてしまいそうな程、弱々しく、ニコッと微笑んだモーガンを見つめて、アスベルトは、グッと唇に力を入れた。
「今まで、一人で過ごすのなんて、当たり前だったんだけど、昨日は、昼間が楽しすぎたのかな。凄く、寂しく感じちゃったんだよね。ダメなのにね。王子が、寂しくて、泣くなんて」
「そんな事はございません。誰だって、寂しさや苦しさ、悲しさを感じたのでしたら、泣いてしまうものです。国王だから、王子だから、泣いてはいけないなど、決してございません」
湯気の上がるカップを置く執事を見上げ、モーガンが、悲しそうに目尻を下げた。
「ガン、そうゆうときは、次の日を考えるんだよ」
モーガンが首を傾げると、アスベルトは、ニコッと微笑んだ。
「昨日みたいに、寂しくなったり、悲しくなったら、明日は、どうしようかなって。昨日なら、今日、僕を連れて、茶葉を見に行くついでに、他のお店にも行こうかな。とか、終わったら、町を案内しようとか。そしたら、次の日が楽しみになって、寂しくなくなるし、悲しい気持ちも消えるでしょ?」
「…そうだね。でも、そしたら、毎日、アスに会いに来ちゃうかもね」
「おや。宜しいのですか?モーガン様にも、ご予定がございますでしょう。それを坊っちゃんと過ごしても」
「僕の予定って、そんなにないんです。母上が、お茶会をするときに、たまに出席させられたり、勉強したり、たまに、父上に呼ばれることもあるけど、大体は、決定事項を伝えられるだけで、特に意味はないんです」
二人が、悲しそうに目尻を下げると、モーガンは、困ったように、瞳を細めた。
「逆に、アスの時間を僕に使わせていいのかな?大変なのに」
「いいよいいよ。ガンが、来たいときにおいでよ。それに、書類の処理だけだから、僕も、あんまりやることないし」
「そしたら、また、ウィルセンに連れてってね?」
「もちろん」
ニコッと笑ったアスベルトを見つめて、モーガンは、安心したように、優しく微笑むと、カップを傾け、ふぅ~と息を吐き、パンを口に運んだ。
「そういえば、今日行くところって、扱ってるの茶葉だけ?」
「そうだね。色んな種類の紅茶とか、花茶、あと、緑のお茶もあるんだよ?」
「緑?どんな味するの?」
「爽やかな感じ。紅茶とかよりも、口の中が、さっぱりするんだ」
「脂が濃いお肉に、良く合いそうでございますね」
「そうかも。お菓子よりも、食事のときに飲むほうが、合ってるかもしれないですね」
「今度、食事のときに、試してみるか」
「それは名案でございます」
楽しそうに笑いながら、食事をする二人を見つめ、執事が、優しく微笑み、和やかな雰囲気で、朝食を終わらせた。
「そろそろ行こうか」
「そうだね」
「ロム、馬車の」
〈コンコンコン〉
ノックの音が響き、モーガンは、ビクッと肩を揺らした。
〈ガチャ〉
執事が扉を開けると、朝の若い執事が、無表情で胸に手を当て、頭を下げた。
「失礼致します。私、サイフィス王家に仕えております、グランセルと申します」
頭を上げた若い執事は、無表情で、執事を見つめた。
「王子殿下は、いらっしゃいますでしょうか」
機械的な執事を見つめ、アスベルトが、眉間にシワを寄せると、モーガンが扉に近付いた。
「どうかした?」
「王子殿下、ローデン様とデュラベル様が、いらっしゃいました」
二人の名前に、モーガンは、グッと唇に力を入れた。
「…断って。今日は、アスベルト殿下と出掛けるから」
「かしこまりました」
若い執事が去って行くのを見送り、モーガンは、視線を落とし、自分の足元を見つめた。
「モーガン様、お戻りになりましたら、是非、お茶をお召し上がり下さい」
モーガンが顔を上げると、執事は、ニコッと微笑んだ。
「お嬢様が、今朝から、張り切って、お菓子をお作りしておりましたので、後ほど、頂いて参ります」
「…ありがとうございます」
モーガンが、頬を赤くしながら、嬉しそうに、ニコッと笑うと、アスベルトは、フッと鼻で、小さく笑って、カップを傾けて、一気に飲み干した。
「それじゃ、今度こそ行こうか。ロム、馬車の準備を頼む」
「かしこまりました。では、坊っちゃんは、こちらに、お召し替えを」
「分かってるって」
「あれ?今日は一人で着替えるの?」
