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番外編 希望の地
亡き国のロザリンド
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豪華なベッドで目を覚ましたロアは、ここがどこだか分からなかった。
使用人だろう女性が気づいて食事を持って来てくれた時に、総領事館と言われても、どうしてそんな所に居るのか分からなかった。
すぐに連絡がいったのだろう、アレンが部屋にかけつけ、あれは幻ではなく本物のアレンだとロアはやっと思えた。
娼館でアレンを見た記憶は、会いたいと思うあまりの幻としか思えなかった。
主から助けてくれているのは都合のいい幻、国元に帰り二度と会えないアレンであるはずないから。
「気が付いてよかった。ここはトーバ総領事館だ、僕は総領事として赴任してきた。
寝ている間に医師に診察をさせた」
娼婦のロアには隠しておきたい秘密がある。
それが、バレただろう。だが絶対に認めるわけにはいかない。
「僕の子供がお腹にいるね?」
「アレン様のお子ではありません」
ロアは頭を振り、強く手を握りしめる。
「ロアが考えていることはわかる。
帝国の貴族の息子で総領事になる僕に、負担にならないようにしているんだろ?」
ロアは何も答えない。
「ああ、それとも、僕が堕ろせと言うかと思っている?」
「アレン様、私は娼婦です。誰の子かわからないのです」
ロアがそう言うのは、アレンには予想がついていた。
だが、あの娼館でアレンは聞いていたのだ。
『アレン様のお子を失くすぐらいなら、死んだ方がましです』
あの場で折檻されて、子供と一緒に死ぬ覚悟で言った言葉だ。
ずっと、ロアを独占して買っていたのはアレンである。
他の男の子供のはずがないのだ。
「ロザリンド」
アレンはベッドのロアにひざまつき、消してしまった本当の名前を呼ぶ。
「ロザリンド、どうか結婚して欲しい」
「ダメです! 私は娼婦なのです。
責任を感じる必要はないのです」
驚いてロアは、ベッドから降りようとするのを、アレンに止められる。
「どうか、子供を産むのをお許しください。
決してアレン様のお子とは申しません。迷惑はかけません」
アレンに縋るように、声を震わせ言葉を繋いでいく。
「責任だからじゃない。
僕がロザリンドと一緒にいたいんだ。
しかも、子供が出来たなら急がないといけない。
両親に紹介もしたい。身重のロザリンドに負担をかけないようにする」
嬉しそうに言うアレンに他意がないのは分かるが、ロアには頷くことは出来ない。
「無理です。私は娼婦のロアです。
ご家族も周りも娼婦の私を受け入れるはずがありません。
アレン様もきっと後悔されます」
「後悔はもうしていたよ。
ここを離れる時に、何故ロザリンドを置いて行ったのかとね」
それはマクレンジ―帝国に戻って感じていたことなのだろう。
だから、ジェラルドを脅して2年の期限付きだが、トーバ総領事になったのだ。
トーバ総領事は別の人選が出来ていた。
王太子補佐官のアレンを、地方の総領事などに2年も出せるはずがないのだ。
「立つ前に娼館主には、ロザリンドの身請け代金と街での生活費を渡してあったんだ。
だから、街のどこで暮らしているか聞こうと娼館に行ったら、まだロザリンドがいて驚いた。娼館主を殺そうかと思ったよ」
「きっとね、ロザリンドは僕の愛人の方が楽な生活が出来ると思う。
だけど、僕の妻と子供を隠すなどしたくない。
マクレンジ―は恋愛至上主義だ。相手の身分は問わない。
それでも、貴族の中には嫌な思いをするかもしれない。
僕はロザリンドに乗り越えて欲しいと思うんだ」
「アレン様、無理です。
私は死んだ方がまし、と思える恥ずべき経歴です。
死にたかった、でも死ぬ勇気もなかった。
たくさんの男が抱いた、汚れた身体なんです。
この子は娼婦の母から生まれてくるのです」
「どこにも恥ずべきところなどない。
それが汚れているというなら、僕は血で汚れた身体だ。戦場でたくさんの人間を殺した。
ロザリンドに非があったのか、そうじゃない。原因はマクレンジ―帝国による攻撃と国の崩壊だ」
ロザリンドは泣いて、嗚咽を溢しながら震えている。
「死ぬのは勇気がいるだろう。
だが、生きるのはもっと勇気がいることもあるんだ。
ロザリンド、君はそうだった。
生きていてくれたからこそ、僕たちは巡り合えた。
君が好きだ」
奮えるロアを抱きしめるアレン。
アレンにも、ここに来るまでに様々な葛藤があった。
「僕たちは、君達からすれば国を崩壊させた憎むべき敵だ。
シーリア妃を守る為に、陛下は攻撃した。
マクレンジ―帝国はたくさんの国から恨まれている。
その最たる国がタッセル王国だ。
僕は君の仇だ。
そして金で君を蹂躙した」
任務の為に、娼館で遊ぶ必要があった。どの女でもよかった。
窓で見た君が気になった。
だから指名した。最初は、それだけだったんだ。
これを運命というのだ。
君の為に、タッセルを復興させようと思う。
そして、それはジェラルドの願いでもあるんだ。
だから、僕はここに来た。
すぐに帝国軍も到着する。
力で掌圧するが、タッセル国民を優遇する政策を取る。きっと、ロザリンドのような境遇の者がたくさんいるのだろう。
