丘を越えたり、下ったり(仮)

ムギオオ

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24 彼女の部屋

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 彼女が夕食を作ってくれると言うので、二人で近くのスーパーへ行った。

 部屋に上げてもらい、更に食事を作ってもらう、そして料理の材料を一緒に買いに行く。前回の星空ツアーの後、もう二度とこんな幸せな時間が来るとは思ってもいなかった。

 スーパーで一緒に買い物をしている最中、周りの人からは同棲している恋人同士みたいに見えているんじゃないだろうかと思うと俺は、嬉しくて、恥ずかしくて、にやけ顔が止まらなかった。何より今から、彼女の手料理が食べれると思うとなによりの幸せの絶頂を感じる。

 買い物を済ませ部屋へ戻り彼女が夕飯の用意をしている間、先程の猫の食べ残しを、猫に感謝しながら掃除した。

 俺のリクエストしたカレーライスは驚くほど美味しかった。こういう時ドラマや漫画では絶対といっていいほどカレーライスかハンバーグなのだ。俺は敢えてそういうのを体験してみたかったのだ。

 食事が終わって洗い物を手伝いながら里香さんの整った横顔を盗み見る俺。不意に彼女が手を止め、俺に振り向いたので慌てた。
「ハルくんて、空手とか何か習っていたの? 」
 彼女が笑顔で俺を見ている。
「ううん、何も、ハハハ」
 南田先生の事は絶対に内緒である。里香さんの澄んだ綺麗な瞳に吸い込まれ、危うく白状しそうになったけれども。

 彼女がシャワーを浴びる間、俺は外で散歩しておくことにした。覗く気など毛頭ないが俺が部屋にいては落ち着かないだろうと思い紳士ぶった配慮をしたのだ。

 少し風は冷たいが夜の桜並木を一人歩きするのも気持ちがいい。月を眺めながら初めて里香さんに出会った時の事を思い出していた。
 あの時、道を尋ねただけで、彼女とこんなに仲の良い関係になれるなんてと幸せを感じた。同時に本当に壁画の主様のお陰かもしれないと感謝した。

 夜、寝る前に彼女と、譲り合いの一悶着があった。どっちがベッドを使うか、勿論、俺はソファを使うと主張したが、彼女は俺に来てもらっている手前、自分がソファを使うので、俺にベッドを使ってくれと言って引かなかった。

 里香さんが一緒の空間で寝ていると思うと、俺が例えベッドで寝ることになったとしても、ぐっすり眠れる訳などない。まして里香さんのいつも寝ているベッドに寝転ぶなんて畏れ多くて出来るはずなどない。
 そして彼女が本気で俺にベッドを使わせようとしていることに本当に驚いた。

「ホント頼むよ。お願い!」
「でも、そんな」と食い下がる、彼女。「お願い!」と俺。「でも」と彼女、「お願い!」と彼女の言葉を遮る。なんとか、俺のお願い攻撃で押し切った。結局、彼女は笑って頷いた。
 
 ロフトに上がった彼女は電気を消した。
「おやすみなさい」
 二人、同時に言った。
 今日一日目まぐるしくいろんなことが起こった。俺は興奮状態の中、眠りにつくことなど到底出来なかった。それにこんなに早く寝る習慣もない。タバコがとても吸いたい気分になった。

「もう寝た? まだ寝てないよね」
 里香さんがこっそりと声を掛けてきた。彼女も色々あったから不安で寝られないのだろう。
「うん、寝てないよ」
 俺もそっと答えた。ソファの上で上半身を起こして話した。
「この問題が解決するまでは、ずっと一緒にいるつもりだから大丈夫だよ。
 それにさっき夏目が男たちに心当たりがあるって言っていたから明日、いろいろと判ると思うよ」
 俺の言葉で彼女が安心出来るかは分からないが、それぐらいしか思い浮かばなかった。
「ううん、そうじゃなくて、やっぱりソファじゃよく寝られないんじゃないかと思って」
 彼女は俺を気遣っていただけだった。
 ソファの寝心地が悪い理由ではなく、アルバイトの職種から早い時間に寝る習慣がないからだと説明した。すると彼女もいつもは、こんなに早くは寝ていないと言った。
 それなら丁度良かったと、俺たちは眠くなるまで暫く話して過ごすことにした。

 彼女の大学の話にななり来年の彼女の就職活動の話になった。俺の心はチクリと痛んだ。
 彼女の方が俺より先に就職が決まる事だってあり得る。大和大学に通ってるのだから就職に何の不安もないだろうと言ったら色々不安も悩みもあると言われ意外に思った。
 夏目なんかは面接官を怒らせて失敗しそうだけどなと言うと彼女は笑って彼の良さを知るには時間と根気が要ると言った。しかし夏目も大和大学ってことは相当賢いんだなと、今頃気がついた。
 いや彼奴はもしかして勉強面に特化し過ぎて、人間関係の構築において大事なものを習得出来なかったとか。
 いや、もうどうでもいいや、あいつのことは。俺は、彼女のことをもっと知りたくて俺のことをもっと知って欲しくて結局、朝方まで語り明かした。

 翌朝お互い眠たい目をこすりながら大和大学に向かった。

 
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