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56 歓迎会
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俺たちが入った店は、おしゃれな居酒屋で、おしゃれな個室に通された。俺は焼き鳥居酒屋チェーン店のような気軽なところが良いと言ったのだけれども。
「この店良く来るんですか? 洒落た店ですね」
俺は個室の中を見回して言った。
「さっき話した友人とたまに呑みに来ます」
歌川さんはメニューを開きながら答えた。メニューに目を通す彼女を見てこんな店にピッタリだなと思った。俺も、もし誰かとデートする機会があればこういう店を探さないとなと思わされた。
注文を聞きに来た店員女性の制服もおしゃれだった。俺は梅酎ハイだけ頼み後の注文は歌川さんに任せた。
直ぐに俺には酎ハイジョッキが、歌川さんには水色の炭酸のような液体が入ったグラス、その縁に蜜柑のような柑橘系のものが刺さっている訳の分からない綺麗な飲み物が届いた。
乾杯の後、俺は酎ハイをゴクゴク呑んだ。空きっ腹に酎ハイはズドンと応えた。
彼女は小さな口で少しずつ呑む。本当に少しずつ呑んでいく。また彼女の飲食姿に見入ってしまった。
ついさっき、呑気に焼き鳥居酒屋チェーン店をリクエストした自分自身を殴り飛ばしたくなった。
「伝説の武人の話ですが、相手は死ぬ気でやってきますよ」
「…………またまたぁ、今時そんな死ぬ気でなんて。俺を怖がらせようと思って、ハハハ」
伝説の武人というけれど、俺の師匠の南田さんに置き換えて考えると、どうしても死にもの狂いで試合をするなんて想像できない。あの人なら勝っても負けても「ガハハハ」と豪快に笑って終わるような気がするのだ。
「今時《いまどき》ではないですよ。何代も何十代も続く道場ならば尚更、道場主の考え方は何十年、何百年前からと変わらなく同じ思いなんじゃないでしょうか」
歌川さんの言動には確証めいていた。俺は直ぐに実際そうかもしれないと思い直した。
伝説の古武術の達人がいかに危険な存在かと彼女の話は店員が料理を運んで来てからも暫く続いた。俺は黙々と料理を食べながら彼女の話を半分だけ聞いていた。
もし気軽な気持ちで試合に勝ってしまったら、相手はショックで死んでしまうんじゃないかと、勝っても後から仕返しがしつこくやって来るのではと、俺は少し怖くなってきた。
「それ…………勝っちゃったら、不味いってことですよね、へへへ」
「勝つ・気……なんですか? 」
歌川さんは怪訝な顔をしている。それからさっきまで少しずつ呑んでいた水色の液体をゴクゴク呑み干し、店員の呼び出しボタンを押した。
「古川さん私の話ちゃんと聞いてましたか? 」
彼女は俺が話しをしっかり聞いていないと思って怒っているようだ。店員が注文を聞きにやって来ると俺はレモン酎ハイを、歌川さんはなんと俺と同じく梅酎ハイを頼んだ。
そして酎ハイがやって来ると、ゴクゴク勢いよく呑むと「私は、古川くんの事を心配しているんですよ」と力強く言った。
「ありがとうございます。ですが歌川さんも勘違いなさってますよ。ちょっと説明させて下さい」
俺は渋々夏目の計画を話す事にした。
俺が試合して伝説を気絶さしている間に俺たちで伝説の道場を家探しして何か壁画の手がかりを見つけようという計画だと歌川さんに話した。
彼女に夏目たちが会長からまだ犯人の線を外されていない事を、そして俺は彼らの疑いを晴らすため会長に協力している事も話した。彼女はある程度、会長からもその話を聞いていたようだ。
歌川さんは興味深げに俺の話を聞いていた。そして聞き終わると店員にお代わりのレモン酎ハイを頼んだ。
彼女は俺の話に納得したが、その後で呆れた顔で俺に質問した。
「まず、古川くんが勝つことが前提の話になってますが、どこからその自信はやって来るのですか? 」
彼女はまたグッビグビと美味しそうにジョッキから酎ハイを呑んだ。小さな口なのによく入るなあと俺は感心した。
俺は業を使えるので、いつからか自分が試合に負ける事など全く想像もしていなかった。だが相手は達人だ、油断していると負ける事になるのだろうか?