「毎日じゃないからな!あんな恥ずかしいの!」
「本日は、お時間に、余裕もございますので、ご自身でやって頂こうかと」
「そうなんですね。面白いのに」
「なーーんにも!面白くないからな!」
〈ガチャ〉
ケタケタと笑うモーガンと、頬を真っ赤にしながらも、楽しそうなアスベルトを残して、執事が、部屋を出ると、若い執事が戻って来るのが見えた。
〈パタン〉
「何か、御用でしょうか」
「王子殿下に、お伝えしたい事がございます」
「今、皇太子殿下が、お召し替えをしておりますがゆえ、私めが承ります」
「しかし」
「承ります」
「…ローデン様とデュラベル様が、馬車にて、お待ちしております」
「はて?お断りしたのではございませんか?」
「皇太子殿下とお出掛けになると、お伝えしたところ、お二人が、そのように仰っております」
「さようでございますか。かしこまりました。では、後ほど、お伝えさせて頂きます」
〈…ガチャ〉
互いに頭を下げ、去って行く若い執事の背中を睨むように、執事が、見つめていると、後ろの扉が開いた。
「どうした?」
驚いた顔で、首を傾げたモーガンを見つめ、執事は、悲しそうに目尻を下げた。
「モーガン様、先程のお二人が、馬車でお待ちのようです」
「…え」
「なんでだよ。断っただろ」
「あのグランセルという執事が、坊っちゃんとお出掛けになる事をお伝えすると、そのように、仰ったと、今しがた、伝えに参られました」
モーガンが、唇を噛むように力を入れ、拳を握って、視線を下げると、アスベルトは、顎を撫でながら、執事を見上げた。
「アイツって、ガンの執事だと思う?」
「いえ。彼は、王家に仕えてると言ってましたので、モーガン様ではなく、王家、国王に忠誠を誓ってるかと思われます」
「なるほどね。つまり、アイツは、ガンは王子だけど、王家じゃないって思ってるってことだよね?」
「定かではございませんが、その可能性はございます」
「なら、別に、ガンは、アイツの言うことを聞かなくてもいいよね?」
アスベルトが、ニヤッと笑うと、執事も、ニコッと笑い、モーガンは、二人を見つめて、首を傾げた。
「ガン、あの二人を置いて行くなら、どこがいいと思う?」
「…そのままでいいと思う。裏の庭園を抜けると、裏門があるんだ。その先に、馬車を停めておけるような、ちょっと広い道もあるし、ちょっと遠回りだけど、城下町に行くなら、そっちからでも行けるから」
「では、そちらに、馬車を用意致します」
「僕らも行こうか」
「そうだね。庭園なら、こっちに行けば、二人には、見付からないよ」
執事が馬車の準備に向かい、アスベルトとモーガンは、裏の庭園に向かって、二手に分かれた。
「…迷路みたい」
離宮の裏には、二人の背丈と同じくらいの低木で、入り組んだ道が作られていた。
「メント宮殿は、元々、三代前の国王が、大事にしてた女性の為に作ったとされてるんだ」
「側室?」
「ちょっと違う。当時の国王の寵愛を受けて、大事にされてたエミリーナは、側室になることを拒んだ。でも、国王は、彼女の為に、このメント宮殿を作ったんだ」
「それっていいの?」
「あまりよくない。でも、当時の国王は、それを受け入れたんだ。それで、エミリーナを守る為に、メント宮殿を建てて、裏の庭園は、入り組んだ造りにして、たくさんの抜け道を用意したらしいんだ」
「呆れる話だね」
「そうだね。でも、その抜け道のおかげで、エミリーナは、ここから抜け出すことができて、海を越えた遠い異国に逃亡したんだよ」
「勇気あると言えばいいのか、ただ無謀なのか」
「エミリーナには、船乗りの夫がいたんだよ」
「ちょっと待て。そのエミリーナって、平民?」
「そう。偶然、国王が身分を隠して、城下町に視察に行ったとき、酒場で働いてたエミリーナの美しさを気に入って、連れ帰ったんだよ」
「うっわ。だいぶ、ひどい国王だね」
「エミリーナは、愛する旦那から引き離されて、王城で半年も過ごしたんだってさ」
「うわ~。二人が、かわいそすぎる」
「毎日泣いてばかりのエミリーナに、国王は、沢山の宝石やドレスを贈ったけど、何一つ喜ばなかったらしい」
「それはそうだろ」
「そこで、国王が思い付いた贈り物が、このメント宮殿だったんだよ」
