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#11
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その後、博文と葉菜は、体を重ねる事が減り、出掛ける事が増えた。
「ここがバイト先」
大学近くにあるファミレスが、博文のバイト先で、それが、意外だった葉菜は、ニヤリと笑った。
「へぇ。お坊っちゃまでも、アルバイトされてるんですか」
「それやめてよ。一応、隠してやってるんだから」
「なんで?」
「仕事してるのに、気遣われるのイヤじゃない?」
「あ~確かに」
少しずつ、互いを理解すると、一緒にいる時間が楽しくなった。
友達の様な、恋人の様な、曖昧な関係のまま、1ヶ月が過ぎた。
「…おいこら」
葉菜の勤めるスナックに、なんの前触れもなく、博文がやって来て、カウンター席に座っていた。
「なんで、ここにいるのよ」
普段とは違い、綺麗な葉菜が睨むと、博文は、頬を赤くしながら、嬉しそうに笑った。
「ちょっと、見てみたいなと思ったんだよね。ビールで」
葉菜がメニューを指差すが、博文は、メニューを見ずに注文した。
「何を」
「どんな所で、仕事してんのかなって」
「なにそれ。ストーカーじゃん」
ビールを注ぐ葉菜を見つめて、博文は、優しく微笑んだ。
「違うよ。彼女の事なら」
「彼女じゃないし」
赤くなる顔を反らして、葉菜が、ビールを手元に置くと、博文は、淋しそうな顔をした。
「そうなんだ。寂しいな」
「何がよ」
「僕は、葉菜と付き合ってると思ってたから」
「…どの辺が?」
「手繋いだり、キスしたり、デートしたりしてたから。葉菜も飲んだら?」
葉菜は、溜め息をつきながら、ビールを注いで、グラスを近付けた。
「ホント、お坊ちゃま的考えだわ」
「そうかな?普通じゃない?」
軽くグラスをぶつけ合い、葉菜が、口をつけるのを見てから、博文も、口をつけた。
「てか、そもそも、告られてないし」
「…言ったよね?」
「好きだよってだけね」
「そうだっけ」
「お坊ちゃま。お付き合いとは、まず、相手に交際を申し込むのですよ?」
「…言ってるよ」
「どこでよ」
「この前、葉菜の部屋で飲んだ時だよ」
1週間前。
葉菜の休みを利用して、博文は、部屋に泊まった。
その時も、二人で飲んでいた。
「…あれか」
半分酔っ払った博文が、勢いで、何か言ってたのを思い出した。
「あんなの告白じゃないし。てか、酔った勢いで、なんか、訳の分からん事ぶちまけてただけじゃん」
「そんな事ないよ?ちゃんと言ってたの覚えてるから」
「てか、普通、シラフの時にするもんでしょ」
「だって、葉菜、飲んでないと聞いてくれないから」
「雰囲気あれば、ちゃんと聞くわ」
「あ。そうなの?」
「そこまで鬼じゃないし」
「なら、今言ってもいい?」
「だめに決まってるでしょ」
笑いながら、ビールを飲んでる葉菜の頬が赤くなると、博文は、小さく笑った。
「葉菜。左手貸して?」
満面の笑みを向けられ、あちゃらの方を向いて、手を出した葉菜の薬指に指輪が着けられた。
小さな花の真ん中には、淡いピンク色の石が埋め込まれた指輪を見つめ、葉菜は、驚いた顔をした。
「また、よろしくね?」
「…覚えてるの?」
「なんとなくだけどね」
「マジでか~」
博文に、手を繋がれたまま、カウンターの中で屈むと、葉菜の姿が消えた。
葉菜は、嬉しそうに笑う博文をカウンター越しに、真っ赤な顔で見つめた。
「忘れてると思ってたのに」
「結構覚えてるもんだよね。初恋って」
博文の初恋が自分なのを知り、嬉しさと恥ずかしさで、どうしたらいいか分からず、葉菜は、とりあえず、カウンターで顔を隠した。
