お妃さま誕生物語

すみれ

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番外編 ガサフィ

ガサフィとリデル

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「誤解だ! リデル!」

「それ、何度目?
次は私も同じ事するって言ったよね。」
ガサフィの顔が蒼白そうはくになる。
「止めてくれ!狂ってしまう!!」

「他の女を抱いた汚ならしい手で触らないで!!」
ガサフィの国には後宮があり、王が複数の女性を侍らすのは一般的なことなのだ。
いくらガサフィが断っても次々と女性がおくられてくる。
ましてや極東首長国の王太子、次々と他国を侵略していく本人だ、女も周りも何としても近づきたい。


子供の頃から、マクレンジー帝国の第1皇女リデルと婚約している。
6歳のガサフィが0歳のリデルを見初めたという、ありえない話を信じる者は少ない、政略だと思って女性をおくってくる。
残念なことに、本当の話である。リデルに至ってはガサフィの刷り込みが入っている。子守歌代わりに、ガサフィから毎晩好きだとささやかれて眠っのだ。

輝く銀糸の髪、長い睫毛まつげに縁取られた深い紫の瞳、精巧に作られた顔のパーツは見るものをき付ける。ガサフィという婚約者があっても、リデルを狙う男は後をたたない。
世界最強の国マクレンジー帝国皇帝リヒトール・マクレンジーの愛娘、それの価値だけでも計り知れない。

「あの後宮にいる女達はなに?」
「知らない、遠征から戻ってきたらいたんだ。」
勝手に後宮など作った大臣の首をはねてやる、と密かに思っているなど、おくびにもださない。

ファーストキスはいつだったかわからないぐらい、物心ついた時にはキスに慣れていた。ガサフィの舌がリデルを絡めとる。
初めては13の時、19のガサフィに抱かれた。
「私はよく耐えたと思うよ、精通した時からずっと抱きたかった。」
恐ろしいことを言う、その頃リデルは幼児であろう、真性の変態である。
月のものがきて、すぐにガサフィに抱かれた、大人になるまで待った充分だろと言う。

「若年の妊娠は望ましくないとリヒトール陛下に言われている、私も同感だ。リデルは何より大切だからね。」
大柄なのは民族的なもので、長身、筋肉で引き締まった身体、幼少時より自国とマクレンジー帝国で教育を受け、神童と名をはせた天才的頭脳、男らしい顔立ち、完璧な王太子である。
けれどリデルは身を持って知っている、変態だと。

婚約者でもあるので子供の頃から一緒に寝ていた、リデルが赤ん坊の時かららしい。
この変態は、王太子だというのに月の半分はマクレンジー帝国に来ていたのだ。

毎夜舐めるのだ、リデルを頭の先から足の先まで愛の言葉をささやきながら。
とんでもない変態だが、慣れとは恐ろしい、リデルも変態を受け入れている。
幼少時から身体にキスマークが付いていた。
それが普通の事でない、と知った時のショックは表しようがない。

マクレンジー帝国皇帝である父にとって母が全てである、母を押さえてるということは、ガサフィの暴走は父の認可がある証拠。
父の母への重い愛をみてるので、変態の重すぎる愛もこんなものかと思う。
3ヶ月後の結婚式はきっとガサフィが泣くと思ってる、嬉しくって。


「国に帰ります。」
ガサフィが目を見開く。
「リデル、リデル!!」

「私がここに着いた時に、女性が挨拶にきたのよ、第2夫人になりますって。」
リデルには一夫多妻は許せない、論外である。
結婚式の宝飾品の選定のために、さっき到着したところにそれだ。
リデルとガサフィはお互いの国を頻繁ひんぱんに行き来している。ガサフィが単騎で駆けてくるのに対して、リデルは重装な警備が付けられる、リヒトールとガサフィに。
「そんなものはいない!!!」

「私だけを大事にしてくれる夫は直ぐにみつかるわ。」
リデルはガサフィを見もせず出ていこうとする。
他の女に興味のある男に固執なんてするもんか、リデルの背中にバイバイとでてる。
確かに、そんな夫候補ゴロゴロいる、リデルは美しすぎるのだ。
「リデルのいない人生などいらない。世界中を滅ぼしてやる!!」
本当にするからヤバいとリデルが振り返る。

第一、父であるリヒトール・マクレンジーが許すまい。
ガサフィと結婚するからこそ性的接触を許されてきたのだ、全面戦争が確定である。

リデルもガサフィが好きだから許した、流されただけではない。
だが今は感情が先に立って、押さえがきかない、目に物見せてやる!