「なるほどな。悲しくて、泣いてるのをイジメられて、泣いてるとでも思ったのか」
「それでね?面白いのが、このメント宮殿を贈ったときに、エミリーナから、お返しが届いたんだって」
「どんな?」
「血の着いた短剣」
「…は?」
「エミリーナは、国王が憎かったんじゃないかな。楽しかった生活も、愛する人との時間も、自分から、何もかもを奪った国王が、憎くて、憎くて、たまらなかった。そんなときに、国王との間に子供ができてしまったんだ。彼女は、絶望してしまったんだろうね。でも、平民のエミリーナを気に掛ける人なんて、王城には、いなかったんだ。だから、誰も、子供ができたのを知らなかった。絶望と悲しみで、毎日泣いてたら、メント宮殿に移り住むことになって、彼女は、そこで決心したんじゃないかな。そして、誰にも知られないように、宮殿を抜け出し、血の着いた短剣を国王に贈った」
「こっわ。狂気じゃん」
「それに、エミリーナの旦那は、船乗りだから、港に行けば、知り合いの一人や二人いたと思う。エミリーナが、逃げ出したのも、メント離宮に移ったのさえ、誰も知らなかったし、いつ、子供が生まれたのかも、分からないんだ」
「…そこで匿ってもらいながら、子供産んで殺したってこと?」
「まぁ、その血が、子供の血だったのかは、分からないけどね。もしかしたら、エミリーナ自身の血だったのかもしれないし、他の誰かかもしれない」
「怖い怖い怖い。なんだよ、その、ドロッドロの悲劇。聞いててしんどいよ」
「そのおかげで、誰にも知られないで、城下町に行けるんだけどね」
「そこは感謝だけどさぁ。おぞましい」
「サイフィスの王家って、結構、こうゆう話あるよ?お祖母様のときからは、側室制度が廃止されてなくなったけど、それまでは、普通にいたらしいし、それに合わせて、離宮や別邸も作られてるから、王室が所有してる建物は、凄い数があるんだって」
「今でも管理してんの?」
「今は、ほとんど管理されてないね。使うときだけ、綺麗にして使う感じ」
「もったいない」
「そうだね。取り壊せば、もっと広い庭園や施設も作れるんだろうけどね」
「国王は、やらないの?」
「父上は、前王、お祖父様の影響を強く受けてるから。後継者も、一人でいいって考えだし」
「なるほどな。つまりは、国王と王妃は、仲良く見えるけど、そんなんでもないんだ?」
「関係性で言えば、二人は、良好なほうだよ。アスの父君や母君のように、愛し合ってる訳じゃないし、サイフィスは、古い考えの国だから、それで充分なんだよ」
「ガンは偉いな。そんな他人の集まりの中で、ちゃんと、二人を親だと思ってるんだから」
「まぁ、親だとは思ってるけど、家族とは思ってないのかも。そもそも、僕は、アスに出会うまで、家族って言葉だけで、それが何なのか知らなかったよ」
アスベルトは、寂しそうに瞳を細めて、蔦が絡む、古ぼけた木戸に手を掛けた。
「僕、アスの父君と母君のように、ずっと、手を繋いだり、抱き合ったりして、仲良くしていたいな。王家だからとか、貴族だからって、身分なんか関係なく、ただ一緒に隣で笑い合って。愛する人と並んで、一緒に、生きたい」
〈…ギギィー〉
モーガンが、取手を回しながら、ゆっくり押すと、軋みながら、木戸が開き、二人の目の前に壁が現れた。
「行き止まり!?」
「そう見えるけど、実は、こっちに道があるんだ」
アスベルトを引き寄せ、モーガンが、木戸を閉めると、人が、一人通れる程の道が現れた。
「結構、面倒でしょ?」
「かなり」
薄暗い通路を少し進むと、石段が現れ、そこを登ると、地上に辿り着いた。
「いつの間に、地下に入ってたの?」
「正確には半地下ね?庭園のほうが、少しずつ坂になってて、あの戸自体が見えないようになってるんだよ。さっき通った道も、造りが複雑で、外からは、ただの水路に見えるようになってるんだ。こっちだよ」
下り坂になってる石畳を下ると、突き当りに、ウィルセンの馬車が停まっていた。
「お待たせしました」
「坊っちゃん、モーガン様、いつの間に」
「ここの小道の先から来たんだよ」
モーガンが振り返り、指差した先は、人通りがないような脇道で、アスベルトは、改めて、その道を見つめて、何度も頷いた。
