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嵐がやってきました
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隣国の王女が狼の獣人に攫われたと連絡があったのは、夕闇が迫る頃であった。
「誘拐犯はかなりの魔力者のようで、隣国の王宮の警備を掻い潜り姫を攫ったようです。
逃走が我が国方向であったために連絡が届いてます。」
報告する外務大臣に書類を渡しながら、
「我が国として協力することはないな。
王国側も獣人側にも協力はしない、静観するしかない。」
ギルバートが深く椅子に身を沈める。
「ほんに、お前はいろんな者を拾うのう。」
呆れているのがポチである。
「私も望んでいるわけではないけど、見つけた以上世話がいるでしょう。」
マリコの部屋のソファーに寝かされているのは、紫の髪に白い肌、まだ20歳にはなっていないだろう少女である。
手や足に無数の噛み傷があったが、さっき呼ばれたシンシアが魔力で治癒した。
「お母さま、多分隣国の種族です。背中に小さな半透明の羽があるでしょ。」
マリコもさっきから妖精みたいに綺麗と思っていたのだ。
ポチはクッションに寝ころび動こうとはしない、さすが神様。
ここで不審者の女にマリコが襲われても見ているだけなのだろう。
つまり、何の役にも立たないポチである。
侍女に入れてもらったお茶を飲みながら、シンシアがマリコに説明を始める。
「さっきアレクに連絡をしておきました、すぐに来るでしょう。
彼女は国から無理やり連れて来られたのかもしれない、ひどい傷でしたから。」
シンシアの話を聞いていたかのように少女が目を開け叫びだした。
「ジーノ!
ジーノ!!」
「そこまでだ。」
関脇がマリコの部屋の扉を開けて走りながら入ってきた。
「母上、姉上、離れてください。
彼女の魔力が暴走しています、僕が抑えていますが危険です。」
突然、少女の周りにガラスが張り巡らされた。
「関脇、ご苦労だった。魔力を吸収するシールドを張ったから大丈夫だ。」
部屋に入ってきたのはアレクセイである。
「シンシア、ケガはないか?」
アレクセイがシンシアに声をかける間に、駆けつけたギルバートがマリコを抱きしめている。
「マリコ、怖かったろう。魔力の暴走なんて。」
「全然。」
マリコの返事はそっけない。
ガラスに手をあてて、ジョシュアが少女に語り掛ける。
「君の言うジーノかな、王宮の防御に何度も体当たりして入ろうとしている大きな狼がいる。
ずいぶんケガをしているようだ、君から止められるか?」
その言葉で正気に返ったのだろう、うんうんと首を盾に振って応える。
「それはジーノです、私の周りのシールドを外してください。」
今度は反対にマリコ達に防御魔法がかけられ、少女の周りからガラスがなくなった。
「竜王様とお見受けいたします。
私は隣国ヒブランの第2王女ビアンカ、無礼を申し訳ありません。
外にいるのは私の夫でございます。
どうか、私を彼が見えるところまでお連れ下さい。」
ビアンカはギルバートに小さな頭を深く下げた。
「塔の部屋にわしも行くぞ、関脇ほれほれ。」
ポチがのそりと顔をあげると関脇に連れて行けと言う、抱きかかえろということらしい。
塔の最上階の部屋でマリコの見たものは、塔の上空にいる巨大な血まみれの狼である。
身体は竜に匹敵するほどに大きく、珍しい白銀の毛が血に染まっている。
「ジーノ!」
ビアンカの声が届いたのであろう、ガオと吠えて人型に姿を変えると現れたのは、筋肉たくましい男性である。
ギルバートが王宮の防御を開けてジーノを塔に迎え入れた。
「ジーノ!
