私と黄金竜の国

すみれ

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出会いは最高のように見えました

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あれ、身体が揺れている、地震!?
歩道を歩いている他の人はなんともないように見える、立ちくらみ?熱中症?
グニャリ・・・




黄金竜帝ギルバートは違和感を感じた、鼓動が止まらない、なんだ?
空気の振動を感じる、生まれて3000年長い時間の中で初めてだ。
「陛下どうされました?」
書類をめくるギルバートの手が止まっているのを見て、宰相である黒竜シモンが問いかけてきた。
「空気が振動しているのがわからないか?鼓動が・・」
シモンがびっくりしたように飛び上がった。
「陛下すぐにご準備を!空気をたどるのです!」
シモンが言おうとしている事はすぐに分かった。
あまりに長い時間一人であったために諦めていた、竜の番!

3階の窓から飛び出た、身体はすぐに竜にと変わる。
あまりに弱い振動に、遠いのか、弱っているのかと心配する。
しばらく飛ぶと、僅かだが甘い香りを感じ取った。
身体が痺れるような香りだ、興奮が高まる。
この先に番がいる、だんだん確信になっていく、早く会いたい。





目の前がクラクラしたら、ここにいた。
恐竜時代の植物のような、見たこともない植物が鬱蒼と生い茂っている。
これって、あれよね、異世界トリップ!!
でも恐いんですけど、薄暗い森で鳴き声が聞こえる。
その鳴き声は、小鳥の声というより不気味に聞こえてならない。
しかも意外に近そうな距離感。
異世界トリップで死んだ人いないよね?
大ケガした人いないよね?

逃げるべき?どこに?
恐くてトイレに行きたくなってきた・・・

ガサガサッ。
草が揺れている音がする、気づきたくないけど、気になる。
身体が縮こまる、恐いけど音のする方を確認してみると、目が合ったーーーーー!
まだ遠いけど赤い目をした大きなトカゲ、舌が、舌が、ペロペロしてる・・・舌が、舌が。
まるで美味しそうって言ってるみたいに見える。
恐いのに目が放せない。

恐いと声もでないとわかった。
震える足で反対方向に走った。
ガクガクの足は、速く走れない。
体に当たる葉っぱが痛い、落ち葉や枯れ枝を踏む足が痛い。

ヤダ追いかけて来てる!足音が近づいてくる!
「キャーー!キャーー!!」

ザザザーー!!、
もうダメだと思ったその時、大きな音と共に何かが落ちてきた。

ザン!!
私を追いかけていたトカゲの首が転がった。

「あうあぅ!!」
悲鳴もでない、私って根性なし。
立っていることも出来ずに、草の上に座り込む。

落ちてきた何かが振り返ると、男性だと言うのがわかった。
ずいぶん背の高いブロンドの髪、手に光の玉のようなものを持っている。
イケメンだ。これはヒーローだ!!

やったぜ!私!
異世界トリップ万歳ーー!

「大丈夫か?」
あぁ、会話も通じる、ハッピーエンドだー!

「ありがとうございます。私は真理子といいます。」

「マリコ、かわいい名前だ。どうしてここに?」
「わからないの、気が付いたら、ここにいたの。ここは私のいた世界と違う。」
女の子らしい声になるよう、ちょっと気をつかって返事してみる。

「私はギルバート、この国の王だ、マリコを城へ連れて行きたい。」
王様キターー!!

そして黄金の竜に変わった。
初めて見る竜は大きくって恐い。
見た目怖ろしくっても中身はヒーローだよ、大丈夫。


竜に王様、ハンサム、危機から助けてくれた、人型。
異世界トリップの鉄板のオンパレードだよ、どうしよ、ラッキーすぎる。
今日の服装はどうだったっけ?とスカートを見るが泥と草の汁でドロドロだった。
手も足も擦り傷だらけ、あれ、ヒーローってまずヒロインの傷とか治さないの?
傷があるとわかると、ジンジン、痛みを感じて来た。

こわごわながらもギルバートの背に乗り、傷のことは後にしようと思いこんだ。

竜の背は意外に快適で、聞くと魔法で風が私に当たらないようにしてくれていた。
眼下に森や街を臨みながら飛ぶとお城が見えてきた。

ギルバートは竜から人の姿に変わりながらお城の広場に降りた。
周りにいた人が、王様に抱かれている私を見ている。
人の視線って恥ずかしい。

すぐに王城の広間に連れて行かれるとたくさんの人がいた。
これが全員竜なの?
人にしか見えない。
こういう時って都合良く考えちゃうけど、好意を持って迎えられてるように見える。
「番をみつけたぞ、これで次代をもうけられる。」
「おぉ!それは喜ばしい。おめでとうございます陛下!!」
花吹雪でも散らしそうな勢いで喜ぶ周囲に引いてしまいそう。
「今まで番が見つからなかったのは、異世界にいたからだ。」
どうだ、とギルバートが私を見せびらかすかの様に手をひいて前に出た。
「陛下、かわいいお嬢様ですな、おめでとうございます。」

