5 / 6
第二章
勇者とロングヘアに頬ずりする敵国の兵
しおりを挟む
外は森だった。
どうやら夜ではないようだが生い茂る木々の葉が空を覆っていて周囲は薄暗い。
さらに俺の背丈ほどの草があちこちに生えていて視界も良いとは言えなかった。
そんな状況の中でもナナナイは叫び声がしたという方へ迷うことなく走る。
さすがに早ぇな…!
俺とロゼが後に続くが、すでに息も絶え絶えだ。
「て、敵はどこだ!勇者の力、み、見せてやるぜ!」
「ゆ、勇者さま!お願いしますぅ!」
「……」
「ま、まずは俺のっ!ひっ、必殺の魔法でふっ飛ばしてやる!」
「ゆ、勇者さま!さすがですぅ!」
「………」
「そしてきっ、キメ台詞!この国の平和は…はっ!俺がまも、まも、守る!」
「ゆ、勇者さま!素敵ですぅ!」
「さっさっ、さらに…」
「あぁもう!うるさいな!黙って走りなさいよ!」
付き合っていられない…そう言わんばかりに首を振るナナナイ。
その時。
「キャーーーー!!」
「!!」
「今のは…!」
女性の悲鳴だ。
今度は俺にも、ロゼにも聞こえたようだ。
どこだ!?
周囲を見渡すと、視界の端に動くものがあった。
「やだ!来ないで!」
「ひひひィ!待ちな姉ちゃん!」
あれは…!
女の子が黒ずくめの男達に追われていた。
先ほどの悲鳴の主はこの女の子で間違いなさそうだ。
懸命に走るが相手は3人、すぐに囲まれてしまった。
「勇者さま!ナナナイさま!あそこに!」
「大変だ!素敵ショートカットがピンチだぞ!」
「あいつらは…武麗座国の…!」
ナナナイは走る速度をあげた。
「え、おい、ちょっと待てって! なんだよあいつら!」
「ゆ、勇者さま! あいつらは武麗座国の兵士です! 私たちの国を襲った敵ですっ!」
武麗座国…そうか、あいつらがこの国に害する敵か…!
つまり俺の敵でもあるって事だ!
「姉ちゃんよぉ、そんな髪型してちゃいけねぇなぁ!」
「俺たちに任せなよ!」
「ノービル・ビルビル・ノービルビル…そーれ、"ロングでポンッ♪"」
ん?黒ずくめの男の一人が怪しげな言葉を…
「きゃっ!! あたしの髪が…なにこれぇ!」
「ハッハァ…これこれぇ!やっぱ女の髪はロングじゃなきゃなぁ!」
ゲゲーッ! 女の子の短い髪が一瞬で腰まで届く長さに伸びただと!?
「おいおい! なんだよあれは!」
ショートカットがロングヘアになるなんて…悪夢でも見ているのか俺は。
「あれが武麗座国の邪法…《カミ・ノ・ビール》よ」
「へ?神のビール!?」
「人の髪を一瞬で伸ばしてしまうの。まさに悪魔の所業ね…!」
そんな…!
なんて恐ろしい術を使うんだ、武麗座国ってのは!
「ウケケケケ毛! この感触! たまんねぇぜ!」
「ひぃぃぃぃぃ変態!!」
男達は少女の伸びた髪を掴むと、頬ずりを始めた。
女の子の苦痛に満ちた声が響く。
ちくしょう、ナナナイも俺も全力で走っているが、少女の元へはまだ距離がある…!
「ロングヘア最高!よーし、次はポニテにしちゃおっかな!」
「馬鹿野郎!次はツインテールだ!」
あの外道どもめ…!
「馬鹿野郎は貴様らだッッッ!!!」
「何だとぶほぉげぇ!!!」
気が付くと俺は右こぶしで男の一人を思いっきり殴りつけていた。
鈍く大きな音が拳の威力を物語る。
「な、なんだテメェは!!」
「俺は勇者! 勇者カツトだ!」
「勇者だぁ!? ふざけやがって!」
俺の名乗りに残りの男たちが身構える。
「え!? キミ、なんで私の前に!?」
「やったー!勇者さまー!そんな奴ら、やっつけちゃってくださいっ!」
あれ?ついさっきまで俺の前を走っていたナナナイがあんな所に…
いや、今はそんな事どうでもいい!
この外道達を地獄に落とす!
「ケッ!美少女以外にゃ用はねぇんだよぉ!」
「そういう事!野郎は死ねぇぇぇ!!!!」
男の一人がナイフを抜いて飛びかかってきた。
もう一人も背中から取り出した三節棍を振り回して襲ってくる。
まったくもって…同感だぜッ!