ケガが、血が!」
ビアンカが駆け寄りながらジーノに抱きつく。
「ビー、大丈夫だ、体力がもどれば自分で癒せる。」
「父上、隣国からは攫われたと連絡がきてましたよね、
これは駆け落ちではないですか?」
その言葉が聞こえたのだろう、ビアンカが振り返ってギルバート達を見る。
「そうですか、すでに連絡が来ているのですね。
ジーノは王宮の警備兵の一人で、私の警護もしていました。
当然、両親の理解は得られず、私達は二人で国を出たのです。
ジーノの傷はその時に出来たもので、私を守る為に無理をおしてこの国まで駆けてきたのです。」
「母上は、次々と拾いますね。」
「毎回、大騒ぎだ。」
後ろで関脇とジョシュアがコソコソ話をしている、そこにシンシアまで加わる。
「お母様は、爆弾を拾っているのと同じですわ。」
「全部、無自覚だ。
しかも今回は一緒に逃げている恋人同士を片方だけって、どういう事だ?
引き裂いているぞ。」
「母上の寂しい心と引き寄せられる側の寂しい心が呼び合うのだと思うのです。
僕にしてもポチ様にしても無意識に寂しかったのかもしれません。」
母上寂しいんだ、そうだな、たった一人の人間だものな、と思うジョシュア。
「そうよね、好きな人と駆け落ちって、情熱的だけど家族を捨て去る負い目とか寂しさとか絶対あるわよね。
ましてや王女様、国に対する責任を放棄する罪悪感もあるわ。」
わかった風に言うシンシアも王女様である。
「お前達、マリコに防御を強くかけておいた方がいいぞ。手足がもぎれないようにな。」
逆鱗を飲んでいるから死ぬ事はあるまいがアレの身体は脆いからな、とポチが言う。
「それは常々、父上がこれでもかとかけてます。
母上はいろいろ危ないので。」
「そうか。」
そう言うとポチは関脇の腕の中で寝始めたようだった。
ジョシュア達はお互い見つめ合うと、慌ててマリコに防御魔法をかけた。
元々のギルバートの防御に合わせ、アレクセイ、ジョシュア、シンシア、関脇と家族全員の防御がマリコにかけられる。
「誘拐犯はかなりの魔力者のようで、隣国の王宮の警備を掻い潜り姫を攫ったようです。
逃走が我が国方向であったために連絡が届いてます。」
報告する外務大臣に書類を渡しながら、
「我が国として協力することはないな。
王国側も獣人側にも協力はしない、静観するしかない。」
ギルバートが深く椅子に身を沈める。
「ほんに、お前はいろんな者を拾うのう。」
呆れているのがポチである。
「私も望んでいるわけではないけど、見つけた以上世話がいるでしょう。」
マリコの部屋のソファーに寝かされているのは、紫の髪に白い肌、まだ20歳にはなっていないだろう少女である。
手や足に無数の噛み傷があったが、さっき呼ばれたシンシアが魔力で治癒した。
「お母さま、多分隣国の種族です。背中に小さな半透明の羽があるでしょ。」
マリコもさっきから妖精みたいに綺麗と思っていたのだ。
ポチはクッションに寝ころび動こうとはしない、さすが神様。
ここで不審者の女にマリコが襲われても見ているだけなのだろう。
つまり、何の役にも立たないポチである。
侍女に入れてもらったお茶を飲みながら、シンシアがマリコに説明を始める。
「さっきアレクに連絡をしておきました、すぐに来るでしょう。
彼女は国から無理やり連れて来られたのかもしれない、ひどい傷でしたから。」
シンシアの話を聞いていたかのように少女が目を開け叫びだした。
「ジーノ!
