私と黄金竜の国

すみれ

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ハッピーバースディ・ギルバート

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マリコ達は竜王国に戻ってきて数日が過ぎていた。


マリコが木陰で絵を描いている。
ガサと草を踏み分ける足音がしてギルバートが現れた。
「どうした?
最近元気がないが。」
マリコの横に座って絵をのぞきこむと、マリコの手をとり鉛筆を横に置かせた。
「そうかな、ちょっと考えちゃって。
この間ね、関脇が言うのよ、母上は周りを心配させて楽しいのか、って。」
雑貨屋の外からギルバート達がのぞいていたことをマリコは知らない。

「そういうつもりはないんだけど、暴走してたのかな、って反省してたの。」
「どんなマリコも好きにですよ。」
イケメンギルバートに見つめられて、マリコが浮上する。
「今のマリ「そうよね!私らしくであればいいのよね!」」
ギルバートの言葉はさえぎられた。今のマリコはさらに魅力的です、と言おうとしたのに、マリコは聞く耳もたない。。
このまま、上手く言いくるめて大人しくさせようと思っていたギルバートである。

「心配させないように頑張るからね!」
頑張る方向は正しいが、ギルバートにとっては大人しくしてくれる方が安心できる。
「関脇ーー!」
マリコが大声で呼んでいる。
今日の被害者は関脇なのか、と思うギルバートも大概たいがいだ。

竜の耳は遠くの音もひろう、マリコの呼び声が聞こえないはずがない。
「母上だ。」
言ったのはジョシュアだ。ジョシュアは関脇と剣の稽古をしていた。
この後、関脇の焼いた菓子でお茶の予定である。
「ともかく、行って参ります。」
「僕も行くよ。」

二人で王宮を進むと、すれ違う女官達が頬を染めて横に下がる。
最近の関脇は女官達のアイドルとなっている。
昔の面影はどこにもなく、黒曜石のような大きな瞳に艶のある黒髪、すらりと延びた手足。
反対に関脇は女達に興味を失ったようだ。
昔の関脇にとって男は怖く、女は優しい存在だったのかもしれない。
今は側に常にジョシュアがいる、不安になることもない。
精神の安定は魔力の安定にも繋がったようで、凄まじい魔力を潜めた少年はもう破壊竜に戻る可能性は低い。
ジョシュアの横で、はにかんで笑う関脇は可愛い。



「母上どうされました?」
「あら、ジョシュアも一緒なの?
ちょうどよかった。」
マリコのちょうどよかった、は恐ろしい。

ほら、こっち、と連れて行かれたのは鏡の前、悪い予感しかしない二人。
関脇が思い出すのは、白雪姫で小人の役をやらされた事。
ジョシュアが思い出すのはシンデレラの義理の姉役で女装させられた事。
二人で顔を見合わせる、正確には鏡と3人で言葉も出ない。
「・・・・・」

はい、はいと渡されたのは紙と絵の具。
「福笑いを作ってね。」
「母上何ですか?これは。」
「もうすぐ、ギルバートのお誕生日でしょ、ゲーム大会をしましょ。」
全然意味がわからない。
「ギルバートには秘密よ、驚かせるから。」
「だから、福笑いって何!?」
結局、鏡が根負けした。

マリコは全員の誕生会をしている。
ケーキを食べて、マリコのヴァイオリンを弾いてゆっくり過ごすこともあれば、大騒ぎの時もある。
それが何故にゲーム大会?
「ギルバートを喜ばせたいの!
これは、顔のパーツを目隠しで顔の輪郭の上に乗せていくの。判定担当は鏡ね。」

「兄上、これ父上が喜ぶと思いますか?」
紙に描いた目を切り取りながら関脇が聞いた。
「母上のすることなら何でも喜ぶさ。」
「するのは僕達のようですよ?」
マリコもジョシュアと関脇の小声が聞こえたらしい、二人の頭に拳骨げんこつが落ちてきた。
「あなた達だけでなく、アレクセイとシンシアもさせるわよ。」

関脇がアレクセイの真似をしながらマリコに言う。
「母上、そんな無駄な事させないでください。」
「あはは!そっくり!
きっとそう言うわよ!」
マリコは指差して笑っている。
ジョシュアもよく見ているな、と笑いをこらえられない。

「でもね、アレクセイの協力がなければギルバートにバレちゃうから。」
マリコを覗きに来るから、作っているのがバレる。
「ねえ、マリコ。いつもはヴァイオリンで演奏会してたじゃない。」
鏡も不思議に思ったらしい。
「うんとね、ギルバートにはいつも心配かけているから、楽しい思い出に残るような会をプレゼントしたいの。」


アレクセイはマリコに協力した。
絶対に反対すると思っていたジョシュアに言ったのだ。
「ジョシュア考えてごらん。
母上が父上で遊んでくれないと、ずっと我々が相手しないといけないんだよ。
我々は母上が好きだが、時々手に余る。
父上に面倒を見てもらうのが一番だ。」


その夜、竜王一家のファミリールームからは、笑い声とギルバートの拍手が鳴り響く。
「ほら、ギルバートもしましょ。」
マリコに手を引かれてギルバートも参加するが、ギルバート、アレクセイは間違うことなく完璧だ。つまんない奴である。
「じゃ、次はこれ!」
マリコが次の道具を出そうとした時にアレクセイが声を出した。
「母上、私達はそろそろ部屋に戻ります。父上がヴァイオリンの演奏を待っているようですよ。」
アレクセイは言葉が終わるまでもなく、皆を引き連れて部屋を出て行った。

「お誕生日おめでとう、ギルバート。」
「ありがとうマリコ。とても楽しかったよ。」
「でしょ!
あの堅物のアレクセイだって笑ってたわ!やったわ!」
「料理も美味しかった。」
「シンシアと関脇が手伝ってくれたから。」

マリコと出会うまでは、誕生日は竜王の誕生パーティーだった。
要人達を招き、後宮の女達とダンスをした。楽しかった記憶などない。
毎年繰り返す行事の一つでしかなかった。

「シンシアったら、すごい顔を作ったわよね。」
「アレクセイが大笑いして、シンシアに怒られていたな。」
マリコと二人思い出しては笑いがこぼれる。
「鏡の判定が私には厳しかったわ、15点よ!」
「いや、あれは150点だろう。」
なんですって、とマリコがギルバートにのし掛かる。誉めたつもりが反感をかったらしい。
竜王の幸せな誕生日の夜は更けていった。 

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