丘を越えたり、下ったり(仮)

ムギオオ

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55 昼休み2

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 俺は歌川さんの機嫌を伺うように明るく話を切り出した。

「そう言えば歌川さんは鳳村の近くに雲雀の里があるのは知ってますか? 」
「ええ、名前は知っています。私の祖父がその里の出身です。古川さんの方こそ良くご存じで」
「ひょっとして、歌川さんてその里の道場に通ってらしたんですか? 」
「いえ、私はそんなに遠くまでは行っておりませんが」
「たしか、空手と合気道をしていたんですよね? 」
「あと剣道も習っておりました。祖父が亡くなって全部辞めてしまいましたが」
 彼女は亡くなった祖父に悪いと感じているのか申し訳なさそうに伏し目がちに答えた。

「すごいですね、三つも習い事するなんて。俺なんて何もやってませんでしたよ。塾にさえ通ってませんでしたよ、ハハハ」
「それで、その雲雀の里がどうかしたんですか」
 歌川さんは無表情ながらも雲雀の里の話にとても興味あるのが俺には分かった。

「その里なんですけど、伝説の超人だか偉人だかいう人が居ましてね」
「恐らく武人ですね。もしくは達人」
 歌川さんが素早く訂正する。
 彼女にしては珍しく机から身を乗り出し俺の話を聞いている。
「あれ、ご存じでしたか? 伝説のその人。でもこんな話、興味ないですよね」
 俺は一旦話を切り上げようとした。

「ええ、いえ、まあ…………」
 彼女は言葉を濁した。どうやら彼女はとても興味がお有りのようだ。少し意地悪をしてみようと思う。
「あっ! もうすぐ昼休み終わっちゃうんで、俺はこれで」
 俺はたった今、時間に気が付いた振りをして部屋から立ち去ろうとした。彼女も同時に立ち上がった。
「待って下さい! その話もうちょっと詳しく教えてくれませんか? 」
 歌川さんは慌てて俺を引き留めた。いつも冷静な振りをしている彼女が慌てる姿を見て俺は満足した。

「いや、その伝説の人と今週末に会う事になったってだけなんですけどね」
「会うんですか!? 」
 彼女は少し驚いている。

「はい、会うというか、まあ試合することになりました」
「……!!! 」
 今度は大分驚いたようだ。

「俺の友人がですね。勝手に試合を申し込みまして、そういう事になりました。笑っちゃうでしょ、ハハハ」
「でも、そんな簡単に会える人ではないと伺いましたが? 古川くんそんな人と試合なんて大丈夫なんですか? 」
「何がです? 試合するだけですよ。果し合いではないですよ」
「ええ、でもそんな急に、試合の準備などされているんですか? 」
「するわけ無いじゃないですか。別にお金も賭けてないですし、ファイトマネーが出るわけでもないのに」
「あの、事の重大さが分かってないようですけど……」
「ホント、時間になっちゃうんでこれで」
 結局昼飯の時間が無くなりこのまま一之瀬さんのところへ行く羽目になってしまったと少し後悔した。

「ちょ、ちょっと待って下さい。古川くんは武道家が、しかも伝説と言われている方が試合をするとはどういうことなのかお分かりですか? 」

「いや、まあ、光栄なのかな? それは、うん。何か手土産は持っていくつもりですよ、そりゃ。俺だってもう良い大人ですからね」
「いえいえ、そうでは有りません。今日終業後何か予定はありますか? 無ければ話がありますのでお時間いただけますか? 」
 歌川さんにしては中々食い下がる。雲雀伝説に興味津々てとこか。

 俺は腹が減ったまま次の研修に向かうことにした。
「わかりました、研修が終わったらここに戻ってきますから」
 俺は言い終わると慌てて部屋を出た。

 午後の研修は悩ましい歌川さんの下着姿は俺の脳裏に現れなかったのだが、今度は空腹との闘いになった。
 ただ午前よりは集中出来た。明日も秘書として社会人としての研修が行われる。対策課と秘書の研修の日替わりだと思っていたが今週はずっと研修が続くようだ。

 ひょっとしてこの研修を経て、壁画発見の暁には会長付の秘書になれるかもと少し期待している。

 やっと午後の研修が終わり俺は特別対策課の部屋に歌川さんを訪ねた。俺は早く済ませて夕飯を食べたいと思った。彼女は机のパソコンを使っていたが俺が部屋に入ると直ぐに作業を止めて立ち上がった。

 既に準備万端の様子で彼女はカバンを肩に掛けた。
「では、参りましょうか? 夕飯を食べながら話しませんか? 今日は古川くんの歓迎会も込めて私がご馳走します」
 彼女は素敵な笑顔を見せてくれた。

 二人きりの課で俺の歓迎会をしてくれるなんて感激した。俺たちは二人でイシダオオトリビルを出る時、何故か他の社員たちは俺たちをジロジロ見ていた。美人の歌川さんを連れているのが羨ましいのだろうか? 

 
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