俺は両手を勢いよく突き出すと左右同時に炎の魔法を放った。
ドラゴン戦でも使った、炎の弾を飛ばす魔法である。
「げふっッッ!」
「ぐふぉあああああ!」
見事に命中。
男達は魔法の威力でそのまま彼方へと飛んでいった。
「ふん、ザコどもめ…!」
「わ、わああああ! ゆ、勇者さま! カッコよかったですよぉ!ぜえぜえ…」
「おうロゼ!ありがと!」
ナナナイとロゼも追いついてきた。
ロゼはすっかり息があがっているが、それでも俺を褒め称えてくれている。
良い子だなぁ、うん。
「カツトさん…でしたっけ。キミ、今の…」
「んん?」
ナナナイの呼吸は全く乱れていなかった。
すげぇな、さすが七将軍だぜ。で?なに?
どうやら夜ではないようだが生い茂る木々の葉が空を覆っていて周囲は薄暗い。
さらに俺の背丈ほどの草があちこちに生えていて視界も良いとは言えなかった。
そんな状況の中でもナナナイは叫び声がしたという方へ迷うことなく走る。
さすがに早ぇな…!
俺とロゼが後に続くが、すでに息も絶え絶えだ。
「て、敵はどこだ!勇者の力、み、見せてやるぜ!」
「ゆ、勇者さま!お願いしますぅ!」
「……」
「ま、まずは俺のっ!ひっ、必殺の魔法でふっ飛ばしてやる!」
「ゆ、勇者さま!さすがですぅ!」
「………」
「そしてきっ、キメ台詞!この国の平和は…はっ!俺がまも、まも、守る!」
「ゆ、勇者さま!素敵ですぅ!」
「さっさっ、さらに…」
「あぁもう!うるさいな!黙って走りなさいよ!」
付き合っていられない…そう言わんばかりに首を振るナナナイ。
その時。
「キャーーーー!!」
「!!」
「今のは…!」
女性の悲鳴だ。
今度は俺にも、ロゼにも聞こえたようだ。
どこだ!?
周囲を見渡すと、視界の端に動くものがあった。
「やだ!来ないで!」
「ひひひィ!待ちな姉ちゃん!」
あれは…!
女の子が黒ずくめの男達に追われていた。
先ほどの悲鳴の主はこの女の子で間違いなさそうだ。
懸命に走るが相手は3人、すぐに囲まれてしまった。
「勇者さま!ナナナイさま!あそこに!」
「大変だ!素敵ショートカットがピンチだぞ!」
「あいつらは…武麗座国の…!」
ナナナイは走る速度をあげた。
「え、おい、ちょっと待てって! なんだよあいつら!」
「ゆ、勇者さま! あいつらは武麗座国の兵士です! 私たちの国を襲った敵ですっ!」
武麗座国…そうか、あいつらがこの国に害する敵か…!
つまり俺の敵でもあるって事だ!
「姉ちゃんよぉ、そんな髪型してちゃいけねぇなぁ!」
「俺たちに任せなよ!」
「ノービル・ビルビル・ノービルビル…そーれ、"ロングでポンッ♪"」
ん?黒ずくめの男の一人が怪しげな言葉を…
「きゃっ!! あたしの髪が…なにこれぇ!」
「ハッハァ…これこれぇ!やっぱ女の髪はロングじゃなきゃなぁ!」
ゲゲーッ! 女の子の短い髪が一瞬で腰まで届く長さに伸びただと!?
「おいおい! なんだよあれは!」
ショートカットがロングヘアになるなんて…悪夢でも見ているのか俺は。
「あれが武麗座国の邪法…《カミ・ノ・ビール》よ」
「へ?神のビール!?」
「人の髪を一瞬で伸ばしてしまうの。まさに悪魔の所業ね…!」
そんな…!
なんて恐ろしい術を使うんだ、武麗座国ってのは!
「ウケケケケ毛! この感触! たまんねぇぜ!」
「ひぃぃぃぃぃ変態!!」
男達は少女の伸びた髪を掴むと、頬ずりを始めた。
女の子の苦痛に満ちた声が響く。
ちくしょう、ナナナイも俺も全力で走っているが、少女の元へはまだ距離がある…!
「ロングヘア最高!よーし、次はポニテにしちゃおっかな!」
「馬鹿野郎!次はツインテールだ!」
あの外道どもめ…!
「馬鹿野郎は貴様らだッッッ!!!」
「何だとぶほぉげぇ!!!」
気が付くと俺は右こぶしで男の一人を思いっきり殴りつけていた。
鈍く大きな音が拳の威力を物語る。
「な、なんだテメェは!!」
「俺は勇者! 勇者カツトだ!」
「勇者だぁ!? ふざけやがって!」
俺の名乗りに残りの男たちが身構える。
「え!? キミ、なんで私の前に!?」
「やったー!勇者さまー!そんな奴ら、やっつけちゃってくださいっ!」
あれ?ついさっきまで俺の前を走っていたナナナイがあんな所に…
いや、今はそんな事どうでもいい!