南田さんが負けはしないだろうが合気道と相性は良くないと言っていたのを思い出した。一度試合の前日にでも南田先生を訪ねてみよう。
「ねえ、古川くん。私は本気で心配しているんですよ。古川くんはいつもヘラヘラ、ヘラヘラとして」
「そんなにヘラヘラしてますかね」
「してますよ、本当に! いつもヘラヘラ、ヘラヘラと何を考えているのか分かりませんが。まったく! ヘラヘラ、ヘラヘラして」
歌川さんはほろ酔いなのか顔が桜色に染まってきている。そしてよく喋る。
俺はいつもヘラヘラしているかもしれないが、いつも何を考えているのか分からないのは歌川さんの方だろうと思った。
彼女はジョッキをテーブルにドンッと乱暴に置いた。
「ヘラヘラヘラヘラ、ヘラヘラヘラヘラ、もう。ホント、心配しているのにヘラヘラヘラヘラと」
彼女は瞑って気持ちよさそうに、くだを巻きだした。
「歌川さん、そろそろ帰りましょうか? 」
俺が帰りを促してからも暫く彼女は俺に絡んできたが、何とか会計を済ませ彼女を店の外へ連れ出した。結局俺が俺の歓迎会の費用を自分自身で支払う羽目になった。歌いたくもないのに一人でカラオケに行った気分だ。
俺は歌川さんを送って行こうか迷ったが、足元はふらついていないし実家暮らしでお母さんが家にいると聞いて安心してタクシーを止めた。
タクシーに乗せると最後に彼女は
「私たちパートナーなんだから誘って欲しかったんだけど、雲雀の里に。ホント、ヘラヘラしてるくせに気付かないんだから」とぼやいた。
俺は会長に疑われている夏目などと一緒に行動するのは歌川さんの立場が悪くなるからと説明した。本音は恭也と涼介、さらに夏目と会わせると収拾つかなくなる事を何より恐れた。
俺は週末の雲雀伝説の報告をする事を約束して、歌川さんを見送った。
「もういいわよっ!! ヘラヘラ人間っ!!! 」
彼女は言い捨てるとタクシーと共に消えて行った。
ポツンと取り残された俺は歌川さんの振る舞いが可笑しくて笑ってしまった。それから電車でアパートに帰った。帰りの電車の中、彼女の言動を時々思い出しニヤケてしまった。
「この店良く来るんですか? 洒落た店ですね」
俺は個室の中を見回して言った。
「さっき話した友人とたまに呑みに来ます」
歌川さんはメニューを開きながら答えた。メニューに目を通す彼女を見てこんな店にピッタリだなと思った。俺も、もし誰かとデートする機会があればこういう店を探さないとなと思わされた。
注文を聞きに来た店員女性の制服もおしゃれだった。俺は梅酎ハイだけ頼み後の注文は歌川さんに任せた。
直ぐに俺には酎ハイジョッキが、歌川さんには水色の炭酸のような液体が入ったグラス、その縁に蜜柑のような柑橘系のものが刺さっている訳の分からない綺麗な飲み物が届いた。
乾杯の後、俺は酎ハイをゴクゴク呑んだ。空きっ腹に酎ハイはズドンと応えた。
彼女は小さな口で少しずつ呑む。本当に少しずつ呑んでいく。また彼女の飲食姿に見入ってしまった。
ついさっき、呑気に焼き鳥居酒屋チェーン店をリクエストした自分自身を殴り飛ばしたくなった。
「伝説の武人の話ですが、相手は死ぬ気でやってきますよ」
「…………またまたぁ、今時そんな死ぬ気でなんて。俺を怖がらせようと思って、ハハハ」
伝説の武人というけれど、俺の師匠の南田さんに置き換えて考えると、どうしても死にもの狂いで試合をするなんて想像できない。あの人なら勝っても負けても「ガハハハ」と豪快に笑って終わるような気がするのだ。
「今時《いまどき》ではないですよ。何代も何十代も続く道場ならば尚更、道場主の考え方は何十年、何百年前からと変わらなく同じ思いなんじゃないでしょうか」
歌川さんの言動には確証めいていた。俺は直ぐに実際そうかもしれないと思い直した。
伝説の古武術の達人がいかに危険な存在かと彼女の話は店員が料理を運んで来てからも暫く続いた。俺は黙々と料理を食べながら彼女の話を半分だけ聞いていた。
もし気軽な気持ちで試合に勝ってしまったら、相手はショックで死んでしまうんじゃないかと、勝っても後から仕返しがしつこくやって来るのではと、俺は少し怖くなってきた。