「あの時の葉菜は、僕の」
「うるさい。それ以上言わない。てか、離してよ」
パタパタと、顔を扇ぎながら立ち上がり、左手を引っ込めようとするが、博文は離さない。
「なんで?」
「…分かっててやってるでしょ?」
「なんの事かな?」
「ママさん召喚するぞ」
「いいよ?」
「少しは引いてくれませんかね?」
「イヤだ」
「もう!」
大声で笑う博文と、真っ赤な顔をする葉菜の様子を周囲は、小さく笑いながら、見守っていた。
「てか、なんで、急に指輪?」
「だって、誕生日でしょ?」
「…忘れてた~。てか、なんで知ってるの」
「前に保険証のコピー見たから」
「ストーカー」
「違うよ。あれは、流れで見せられたの」
「それを覚えてるあたりが、ストーカーなの」
ムッとした博文が、ビールを飲んでから、ニヤッと笑って、話題を変えようとした。
「…そういえばさ、この前のおば」
「ごめん。うそ。だから、言わないで」
二人で行った遊園地で入ったお化け屋敷で、葉菜は、涙目になりながら、博文の後ろをくっついて歩いていた。
「そう?可愛かったよ?」
嬉しそうに笑う博文を見つめ、葉菜は、諦めたように、小さく微笑んだ。
「大変なのに、捕まっちゃったわね?」
スナックのママが現れ、博文の手が離れると、葉菜は、わざと大きな溜め息をついた。
「ホントですよ。どうしましょ」
「でも、ハーちゃん楽しそうよ?」
首を傾げる博文を見つめてから、葉菜は、子供の様な笑顔を見せた。
「確かに、楽しいね」
その笑顔を見つめ、博文は、驚いた顔で、顔を真っ赤にした。
「なんで、今更赤くなる」
「ごめん…うん。ごめん」
「何故、2回も謝る」
「その…ごめん」
「意味分からんし」
「僕も分かんない」
「分からんのかい」
小さなスナックに、笑い声が響き、葉菜も、博文も、心底、楽しそうに笑っていた。
閉店するまで、その楽しい雰囲気が続き、博文は、その日も、葉菜の部屋に泊まることになった。
「シャワー浴びる?」
「あとでいいよ」
博文がクッションに座ると、腕を掴んで、葉菜は、イタズラを思い付いた様な顔をした。
「一緒は入ろうか」
「大丈夫だよ。先に」
「入るよ」
困ったように笑う博文の腕を引き、葉菜は、浴室に向かおうとする。
「あとでいいからよ」
顔を反らした博文の顔が、真っ赤になると、葉菜は、大声で笑った。
「ヘタレ」
「なんでもいいよ」
「そう」
葉菜の手が離れると、博文の鼻先まで近付き、顔を近付け、首の後ろに腕が回した。
「どうしたの?」
「別に?なんでもないよ?」
「…酔ってる?」
「ちょっとね」
葉菜の唇が重なるが、博文は、それを受け止めるだけで、何もしない。
あの日の約束を忠実に守る博文に、葉菜は、少しヤキモキしていた。
「ねぇ。なんで、何もしないの?」
「約束したから」
「彼女なのに?」
「彼女じゃないって、言ってたよね?」
「彼女じゃないのに、指輪のプレゼントって、どうなのよ」
「別のがいい?」
「要らないし」
「なら、それで良しとしてよ」
「…頑固ね」
「よく言われる」
深いキスをすると、博文が鼻を鳴らして、離れようとするが、葉菜は逃さない。
「…葉菜?」
自分のやってる事に虚しさを感じ、葉菜は、博文を離して、寂しく笑った。
「なんでもない。シャワー浴びてくる」
葉菜が着替えを持って、浴室に消えるのを見つめ、博文は、シャワーの音を聞きながら、溜め息をついて、立ち上がり、浴室に向かった。
服を脱ぎ、静かにドアを開けると、葉菜は、乱暴に顔を洗っていた。
博文が背中から抱きしめると、葉菜は、手で顔を覆ったまま、驚いて肩を揺らした。
「…なに」
「一緒に入ろうと思って」