この外道達を地獄に落とす!
「ケッ!美少女以外にゃ用はねぇんだよぉ!」
「そういう事!野郎は死ねぇぇぇ!!!!」
男の一人がナイフを抜いて飛びかかってきた。
もう一人も背中から取り出した三節棍を振り回して襲ってくる。
まったくもって…同感だぜッ!
俺は両手を勢いよく突き出すと左右同時に炎の魔法を放った。
ドラゴン戦でも使った、炎の弾を飛ばす魔法である。
「げふっッッ!」
「ぐふぉあああああ!」
見事に命中。
男達は魔法の威力でそのまま彼方へと飛んでいった。
「ふん、ザコどもめ…!」
「わ、わああああ! ゆ、勇者さま! カッコよかったですよぉ!ぜえぜえ…」
「おうロゼ!ありがと!」
ナナナイとロゼも追いついてきた。
ロゼはすっかり息があがっているが、それでも俺を褒め称えてくれている。
良い子だなぁ、うん。
「カツトさん…でしたっけ。キミ、今の…」
「んん?」
ナナナイの呼吸は全く乱れていなかった。
すげぇな、さすが七将軍だぜ。で?なに?
0
あなたにおすすめの小説
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
「俺が勇者一行に?嫌です」
東稔 雨紗霧
ファンタジー
異世界に転生したけれども特にチートも無く前世の知識を生かせる訳でも無く凡庸な人間として過ごしていたある日、魔王が現れたらしい。
物見遊山がてら勇者のお披露目式に行ってみると勇者と目が合った。
は?無理
【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました
いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。
子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。
「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」
冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。
しかし、マリエールには秘密があった。
――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。
未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。
「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。
物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立!
数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。
さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。
一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて――
「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」
これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、
ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー!
※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。
不倫されて離婚した社畜OLが幼女転生して聖女になりましたが、王国が揉めてて大事にしてもらえないので好きに生きます
天田れおぽん
ファンタジー
ブラック企業に勤める社畜OL沙羅(サラ)は、結婚したものの不倫されて離婚した。スッキリした気分で明るい未来に期待を馳せるも、公園から飛び出てきた子どもを助けたことで、弱っていた心臓が止まってしまい死亡。同情した女神が、黒髪黒目中肉中背バツイチの沙羅を、銀髪碧眼3歳児の聖女として異世界へと転生させてくれた。
ところが王国内で聖女の処遇で揉めていて、転生先は草原だった。
サラは女神がくれた山盛りてんこ盛りのスキルを使い、異世界で知り合ったモフモフたちと暮らし始める――――
※第16話 あつまれ聖獣の森 6 が抜けていましたので2025/07/30に追加しました。
人質5歳の生存戦略! ―悪役王子はなんとか死ぬ気で生き延びたい!冤罪処刑はほんとムリぃ!―
ほしみ
ファンタジー
「え! ぼく、死ぬの!?」
前世、15歳で人生を終えたぼく。
目が覚めたら異世界の、5歳の王子様!
けど、人質として大国に送られた危ない身分。
そして、夢で思い出してしまった最悪な事実。
「ぼく、このお話知ってる!!」
生まれ変わった先は、小説の中の悪役王子様!?
このままだと、10年後に無実の罪であっさり処刑されちゃう!!
「むりむりむりむり、ぜったいにムリ!!」
生き延びるには、なんとか好感度を稼ぐしかない。
とにかく周りに気を使いまくって!
王子様たちは全力尊重!
侍女さんたちには迷惑かけない!
ひたすら頑張れ、ぼく!
――猶予は後10年。
原作のお話は知ってる――でも、5歳の頭と体じゃうまくいかない!
お菓子に惑わされて、勘違いで空回りして、毎回ドタバタのアタフタのアワアワ。
それでも、ぼくは諦めない。
だって、絶対の絶対に死にたくないからっ!
原作とはちょっと違う王子様たち、なんかびっくりな王様。
健気に奮闘する(ポンコツ)王子と、見守る人たち。
どうにか生き延びたい5才の、ほのぼのコミカル可愛いふわふわ物語。
(全年齢/ほのぼの/男性キャラ中心/嫌なキャラなし/1エピソード完結型/ほぼ毎日更新中)
主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します
白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。
あなたは【真実の愛】を信じますか?
そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。
だって・・・そうでしょ?
ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!?
それだけではない。
何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!!
私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。
それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。
しかも!
ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!!
マジかーーーっ!!!
前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!!
思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。
世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる