丘を越えたり、下ったり(仮)

ムギオオ

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72 田中 葵子

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 大急ぎで公園に向かうと六時半過ぎに到着できた。
 日が落ちた公園内には人はほとんどいない。

 俺は息を整えながらキョロキョロと公園内を見回した。まだ彼女は来ていないようだ。(大慌てで来てやったのにあいつめ)

 またブランコに座ろうとして、止めた。昨日、俺が座るには少し狭かったのを思い出したからだ。俺はベンチに座って彼女を待つことにした。

 暫く待つとタータンチェックのスカートに赤いネクタイ白色のベストを着た女子高生が公園入口からやって来たのが見えた。それは彼女だった。田中 葵子だった。
「お待たせしました」

「おまっ、高校生だったの? 俺はてっきり………」
「あなたはサラリーマンだったんですか? 」
 二人同時に呟いた。

「ひょっとして、昨日のバカとか前のあのバカも高校生だったりするの? 」
 彼女が高校生だった事に少し戸惑いながら立ち上がった。
「はい、一応。違う学校ですが」
「へぇー、最近の子は大人びているって言うか、老けてるって言うか、発育が良いって言うか。あの馬鹿のシンヤなんてかなりデカかったもんなあ」
 俺は話しながらも葵子が高校生だと知り、親の再婚に反対するのも仕方のない事だと納得した。

「私、あなたが今日、仕事があるって言っていたのは、てっきりアルバイトの事だと思っていました」
 彼女は俺のスーツ姿を上から下まで見て言った。
 わざわざそれを言う必要あっただろうか? 確かにこの間まではその通りアルバイト生活だったけれども………。

 俺は公園入り口の自販機でコーヒーを二つ買い、一つを彼女に渡した。それからベンチに座った。彼女も学生鞄を膝に抱えて隣りに座った。
「しかし普通、先に来てるもんだけどな。頼み事する方がな」
 俺は少し嫌味を言った。
「これでも途中で塾を抜け出して来たんですよ」
 彼女は両手で暖かいコーヒーをしっかりと握り締めて話す。
「じゅ、塾なんか通ってんの? 受験生? 」
「来年、三年生です」
「ふーん、大学行くんだ。君、賢いの? 」
「率直に聞かれると答えるのに困りますが、まあ国立に行けるくらいは……」
「そりゃ凄い、ハハハ」
 俺は乾いた返事をした。
 自分で訊いておいて、答えはどうでも良くなる俺の悪い癖だ。

「私はこう見えても真面目な学生なんで、へへ」
 彼女は少し照れたように笑った。
「でも楽しそうにカツアゲして回ってたよな! あれ、立派な犯罪だからな! 」
「あの時は、役にっ入ってたって言うか、アウトロー気取って調子に乗ってたっていうか。シンヤに影響されて悪人になっている自分に酔っていたて言うか」
「ったく、ホントっ、オオバカヤローだな」
「ぐムッ……はい。反省しています。もう絶対にあんなことは」
「あたりまえだっつーの! 母親の再婚の事よりも自分の人生をしっかり考えたまえろよ」
 俺なんかが言えたことではないかもしれないけれども。

「ですから、もうしません! もしあの日の方達がいたら土下座して謝りたいくらいです。でも今いないでしょ! 
 だからと言って迷惑をかけた人達に直接謝罪しないで反省してるからボランティアでもして、自分の気持ちを楽にしようなんて馬鹿丸出しでしょ! 他に何か出来ることありますか? ないでしょ! だから何もしないんです! 分かりましたか? 」
「はいー、了解です」
 逆ギレの後、激しく捲し立てられて怖くて頷くしかなかった。
 些《いささ》か煙に巻かれたような気がしないでもないが、彼女の言う通りのような気がする。
 色々と落ち着いたらいつか彼女と馬鹿のシンヤに被害を被ったオジサンたちを探して目の前に連れて来てやろうと心に誓った。

「コホン、あの、台本作って来たんです。取り敢えず見てもらってもいいですか? 」
 彼女は先程の物凄い剣幕をリセットするように一度、咳払いしてから鞄から冊子を取り出し俺に渡した。
「台本? えっ台本って…………」
 俺は色々言いたいことを飲み込んで、取り敢えず台本と呼ばれた冊子を見てみた。喋り過ぎて喉が渇いたのか彼女はコーヒーをゴクゴク飲み出した。
 台本に目を通す間、彼女がチラチラとこちらを伺っているのが、俺の視界に入る。

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