あまりに上手くいきすぎて恐いぐらいと思っていると、広間にいる女性達の姿に気が付いた。
豪華な衣装は素人でもわかる、あの辺りだけ別の世界のようだ。
「ギルバート、あの方達は?」
「後宮の姫達だよ、性格のいい姫ばかりだから、マリコも上手くやっていけるよ。」
上手くやっていけるよ?え?
「はぁぁーーーー!!?」
何人いるんだ?1・2・3・・12人!
夢見た私がバカだった。
大きな落とし穴だった。女好きで節操のないヒーロー、人生ってこんなものだよね。
都合良くはいかなかった。

文化の違いは深い溝だ、最初はガマンしても無理が来る。
「ごめんなさい、私には無理です。他の方をあたってください。」
高揚していた気持ちが氷河の如く冷えるのが自分でもわかる。

ペコとお辞儀をして出て行こうとしたら、手をひかれた。
行くとこなどないけど、ここにいたくない。
「竜は番とでないと子供ができない、マリコが番なんだ。」
じゃ何?私は子供を産む道具で、あっちが愛情を与える者?
バカバカしい!!
夫の浮気に悩みながら、子供の為に我慢する妻、そんなドラマが妄想される。
泣けてくる、私だっていつかは結婚したい、私を好きになってくれる人と。

「無理です。私は一夫一婦制の国からきましたから、寛容できません。さよなら。」
「彼女達とは500年近く情を重ねたんだ。無茶なこと言わないでくれ。」
知り合いにイケメンが居なかったから知らなかった、イケメンは何でも思い通りになると思っているらしい、バーカ。
「だったら、彼女達と一緒にいればいいでしょ。私は無理。」
「マリコでないと子供ができない。」
バチーーーン!!
握られた手を振り払って叩いてやった。
あまりに身勝手で腹がたった、私だってちょっと夢見ちゃったけどこれはない。

「バカにしないで!」
番、番って言うばかりで、好きとか言わないじゃない。
悔しいのに涙が止まらない、私は何故この世界に来ちゃったの。
ギルバートがオロオロとしている、ザマーミロ!
逃した真理子様は大きいんだぞーー。
諺を教えてやりたい、二兎追うものは一兎をも得ず。
「マリコ、どうか行かないでくれ。」
ベー!だ!!

「森で受けた傷が痛くって、それどころじゃありません。」
ああ!と周りもギルバートも大慌てだ。
ギルバートが慌てて跪き、足の傷の手当てをしようと手のひらに光をだした。
ダン!!!
マリコがギルバートの頭を踏みつけ、
「変態!!スカートを覗くなーーーー!!!」
とスカートを押さえた。
竜王の頭を踏みつける女、周りが固まった。空気まで固まったように音もしない。


「マリコ様、異世界からこられたと聞きました。他に行くところはないでしょう。
我が家にいらっしゃいませんか?
宰相をしてますシモン・ドレールといいます。」
静寂を破るように、こちらもイケメンの男性が話しかけてきた。
王様に献上しようとしてるだけじゃないの?
と伺ってみる。
「この王様は絶対にイヤ、それでもいいの?」
「陛下にこんな対応をされるお嬢様は初めてですよ。楽しいですな。」
「待て、それは許さん、マリコはここに住むんだ。」
復活したギルバートがすり寄って来た。
まだ言ってるの?
自分でも視線が冷たいのがわかる。

「バカじゃないの!?振られたのがわからないわけ?」
不敬罪で殺されたってかまうもんか、イケメンだから言いなりになるなんて思わないでよね。
無理無理、と首を振ってしまう。
「女達はすぐに後宮から出すから、待ってくれ。」
「はぁ!?さっき、私は子供を産ます女で、情はあっちにあるって言ったばかりでしょ。
最低な男ね、よく王様なんてできてるわね。」
ギルバートが唖然としている、こんなこと言われたことないんでしょうね。
妻とは別れるからと言って他の女に手を出す、そして妻とは別れない。これ不倫の定番だ。

嫌われたって構うもんか、と思うと気が楽になる。
「2度と顔も見たくないので、私の前に現れないでください。」
さようならと出て行くと、シモンさんが追いかけてきた。
我ながらカッコイイと思いました。



結局その日はシモンさんのお屋敷で傷の手当てを魔法でしてもらい、美味しいご飯を頂いて柔らかいベッドで寝たのでした。
異世界のご飯が虫とかだったらどうしよう、とちょっと心配したのは秘密。
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