「それ…………勝っちゃったら、不味いってことですよね、へへへ」
「勝つ・気……なんですか? 」
歌川さんは怪訝な顔をしている。それからさっきまで少しずつ呑んでいた水色の液体をゴクゴク呑み干し、店員の呼び出しボタンを押した。
「古川さん私の話ちゃんと聞いてましたか? 」
彼女は俺が話しをしっかり聞いていないと思って怒っているようだ。店員が注文を聞きにやって来ると俺はレモン酎ハイを、歌川さんはなんと俺と同じく梅酎ハイを頼んだ。
そして酎ハイがやって来ると、ゴクゴク勢いよく呑むと「私は、古川くんの事を心配しているんですよ」と力強く言った。
「ありがとうございます。ですが歌川さんも勘違いなさってますよ。ちょっと説明させて下さい」
俺は渋々夏目の計画を話す事にした。
俺が試合して伝説を気絶さしている間に俺たちで伝説の道場を家探しして何か壁画の手がかりを見つけようという計画だと歌川さんに話した。
彼女に夏目たちが会長からまだ犯人の線を外されていない事を、そして俺は彼らの疑いを晴らすため会長に協力している事も話した。彼女はある程度、会長からもその話を聞いていたようだ。
歌川さんは興味深げに俺の話を聞いていた。そして聞き終わると店員にお代わりのレモン酎ハイを頼んだ。
彼女は俺の話に納得したが、その後で呆れた顔で俺に質問した。
「まず、古川くんが勝つことが前提の話になってますが、どこからその自信はやって来るのですか? 」
彼女はまたグッビグビと美味しそうにジョッキから酎ハイを呑んだ。小さな口なのによく入るなあと俺は感心した。
俺は業を使えるので、いつからか自分が試合に負ける事など全く想像もしていなかった。だが相手は達人だ、油断していると負ける事になるのだろうか?
南田さんが負けはしないだろうが合気道と相性は良くないと言っていたのを思い出した。一度試合の前日にでも南田先生を訪ねてみよう。
「ねえ、古川くん。私は本気で心配しているんですよ。古川くんはいつもヘラヘラ、ヘラヘラとして」
「そんなにヘラヘラしてますかね」
「してますよ、本当に! いつもヘラヘラ、ヘラヘラと何を考えているのか分かりませんが。まったく! ヘラヘラ、ヘラヘラして」
歌川さんはほろ酔いなのか顔が桜色に染まってきている。そしてよく喋る。
俺はいつもヘラヘラしているかもしれないが、いつも何を考えているのか分からないのは歌川さんの方だろうと思った。
彼女はジョッキをテーブルにドンッと乱暴に置いた。
「ヘラヘラヘラヘラ、ヘラヘラヘラヘラ、もう。ホント、心配しているのにヘラヘラヘラヘラと」
彼女は瞑って気持ちよさそうに、くだを巻きだした。
「歌川さん、そろそろ帰りましょうか? 」
俺が帰りを促してからも暫く彼女は俺に絡んできたが、何とか会計を済ませ彼女を店の外へ連れ出した。結局俺が俺の歓迎会の費用を自分自身で支払う羽目になった。歌いたくもないのに一人でカラオケに行った気分だ。
俺は歌川さんを送って行こうか迷ったが、足元はふらついていないし実家暮らしでお母さんが家にいると聞いて安心してタクシーを止めた。
タクシーに乗せると最後に彼女は
「私たちパートナーなんだから誘って欲しかったんだけど、雲雀の里に。ホント、ヘラヘラしてるくせに気付かないんだから」とぼやいた。
俺は会長に疑われている夏目などと一緒に行動するのは歌川さんの立場が悪くなるからと説明した。本音は恭也と涼介、さらに夏目と会わせると収拾つかなくなる事を何より恐れた。
俺は週末の雲雀伝説の報告をする事を約束して、歌川さんを見送った。
「もういいわよっ!! ヘラヘラ人間っ!!! 」
彼女は言い捨てるとタクシーと共に消えて行った。
ポツンと取り残された俺は歌川さんの振る舞いが可笑しくて笑ってしまった。それから電車でアパートに帰った。帰りの電車の中、彼女の言動を時々思い出しニヤケてしまった。
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