「あとでいいって」
「入りたくなったから」
「子供か」
「そうかもしれない」
笑ってるはずの葉菜の声が震えていて、博文は、小さく溜め息をついた。
「どうしたの?」
「なんでもないし」
「葉菜。ちゃんと言ってくれないと、分かんないよ?」
「…ねぇ。ホントに好き?」
「好きだよ?葉菜は?」
「何が」
「僕のこと好き?」
「知らないし」
博文は、困った顔をしながら、葉菜の頭に頬擦りをした。
「やっぱり、僕のこと嫌い?」
「…分かんない」
「葉菜は、何も教えてくれないね」
肩を抱いていた博文の手が、脇腹を滑り降りると、葉菜の体が震えた。
「寂しい?」
葉菜が小さく頷くと、博文は、嬉しそうに微笑みながら、耳に唇を寄せた。
「僕が、何もしないから?」
葉菜が微かに頷くと、博文は、鼻で溜め息をついた。
「僕が葉菜とやりたいって、言ったの覚えてる?」
葉菜の手が、やっと顔から離れ、博文を見上げて首を傾げた。
「僕は、葉菜と恋愛がしたい。デートして、美味しいご飯食べて、楽しくお酒飲んで、葉菜が笑ってくれて、喜んでくれる事がしたいんだ。小さい時みたいに」
葉菜の赤くなった頬に、博文は、鼻先をくっ付けた。
「葉菜がして欲しい事は、出来る範囲でやってあげるよ?でも、ちゃんと、言ってもらえないと、分からないから、やってあげられないんだよ?って、この前も言ったんだけど」
「…いつ」
「二人で飲んだ時だよ」
「…言ってた?」
「言ったよ?葉菜、半分寝てたけど」
「…あのさ~」
博文の笑い声が響くと、腕が離れ、浴槽の縁に座って、葉菜の左手を握った。
「葉菜が笑って、一緒にいられれば、体を重ねなくても、僕は十分幸せなんだけど、葉菜は、それじゃいや?」
優しく微笑む博文を見つめ、葉菜は、その頭をぐしゃぐしゃにした。
「ちょ。痛いよ。どうしたの?」
「なんか、その顔、ムカつく」
「え~」
二人の笑い声が響き、楽しい雰囲気になると、葉菜の肩から力が抜け、自然と、博文に抱きついた。
「…ねぇ。私のこと好き?」
「好きだよ?」
「でも、彼女じゃないよね?」
「またそれ?」
「だって、ちゃんと聞いてないし」
「なら、今言うよ?」
「この状況で?ありえないわ~」
博文の鼻先まで、顔を近付けた葉菜は、小さく笑った。
「好きよ」
博文は、驚いた顔をしたが、ゆっくり嬉しそうに笑うと、葉菜の唇が重なった。
キスが深くなると、博文は、鼻を鳴らして、葉菜の腕に触れた。
唇が離れても、すぐに重ねられ、博文の股間に、葉菜の膝が滑り込んだ。
「…葉菜…待っ…」
離れる瞬間に、博文が囁いても、葉菜は、やめてくれない。
逆に、葉菜は、太ももで、固くなったペニスを撫でた。
「したい?」
「…任せる…」
「それいや」
蕩けた顔で、博文が、首を傾げると、葉菜は、腕を離した。
「なんで、そうなのよ」
葉菜は、背中を向けて、ボディーソープを泡立て始めた。
「なんで、私だけが、求めなきゃないの?」
「約束だ」
「それってさ、付き合ってなかったから、そうしたんじゃないの?なら、付き合ったら、無効じゃない?」
「それはぁ…」
博文のペニスに、泡を乗せると、葉菜は、手を滑らせた。
「葉菜…待っ…」
スルスルと、優しく手を滑らせて、博文の下半身を洗いながら、葉菜は、話し続けた。
「そりゃさ?今までが、今までだからさ?仕方ないんだろうけどさ」
「葉菜…ちょ…」
葉菜の手を捕まえようと、博文の手が追い掛けるが、泡のせいで、滑ってしまった。
「この前、ちゃんと言ったって言うけどさ、私が付き合いたいなら、付き合いたいんだって、感じだったんじゃないの?それって、ちゃんと言ってなくない?」
葉菜の手が上半身に上り、擽るように動くと、博文は、背中を丸めて逃げようとしたが、逃げられない。