ジーノ!!」
「そこまでだ。」
関脇がマリコの部屋の扉を開けて走りながら入ってきた。
「母上、姉上、離れてください。
彼女の魔力が暴走しています、僕が抑えていますが危険です。」
突然、少女の周りにガラスが張り巡らされた。
「関脇、ご苦労だった。魔力を吸収するシールドを張ったから大丈夫だ。」
部屋に入ってきたのはアレクセイである。
「シンシア、ケガはないか?」
アレクセイがシンシアに声をかける間に、駆けつけたギルバートがマリコを抱きしめている。
「マリコ、怖かったろう。魔力の暴走なんて。」
「全然。」
マリコの返事はそっけない。
ガラスに手をあてて、ジョシュアが少女に語り掛ける。
「君の言うジーノかな、王宮の防御に何度も体当たりして入ろうとしている大きな狼がいる。
ずいぶんケガをしているようだ、君から止められるか?」
その言葉で正気に返ったのだろう、うんうんと首を盾に振って応える。
「それはジーノです、私の周りのシールドを外してください。」
今度は反対にマリコ達に防御魔法がかけられ、少女の周りからガラスがなくなった。
「竜王様とお見受けいたします。
私は隣国ヒブランの第2王女ビアンカ、無礼を申し訳ありません。
外にいるのは私の夫でございます。
どうか、私を彼が見えるところまでお連れ下さい。」
ビアンカはギルバートに小さな頭を深く下げた。
「塔の部屋にわしも行くぞ、関脇ほれほれ。」
ポチがのそりと顔をあげると関脇に連れて行けと言う、抱きかかえろということらしい。
塔の最上階の部屋でマリコの見たものは、塔の上空にいる巨大な血まみれの狼である。
身体は竜に匹敵するほどに大きく、珍しい白銀の毛が血に染まっている。
「ジーノ!」
ビアンカの声が届いたのであろう、ガオと吠えて人型に姿を変えると現れたのは、筋肉たくましい男性である。
ギルバートが王宮の防御を開けてジーノを塔に迎え入れた。
「ジーノ!
ケガが、血が!」
ビアンカが駆け寄りながらジーノに抱きつく。
「ビー、大丈夫だ、体力がもどれば自分で癒せる。」
「父上、隣国からは攫われたと連絡がきてましたよね、
これは駆け落ちではないですか?」
その言葉が聞こえたのだろう、ビアンカが振り返ってギルバート達を見る。
「そうですか、すでに連絡が来ているのですね。
ジーノは王宮の警備兵の一人で、私の警護もしていました。
当然、両親の理解は得られず、私達は二人で国を出たのです。
ジーノの傷はその時に出来たもので、私を守る為に無理をおしてこの国まで駆けてきたのです。」
「母上は、次々と拾いますね。」
「毎回、大騒ぎだ。」
後ろで関脇とジョシュアがコソコソ話をしている、そこにシンシアまで加わる。
「お母様は、爆弾を拾っているのと同じですわ。」
「全部、無自覚だ。
しかも今回は一緒に逃げている恋人同士を片方だけって、どういう事だ?
引き裂いているぞ。」
「母上の寂しい心と引き寄せられる側の寂しい心が呼び合うのだと思うのです。
僕にしてもポチ様にしても無意識に寂しかったのかもしれません。」
母上寂しいんだ、そうだな、たった一人の人間だものな、と思うジョシュア。
「そうよね、好きな人と駆け落ちって、情熱的だけど家族を捨て去る負い目とか寂しさとか絶対あるわよね。
ましてや王女様、国に対する責任を放棄する罪悪感もあるわ。」
わかった風に言うシンシアも王女様である。
「お前達、マリコに防御を強くかけておいた方がいいぞ。手足がもぎれないようにな。」
逆鱗を飲んでいるから死ぬ事はあるまいがアレの身体は脆いからな、とポチが言う。
「それは常々、父上がこれでもかとかけてます。
母上はいろいろ危ないので。」
「そうか。」
そう言うとポチは関脇の腕の中で寝始めたようだった。
ジョシュア達はお互い見つめ合うと、慌ててマリコに防御魔法をかけた。
元々のギルバートの防御に合わせ、アレクセイ、ジョシュア、シンシア、関脇と家族全員の防御がマリコにかけられる。
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