丘を越えたり、下ったり(仮)

ムギオオ

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29 植物園デート

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 翌日早めに植物園の入り口に着くと、すでに三人は到着していた。もしかしたら地下鉄で一緒になるかなと思っていたのだが。

 夏目は相変わらずのチャラい服装だ。夏目の彼女であろう娘はチェックのスカートに白のブラウス、ピンク色のカーディガンを着て髪をポニーテイルにしている。背丈は小柄で可愛いらしい顔をしている。

 そして俺の女神、里香さんは、白のフレアスカートに肩の開いたブラウンニット姿で眩しく光り輝いている。

 俺に気が付いた里香さんが笑顔で手を振っている。
 俺はデレた顔を直す為一度咳払いをしてから彼らに合流した。
「やあ、早かったね」俺は片手を挙げた。
「やあ」里香さんが顔を綻ばせた。
「ウィース、ハルイチくん、紹介するよ。俺の彼女、舞ちゃんです」
「はじめまして。河島 舞です。いつも瞬くんがお世話になってます」
「こんにちは。瞬くんとは仲良くさしてもらってます。古川 晴一です」

 植物園の中は平日だからか、ガラガラに空いていた。
 入園して直ぐ夏目と河島さんはくすのき並木を見に行くと言って別れた。
「三十分前には温室の前に行くようにするから」
 夏目も河島さんも、もの凄くはしゃいでいた。ちょっと前ならもの凄くムカついただろうなと二人の背中を見つめた。

「じゃ俺たちも行こうか、里香、ちゃん」
 ぎこちなくならずに言えたとは思うんだけれども。
 実は昨日から、今日こそは、リカちゃん、と呼ぼうと決めていたのだ。こんな事を昨日から考えていたなんて彼女はキモチ悪がるだろうか。

 急にちゃん付けで呼ばれて、どう思ったのか気になって彼女の顔を見たがなんとも思ってはいないようだった。
 いや、なんとも思ってはいない振りをしただけかもしれないが。

「まず温室から行こうか? 」
「うん、そうしよう」
 里香ちゃんは楽しそうに答えた。

 温室に入って直ぐ、ラフレシアの標本があった。
「俺、もう少し大きなの見たことあるんだ。中学の時だけどね」
「へぇ、どこで? 」
「花博覧会で。父親に連れて行ってもらって。
 凄くたのしみにしていて、想像ではもっともっと凄く大きいと思っていたから、ガッカリしたのを覚えているよ、ハハハ」

 温室の中のジャングルゾーンで食虫植物やバナナ、カカオ、パパイヤなどを見て回り、途中に世界一大きな竹があるのだが、そこまで大きいとも思えなかった。
「日本の竹と変わらないと思うんだけどなあ」
「うーん太さかな? 」
 ジャングルゾーンの蒸し暑さを抜けサバンナゾーンに行くと急に涼しく感じた。
「何か急に涼しくなったね」
「寒いくらいに感じるね」

「これバオバブの木、まだ大きくはないけど。星の王子さまに出てくるの聞いたことない? 」
「あるある、これがあのバオバブの木」
「そう星を潰すバオバブ」
「フフ」
「サボテン多すぎでしょ」
 ああどうでもいい話がどうしてこんなに楽しいのだろう。こんなどうでもいい会話を永遠に続けたいと思った。

「ハルくんて植物が大好きなんだね」
「えっ?!  俺が? そんな事ないとは思う………」
「だって、すごく詳しいじゃない」
 里香ちゃんの一言に衝撃を受けた。自分では気づかなかったが俺は植物が好きなのか? おそらく好きだ、今言われて気がついた。

「それに本当に楽しそうに園内を歩いていたから」
 里香ちゃんは微笑んだ。
 誤解のないようにしたいのは俺が楽しそうにしていたのは君と一緒だからだよ、と言いたかったのだが、そんな勇気は無い。
「じゃあ今度から履歴書に好きなもの、植物って書くよ、ハハハ」
 俺は植物が好きって思われることに、なんだか恥ずかしくて照れてしまった。

 俺たちはサボテン部屋を抜け最後に奇想天外を見て外へ出た。
 誰も居ないくすのき並木を二人で歩いた。並木を歩いている里香ちゃんは物凄く絵になった。
 また一緒に歩けたらいいのになと思った。メタセコイヤを眺めている里香ちゃんの横顔はとても綺麗だと思った。
 水車を見てから温室の前に戻ることにした。もっと一緒に歩きたかったのだが時間が来てしまった。夏目が与えてくれた植物園ツアーはただただ楽しかった。

 三十分前に戻ると言っていた夏目たちもちょうど温室から出て来た。
「いやー。植物園なんてつまらないと思っていたけど、意外と楽しかったよ。ねっ舞ちゃん」
 大きな声で楽しそうに出てきた夏目。
「私は昨日から楽しみだったけど」
 舞ちゃんは楽しそうだ。
 俺は二人が植物園を満喫してくれて嬉しかった。

 みんなで温室前のベンチで座って待つことにした。三人をベンチに座らせ、俺はもうじき石田会長が来ると思うと落ち着かず三人の前に立ったまま待つ事にした。
 今日でリカちゃんの抱えている問題も解決するだろう。そこで俺はふと頭によぎった。

 もし今日問題解決すればもう里香ちゃんとは会えなくなるのだろうか。彼女も俺に会う必要はなくなるのだから。なかなか複雑な思いで石田会長を待つ羽目になった。もし俺にまともな就職が決まったら、やっと告白する権利がもらえるだろうか。

「リカちゃん石田会長が来たらどうしてやろうか? 」
 夏目が腕組みしながら息巻いた。
「取り敢えず二度と嫌がらせ出来ないように脅してやったらどうかな? 」
 舞ちゃんが威勢よく物騒なことを言った。

「構うのを止めてくれる約束くれれば本当にそれだけで」
 里香ちゃんはバッグを膝の上に置き、願うように言った。

 温室の前は道が二手に分かれているのでどちらから来るのだろうと考えていると
「大勢で来るって事はないよね」
 夏目がポツリと怖い事を言った。
「いや左右から二十人ずつとかやって来て俺たちをさらっていくなんて事は無いよね」急に不安になったのか目を見開き俺に確認した。

「まあ、落ち着けよ。お前が慌てると二人も不安になっちゃうだろ、ハハハ」
 俺も心配になったが辛うじて不安を押し込めた。いくら権力者でもこんな公共の場で無茶は出来ないだろう。

「でも警備会社の会長だよ。なんだか周りに他の人も全然いないし」
 夏目は更に怖い事を言った。
 平日にしても空いているからラッキーだななどと思っていた自分が本当に間抜けに思えた。いつも通り間抜けな俺。いつでも間抜けな俺。

 正門の方ならまだ客も少々いるだろうし、今からでもみんなで正門の方へ移動する提案をしようとした、まさにその時、奴らは現れた。
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