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「14275906364858107389528581792910184682046・・・の証明」
しおりを挟む一.発端
その日も何の気なしに私はネットサーフィンをしていた。もっと具体的に言えばネットのニュース記事を読んでいた。工学系の大学院に所属している私は、ハイエンドなテクノロジーやガジェットに対して興味を持ち普段からネットの記事などでよく情報収集しているのだ。記事の真偽を確かめる必要はあるが、日々膨大に出てくる新情報の中で興味の湧いたものをサクサクと読み進めていけるからそれなりに重宝している。これがきっかけで私の知識の幅が広がることもあるし。そんなこんなで私はその日も興味の湧く記事を探していた。しかし、その日私の目に飛び込んできたのはある一つの異質な記事だった。それは、
「オリバー・ベニントン『14275906364858107389528581792910184682046・・・が疑似乱数であることを証明した人には報奨金700億円を与える」ことを自身のTwitterで公表」
というものだった。
「なんじゃぁこれは?」
と意味不明なこの記事に対する感情を思わず出してしまった。そこからさらにページを下へスクロールすると、どうやらその記事のネタもとは世界一のお金持ちで有名な実業家であるオリバー・ベニントンがTwitterで同様の内容をつぶやいたことがきっかけだったようだ。
「セレブはまた変なこと考えるなぁ,ちょっと前なんか前歯をすきっ歯にするのが流行ってたみたいだし」
セレブのよくわからないセンスにという点で言えば、オリバー自身もこの世界が実はシュミレーションによって作られた世界なのではないかという少々オカルティックな説にかなり傾倒していることが知られている。。しかし,そんなセレブのよくわからないお遊びとも金のばらまきとも捉えられることを取り上げた記事に私が目を惹かれたのは,単にその記事の異質性だけではなく「疑似乱数」というコンピュータサイエンスの用語がタイトルに使われていたからだ。
ニ.可能性
「疑似乱数」とは一見乱数列に見えるが,実際は確定的な計算によって求めている疑似乱数列による乱数である。つまり疑似乱数は疑似と書いてあるように乱数に見えるが実は計算式があり,どのような計算式であるかが分かれば数列を予測することができ、完全な乱数ではない。データを入力してデータを出力するという論理的機械であるコンピュータそのものは完全な乱数を生成することができない。そのため、主にコンピュータが乱数を生成するために使用されるものである。
そんなごりごりのコンピュータサイエンスの用語が使用されていれば工学系の大学院にまで行った私はそこそこ興味を惹かれるわけだ。しかし、いくら疑似乱数の数列が数式によって導かれるアルゴリズムだとしても、提示された数列が疑似乱数であると証明すること、つまり、疑似乱数を生成するためのアルゴリズムを導き出すことは現実的には不可能だ。アルゴリズムによって生まれたとしても一見は乱数に見えるわけで短い数列の中で規則性が完結するはずもなく,もし仮に規則性を見つけようとするならば膨大な量の数字から導き出さなければならない。実際、オリバーの提示した数列はとんでもない量であった。
「無理だろ,どう考えても」
少しの失笑を含みながら無意識にそう口にし,そしてこいつは金のない庶民に無理難題を押し付け,一攫千金を狙いああだこうだと四苦八苦している哀れな庶民を見て楽しんでるんだろうと思った。そんなひねくれた解釈になったのも、やはり,彼がこの問題にここまでの報奨金をつけ、多くの人がみるTwitterに投稿したことに関して納得のいく解釈ができないからだ。
「仮に本当にあの数字を疑似乱数って証明したらマジで700億貰えるのかなぁ。でも,疑似乱数だってわかって結局なんになるんだろ。まぁでもワンチャン貰えるなら騙されたと思って宝くじ感覚でやってみようかな・・・。」
とは思ったものの先述したように疑似乱数の発生アルゴリズムの特定は現実的に考えて不可能である。一応、一般的によく使用されている方法などもあるがベースの方法が絞れたとて計算式を算出するのは並大抵ではない。「まぁ、可能性があるとすれば大元のコンピュータのソフトウェアを解析して疑似乱数の発生アルゴリズムを特定するとかならできるのかなぁ。あんま詳しいわけじゃなからわからんけど。」
そんなことをうだうだ言いながら日々の片手間、気まぐれでこの記事に関する続報をチェックするようになった。
三.展開
ことが起きたのは突然だった。なんと本当に疑似乱数を発生させるためのアルゴリズムを特定した人が現れたのだ。さらに言えばオリバーは700億を支払ったようなのだ。当然このことはネット記事にも流れてきて私の目にも触れた。
「おわぁ・・・マジか」
予想外の急展開に思わず漏れた言葉はなんとも現代人であることを感じた。700億をもらったことにも驚いたがそれ以上に本当にアルゴリズムを導き出す猛者がいることに驚かされた。しかし、そんな驚きも多少なり落ち着いてくると興味はもう一つのものに移った。この問題を解かせた目的である。
「アルゴリズムを求めることができたのはすごいけど、やっぱ、なんでこんなことさせたんだろな。ただのお金配りなのか?だったらもうちょい対象を増やしてみんなに配ってくれりゃいいのに。セレブは分からんすぎる。」
と考えても無駄なことをうだうだ考えていると、ふと、
「そうだ、そういやネットで記事は見たけど、オリバーさんのTwitterを確認してなかっな。」
普段からどんな情報でも引用元を意識して情報収集するが、あまりに異質な記事だったためオリバー本人のTwitterを確認していなかった。
「ちょっとみてみよ」
現代人にとってTwitterに操作など朝飯前であり、私も、ものの数分でオリバーのアカウントにたどり着いた。そうすると、確かに疑似乱数を発生させるためのアルゴリズムを発見し、報奨金を渡したとのこと、また、それよりわずかに下に今回の出来事の大元となったツイートがあった。しかしそれだけではなく、よくよく見ると、報奨金を受け渡した旨のツイートのリプ欄に連鎖ツイートの形でオリバー自身がさらなる内容を書いていた。
「んん?なんか、オリバーさん連鎖ツイートしてる。なんだろ、見てみよ。」
報奨金の受け渡しツイートをタップしリプ欄を開くとURLが記載されていた。そのURLをタップすると何某かのウェブサイトに飛ばされ、そこには英語で何か書かれていた。その内容を邦訳すると次のようになる
四.目的
――先日提示した数列は疑似乱数であることが確かに証明された。つまり、数列を発生させるためのアルゴリズムを特定し次に発生する数値を予測することが可能となったのだ。こんな証明がなんの役に立つのかと思う人もいるかもしれないが、私にとってはとてつもなく重要なのである。なぜなら、この数列は私自身が一つ一つ適当におもいついた数字を打ち込んでできた乱数であるからだ。その乱数に規則性が確認され計算式が特定されたということは私の中には乱数、正確に言えば疑似乱数発生のためのアルゴリズムが組み込まれていることにいなる。しかし、私は父と母の間から生まれた正真正銘、生身の人間である。であればこのアルゴリズムは誰によって組み込まれたのか・・・もしかするとこの世界はやはり何者かによって作られ、私の考えが正しいとされる日は遠くないのかもしれないーー オリバー・ベニントン.
それを読んでも、多少の時間私は彼の言いたいことが理解できずその場で立ち尽くしかんがえた。しかし、そのうちじわじわと彼の発言の意味するところが身体に染みてきて、私はまたも多少の時間その場に立ち尽くした。
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