「私が手繋ぎたいから繋ぐ。私がキスしたいからキスする。私が付き合いたいから付き合う。私が求めることに応える。でもさ?」
葉菜の手が、首筋を撫であげて止まり、博文は、涙を溜めた目を向けた。
「それって、付き合ってるって言えるのかな?」
背中に手を滑らせながら、葉菜は、博文の鼻先に鼻を近付けた。
「付き合ってるならさ、お互いに求め合うもんじゃないの?」
「でも」
「てかさ、デートに誘うのも遠慮してるよね?なんで?」
「葉菜の予定も」
「んじゃ、私が忙しいから、連絡出来なくなるって言ったら、連絡来るまで待つの?」
「それは」
「その間に、私が逃げたら?誰と結婚してたら?」
博文が、寂しそうに目を細めて黙ると、葉菜は、大きな溜め息をついた。
「それだけの気持ちなのね。チャンスくれって言ったくせに、結局、その程度なんだ」
葉菜が泡を流し始めても、博文は、されるがまま、黙ってうつ向いていた。
「そんなの恋愛ごっこでしょ。任せるだけなら、誰でも出来るんだから、簡単なんだよ。私だってやってたし」
博文の泡が消えると、葉菜は、背中を向けて、自分の体を洗い始めた。
「アンタと付き合ってると、アンタを好きな自分が、バカバカしくなるわ」
体を洗う葉菜の背中から、博文が抱きしめた。
「なに」
「ごめん」
「何が」
「色々」
「今更」
「葉菜。好きだよ。小さい頃から、ずっと。僕と」
「言われてから言っても遅い」
「なら、どうしたらいい?」
「知らん。自分で考えぇ…ちょっと…」
博文の手が、葉菜の体を撫で始めた。
「な…にし」
「洗ってもらったから」
「やめ…くすぐったい」
「僕さ。正直に言うと、どうしたらいいか、分からなかったんだ。あんな事言った手前、強引に誘ったり、連れ出したら、同じことだから」
博文の甘い声が、耳元で囁かれて、葉菜は、頬を赤くしながら、黙って洗われていたが、下腹部を撫でられると、体を震わせた。
「ちょ…待ち…」
「毎日でも抱いていたけど、前と同じになるから、葉菜が欲しい時にしようとか、色々連れて行きたいけど、葉菜が大丈夫な時にしようとか、手繋ぎたいけど、葉菜が繋ぎたくなったらにしようとか、全部、葉菜に合わせるような考え方してたんだよ」
内ももを撫でながら、博文は、葉菜の尻にペニスを擦り付けた。
「やめ…」
「だけどね?最近、ちょっと辛くなってきたんだ。だから、二人で飲んだ時に、色々言ってみたんだけど、それが悪かったね。僕は、葉菜が欲しい。葉菜の全部が欲しい。僕の全部をあげるから」
博文は、下を向く葉菜を覗き込んだ。
「ちょうだい?」
ニッコリ笑った博文に、葉菜の頬が真っ赤になると、噛み付くようなキスをして、泡を潰すように抱きしめ、シャワーが流れる中、互いに深く求め合った。
ちゃんと、互いに向き合ってから、3ヶ月が過ぎようとしていた。
「ちょっと!!起きなよ!!」
「ん~…もうちょっと…」
「なに言ってんの!!卒業式でしょ!!」
「ん~」
「…噛み付くぞ」
腕を掴まれ、布団に引き込まれたが、すぐに離された。
博文は屋敷を出て、葉菜と暮らしていた。
「朝から酷い」
「起きないからだし」
「てか、アレ考えてくれた?」
「…まだ」
「え~」
「ウソだよ。2週間後に外してくる」
「そっか。早く子供欲しいな」
「気が早いし」
「それくらい、楽しみなんだよ?」
「はいはい。さっさと行きな。遅刻するよ」
「分かってるよ。その前に」
スーツに身を包み、革靴を履いてから、振り返った博文は、葉菜に軽くキスをした。
「行って来ます」
「行ってら~」
アパートの前に出ると、博文は、上を向き、葉菜も、ベランダから見下ろしていて、互いに手を振った。
