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41 雨宿り
しおりを挟むお世話になっている最後の一人、実家に父に会いに帰って来た。念の為玄関のインターホンを鳴らしてからドアを開け中に入った。父の靴はあるが人のいる気配は感じられない。
今日は土曜日だから休みの筈だ。ただ寝ているだけかと思い、居間を見てから父の部屋を見たがいない。
他の部屋も見て回り、最後に俺が昔使用していた部屋を見た。結局、父は居なかった。
「いないのかよ」
俺は一人呟き居間に戻った。取り敢えず来た事だけでも知らせるため携帯に電話しようかメモでも置いておこうか迷ったが、テーブルの上に置かれた父親の携帯を見つけて、メモを残すことにした。テーブルでメモを書いていると庭から微かに物音が聞こえる。
外を見ると父は庭で一人キャンプで使うラウンジチェアーに座り肉じゃがを美味しそうに頬張っていた。
「おおハル、お帰り。お前も食うか? 」
俺の存在に気づいても全く動じない父親。
「まったく、何やってんだよ。それ自分で作ったの? 」
俺は呆れたように言った。
「ああ、キャンプに持って行こうと思ってな。作りすぎちゃったよ」
ラウンジチェアーに深く腰掛け俺を見上げる。まだ午前なのにビールも開けている。
父は今日からキャンプに行く予定だったが、午後から大雨になるというので取りやめたそうだ。我慢できずにキャンプ気分に浸りたかったそうだ。
庭で話しているとインターホンが鳴った。なんだインターホンの音庭まで聞こえるじゃないか。
「俺が出るよ。座ってなよ」
俺は父を座らせたまま玄関に向かった。
玄関ドアを開けるとそこには四十代くらいの女性が買い物袋を持って立っていた。
いつもの自分のアパートの癖でいきなりドアをいきなり開けてしまい、居間のインターホンにで話せば良かったと後悔した。
「あの、えっと、私、その」
いきなりドアを開けられるとは思っていなかったのだろう、女性は驚いている。
「父の景隆に、ですか? 」
「はい」
俺が聞くと女性はホッとしたように細い声で答えた。
「どうぞお上がりください」
俺は女性を居間に通した。
「父なら庭でキャンプの真似事してますよ」
女性を居間から庭へ案内すると物凄く気まずそうに父がラウンジチェアーに座っている。
「お茶、煎れますね」
俺はサッサと台所に行きコーヒーの用意をした。
コーヒーが出来た事を知らせると二人とも気まずそうに居間に入って来た。
「紹介するよ。お付き合いしている田中 聡子さんだ」
「っ!!!!!! 」
そう来やがったか。随分ストレートに言いやがったな。ダメ親父のくせに、ダメじゃないけど。さては庭で腹くくって来やがったな。
「田中 聡子です。お父さんと仲良くさして頂いてます」
「息子の晴一です。いつも父がお世話に………」
「ああ、いいよ、そういうのは、無理すんな」
父は面倒くさそうに俺の社交辞令を遮った。俺は、俺と違い明るく社交的な
父がモテだろうとは薄々昔から感じていた。だが俺の住んでいた間一度も女性など連れてきたことなど無かった。
こんな状態になる事など夢にも思わなかった俺は狼狽えたが狼狽えては失礼だと、平静を装い本当にどうでも良い事を話し続けた。
もう帰りたくなったが、直ぐに帰っては気を使わせてしまうと考え本当にどうでも良い会話を続けた。
三人でお互い知りたくも無い事を話し続けた後「じゃ、そろそろ」と実家を後にした。
田中さんはそれでもまだ自分が突然来た所為で俺が居ずらくなって帰るんじゃないかと気にしていた。
俺は帰り際に「今度は俺も誘って下さい」と嘘をついてしまった。帰り際無理矢理肉じゃがを持たされた。
アパートに戻っている最中、突然パラパラ軽く雨が降ってきた。雨は次第にきつく降り出し俺は一度水笠神社へ避難しようと走った。神社につく頃にはどしゃ降りの雨になっていた。
どしゃ降りの中、鳥居をくぐり社に急いで駆け込んだ。俺は社の裏に回り込みギョッとした。社の裏に入るまで大きな縞模様の猫がいる事に気づかなかったからだ。
猫は上半身を起こし、前足を揃えて後ろ足をしまい背筋を伸ばして俺が社の裏へやって来たのを気にもとめずに真っすぐに前を見ている。野良猫の癖に気高い高貴な雰囲気を持つなと感じた。
俺を一瞬たりとも見ずに真っすぐに遠くを見つめている。こいつはエジプトの王様が飼っていた種類だったりして。
俺は犬派か猫派どちらかといえば、どちらでもないウサギ派だ。小学生の頃ウサギを飼っていたのを思い出した。父に頼み込んで買ってもらったなあと。
じゃじゃ降りの雨で俺の声はかき消され隣にいる猫が辛うじて聞こえる位だろう。俺は誰も居ない事に油断して猫に話しかけた。
「やあ、凄い雨ですね」
俺は猫をからかうように話しかけた。猫は相変わらず前を見ている。
「未来でも見ているのですか? 」
何かで聞いたことがあるが動物や植物に話しかけるのは正常な事らしい。ストレスがたまると絵やポスターに話しかけることも正常だそうだ。ただし、向こうから話しかけてきたら精神科に行った方が良いそうだ。
俺はさらに続けた。
「しかし、気品漂うお方ですね、貴方は」
「このまま明日まで降り続けるようですね」
俺はこちらを向かせたくなり話し続けた。
「僕の父親に彼女が出来ましてね」
「あっそうだ、そう言えば肉じゃががあったな」
俺は白々しく声を出してタッパを開けてみた。猫は鼻をピクピクさせ少しソワソワしだした。
「やっと反応してくれたねえ、ネコちゃん」
俺は肉じゃがの肉を猫の近くに置いてみた。猫はウニャウニャと鳴き声を上げながら食べた。俺は嬉しくなり残りの肉を置いた。
雨が少し小降りになったので俺はパーカーのフードを深めに被り雨の中を駆け抜けアパートに帰った。
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