犬に生まれ変わった魔王は勇者を倒したい

ビーグル犬のポン太

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旅に出る女

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俺に率いられた勇者の師匠爺と、侯爵家令嬢と、令嬢付き侍女のパーティーは、年を越してからエヴェロム島に向かう船に乗った。

爺は俺だけを連れて旅に出るなんて無理だと考えたらしく、レイチェも誘ったのだ。

俺と爺がいれば危なくないという判断らしい。

よくわかっているな!

俺はなんといっても最強のビーグルなのだから、悪いやつらをちぎっては投げ、ちぎっては投げて……

「ロイ! おいで! カモメがいるよ」

かもめ?

おお! 飛んでる! 懐かしいなぁ……久しぶりに飛びたい!

「しっぽそんなにふって! 嬉しいのね?」

今の俺には翼がないからなぁ……

「お嬢様、身を乗り出しては危のうございます」
「クレア、ロイのおやつを出して」
「さきほど食べたばかりですよ?」

かまわん。

ジャーキーならいくらでも入るわ!

ビーグル犬だぞ?

あるだけ食べる偉大な犬だぞ?

ここで、俺を見て駆け寄ってくる若い女がいた。その子は、レイチェに挨拶をして俺を指さす。

「こんにちわ。わたしはカテリーナ、この子、触らせてもらえませんか?」

レイチェよりもいくつか年上かな?

二〇前後か。

「いいですよ。ロイ、まて」

まて。わかるぞ。こうやっておすわりをして、見上げればお嬢は喜ぶのだ。

カテリーナが黄色い声をあげる。

「かわいい!」

俺は頭を、首を、お腹を撫でられる。

いいぞ……お前はマッサージうまいな。気持ちいい……横になる。

「レイチェはどちらから?」
「インペリアルブール」
「あら? じゃ一緒ね」

甲板で風景を見ていた俺たちのところへ、船内から現れた爺が近づいてきたが、爺は驚いたように立ち止まり、すぐにさっと片膝をついた。

どうした?

「これは王女殿下、このようなところでお目にかかれるとは恐縮でございます」
「あら、ひさしぶり! ウィリアム! たまにはお城に顔を見せて」

カテリーナと名乗った女は王女だったのか。でも、どうしてここにいるんだ?

クレアがあわてふためいて転んで立ち上がり平伏するのがウケる。

「もったいないお言葉……レイチェ、頭をさげなさい」
「いいの、いいのよ。貴方も顔をあげて、貴女も。レイチェ、この子可愛いわぁ。大事にしてるのね? とってもいい子」

爺がおずおずと王女の横にたつが、すぐに腰を屈めて低姿勢を維持する。

「殿下、またなぜ船に? 供は?」
「まいてきたわ」

こいつ、おもれーな! 

「危険ですぞ!」
「貴方に鍛えてもらったもの。それに、魔族はもういない。ちがくて?」
「野盗、海賊、他国の間者……危険は常にあります」
「魔王ギルベール殿を倒せば世界は平和になるというのは嘘ね? 人間の方がよっぽど危険」

俺の名前を知っている!?

「殿下、魔王の名前を……ご存知だったので……?」
「龍族のなかでも素晴らしい魔法の才能をお持ちだった。戦いになれば同胞を守るためにその力を使われた……それに、わたくしのことを助けてくださった。わたくしは命の恩人を貶めようとする皆が嫌いなのよ」

思い出した!

あれだ。

捕まった仲間を助け出そうと、インペリアルブールの王宮を襲撃した時、戦いに巻き込まれた女だ。

人間と魔族の話し合いの場にもいた女だ。

珍しく中立の意見をのべてくれていたから、城で彼女が危なかったとき、俺が助けたんだった。

その時、名前を教えろというので、教えた。

泣きながら教えろってわめくんだもの……

「……王女殿下、しかしながらあまりそのようなことを表に出されるとお立場が……」
「安心して。貴方だから言っただけ……で、わたくしはエヴェロム島の大迷宮に用があるのだけれど、ウィリアムとレイチェ……」
「クレアと申します」
「……ありがとう。クレアはどこに?」

俺もいるぞ!

「ワン!」
「あら、ごめんなさい。あなたもいたものね……いいこちゃん」

爺が苦笑しながら口を開く。

「エヴェロム島です。大迷宮に」
「わたくしはまた未捜索エリアに入りたくて行くの。途中までご一緒しましょ?」

未捜索エリア?

俺が暮らしていたエヴェロム大迷宮は、エヴェロム島の地下迷宮だ。ドワーフが暮らしていた地下都市だったが、地下に深く掘りすぎて毒ガスが都市を汚染してしまった。だから無人となっていたところを、俺が除染作業して、いつかドワーフたちが帰ってきてもいいようにと管理していたら、仲間たちが住みつきはじめ……戦いの本拠地に。

その大迷宮の未捜索エリアは、俺が封印したエリアだ。というのも、魔族のなかでもゴロツキの、悪魔たちがうろついているからである。

倒しても倒しても湧いて出てくるので、封印したのだ。

どうしてそこに行きたい?

このおもれー王女、何を狙ってるんだろう。
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