二人の左指には、エンゲージリングが輝いていた。
~THE END~
「ここがバイト先」
大学近くにあるファミレスが、博文のバイト先で、それが、意外だった葉菜は、ニヤリと笑った。
「へぇ。お坊っちゃまでも、アルバイトされてるんですか」
「それやめてよ。一応、隠してやってるんだから」
「なんで?」
「仕事してるのに、気遣われるのイヤじゃない?」
「あ~確かに」
少しずつ、互いを理解すると、一緒にいる時間が楽しくなった。
友達の様な、恋人の様な、曖昧な関係のまま、1ヶ月が過ぎた。
「…おいこら」
葉菜の勤めるスナックに、なんの前触れもなく、博文がやって来て、カウンター席に座っていた。
「なんで、ここにいるのよ」
普段とは違い、綺麗な葉菜が睨むと、博文は、頬を赤くしながら、嬉しそうに笑った。
「ちょっと、見てみたいなと思ったんだよね。ビールで」
葉菜がメニューを指差すが、博文は、メニューを見ずに注文した。
「何を」
「どんな所で、仕事してんのかなって」
「なにそれ。ストーカーじゃん」
ビールを注ぐ葉菜を見つめて、博文は、優しく微笑んだ。
「違うよ。彼女の事なら」
「彼女じゃないし」
赤くなる顔を反らして、葉菜が、ビールを手元に置くと、博文は、淋しそうな顔をした。
「そうなんだ。寂しいな」
「何がよ」
「僕は、葉菜と付き合ってると思ってたから」
「…どの辺が?」
「手繋いだり、キスしたり、デートしたりしてたから。葉菜も飲んだら?」
葉菜は、溜め息をつきながら、ビールを注いで、グラスを近付けた。
「ホント、お坊ちゃま的考えだわ」
「そうかな?普通じゃない?」
軽くグラスをぶつけ合い、葉菜が、口をつけるのを見てから、博文も、口をつけた。
「てか、そもそも、告られてないし」
「…言ったよね?」
「好きだよってだけね」
「そうだっけ」
「お坊ちゃま。お付き合いとは、まず、相手に交際を申し込むのですよ?」
「…言ってるよ」
「どこでよ」
「この前、葉菜の部屋で飲んだ時だよ」
1週間前。
葉菜の休みを利用して、博文は、部屋に泊まった。
その時も、二人で飲んでいた。
「…あれか」
半分酔っ払った博文が、勢いで、何か言ってたのを思い出した。
「あんなの告白じゃないし。てか、酔った勢いで、なんか、訳の分からん事ぶちまけてただけじゃん」
「そんな事ないよ?ちゃんと言ってたの覚えてるから」
「てか、普通、シラフの時にするもんでしょ」
「だって、葉菜、飲んでないと聞いてくれないから」
「雰囲気あれば、ちゃんと聞くわ」
「あ。そうなの?」
「そこまで鬼じゃないし」
「なら、今言ってもいい?」
「だめに決まってるでしょ」
笑いながら、ビールを飲んでる葉菜の頬が赤くなると、博文は、小さく笑った。
「葉菜。左手貸して?」
満面の笑みを向けられ、あちゃらの方を向いて、手を出した葉菜の薬指に指輪が着けられた。
小さな花の真ん中には、淡いピンク色の石が埋め込まれた指輪を見つめ、葉菜は、驚いた顔をした。
「また、よろしくね?」
「…覚えてるの?」
「なんとなくだけどね」
「マジでか~」
博文に、手を繋がれたまま、カウンターの中で屈むと、葉菜の姿が消えた。
葉菜は、嬉しそうに笑う博文をカウンター越しに、真っ赤な顔で見つめた。
「忘れてると思ってたのに」
「結構覚えてるもんだよね。初恋って」
博文の初恋が自分なのを知り、嬉しさと恥ずかしさで、どうしたらいいか分からず、葉菜は、とりあえず、カウンターで顔を隠した。
「あの時の葉菜は、僕の」
「うるさい。それ以上言わない。てか、離してよ」
パタパタと、顔を扇ぎながら立ち上がり、左手を引っ込めようとするが、博文は離さない。