「ここから真っ直ぐ行けば、城前に回れるようになってて、逆に、こっちに道沿いに行けば、城下町に出られるよ」
「かしこまりました。では、どうぞ」
〈ガチャ…パタン〉
二人が乗り込むと、馬車が走り始め、アスベルトは、流れる景色を見つめた。
「帰りも、あの道通るの?」
「あの道は出口専用で、入口は別にあるんだ」
「すんごい、面倒なところだね」
「まぁ、一応、王城だからね。アスの城はないの?」
「一応、あるにはあるけど、こんな面倒じゃないよ。行きも帰りも同じ道」
「普段から使ってるの?」
「たまに、城下町に遊びに行くときに」
「そうなんだ。アスは、行動力があるんだね」
「…ガンってさ、城から抜け出したことある?」
「そうだね。今回が初めてかも」
モーガンが、ほんのり頬を赤くしながら、ニコッと笑うと、アスベルトは、瞳を大きく開いて、パチパチと、何度も瞬きをした。
「遊びに行きたいとか思わないの?」
「思うけど、いつも、デュラベルやローデンが来てたから、庭園とか、敷地内で遊んでたんだ」
頬をポリポリと掻くモーガンを見て、アスベルトは、腕組みして、眉尻を下げた。
「ちなみに、今日、お金って持って来た?」
「実は、昔、お祖母様から貰った宝石があって、それを売ろうと思うんだ」
「いいの?そんな大事な物売って」
「お祖母様が、これは、お前が自由に使いなさいって言ってたんだ」
目尻を下げながら、瞳を細めて、小さく微笑んだモーガンを見て、アスベルトも、瞳を細めて、フッと鼻で小さくため息をついた。
「どんなの?」
モーガンは、ポケットから、宝石を取り出して、アスベルトに手渡した。
「…ガン、これ、全部売るの?」
「そのつもりだけど」
「これ全部売ったら、別邸一つくらいの金額になるよ?」
驚いて、瞳を大きく開いたモーガンに向けて、アスベルトが、宝石を一つ持ち上げて見せた。
「これ一つでも、充分に、買い物もできるし、演劇とかオペラとか、遊びに行っても、余裕あるよ?」
「なら、それだけでにするよ」
「そのほうがいいかもね。なんなら、ロムに渡して、僕のと一緒に管理してもらったら?強盗に狙われたくないでしょ?」
「大丈夫なの?ロムさんのほうが、危なく」
「ロムは、ウィルセンの執事だよ?町中を徘徊してるような強盗くらいなら、簡単に退けられるよ」
「でも」
「強盗に襲われて、奪われてたら、一人で、通面鏡なんて使えないからね?」
「…そっか。なら、お願いしようかな」
苦笑いしながら、手を出したモーガンに、宝石を返すと、アスベルトは、外に視線を向けた。
「とりあえず、城下に着いたみたいだよ?」
ニコッと笑いながら、アスベルトが、指差すと、モーガンも、外に視線を向け、外で、ニコニコと笑っている執事に、驚いて、瞳を大きく開いた。
「…いつの間に…」
〈ガチャ〉
「お疲れ様でございます。中央広場に、到着致しました」
「凄く早いですね?」
「ウィルセンの馬は速いからね。お店は?」
「あそこだよ」
モーガンが、湯気の上がるカップが描かれた看板を指差すと、アスベルトは、困ったように微笑んだ。
「その前に売るんでしょ?」
「そうだった。えっと、宝石店は…」
モーガンが、キョロキョロと、辺りを見渡して、宝石店を探し始めると、アスベルトは、執事と視線を合わせて、クスッと笑った。
「ロム、とりあえず、その辺で聞いてきてもらえるか?」
「かしこまりました」
「ガン、そんなことしてたら、危ないよ?」
アスベルトが隣に並ぶと、モーガンは、首を傾げた。
「ガン、身なりが整ってて、そんなにキョロキョロしてたら、どっか、他国の金持ちだって思われるだろ?」
「…そっか。そしたら、悪い人達に狙われちゃうね」
「そう。こうゆうときは、堂々としてなきゃ」
アスベルトが、グルッと周りを見渡して、執事が、屋台で買い物をしながら、話をしてるのを小さく指差した。
それをモーガンが見つめていると、執事が、両手に器を持って、戻って来た。
「お待たせ致しました。宝石店でしたら、大通りに二つ、少し離れたシャルンス通りに一つ、有名なお店があるそうです。どうぞ」
木で出来たグラスのようなカップを受け取り、モーガンは、中身を見つめた。
「これは?」
「葡萄水でございます。サイフィスの名産だそうです」