マクレンジー帝国は圧倒的力があるからこそ、弱者を守らねばならない。
絶対にロザリンドも子供守る。
使用人だろう女性が気づいて食事を持って来てくれた時に、総領事館と言われても、どうしてそんな所に居るのか分からなかった。
すぐに連絡がいったのだろう、アレンが部屋にかけつけ、あれは幻ではなく本物のアレンだとロアはやっと思えた。
娼館でアレンを見た記憶は、会いたいと思うあまりの幻としか思えなかった。
主から助けてくれているのは都合のいい幻、国元に帰り二度と会えないアレンであるはずないから。
「気が付いてよかった。ここはトーバ総領事館だ、僕は総領事として赴任してきた。
寝ている間に医師に診察をさせた」
娼婦のロアには隠しておきたい秘密がある。
それが、バレただろう。だが絶対に認めるわけにはいかない。
「僕の子供がお腹にいるね?」
「アレン様のお子ではありません」
ロアは頭を振り、強く手を握りしめる。
「ロアが考えていることはわかる。
帝国の貴族の息子で総領事になる僕に、負担にならないようにしているんだろ?」
ロアは何も答えない。
「ああ、それとも、僕が堕ろせと言うかと思っている?」
「アレン様、私は娼婦です。誰の子かわからないのです」
ロアがそう言うのは、アレンには予想がついていた。
だが、あの娼館でアレンは聞いていたのだ。
『アレン様のお子を失くすぐらいなら、死んだ方がましです』
あの場で折檻されて、子供と一緒に死ぬ覚悟で言った言葉だ。
ずっと、ロアを独占して買っていたのはアレンである。
他の男の子供のはずがないのだ。
「ロザリンド」
アレンはベッドのロアにひざまつき、消してしまった本当の名前を呼ぶ。
「ロザリンド、どうか結婚して欲しい」
「ダメです! 私は娼婦なのです。
責任を感じる必要はないのです」
驚いてロアは、ベッドから降りようとするのを、アレンに止められる。
「どうか、子供を産むのをお許しください。
決してアレン様のお子とは申しません。迷惑はかけません」
アレンに縋るように、声を震わせ言葉を繋いでいく。
「責任だからじゃない。
僕がロザリンドと一緒にいたいんだ。
しかも、子供が出来たなら急がないといけない。
両親に紹介もしたい。身重のロザリンドに負担をかけないようにする」
嬉しそうに言うアレンに他意がないのは分かるが、ロアには頷くことは出来ない。
「無理です。私は娼婦のロアです。
ご家族も周りも娼婦の私を受け入れるはずがありません。
アレン様もきっと後悔されます」
「後悔はもうしていたよ。
ここを離れる時に、何故ロザリンドを置いて行ったのかとね」
それはマクレンジ―帝国に戻って感じていたことなのだろう。
だから、ジェラルドを脅して2年の期限付きだが、トーバ総領事になったのだ。
トーバ総領事は別の人選が出来ていた。
王太子補佐官のアレンを、地方の総領事などに2年も出せるはずがないのだ。
「立つ前に娼館主には、ロザリンドの身請け代金と街での生活費を渡してあったんだ。
だから、街のどこで暮らしているか聞こうと娼館に行ったら、まだロザリンドがいて驚いた。娼館主を殺そうかと思ったよ」
「きっとね、ロザリンドは僕の愛人の方が楽な生活が出来ると思う。
だけど、僕の妻と子供を隠すなどしたくない。
マクレンジ―は恋愛至上主義だ。相手の身分は問わない。
それでも、貴族の中には嫌な思いをするかもしれない。
僕はロザリンドに乗り越えて欲しいと思うんだ」
「アレン様、無理です。
私は死んだ方がまし、と思える恥ずべき経歴です。
死にたかった、でも死ぬ勇気もなかった。
たくさんの男が抱いた、汚れた身体なんです。
この子は娼婦の母から生まれてくるのです」
「どこにも恥ずべきところなどない。
それが汚れているというなら、僕は血で汚れた身体だ。戦場でたくさんの人間を殺した。
ロザリンドに非があったのか、そうじゃない。原因はマクレンジ―帝国による攻撃と国の崩壊だ」
ロザリンドは泣いて、嗚咽を溢しながら震えている。
「死ぬのは勇気がいるだろう。
だが、生きるのはもっと勇気がいることもあるんだ。
ロザリンド、君はそうだった。
生きていてくれたからこそ、僕たちは巡り合えた。
君が好きだ」
奮えるロアを抱きしめるアレン。
アレンにも、ここに来るまでに様々な葛藤があった。
「僕たちは、君達からすれば国を崩壊させた憎むべき敵だ。
シーリア妃を守る為に、陛下は攻撃した。
マクレンジ―帝国はたくさんの国から恨まれている。
その最たる国がタッセル王国だ。
僕は君の仇だ。
そして金で君を蹂躙した」
任務の為に、娼館で遊ぶ必要があった。どの女でもよかった。
窓で見た君が気になった。
だから指名した。最初は、それだけだったんだ。
これを運命というのだ。
君の為に、タッセルを復興させようと思う。
そして、それはジェラルドの願いでもあるんだ。
だから、僕はここに来た。
すぐに帝国軍も到着する。
力で掌圧するが、タッセル国民を優遇する政策を取る。きっと、ロザリンドのような境遇の者がたくさんいるのだろう。
マクレンジー帝国は圧倒的力があるからこそ、弱者を守らねばならない。
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