「なんで?」
「…分かっててやってるでしょ?」
「なんの事かな?」
「ママさん召喚するぞ」
「いいよ?」
「少しは引いてくれませんかね?」
「イヤだ」
「もう!」
大声で笑う博文と、真っ赤な顔をする葉菜の様子を周囲は、小さく笑いながら、見守っていた。
「てか、なんで、急に指輪?」
「だって、誕生日でしょ?」
「…忘れてた~。てか、なんで知ってるの」
「前に保険証のコピー見たから」
「ストーカー」
「違うよ。あれは、流れで見せられたの」
「それを覚えてるあたりが、ストーカーなの」
ムッとした博文が、ビールを飲んでから、ニヤッと笑って、話題を変えようとした。
「…そういえばさ、この前のおば」
「ごめん。うそ。だから、言わないで」
二人で行った遊園地で入ったお化け屋敷で、葉菜は、涙目になりながら、博文の後ろをくっついて歩いていた。
「そう?可愛かったよ?」
嬉しそうに笑う博文を見つめ、葉菜は、諦めたように、小さく微笑んだ。
「大変なのに、捕まっちゃったわね?」
スナックのママが現れ、博文の手が離れると、葉菜は、わざと大きな溜め息をついた。
「ホントですよ。どうしましょ」
「でも、ハーちゃん楽しそうよ?」
首を傾げる博文を見つめてから、葉菜は、子供の様な笑顔を見せた。
「確かに、楽しいね」
その笑顔を見つめ、博文は、驚いた顔で、顔を真っ赤にした。
「なんで、今更赤くなる」
「ごめん…うん。ごめん」
「何故、2回も謝る」
「その…ごめん」
「意味分からんし」
「僕も分かんない」
「分からんのかい」
小さなスナックに、笑い声が響き、葉菜も、博文も、心底、楽しそうに笑っていた。
閉店するまで、その楽しい雰囲気が続き、博文は、その日も、葉菜の部屋に泊まることになった。
「シャワー浴びる?」
「あとでいいよ」
博文がクッションに座ると、腕を掴んで、葉菜は、イタズラを思い付いた様な顔をした。
「一緒は入ろうか」
「大丈夫だよ。先に」
「入るよ」
困ったように笑う博文の腕を引き、葉菜は、浴室に向かおうとする。
「あとでいいからよ」
顔を反らした博文の顔が、真っ赤になると、葉菜は、大声で笑った。
「ヘタレ」
「なんでもいいよ」
「そう」
葉菜の手が離れると、博文の鼻先まで近付き、顔を近付け、首の後ろに腕が回した。
「どうしたの?」
「別に?なんでもないよ?」
「…酔ってる?」
「ちょっとね」
葉菜の唇が重なるが、博文は、それを受け止めるだけで、何もしない。
あの日の約束を忠実に守る博文に、葉菜は、少しヤキモキしていた。
「ねぇ。なんで、何もしないの?」
「約束したから」
「彼女なのに?」
「彼女じゃないって、言ってたよね?」
「彼女じゃないのに、指輪のプレゼントって、どうなのよ」
「別のがいい?」
「要らないし」
「なら、それで良しとしてよ」
「…頑固ね」
「よく言われる」
深いキスをすると、博文が鼻を鳴らして、離れようとするが、葉菜は逃さない。
「…葉菜?」
自分のやってる事に虚しさを感じ、葉菜は、博文を離して、寂しく笑った。
「なんでもない。シャワー浴びてくる」
葉菜が着替えを持って、浴室に消えるのを見つめ、博文は、シャワーの音を聞きながら、溜め息をついて、立ち上がり、浴室に向かった。
服を脱ぎ、静かにドアを開けると、葉菜は、乱暴に顔を洗っていた。
博文が背中から抱きしめると、葉菜は、手で顔を覆ったまま、驚いて肩を揺らした。
「…なに」
「一緒に入ろうと思って」
「あとでいいって」
「入りたくなったから」
「子供か」
「そうかもしれない」
笑ってるはずの葉菜の声が震えていて、博文は、小さく溜め息をついた。
「どうしたの?」
「なんでもないし」