「あの女達を直ぐに処分する!!出ていくなリデル!」
飛び出そうとしたガサフィは、
「待っていてくれ、ここで、必ず。」
言いながら、女を処分する間にリデルが出ていくのを想像したらしい、身体が固まった。

「何するのよ!放しなさい!!」
ガサフィはリデルを抱き上げると抵抗も苦にせず室外に躍り出た。片手にリデルを抱き上げ、もう片手には剣を持って走るように歩く。


後宮の扉をり開けた音に、女達が一斉に振り返る。
「誰の許しでここにいる!?」
ガサフィの声は優しく聞く声ではない、尋問だ。
「王太子様。」
ガサフィを見た女が駆け寄ってくる。
ガサフィは躊躇なく、女を断ち切る。
「キャアアア!!!」
女達が逃げ惑うがそれを許すガサフィではない。
「リデル、見る必要はない、私に顔を埋めてしっかり掴まっておけ。」
それはあっという間のことだった、
「不法侵入者を始末した、城外に捨てておけ、人の目に付くようにな。」
警備兵にさらに言いつのる、勝手に室内に入れたのだ。
「大臣の指示か知らないが、こちらにはマクレンジー帝国の第1皇女がおられる、間者だったらどうするつもりだ!」
あいつは大臣の手だな、俺の代になったら全部しめてやる。
ガサフィにとって、あの女達は不法侵入者でしかない。戦場から帰ってきたら、わがもの顔でいたのだ。
それでリデルの機嫌をそこねている、必ず背後を処分してやる。
親衛隊に警備兵を連れ立てるように指示して、リデルを抱きしめる。
ガサフィは親衛隊と呼ばれる軍隊を結成して、マクレンジー帝国なみの人員育成をしている。

ロナウドは賢王と言われるが融和主義だ、ガサフィは違う。



「リデル愛してる、出ていかないでくれ。」
言葉は重なる唇に飲み込まれる。
「離しな」言葉が続かない押しやる手も捕まえられる、ガサフィも必死だ、唇からうなじへとキスが動く。
「ガサフィ、ドレスが血で汚れちゃったの、着替えたいの。」
作戦変更は大当たりした、ガサフィが抱きしめる手を緩めたのだ。

血塗れの部屋でガサフィがリデルを抱きなおして正面に向き合う、
「出ていかないと約束が欲しい、リデルだけなんだ、他の男なんて見ないで欲しい。」
理想の王子もリデルにとっては、獰猛どうもうで大きな犬だ。
あの女達もバカなことをした、これは変態すぎて私しかいらないんだから。


背後は自分からやって来た。
女の中には国務大臣が娘を入れていたらしく、大臣が飛び込んできた。
「殿下なんてことをしてくれたんです。大事な娘です。」
顔は真っ赤になっている、娘の姿に激怒している。
大臣が手配したのか、娘が希望したのか王太子の妻は喉から手が出る程欲しい地位なのだろう。
娘に嫌がって来た様子はなかった。
美しい娘ならばガサフィを懐柔できると思っていたのだろう。
「不法侵入者を始末しただけだ。私の宮に許可はだしていない。お前が不法侵入を手引きしたというこどだな。」
「陛下も好きにすればいい、と言われたんです、後宮です。」
「陛下の後宮にいれればよかったんだよ、あっちには100人ぐらいいるだろ。」
ガサフィはリデルが着替えに行ってる間に書類に目を通していたが、大臣の方を見もしない。
「マクレンジー帝国第一皇女殿下に不快を与えた、それで十分な罪状だ。大臣は見たことなかったよな。
お前の娘など足元にも及ばん、私の寵愛が取れるなどとよくも思うものだ。美貌、知力、権力全てを持つ女神だ。」
まだ15の小娘だろう、我が国の女神神話と同じ色の髪と瞳を持つだけだという認識である。
母親であるマクレンジー皇妃も、美貌で国を滅ぼしたとの話だか、表舞台に出てこないので審議はわからない。
噂とはそんなものだ、と大臣は思っていた。