「そうなの?」
「聞いたことないけど」
「口上でございますよ。サイフィス名産の葡萄水は、とても甘く、爽やかで、美味しい。とおっしゃっておりましたので。まずは、喉を潤しましょう」
二人は、カップをゆっくり傾けると、ゴクゴクと、喉を鳴らしながら、一気に飲み干した。
「…はぁ~。ほんとに美味しい」
「本当だね。爽やかなんだけど、甘くて、鼻から抜ける香りも、葡萄を食べたときと同じだね」
「そうだね」
喜ぶ二人を見て、執事は、ニコニコと笑いながら、そっと手を差し出した。
「そちらは、私が、お預かり致します。さて、モーガン様、いかが致しますか?」
モーガンが首を傾げると、アスベルトは、クスッと笑った。
「どこで売るの?」
「んと、えっと…確か、王室の」
「それは、やめたほうがいいよ」
首を傾げたモーガンを見て、アスベルトは、執事と視線を合わせた。
「王室御用達の宝石商ですと、もし、モーガン様が訪れれば、国王や王妃のお耳に、その事が入ってしまう可能性がございます」
「…そっか。そしたら、僕のことが、二人に知られて、出掛けられなくなってしまいますね」
「下手したら、なんで、そんな物を持ってたのか探られるね」
「そうなれば、色々と、モーガン様が苦しくなってしまいます」
「そっか。どうしようかな」
悩むように、腕組みしたモーガンを見てから、アスベルトは、横目で、執事に視線を向けた。
「ロム、それぞれのお店についても、聞いてきたんでしょ?」
「はい」
「なら、ロムは、どこがいいと思う?」
「私でしたら、シャルンス通りのお店が宜しいかと」
「どうしてですか?」
「大通りにある一つは、王室御用達でございます。先程の理由もあり、そこは、すぐに除外させて頂きました。もう一つの方ですが、確かに、大きな宝石店ではございますが、そちらは、ターサナ侯爵家のお抱え宝石商との事で、モーガン様や坊っちゃんのお話から、小さな関わりさえ、避けた方が宜しいかと思い、シャルンス通りの宝石商を選ばさせて頂きました」
モーガンが、何度も頷くと、執事とアスベルトは、視線を合わせて、ニコッと笑った。
「更に、シャルンス通りの宝石商は、公爵家御用達との事でしたので、モーガン様も、安心して、ご利用頂けるかと」
「そっか。なら、シャルンス通りに行こう。ちょっと離れてるけど、いいよね?」
「もちろん。なんなら、茶葉とかも、別の所にしようか?」
「そうだね。そしたら、誰にも知られることもないもんね」
「なら、そうしよう。ロム」
「かしこまりました。では、シャルンス通りに向かいながら、観光しては、いかがでしょうか?」
「そうだね。よろしく」
二人は、並んで歩き、執事は少し後ろを歩いて、露店や店先の商品を眺めながら、シャルンス通りに向かった。
「…これ、可愛い。キアナ皇女に似合いそう」
「これなんか、リリアンナに似合いそうじゃない?」
「凄く良い匂いがするね」
「この果物、凄く美味しそう」
アスベルトと一緒にモーガンも、終始、キラキラと、瞳を輝かせながら、行く先々で、楽しそうに笑っているのを執事は、ニコニコと笑って、後ろからついて歩いた。
「モーガン様、坊っちゃん、シャルンス通りに到着しましたので、少し休憩されては、いかがでしょうか?」
「でも、僕、まだ」
「私が、個人で、立て替え致しますよ」
「でも」
「ここまで歩きっぱなしで、お疲れでしょう。どうぞ、少しお休み下さい」
ニコニコと笑う執事を見つめてから、モーガンは、アスベルトに視線を向けた。
「いいじゃん。もし、不安なら、ロムに預けてもいいし」
「大丈夫、かな?」
「大丈夫だよ。もし、不正を」
「違うよ!…不正を疑ってるんじゃないんだ。もし、これを渡して、ロムさんに迷惑が掛かったら」
「それも大丈夫。ロムは、皇室に仕える執事だから、何かあったとしても、ちゃんと対処できるから。な?」
「はい。外交先で外出する際、ドルト様や坊っちゃんの貴重品は、私めが、全て管理しておりますので、モーガン様が、ご心配されるような事は、誓ってございません」
胸に手を添えて、お辞儀をする執事を見つめて、モーガンは、瞳を大きく開いていたが、フッと、小さく微笑んだ。
「なら、お願いします」
