お妃さま誕生物語

すみれ

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番外編 マクレンジー帝国皇太子ジェラルド

タッセル内戦地帯

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アレンが国境の確認ということで、警備兵達を集め資料を確認している間に、ジェラルド達は国境を越えた。
アレンが頑張っても半日程しか時間の猶予はないであろう。

ジェラルドとイライジャは1時間程、馬を走らせながら、国境を離れるにつれ、荒れていく大地に目を見張った。
小さな町では活気もなく、人々が長い内戦に疲れきっていた。
国境近くでこれほどだ、中心部に入ったオリバーはどれほどの事をみているのだろうと想像する。
昨年樹立した政権がどれほど続くかは誰にもわからない、まだ国の整備に手をつけるどころではないようだ。
大きな勢力が現れたら、この政権もすぐに潰れるだろう。
「ジェラルド、貴方は見なくてはならない。」
アレンはそう言ってジェラルドを送りだしたのだ。

ジェラルドは畑に入ると土を握った、痩せている、土壌がこれでは収穫もたくさんは望めまい。
流通はとどこおり、生きる余裕のなくなった人々。
男手は戦争に取られ、他国へ逃げる体力もなくなっている。
タッセル王国は腐敗の過程で力ある貴族達を解体していった。
その結果、王家が無くなった時、飛び抜けて後を取る勢力がなかった事が不幸なのだろう。
たくさんの人々が覇権はけんを望み、争った。

天を仰ぎ見る、これを受け入れねばならない。これを変えねばならない。
これが皇帝となる事だ。
僕は父から皇帝位を奪いとらねばならない。


ジェラルドは戻るとアレンにささやいた。
「やるぞ。」
アレンは人目があり、そのままの姿勢で答えた。
「御意。」
それは、息子達の父達からの離脱であった。
そして、アレン達が仲間からジェラルドの臣下となった事であった。

マクレンジー経済圏それこそが帝国の基盤であり、他国が最も恐れるものだ。
その経済圏から隔離されたタッセル内戦地帯、それを経済圏に吸収する。
今や軍事力は極東首長国とハリンストン王国が群を抜いている。
ジェラルドは自分自身でも壊れた部分があると思っている。血を見るのが好きというのが最たるものだ。
それでも思ったのだ、自分は父程には壊れていない。
この地に悲しみを感じる、この地を開放する。


町に戻ると、ジェラルドは直ぐに隣の家に避難しているレイラに会いに行った。
「お帰りなさい。国境はいかがでした。」
レイラは変わらずジェラルドに微笑みかける。
それだけで、暗く淀んでいた気持ちが消えていく気がする。
「手が荒れている。」
ジェラルドはレイラの手を取る、体温が伝わる、温かい。
「うふふ、水が冷たくなってきたから。
ジェラルドもほこりまみれよ、王宮では出来ない事ね。
王宮の生活も幸せだけど、ここの生活も幸せなの。
ジェラルドがとても近いわ、体温を感じる。
当たり前のことが、幸せだとわかった。ついてきて良かった。」
僕もそう思っていたよ。
「君といることが僕の幸せだ。
好きだ、レイラ。」
「もし、嫌いっと言ってもついて行くわ。」
レイラの手がジェラルドの手に重なる。
僕のする全てを許してレイラ。
君に甘える僕を守ってレイラ。



ルクティリア帝国からヘンリーが戻って来て、事態は急速に進み始める。
ルクティリア帝国軍の進軍を皇帝カミーユがヘンリーに約束したのだ。
麻薬は帝国でも内密に調査をしていたらしい。まさかリッチモンドで栽培され、トーバ経由で入って来ているとは思ってもいなかった。
それは緊急を要する程、深刻な状況になっていた。
皇帝カミーユが軍の派遣の前に、総領事夫人の実家の捜索に動いたのを確認してヘンリーは戻って来た。
こちらも急がないと、夫人の元に実家から連絡が入ったら倉庫ごと末梢される危険がある。

その夜、アレンとベンジャミンもジェラルドの家に集まって来た。
「ここに来て大丈夫か?アレン。」
「大丈夫ではないですが、今はそれよりも時間が急ぎます。
もう隠すよりも動くことです。
裏帳簿は夫人が行っている別邸にあるでしょう。
総領事邸にはありませんでした。」
そうか、別邸に行っているのか。
では駐屯軍もそこにいるな、とジェラルドが警護軍走破の計画を立て始めた時だ。
わずかな物音がして、5人に緊張が走る。
「僕だ。」
リアムの声だ、リッチモンド王国からリアムが戻って来た。
音をたてないように、リアムを室内に引き入れる。

硝石しょうせき!」
そうだ、とリアムがふところから硝石をとりだした。
硝石は火薬を作る材料である。硝石があれは、炭などで火薬が作れる。
「リッチモンド国王は麻薬栽培のことを知らず、ショックを受けていた。
王妃が、すぐに焼却の部隊を向かわせ、砂糖に紛れ混ませる組織とルート解明、壊滅の指示を出した。
そして、リッチモンド国王から、これを渡された。
キビから砂糖を取った後の大量の廃材の一部は家畜の飼料となり、畜産業が大きくなるに従って、畜舎で硝石含有土が生成されたようだ。」
「これが秘密裏に砂糖に隠して運ばれた可能性は高いな。
ルクティリア帝国に麻薬を蔓延させ、硝石で火薬をつくり征服しようとしているのか。
夫人の実家はそれほどの力があるのか。」
「そこまでは調べられなかったが、麻薬で大きな富を得ているだろう。」
ジェラルドは硝石を握りヘンリーの答えを聞きながら、もしかしてと思った。
「タッセル内戦地帯。」
「ジェラルド、あそこに密輸のリスクを冒してまで制圧する魅力があるとは思えない。
国としての機能はもう長い間なくなっている。税制をしこうにも収入自体が少ない。」
リアムが聞いてくる、答えたのはアレンだ。
「魅力はあるんだ。
それは国の中にあるのではない、心の中にあるんだ。
これ以上、暫定政権などと短い政権ではなく、強い政権で国を復興させるには、まず現在の政権を倒し制圧せねばならない。
麻薬があっても火薬だけで、ルクティリア帝国は倒せない。
だが、弱り切っているタッセルならできる。」

僕達のように、タッセルのことを考えている者がいるとしたら。
僕達とは違って、動かす軍もなく、使える力もないとしたら。
それでも、タッセルの人民を助けたいと思ったら。
麻薬で操る人間と麻薬売買で得た富、それがタッセルの復興の力だと考えるかもしれない。

損得で言えばマイナスだ、だが心が叫ぶんだ。
「あの地には、マクレンジー帝国の罪悪感が根付いている。
あの国だけは崩壊後、手を延ばさなかった。
今、僕がする。」
魅力なんて生易なまやさしいものじゃない、罪からの解放だ、ジェラルドが言う。
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