侍女の先触れでリデルが部屋に入ってきた、いつもは隠しているが見せつけてやる。
「ガサフィ。こやつは?」

細く輝く銀髪、完璧な美貌に意志の強そうな紫の瞳、僅かに薄いピンクに色づく白い肌、小さな唇は潤んでいる、細い腰にはドレスのドレープが広がる。大人に成りきっていない少女の清楚さと色気を併せ持つ。
大臣はあまりの美しさに声もでない。

「すぐに追い出すから気にしなくていい、我が国の元大臣だ。」
ガサフィの唇の端があがる、リヒトールと同じ表情をする。
「王太子の宮に不法侵入で処罰された娘を手引きした親が大臣を続けられると思ったか。マクレンジー帝国の姫に対する不敬罪もある。」
ガサフィが面白そうに言う、陛下にはめられたんだよと。
あの人は穏やそうに見えるだけだ、これだけ国を大きくしたんだ、優しくはないぞ。
私はもっとだがな、マクレンジー皇帝の指導をうけてるから気をつけるがいい、報復などしようものなら一族根絶やしだ。
すぐに元が付くだろう国務大臣は親衛隊に引きずられるように部屋から追い出された。

「あなたってお父様そっくりね、うちの父ね。姿は違うけど、雰囲気とか方向性とか。」
弟より似てるわ、とリデルが言う。もっと似ているのがいるけどね。
「当然だろ、ちびの頃から帝国の執務室にいたからな。最大のライバルだ。」
リデルも婚約争奪戦の話は聞いている、父は弟とガサフィ・グラハム、ディビット・ハリンストンを同様に教育していた、それが世界戦略なのだとわかる。


「リデル、明日は時間を作るから砂漠のオアシスに行こう、それで機嫌をなおして欲しい。」
リデルが上目使いでガサフィを見る、遠征から帰ってきていつもより忙しいはずだ、それなのにリデルを優先してくれる。
「絶対よ?」
リデルがガサフィの膝の上に座る、それは仲直りのしるし、甘いキスが降りてくる。



私は子供の頃からマクレンジー皇帝の執務室への出入りを許されていた、政策も機密も処分もこの目で見てきたのだ。
リデルを任せる相手と認識されていたという事だ、リデルを守る力をつける為に。
子供には足りないものばかりだった、知識も言語力も体力も精神力も。死に物狂いで身に付けた。作戦会議が3か国語で行われるとかは普通にあった。
マクレンジー軍の戦闘訓練ではディビットがいなければ死んでいたかもしれない。

リデルの周りには見目麗しい男達がたくさんいる、自分は整ってはいるが男らしい顔で大柄な体格である。
他の男に目がいかないように愛をささやき続けよう。

父の後宮にはたくさんの女がいる、それはたくさんの兄弟がいるということだ。
最初に生まれたから王太子になるのではない。
他を淘汰できる者が王太子になるのだ。
王太子でないとリデルの側にいる資格さえないんだよ。
力のない男はリヒトール・マクレンジーによってリデルから離される。

リヒトール・マクレンジーが資金力で力をつけたのなら、私は宗教の力で統一する。
征服した国の元々の宗教は弾圧し、私の宗教を強制する、それは盲目的な兵士を生み、優秀な親衛隊を育てる。
世界の半分を手にいれる、私のリデルの為に。
お転婆でかわいい私の宝物、美しい私の女神、6歳で君に絡めとられた私は幸せなんだろう。だから誰よりも早くに行動を起こし、君を手に入れる事ができた。

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