「葉菜。ちゃんと言ってくれないと、分かんないよ?」
「…ねぇ。ホントに好き?」
「好きだよ?葉菜は?」
「何が」
「僕のこと好き?」
「知らないし」
博文は、困った顔をしながら、葉菜の頭に頬擦りをした。
「やっぱり、僕のこと嫌い?」
「…分かんない」
「葉菜は、何も教えてくれないね」
肩を抱いていた博文の手が、脇腹を滑り降りると、葉菜の体が震えた。
「寂しい?」
葉菜が小さく頷くと、博文は、嬉しそうに微笑みながら、耳に唇を寄せた。
「僕が、何もしないから?」
葉菜が微かに頷くと、博文は、鼻で溜め息をついた。
「僕が葉菜とやりたいって、言ったの覚えてる?」
葉菜の手が、やっと顔から離れ、博文を見上げて首を傾げた。
「僕は、葉菜と恋愛がしたい。デートして、美味しいご飯食べて、楽しくお酒飲んで、葉菜が笑ってくれて、喜んでくれる事がしたいんだ。小さい時みたいに」
葉菜の赤くなった頬に、博文は、鼻先をくっ付けた。
「葉菜がして欲しい事は、出来る範囲でやってあげるよ?でも、ちゃんと、言ってもらえないと、分からないから、やってあげられないんだよ?って、この前も言ったんだけど」
「…いつ」
「二人で飲んだ時だよ」
「…言ってた?」
「言ったよ?葉菜、半分寝てたけど」
「…あのさ~」
博文の笑い声が響くと、腕が離れ、浴槽の縁に座って、葉菜の左手を握った。
「葉菜が笑って、一緒にいられれば、体を重ねなくても、僕は十分幸せなんだけど、葉菜は、それじゃいや?」
優しく微笑む博文を見つめ、葉菜は、その頭をぐしゃぐしゃにした。
「ちょ。痛いよ。どうしたの?」
「なんか、その顔、ムカつく」
「え~」
二人の笑い声が響き、楽しい雰囲気になると、葉菜の肩から力が抜け、自然と、博文に抱きついた。
「…ねぇ。私のこと好き?」
「好きだよ?」
「でも、彼女じゃないよね?」
「またそれ?」
「だって、ちゃんと聞いてないし」
「なら、今言うよ?」
「この状況で?ありえないわ~」
博文の鼻先まで、顔を近付けた葉菜は、小さく笑った。
「好きよ」
博文は、驚いた顔をしたが、ゆっくり嬉しそうに笑うと、葉菜の唇が重なった。
キスが深くなると、博文は、鼻を鳴らして、葉菜の腕に触れた。
唇が離れても、すぐに重ねられ、博文の股間に、葉菜の膝が滑り込んだ。
「…葉菜…待っ…」
離れる瞬間に、博文が囁いても、葉菜は、やめてくれない。
逆に、葉菜は、太ももで、固くなったペニスを撫でた。
「したい?」
「…任せる…」
「それいや」
蕩けた顔で、博文が、首を傾げると、葉菜は、腕を離した。
「なんで、そうなのよ」
葉菜は、背中を向けて、ボディーソープを泡立て始めた。
「なんで、私だけが、求めなきゃないの?」
「約束だ」
「それってさ、付き合ってなかったから、そうしたんじゃないの?なら、付き合ったら、無効じゃない?」
「それはぁ…」
博文のペニスに、泡を乗せると、葉菜は、手を滑らせた。
「葉菜…待っ…」
スルスルと、優しく手を滑らせて、博文の下半身を洗いながら、葉菜は、話し続けた。
「そりゃさ?今までが、今までだからさ?仕方ないんだろうけどさ」
「葉菜…ちょ…」
葉菜の手を捕まえようと、博文の手が追い掛けるが、泡のせいで、滑ってしまった。
「この前、ちゃんと言ったって言うけどさ、私が付き合いたいなら、付き合いたいんだって、感じだったんじゃないの?それって、ちゃんと言ってなくない?」
葉菜の手が上半身に上り、擽るように動くと、博文は、背中を丸めて逃げようとしたが、逃げられない。
「私が手繋ぎたいから繋ぐ。私がキスしたいからキスする。私が付き合いたいから付き合う。私が求めることに応える。でもさ?」
