犬に生まれ変わった魔王は勇者を倒したい

ビーグル犬のポン太

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強い犬

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例の、バルログを倒した場所まで来てみると、冒険者たちが道具を手に崩落した箇所を懸命に掘っていた。

俺はカテリーナと隠し通路に入る。

ぐるりと回り込む道を進む。

「よく覚えてるわね?」
「俺ん家だぞ?」
「……そうね」

宝物庫へ向かう道ではなく、左へと折れる道を進む。

出口から外を覗くと、静かである。

かなり離れているからな。

「左にいけば先ほどの場所、右にいけば奥へ進む道だ」
「ここに目印をしておいていい? 逃げるとき、教えてあげられる」
「通路を隠すなと?」
「開いたままにしておいてほしいの」

ま、人間どもを逃がすには必要かもしれない。

俺たちは先ほどの場所にもどったが、何もなかった。崩落箇所の反対側から、冒険者たちのものらしい声が聞こえてくる。

「掘っているのね? 彼らにも教えてあげる? 道を」
「逃がさないといけない人数が増えるのは面倒だ」
「わかった」

二人で奥へと進む。

冒険者たちは未捜索エリアを開拓していたはずだからまだまだ先だろうと思っていたが、彼らは悪魔たちに追われて逃げてきていたらしく、三層ではあちこちから戦う音が聞こえてきた。

「ロイ、どこに聖女がいるかわかる?」
「無理だ。俺はそいつの声を知らない」
「誰かを助けて、居場所を聞くしかないわね!」

カテリーナが近くの声へと向かう。

通路の先、三叉路を右にまがった箇所で、その男はイビルという悪魔に苦戦していた。脚を引きずっているのでやられそうだ。

イビルはひとつ目の鬼だが、腕力頼みではなく魔法も使う。人間にはきつい相手だろう。

「助太刀します!」

カテリーナが突進し、イビルの鎌を薙刀ではじいた。

男が驚くもすぐに察して、後退しながら叫ぶ。

「ありがたい! どこのチームだ!?」
「どこでもありません。たまたま大迷宮に来ていて巻き込まれた者です!」

カテリーナは答えながら魔法を使って、イビルの魔法を防いだ。

加勢するか。

炎龍咆哮ドラゴンブレス

珍しく本気の攻撃魔法を使った。

炎に焼かれたイビルは、たちまち火だるまとなってのたうち回る。

「君! すごく強いな! ドラゴンブレス! 高等魔法だ!」
「いや、これは……」

男は、カテリーナの魔法だと勘違いしたようだ。

カテリーナが俺を見る。

俺は怯えている犬のフリを続ける。

「ともかく、お教えてほしいの! 聖女が捜索隊にいましたか!?」
「あ? ああ。ディアス教国からきた聖女アンネローゼ様がいるが、どうした?」
「もう脱出されたの?」
「いや、しんがりで後ろにいたけど、はぐれてわからねぇ。護衛は腕利きばかりだし、本人もすごい聖女だからやられることはないと思うが?」

強いのか?

カテリーナくらい強いなら、イビルやバルログ相手なら問題ないだろう。だけど、大勢に襲われたらわからないな。

「ありがとう。私たちは奥にいく。貴方は怪我をしてるし戻って。二層の通路に目印をつけてるから、そこから近道して」
「ああ。すまねぇ」

俺たちは進む。

三層はドワーフ達の地下都市だから、巨大な空間に地下街が築かれている。大通りを奥へと向かうと、ドワーフの城があるが、俺が倒されてからこの城は誰もつかってないはずだ。

四層へと進む下への階段は城にある。

だが、城にいくまで多くの戦いに巻き込まれた。

カテリーナは勇敢で正義感が強い。

苦戦する人間を放っておけないようだ。

仕方ないから、俺は片っ端から手伝った。

怠惰睡眠カウントシープは、敵を眠らせてカテリーナにとどめをささせることで、彼女が倒したように偽装できて便利である。

インプやバルログを次々に倒す彼女は、いつの間にか冒険者たちから敬われるようになっていた。

「カタリーナ様のために戦え!」
「聖女様を助けるんだ! カタリーナ様に遅れるな!」

カテリーナが、俺をひょいと抱える。

そして、後頭部に頬擦りをしたきた。

小声できく。

「きもちいいが、どうした?」
「ロイ、ありがとう、助けてくれて」

当たり前だろ?

お前は大事な仲間だ。仲間を守るのは当たり前だ!

俺は元魔王のビーグル犬だぞ?
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