お妃さま誕生物語

すみれ

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本編

対面

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仲間から連絡が来た、明日、皇帝と皇妃が謁見室で隣国エメルダ連邦の代表と会う。
執務室から謁見室に向かう警備が一番手薄になる時に実行だと。

こちらの仲間は18名、皆元貴族で剣の練習は幼い頃からしてきた腕の立つやつばかりだ、皇帝の警備は側近2名、警護4名、皇妃と侍女2名。

銀髪が揺れている、あれが皇妃か、目立つシンボルマークだ。
先頭の仲間が隠れていた部屋からおどり出た、俺も後に続く。
あの侍女だ、一瞬で見極めた、何故ここにいる。
この警護はなんだ、とんでもなく強い、俺達の方が数は多いのに、近寄れない。
側近と侍女も戦えるなんて聞いてない。

「何をしてる。」
皇帝の声がした、それは俺達に話しかけるわけでなく。
「リヒト様の盾になっております。」
「私に守られておけ、前に出るな、おまえが死ぬ時は私の死ぬ時だ。先に行くことは許さん。」
あの侍女は皇妃だったのか、それであの警備か。

「金の亡者どもめ。」
叫んで突進した仲間が一刀のもとに切られて倒れた。
皇妃がこちらを見た、俺を見とめたらしい、図書室でのことを覚えているのかもしれない。
一人、一人仲間が倒れて行く。

「父達の栄光は恥ずかしい行いの結果であると、何故にわからない。」
そこには行方不明になっている兄がいた。
「我々はマクレンジー私兵部隊の訓練を受けた中から警備兵に選ばれた者だ。
幹部は当然であり、侍女もその中から選ばれたものがいる。
お前達がどんなに人数を集めて束になっても敵うものではない。」
「兄さんこそ、そんなに金がいいのか、商人にかしずいて。」
「どこまでもわからないようだな、残念だ。」
兄は剣をひるがえすと向かってきた。
弱い兄だと思っていた、昔の栄光にすがり徒党を組む俺の方が弱かったのか。
兄が家族を見限みかぎり、マクレンジーに向かったのは、弱いからではなく、強かったからかもしれないと、最後になって思う。
兄は何度も俺に忠告していた、周りに流されないことの方が強いことなのに、俺はわからなかった。




「陛下こちらの処理をしますので、私はここに留まり、後で参ります。」
ポールがここに残るらしいと、シーリアはやっと理解したようだ。
目の前で乱闘が起こり、反政府組織の人間が血まみれで倒れている、震えが止まらない。
顔も真っ青になっている。
クーデター直後の宮殿には入ったが、人が切られるのを初めて見たのだろう。
「見ることはなかった、私に隠れていればよかったものを。」
リヒトールがシーリアを抱き上げながら言った。
「リヒト様の責の半分をください、と言いました。見る必要があると思いました。」
恐いだろうに、この娘は私から逃げない、その強さを愛しいと思う。




リヒトール達が去った廊下には人が集まって来た。
「マクスナー御苦労であった、つらい対面だったな。」
「いいえ、マニロウ長官。弟と道をたがえた以上、これ以外の対面はありえませんでした。
髪を一房ひとふさ持ち去る許可をよろしいでしょうか、家族の墓に入れてやろうと思います。」
「それだけでいいのか?」
「それで全てです。」

マクスナーが髪を懐にいれたころ、ゴメス事務官が声をかけた。
「マクスナー警備に戻ってよいぞ、ここはしておくから。」
ダリルは、泳がされていたのだ、ポールの指示でゴメスが動いていた。
ダリルが自由に動くことで仲間をつるおとりとなっていた、どこかで襲撃があるとわかっていたが、皇妃の目の前とは思わなかった。



もっと甘い警備の書類を運ばせていたのに、見なかったのかい、ポールは事切れてるダリルに話しかける。
どこも、あまそうに見えるだけで、そうじゃないけどね。
もしかしたら、皇妃を盾にしようとしたのかもしれないな、皇帝を魔王にするバカな計画だ。
未だにリヒトール様の女遊びを信じて、皇妃を軽んじてるヤカラもいるってことか。

金の亡者とゲリラ達は言った、残念だなとポールは思う。
我等われらは信徒なのだよ、リヒトール様の。君達も立場が違ったら熱心な信徒になりえたかもしれない。
清廉潔白とは言えない偶像崇拝、きっと君達はこの魅力がわかったろう。

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