私と黄金竜の国

すみれ

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選ぶのは私

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小さな家には客室は1つしかなく、マリコがシンシアの部屋で眠ることにギルバートは難色を示したが、マリコが強制実行してシンシアと部屋に閉じこもった。
客室にはジョシュアと関脇が泊まり、ギルバートがアレクセイの部屋に泊まることになった。
結局、ギルバートとアレクセイは夜を徹して話し合っていたようだ。


翌日はマリコがブドウ狩りをしている間に、魔力で摘み取られたブドウがワインにする為に醸造所に運ばれた。
醸造所ではアレクセイの畑のブドウとして管理され、ワインを造ってくれるらしい。


マリコとシンシアの手作り昼食をみんなで囲みながら、ブドウの出来やワインの話がはずんでいた。
「皆が集まってご飯は美味しいわね。」
昨夜も言ったことをマリコが繰り返して言っている。

「シンシア雰囲気が変わったわね、大人になったというか、物静かになったわね。」
「大人になったもの、それにアレクが心配するから。」
シンシアの含んだような物言いに何かを感じたマリコは、こっそりシンシアに聞くが竜には全部聞こえている。
「女の子になったの?
そういうお年頃だもの、心配してたの。
一緒にいるのが男のアレクセイじゃ不安だったでしょ?
でもいつの間に、お兄様からアレク呼び?」
ギルバート達が聞きたかったことを躊躇ちゅうちょなく聞くマリコ。

「側にいるのが兄だとわかると、変な男に目をつけられるってアレクが言うの。」
「さすが心配性のアレクセイ。その通りよ!
シンシアは可愛いからね、気をつけなくっちゃ。」
でね、でね、とさらに聞いている。

「シンシアは番が見つかったら結婚するの?」
え?とシンシアがマリコを見る。

竜の常識とマリコの常識はイコールでない。
「番って雄竜の話でしょ?
女の子にとって好きになれない男だったらどうするのか、ずっと疑問だったのよね!」
ギルバートとジョシュア、関脇がアレクセイを見ている。

「私は番よりアレクと一緒にいたい。」
シンシアが下を向いて小さな声で言う、もちろん皆には聞こえている。
「今はアレクセイがよくても、番が現れたら変わっちゃうかもしれないでしょ?
周りは番の雄竜を支持するのでしょ?女の子には逃げ場がないよね。
女の子にはそれが番だってわかるの?
雄竜の自己申告でしかないでしょ?」
雄竜に押して押して押しまくられて雌竜は落ちるのだ、マリコもそうだった。
シンシアも番が現れないとどうなるのか、わからないから答えようがない。

「シンシアも別に結婚しないでずっといてもいいのよ。
雌だからって番に選ばれるのを待つ必要なんてない。
番に選ばれたってシンシアの好きにしていいのよ。」
「母上、シンシアに変な遊びを勧めないでください。」
アレクセイがシンシアを引寄せてマリコに立ち向かう。

雄竜は番を得られなければ狂ってしまうが、マリコにとって知った事ではない。その為に女の子が一生我慢する必要はないと思っている。
ギルバートを見てもわかるが、女の子にとって番となり、ずっと愛されるというのは幸せな事だと身をもって知っている。
だが、常に雄竜の監視を受け雁字搦がんじがらめめにもなるのだ。
だからこそ、番に選ばれ、そして自分も好きになり、納得して結婚して欲しい。

ふふん、とマリコが鼻で笑いながら男達に言う。
「だーーて、雄竜は番を選んでる訳じゃないけど、雌竜は選べるよねーー!」
雄竜が選ぶわけではないが、番に一目惚れをしている。

「マリコは私を選んだよね。」
ギルバートが話に入ってくると、マリコはうんうんと頷く。

「ブラコンのシンシアは他の男性を見る機会があってもいいんじゃないかと思うの。
番がちゃんと好きか比べれるように。
選ぶのはシンシアよ!」
「シンシアはこのままでいいのです。」
アレクセイの方をチラッと見るがマリコはニッと笑うだけだ。
「よくないと思うわ。
アレクセイの好みに育てられてる気がする、シンシアも自由意志を持つべきよ。
好きな人に好かれるように振舞いたいと思うのは普通のことだけど、シンシアはそう思い込まされていると思えなくもない。
ほんとにアレクセイが好きなのかしら?刷り込み?
だからね、私と遊びに行きましょ。
人生には経験が大切よ!」
もしかして運命の出会いとかあるかもよ、と続けるマリコ。
顔面蒼白はギルバートとアレクセイだ。

「私もあの時は他に選択がなかったのよ。」
「マリコ!!」
「夫には愛され、こんないい子達を授かったんだもの、幸せよ。
でも、もし違う道はなかったのかな、と思う時があるの。」
「マリコーーー!!」
「うるさいわよ、ギルバート。それでもちゃんとギルバートを選ぶから!」
はいはい、とマリコがギルバートのしたいままにさせている。
「シンシアはちゃんと選んで欲しいのよ。」

ほら、ブドウ美味しいよ、とマリコが皆に勧めるが誰も手にしない。
アレクセイにいたっては、血の気がひいたまま、シンシアを抱きしめて離さない。

アレクセイもマリコの言い分に心当たりがないわけではないが、それでもかまわない。
「アレク、どんなことがあってもシンシアはアレクが大好き。」
シンシアの言葉一つでアレクセイの機嫌が急上昇する。
「シンシア!」

アレクセイの顔に血色が戻ってきた、シンシアがマリコに向かう。
「お母様、ほどほどの遊びなら付き合いますわ。
お父様とお兄様が心配しない程度のね。」

「大丈夫よ、シンシア。この二人はどんな事でも心配するから同じよ!」

ジョシュアと関脇も、この先を想像して顔色が悪くなってきた。
二人で見つめあって言葉のない会話をしている。
どうする?アレはまずいだろう。
母親は言ったことはする、どんなに父親が止めてもする。

「あらら、アレクセイ、そんなに心配しなくても悪い事はちょっとしかしないつもりよ。」
マリコが気楽そうに言うが、黙っていられないのがアレクセイだ。
「父上、母上をしっかり捕まえておいてください。
シンシアに悪い影響をおよぼします。」
「シンシア次は女二人旅よ!」
やー、とマリコが片手を振り上げ力説するが、怖ろしい結末しか見えない雄竜達である。

「母上、地図は読めるの?」
関脇が現実的な事を聞いてくる。
「宿の相場は?
馬に乗れないのに移動は?」
うーん、とマリコがうなっている。
よくやった!関脇!
ギルバートとアレクセイが復活してきた。

「お母さまとの旅も面白そうね。」
アレクセイの胃に穴があきそうな言葉を、シンシアが口にする。

「そうよ、旅しててもアレクセイのガードで男性との接触がなかったんじゃないの?」
「そんな事ないわ、いろいろな方がアプローチしてきたわ。」
「何だって!いつそんな事があった!!」
知らぬはアレクセイだ。
「アレクが側に居ない時。」
ケロッとシンシアが答えるが、アレクセイは失敗した、と言わんばかりだ。

「マリコ、旅したいなら私が王位から降りて一緒にしよう。
アレクセイ、直ぐに引き継げ!」
ギルバートはマリコを振り向かせようと必死だ。

「どうしようかな?」
選択権はマリコにある。


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