「かしこまりました。では、まず、お店に入りましょう。席に着き、落ち着きましたら、お預かり致します」
ニコッと笑った執事を見て、モーガンとアスベルトも、ニコッと笑って頷くと、すぐ近くの喫茶店に入った。
〈カランカラン〉
「いらっしゃいませ」
お辞儀をした店員が、三人を見つめてから、ニコッと笑った。
「こちらへ、どうぞ」
見晴らしの良い席に通され、モーガンとアスベルトが席に着くと、執事が、店員に手のひらを見せた。
「アロンティーを二つ、お願いします」
「かしこまりました。少々、お待ち下さい」
店員が離れると、執事は、モーガンの脇に立った。
「では、お預かり致します」
「ありがとう。お願いします」
モーガンが、ポケットから取り出し、宝石を差し出すと、執事は、素早く受け取り、内ポケットに入れた。
「少しは楽になった?」
モーガンが首を傾げると、アスベルトは、トントンと、自分の頬に触れた。
「ずっと、引き攣ってた」
モーガンが、自分の頬を包むように触れると、アスベルトは、ふぅ~と、鼻で小さなため息をついた。
「無意識の内に、気が張ってたんだね。ごめんよ?僕が、余計なこと言ったから」
「そんなことないよ。逆に、言われなかったら、売るときに困ってたかもしれないし」
「なら、ロムに任せてみる?」
「大丈夫なの?」
「逆に、ロムのほうが怪しまれないで、換金できるよ。ちゃんと、皇室執事証明持ってるから」
「失礼します」
モーガンが首を傾げた時、店員が、カップとティーポットをトレーに乗せて戻って来た。
「アロンティーです。ごゆっくり、どうぞ」
店員がお辞儀をして、去って行くのを確認して、執事が、ティーポットの蓋を開け、香りを嗅いでから、二つのティーカップに注いだ。
アスベルトは、カップを手に取り、香りを嗅いでから、静かに傾けた。
「…大丈夫そうだね」
「はい。こちらのお店は、安心して、ご利用頂けます」
モーガンが、更に首を傾げると、アスベルトは、困ったように、目尻を下げた。
「いくら友好関係を望んでいても、そう思わない人もいるからね。特に、貴族は、帝国を嫌うんだよ」
モーガンが、悲しそうに、瞳を細めると、アスベルトは、カップを置いた。
「正直、さっきみたいな露店で売ってるほうが、僕らは、安心して口にできるけど、お店だと、どこに、何が潜んでるか分からないんだ。だから、他国のお店には、安易に入らない」
「狙われるから?」
「そう。でも、それは、ガンにも言えるんだよ?」
「今のモーガン様は、とても活発で、坊っちゃんと良好な関係を築いてらっしゃいます。それを良く思わない貴族は、本日のように、坊っちゃんといらっしゃる時、モーガン様に、何かあれば、ウィルセンを非難し、追い出そうとするでしょう」
「そうなれば、僕らよりも、ガンのほうが傷付いてしまう。そこに漬け込んで、自分達の思うようにしようとする」
「それだけならば良いのですが、もし、モーガン様のお命まで、奪おうと目論んでいたら、坊っちゃんと居る時に、一緒に抹消しようとするでしょう」
「ガンは、とても素直だ。それは、凄く良いことだよ?でも、人の醜さを知らないから、疑うことを知らない。欲にまみれた大人は、何をするか分からないんだ。王室に悲劇が多いのは、そうゆうのが、多く存在してるからなんだよ」
「…そっか」
「ですが、私は、坊っちゃんを慕い、ご友人であるモーガン様をお慕いしております。もちろん、フェルミナやトロント、カニュラ、モーガン様に関わったウィルセンの者は、サイフィスの王子ではなく、モーガン様ご自身をお慕いしております」
胸に手を当てて、ニコッと笑う執事を見上げ、モーガンは、優しく瞳を細めた。
「私が、一緒に居る間は、坊っちゃんも、モーガン様も、必ずお守り致します。ですから、どうか、どうぞ、ご安心下さい。少々、煩わしさを感じる事もございましょうが、ご了承下さいますよう、お願い申し上げます」
「ありがとうございます。お願いします」
モーガンが、ニコッと笑うと、執事も、ニコッと笑い、アスベルトは、安心したように、目尻を下げながら、瞳を細めて、小さく微笑んだ。
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