葉菜の手が、首筋を撫であげて止まり、博文は、涙を溜めた目を向けた。
「それって、付き合ってるって言えるのかな?」
背中に手を滑らせながら、葉菜は、博文の鼻先に鼻を近付けた。
「付き合ってるならさ、お互いに求め合うもんじゃないの?」
「でも」
「てかさ、デートに誘うのも遠慮してるよね?なんで?」
「葉菜の予定も」
「んじゃ、私が忙しいから、連絡出来なくなるって言ったら、連絡来るまで待つの?」
「それは」
「その間に、私が逃げたら?誰と結婚してたら?」
博文が、寂しそうに目を細めて黙ると、葉菜は、大きな溜め息をついた。
「それだけの気持ちなのね。チャンスくれって言ったくせに、結局、その程度なんだ」
葉菜が泡を流し始めても、博文は、されるがまま、黙ってうつ向いていた。
「そんなの恋愛ごっこでしょ。任せるだけなら、誰でも出来るんだから、簡単なんだよ。私だってやってたし」
博文の泡が消えると、葉菜は、背中を向けて、自分の体を洗い始めた。
「アンタと付き合ってると、アンタを好きな自分が、バカバカしくなるわ」
体を洗う葉菜の背中から、博文が抱きしめた。
「なに」
「ごめん」
「何が」
「色々」
「今更」
「葉菜。好きだよ。小さい頃から、ずっと。僕と」
「言われてから言っても遅い」
「なら、どうしたらいい?」
「知らん。自分で考えぇ…ちょっと…」
博文の手が、葉菜の体を撫で始めた。
「な…にし」
「洗ってもらったから」
「やめ…くすぐったい」
「僕さ。正直に言うと、どうしたらいいか、分からなかったんだ。あんな事言った手前、強引に誘ったり、連れ出したら、同じことだから」
博文の甘い声が、耳元で囁かれて、葉菜は、頬を赤くしながら、黙って洗われていたが、下腹部を撫でられると、体を震わせた。
「ちょ…待ち…」
「毎日でも抱いていたけど、前と同じになるから、葉菜が欲しい時にしようとか、色々連れて行きたいけど、葉菜が大丈夫な時にしようとか、手繋ぎたいけど、葉菜が繋ぎたくなったらにしようとか、全部、葉菜に合わせるような考え方してたんだよ」
内ももを撫でながら、博文は、葉菜の尻にペニスを擦り付けた。
「やめ…」
「だけどね?最近、ちょっと辛くなってきたんだ。だから、二人で飲んだ時に、色々言ってみたんだけど、それが悪かったね。僕は、葉菜が欲しい。葉菜の全部が欲しい。僕の全部をあげるから」
博文は、下を向く葉菜を覗き込んだ。
「ちょうだい?」
ニッコリ笑った博文に、葉菜の頬が真っ赤になると、噛み付くようなキスをして、泡を潰すように抱きしめ、シャワーが流れる中、互いに深く求め合った。
ちゃんと、互いに向き合ってから、3ヶ月が過ぎようとしていた。
「ちょっと!!起きなよ!!」
「ん~…もうちょっと…」
「なに言ってんの!!卒業式でしょ!!」
「ん~」
「…噛み付くぞ」
腕を掴まれ、布団に引き込まれたが、すぐに離された。
博文は屋敷を出て、葉菜と暮らしていた。
「朝から酷い」
「起きないからだし」
「てか、アレ考えてくれた?」
「…まだ」
「え~」
「ウソだよ。2週間後に外してくる」
「そっか。早く子供欲しいな」
「気が早いし」
「それくらい、楽しみなんだよ?」
「はいはい。さっさと行きな。遅刻するよ」
「分かってるよ。その前に」
スーツに身を包み、革靴を履いてから、振り返った博文は、葉菜に軽くキスをした。
「行って来ます」
「行ってら~」
アパートの前に出ると、博文は、上を向き、葉菜も、ベランダから見下ろしていて、互いに手を振った。
二人の左指には、エンゲージリングが輝いていた。
~THE END~
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