私と黄金竜の国

すみれ

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普通の定義は何だろう

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ギルバートはごねていた。
湖畔地方の新しい灌漑施設の視察の要望がきているのだか、行きたくないのだ。
今までは竜の姿でどこにでも行っていた。
マリコがこの地に来て4年余り、その間どこにも行ってない。
マリコの側を離れなくないからだ。


「陛下、湖畔地方は療養地になるほど、風光明媚で穏やかな気候の所です。
ベストシーズンではありませんが、その分人も少ないでしょう。」
ギルバートが宰相のシモンを振り返った。
「マリコ様とアレクセイ様を連れて行かれても安全は問題ないでしょう。」
わかるほどにギルバートの書類を処理するスピードがあがる。

「来週は各国大使との会談を入れる時間を開けるようにする。」
その後だな、視察の準備をしておけ、と指示をだす。
マリコは喜ぶかな、と不安になる。
「直ぐに戻るから、大臣を呼んでおいてくれ。」
と言うが早いか扉を開けている。
「マリコ様は我が妻と奥の庭園でお茶のはずです。」
シモンがわかってますよ、と声をかけた。

もちろんマリコの香りを辿れば、庭園だろうが、寝室だろうが直ぐにわかる。
そうかお茶の時間か、かわいいマリコが見れるな、と気分は浮き立つ。


近づくにつれマリコの香りは濃く、笑い声が聞こえる。
「ギルバートどうしたの?」
マリコがギルバートを見つけて声をかけてきた。

「あのだな。」
初めてのデートに誘うんだ、と思うと一気に緊張してきた。
「我が国には、いろいろな地方があって、地域性があるんだ。」
何言い出したのこの人、である。
「いい季節になったので、どこでもいいんだが、陳情がきていて。」
もう支離滅裂になっている、大丈夫かギルバート。
「その、湖のきれいな地域に視察に行くんだが。」
やっとここまでたどり着いたギルバート。
「いってらっしゃい。」
マリコはすでに言いたいことがわかっているが、いじわるである。
宰相夫人もわかっているようだが、何も言えない。
ギルバートがマリコに縋り付いてきた。
ああ、鬱陶しい、とマリコが言う。
「マリコと行きたいんだーーー!」
わかってたけど、どうしてこれを先に言わないの、この人。
「マリコとデートしたいんだーー!」
え、そう言えばデートどころか結婚式もしていない。

マリコからボロっと涙がこぼれた。
「マリコ、マリコどうした!」
「ギルバート。今さらなんだけど。ウェディングドレス着たかった。」

衝撃を受けたのはギルバートの方だった。
結婚式をしていない。
竜は番を見つけると即実行派ばかりなので、結婚式はうやむやになる。
竜同士の番と違って、マリコは結婚式を望んでいたのだ、それを気付いてやれなかった。
まずプロポーズだ、そこからのスタートだ。

ギルバートがマリコに向き合うと膝まつきマリコの両手を握りしめた。
変な緊張をしているらしい、動きが硬い。
「マリコ、私の番、どうか私と結婚してください。」
そっとマリコの手にギルバートがキスをする。
思ってなかったギルバートの行動にマリコは真っ赤になった。
ギルバートは見てくれはいいのだ、カッコイイとは思っている。
真っ赤なマリコを見てギルバートも真っ赤になった、どこまで番には純情なんだ。

「できるだけ早く式をあげて、湖畔地方にはハネムーンを兼ねて視察に行こう。」
ギルバートは宰相夫人を振り返ると、
「夫人、マリコはこの地に頼れる者は少ない。
ウェディングドレスの相談にのってやって欲しい。」
「もちろんですわ、陛下お任せください。早速夫に日程の調整をさせますわ。」
とにっこりほほ笑む。
宰相夫人、夫に調整させると言ったぞ、とひっかかるマリコ。
ここの家の力関係もわかる、どこの家も竜の夫は番に弱いんだ。
「うれしい、ギルバート。」



「母上。父上。」
アレクセイの勉強が終わったらしく、侍従を連れてやって来た。
「父上、湖畔地方の視察に行かれると、お聞きしました。」
この2歳児も何とかしたいマリコ、可愛げがなさすぎる。
卵から生まれて2年だが、体つきは4歳ぐらいだろうか。
何でも可愛いギルバートは、既に抱き締めている。

「父上、話ができません、離してください。」
毎日繰り返されているコントを横目で見ながら、マリコはアレクセイにお菓子を取り分ける。
「その前に結婚式をしようと思っている、アレクセイも母のウェディングドレス姿をみたいかだろう。」
アレクセイの顔にはどうでもいい、と出てるが口に出したりしない2才児。
「とてもきれいでしょうね。」
一気にギルバートの顔が緩む、何を想像しているか簡単にわかる。
「そうだろ、マリコは世界一可愛いからな。」
番に対する目は腐っている。
この言葉を信じて自惚うぬぼれてはいけない。

「竜は結婚式はしないのですか?」
マリコの問いに、返答をしたのは宰相婦人だ。
「しないこともありますが、ほとんどはしますよ。
もちろん、後でということになります。
番を見つけた雄竜はマテができませんから、落ち着くまで時間が必要なの。
私が結婚式をあげたのは10年後でした。
マリコ様のように直ぐに子供を授かることは稀なことなのです。」
確か以前、竜の雌の繁殖期は1年に1ヶ月と聞いた、とマリコは思い出していた。
宰相様は落ち着くまでに10年かかったってこと?
ギルバートなんて毎晩大変なのに、他の竜は1年に11ヶ月お預けなんだ、じゃ、ギルバートもお預けできるのでは。
それを言葉にすると返り討ちが待っている事ぐらいマリコにもわかる。

「マリコ様、雄竜は雌竜の繁殖期には籠って、仕事にも出ない竜もいます。」
仕事の調整のできる者に限られますが、と夫人が恐ろしい事を言う。
「それでも、なかなか子供は授からないのです。」
寿命が長くてポロポロ子供がうまれたら大変だ、納得である。
「次は妹が欲しいですね。」
「アレクセイ、期待しておいてくれ。」
ギルバートをこれ以上焚きつけないで欲しいと、マリコは切に思う。

「まぁ、それは置いておいて。」
え!?
とギルバートがアレクセイを見る。
「先程、記録文保管室で父上の2000年ほど前の文献を見てたのです。」
何してんだ2歳児、こんな子供希望してないとマリコ。
2歳と言えばまだ、ママが恋しい、可愛さマックスのお年頃のはずである。
「もうそこまでできる魔力が身についたか、あれは魔力で保管してあるからな。」
ギルバートがデレデレで答えている。
魔力ができても、その内容が解る事が異常な2歳児であると、どうして誰も言わないのか不思議なマリコだ。
ここでの普通ってなんだ?

ここにいると自分が規格外だというのはわかる、空も飛べない、魔法も使えない。
「あの。」
「どうした、マリコ。」
言葉を止めたマリコに、ギルバートが優しく覗き込んで聞いてくる。
「ウェディングドレス着たいなんて、わがまま言ってごめんなさい。」
それを聞いたギルバートがギョッとして、
「医者だ、医者を呼べ!マリコが変だ。」
頭をどこかで打ったのか、それはいつだ、と聞いてくる。
どういう事だ!!

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